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必要のない前回までのあらすじ
気付いたら1位になってました。
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「滅多にないチャンスだよ!このまま1位を守って!」
簡単に言ってくれる!
赤さんの近くにはライバルの青さんがいる。彼らは抱き合わせ商法のようにセットで存在する。
今も既にドアミラーに青いスポーツカーが写り込んでいる。
「絶対無理だって!青さん真後ろにいるもん!」
「大丈夫!赤さんが一周多く走ってくれてたから、あと半周でゴールだよ!」
半周って長いじゃん。
もう1位になった気でいるらしいヴォルは、今までにないぐらいに機嫌が良い。
とりあえず貯めていたアイテムを真後ろの青さんに全部投げつけておいた。どれかは当たるだろう、たぶん。
思惑通り何個かのアイテムが命中したらしく、青さんのスポーツカーを足止めすることに成功した。
「今のうち!」
思いっきりアクセルを踏んでハンドルを握りしめる。
「いける、私はいける。うん、大丈夫」
安全運転しかしたことのない私には、アクセルを踏みしめるなど未知の領域である。40キロ以上超怖い。
「そこそこ安全運転でお願いします!」
何かを感じ取ったのか、ヴォルが必死に私の方を見て叫んだ。
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結果として1位は死守できた。
最下位争いをしているいつものメンバー達が、青さんにアイテムを投げつけたりと、協力してくれたことが大きい。持つべきものは仲間だ。
その甲斐あって表彰台に初めて登ったわけだが、できれば二度と登りたくない。
表彰台では2位の青さんが大爆笑している。なんかもう正直うるさい。
そして、あの順位から奇跡の巻き返しをして9位に入った赤さんは、観客席から仁王立ちでこちらを睨んでいる。私はそちらを見ないように視線を床に落として表彰式が終わるのを待ち続けた。
ヘルメットをかぶっているので、赤さんに関しては睨んでいる気がするだけだが。
「ヴォル、あと何回表彰台に上がれば帰れるの?」
この空気に耐え切れず、私はヴォルに小声で尋ねた。
「うーん、好感度が見えないからなんとも。とりあえず赤さんの好感度はマイナスぐらいになってるんじゃない?」
あの勝ち方はなぁ。と言うヴォルだが、もはや勝ち方に拘っている場合ではない。むしろGOサインを出したのはお前だろうと突っ込みたい。
そんな話をしている内に表彰式は終わったらしく、観に来ていた観客も帰り始めている。
「いやー、ほんとモモちゃん最高だよね!」
ボンヤリ観客席を眺めていると、さっきまで大爆笑をしていた青さんに親しげに話し掛けられた。
どうやら、やっと笑いは収まったらしい。
「モモ?」
「そう!ピンクちゃんはちょっと違うかなーって」
どうやらピンク色をした、私の愛車のことを指しているらしい。私も青さん、赤さんと安直に呼んでいるので文句は言えないが、モモちゃんは少し恥ずかしい。
「あいつが9位とか!笑い過ぎてお腹痛くなりそう!」
そう言いながら、実際にお腹を抱えて笑う青さん。その後ろには赤さんが文句ありげに立っている。青さん、背後に気を付けてね。
私は青さんにニッコリと笑って踵を返した。背後で青さんの悲鳴が聞こえた気がするが、我関せずと逃げるが勝ちである。
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それからというものの、私は順調に順位を上げていった。
なぜか周りが後続の車を邪魔してくれたりと、助けてくれるのが大きい。おそらく、面白がっているだけだとは思うが。
表彰台に上がったのはあの一度きりだが、青さんとはすれ違い様にクラクションを鳴らして来たりと、何となく仲良くなった。
「1位を一回取っただけで、そんなに好感度って上がるもんなの?」
青さんのコミュ力が高過ぎるのかもしれない。
「さぁ?でも確かに青さんといい感じだよね!もう青さんでいいんじゃない?」
ヴォルの適当な返しにイラっとしたが、私は大人な態度でハンドルを握りしめた。
とりあえずこのレースが終わったら、視界に入る羽をむしり取ってやろうと思う。
「物騒なこと考えるのはやめて!」
そんなコミカルなやりとりの中、しっかり順位を上げている私。
15位とか、私すごい頑張ってる。
それでも一桁台の壁は高く、中々表彰台には辿り着けない。
もう正直無理ゲーだと思うの。それでも発狂せずに頑張っている自分を褒め称えたい。
こんな事なら、明日食べようと思って取っておいたプリンを食べておけば良かったと後悔しながら、前を走っていた車を追い抜いた。