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「おいっ!大丈夫か?」

赤さんの手によってヘルメットを外された私は、ようやく落ち着きを取り戻した。


「だ、大丈夫です。すみません」

混乱しながらも、返事を返す。

そろそろ一周する車も出てくるということで、赤さんに担がれてゴール横のスペースに避難させられた。

ちなみに担がれることに関して、押し問答があったことをここに記す。



「パニック障害だな」

赤さんの診断は以上だ。

さっきのは何だったんでしょう?という私の問いに対して、赤さんはものの数秒で答えた。


「でも、あの時私は怪我をしたわけでもないですし。事故のときの記憶もないですよ?」

「それでも脳と身体が事故を覚えてたんだろ」

「え、私どうなるんですか?レース出れないじゃないですか!」


知るかと答える赤さんは冷たい。

それにしても困った。そもそもレースで上位に食い込むことすら難しい上に、さらにパニック障害を克服しろと。

お母さん、私帰れそうにないです。

ゴールには私と赤さんの車は片付けられ、次々と一周目を走り終えた車が通り過ぎて行く。

青さんはゴール付近にいる私と赤さんの姿を見て、少し驚いた顔をしたが、次の瞬間には(おそらく)笑顔で手を振ってレースを続行させた。

実に爽やかだ。

「赤さんも見習った方がいいですよ」と言うと「は?」の後でヘッドロックを掛けられた。

ニュアンスで悪口だと判断したらしい。


「いーたーいー!ごめんなさい。冗談ですー!」

バンバンと赤さんを叩いて、やっと解放された頃には青さんが見事1位でゴールしていた。


*****


「で?どうするの?」


ゴール後、楽しそうだねと話に加わってきた青さんに事情を説明すると、なぜか会議が始まった。

議題は「パニック障害をどう克服するか」である。

表彰式はいいのかと青さんに尋ねると「別にいいんじゃない?」とのことだ。そんな適当で本当にいいのか。


「どうにか克服したいです。っていうか、克服しないと困ります!」

「そうだよねぇ」


真剣に考えてくれる青さんとは違い、面倒そうな雰囲気を隠そうともいない赤さん。

この人絶対友達いないわ。


「ハンドル握るところからリハビリ始めたらどう?」


ハンドルは大丈夫なんだっけ?と言いながら、青さんはどこからかハンドルを出して来た。青い猫型ロボットみたいになんでも出してくる青さん。どこから出した。

青さんに急かされて、恐る恐るハンドルを触ってみる。

特に問題もなく、これならいけるかもとハンドルを握った瞬間、指先が震え出した。


「モモちゃん、モモちゃん!」


いつの間にかハンドルは青さんの手に渡っていた。


「大丈夫?」

最近は青さんに心配ばかり掛けている気がする。

大丈夫だと頷き、ギュッと手を握りこんだ。

ゲームの世界でパニック障害なんて笑えない。さっきまでは、ちょっと楽しくなってきたなぁと思っていたのに。

ヴォルは相変わらず出てこないし、なんだか泣きそうである。


「うぶっ!」


落ち込んでいると、顔面にタオルを押し付けられた。

こんなことをする人物は1人しかいない。


「な、なにするんですか!」

キッと赤さんを睨むが、もう一度タオルを押し付けられる。


「お前さぁ、言葉が足りないんじゃない?」


青さんが赤さんに向かって話掛けているが、私はタオルを押し付けられフガフガとするしかない。

青さんによってやっとタオルから解放された私は、酸欠によって顔が真っ赤になっていたことだろう。


「大丈夫?」

何度目になるか分からない青さんの大丈夫?にコクリと頷いた。


「モモちゃんが泣いてるからタオル持って来たんだよーあいつ」


言わないと分かんないよねぇと笑う青さんの横で、不機嫌そうなオーラを漂わせながら立つ赤さん。


「え、うそ、私泣いてました?」

泣くまいと堪えたつもりだったが、涙が出ていたらしい。恥ずかしいなぁもう。


「えーと、ありがとうございます?」

お礼を言うと、プイッとそっぽを向く赤さん。


「え、なに?照れてんの?かーわーいいー」

明らかに楽しんでる青さんを、赤さんが締め上げるまで時間は掛からなかった。

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