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赤さんは私のパニック障害を治す取り組みに辛抱強く付き合ってくれた。停車したままの状態で運転席に座ってみたり、コースに関係のない場所で50メートル程進んでみたり。それでも治らないパニック障害に、途中何度か挫折しかけたが、その度に赤さんが嫌味を言ってくるので、負けず嫌いな私は頑張るしかなかった。


そして今、私は運転席でレース開始の合図を待っている。隣の助手席には赤さんが自動車教習所の教官のように座っている。


「赤さん、いよいよですね」

「…おい、待て。赤さんってなんだ」

「あ、つい緊張で心の中で呼んでいた呼び名が」


私の言葉に不満そうな様子で言い返そうとした赤さんだが、3秒前のカウントダウンが始まってしまった。


「赤さん、シャラップです!」

ゆっくりハンドルを握る。よし、まだ大丈夫。1の合図で勢い良くアクセルを踏む…ことは出来なかった。毛細血管がブワッと開く感覚。手が震えて、歯がカチカチと鳴る。

やっぱりダメだったのだろうか。この症状にも慣れた冷静な部分の私が諦めようとしたとき、助手席から赤さんの手が伸びてきた。


「大丈夫だ」

震えが止まらない私の手とハンドルを一緒に握り込み「なんともないだろ」と言う赤さんに、私はパニックを忘れ、別の意味で発狂したくなった。え、なにこの少女漫画的展開。


なんともあるわー!!

レース開始の合図を受け走り出す車が多い中、一台だけバックをしてくる車があった。今まですっかり存在を忘れていた青さんだ。

ヘルメットをしている為顔は分からないが、間違いなくニヤニヤしているに違いない。青さんは、赤さんが私の手を握っている状況を見て満足したのかヒラヒラと手を振って走り出した。


「「あのやろう!!」」


私と赤さんに共通する部分があるとすれば、少し、ほんの少しだけ短気な性格なのである。つまり今、赤さんと私の心情は一致した。

『とりあえず追いかけて殴る!』


私も赤さんも疲れていたのだ。極限近くまで疲れていた私達にとって、青さんのニヤニヤヘラヘラとした雰囲気が許せるはずもなかった。完全に八つ当たりだとは気が付いているとも。

それぞれの思いを胸に、私は今アクセルを全開にした。


*****


「ちょっと落ち着こう?俺、感謝されても良くない?」


結果として、青さんへの怒りで私はパニック障害を克服できたらしい。

我ながら単純な脳の作りをしていると感心した。


「ふざけんなですよ!私をネタに楽しみやがりましたね!」

ちなみに、青さんは既に赤さんによって全力でヘッドロックを掛けられた後である。ちょっとヘロヘロな青さんに、グーで殴る準備をする。


「楽しんでないよ!…まぁちょっと楽しんだけど。心配したのは確か!」

問答無用。私の怒りはおさまらないのである。


表彰式にギャーという悲鳴が響き渡るのと同時に、私の意識はブラックアウトした。


*****


文字通り、ムクリと起き上がる。

周りを見渡し、もう一度私は目を閉じた。


「え、ちょっと、リアクションが欲しいんだけど!」

幻聴が聞こえるが完全に無視である。羽が生えた生き物なんて見ていない。大丈夫だ。


「えぇーもうそのままでいいから聞いてよー?」

パタパタと羽を動かして、ヴォルが近付いた気配がする。


「暴力行為が確認された為、君はキャンペーン中止です!おめでとう!」

「はあ?」


私はガバリと起きて、ヴォルの胸ぐらを掴んだ。


「それで帰れるなら早く言ってよ!」

「いや、暴力を推奨するわけにはいかないでしょ」


まぁ確かに、そんなバイオレンスな世界は嫌だ。


「あ、ちなみに最終的に好感度高かったのは赤さんみたいだよー良かったねー」


いや、そんなどうでもよさそうに言われても。

ヴォルが途中から姿を消したのは、イベントが始まったので空気を読んだらしい。そういえばこのゲーム、恋愛要素も含んでいたことをすっかり忘れていた。


「え、じゃあ事故からイベント始まってたの?」

「そうだよー」


思い出したかのように恋愛ゲーム要素を発揮しないで欲しい。

「僕は次の被験者対象を探さないとダメだから行くねー」と緩く別れを切り出された私は、再び意識が遠のいていくのを感じた。

なんて薄情な生き物なのだろう。あ、羽を最後に思いっきり引っ張れば良かった。


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