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とにかく飽きた。この一言に尽きる。

コースが毎回変わるといっても、そんなに数は用意されていないのか、結局は同じコースをランダムに走らされている。代わり映えのしない景色にウンザリしながら、慣れた手つきでカーブを曲がった。その『慣れ』が悪かったのかもしれない。

曲がったカーブの先に故障車が止まっていることに気が付かなかった。減速しないまま故障車に突っ込んだ私は、そのまま気を失った。


*****


目が覚めると元の世界に戻っていました!みたいなことが起きればいいのに。

誰かの声と共に体を揺さぶられた私は、ボンヤリとそんなことを思った。


「モモちゃん!起きて!カムバーック!」


ものすごい勢いで体を前後に揺さぶられる。

生命の危機を感じた私は、渋々目を開けた。

ガックンガックンなってるから。手加減というものを覚えて欲しい。


「良かった!怪我はない?記憶喪失とかなってない?」


目を開けると、青いヘルメットが目に入った。


「え、レースは?」


普通にレース中だったはずだ。

もうゴールしたのだろうか?


「まだレース中。だからって怪我人放っておくわけにもいかないだろ」


青さんとは別の方向から聞こえた声に首をズラすと、赤いヘルメットが見えた。

どうやら、いつものごとく後続に追いついた赤さんと青さんが、事故現場に居合わせてしまったらしい。

そして、大破したピンクの車から私を救出し、安全な場所に運んでくれたらしい。


「ありがとうございます。この通り怪我もなく無事です」


安心させる為の言葉ではなく、実際に怪我は擦り傷一つなかった。


「それならいいけど」


心配そうに私の容体を気遣う青さんに感動を覚える。

あの『うっかり1位になっちゃったよ』事件から一度も会話らしい会話をしたことがない相手を、ここまで心配してくれる人がいるとは。


「変な顔」


しみじみと感動していると、横から赤さんの失礼な一言が飛んできた。

失礼な人だ。顔なんてヘルメットしてるから分からないはずで…あれ?ない。

私は自分の顔をペタペタと触って確認してみる。

ヘルメットがない。

私の行動がツボに入ったのか、青さんが噴き出した。


「ご、ごめん、息しにくいだろうと思って、外した」


言い終えた途端、青さんは大爆笑を始める。

さっきの感動を返せ。


それにしても、なんだか悔しい。

私は顔出し(不本意ではあるが)をしたというのに、赤さんや青さんの顔は一切見たことがないのだ。

テストの点数を友達に見せたのに、友達が点数を教えてくれない感じと似ている。


「ありがとうございます」


すこしムッとした顔で、一応お礼を言う。

善意でやってくれたのは確かだ。


「ごめんごめん。そんな怒んないでよ」


ひとしきり笑ったからか、スッキリした口調で言う青さん。

謝ったってもう遅いんですから。


「で、どうする?ここでレースの結果でも見とくか?」


赤さんの提案に私は頷いた。

決して、観客席まで移動するのが面倒だったわけではない。

途中で抜けた私達を除いて、最後の走者が完走するまでは次のレースに移動することはない。

上位メンバーの2人が抜けたことによって、レースは今までになく白熱しているようだ。

私が近くの芝生に腰をおろすと、赤さんと青さんも同じようにヘルメットを着用したまま腰をおろした。

何かポリシーでもあるのだろうか。


「モモちゃん、最近はどう?順位上がってる?」


「んーまぁちょっとずつですけど、上がってますよー」


頑張ってはいるが、一桁台の壁は厚くて中々抜け出せないでいる。

このままだと本当に帰れるかどうかが怪しい。

3位以内に入ることが、必須条件になっているところに無理ゲー臭が漂う。

助手席を卒業出来なかった過去の自分を恨むべきか。


「そろそろ次のレースみたいだ。無理しないでね」


青さんがその言葉を言い終わる前に、私はハンドルを握っていた。

いつも思うけど、次のレースが始まる間隔短すぎないか?

不思議と疲れはしないけど、休憩が欲しい。


*****


「ヴォル?ねぇ、どこにいるの?」


さっきの事故からヴォルの姿がどこにも見当たらない。

今までレース中はヴォルとくだらないやり取りをしていた為か、少し淋しい。

大体、あんな事故があったのに薄情な生き物だ。

少し気落ちしながらも、レース3秒前のカウントダウンが始まる。

GOの合図と共にアクセルを踏もうとして、自分の異変に気が付いた。

ハンドルを握っていた手は震え、冷や汗が止まらない。

パニック状態に陥った私は、レースが始まったことも、車のドアが勢い良く開かれたことも気が付かなかった。





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