大嫌い……でも好き。
傍らに座って本を読んでいる一つ年上の幼なじみは、オレが居ることを意識してくれていない。
「麗にィ、冷たいんだもんなぁ。かまってくれても良いじゃん」
「何で俺が智にかまわなきゃいけないんだよ」
「だってさぁ、オレら付き合ってるんじゃないの?」
オレが一番気にしていたことを聞くと、麗にィはむせてコーヒーを床にぶちまけた。
「あーあ、麗にィやっちゃった」
「五月蝿い。誰のせいだ馬鹿。……っと、ティッシュは……」
床を拭く麗にィの背中に手を伸ばし、抱きしめる。
「……ね、どうなのさ。オレは麗にィ……麗のこと、好きだよ」
「……」
「好き。大好き。……愛してるよ?……でも、麗はどうなのかな?……オレのこと、好き?」
耳元で囁くと、麗は体をこわばらせた。
その反応が可愛らしくて、もっと苛めてみたくなる。
「ね、言って?オレのこと、好きって言って。……じゃなきゃ、このまま……」
違う。オレはただ、不安だったのかもしれない。
何度も何度も麗に好きだと言って、困らせて、半ば押しきった形で付き合い始めて。その上恋人らしいことなんかしたこともなかった。
「……言ってよ麗……好きだって……オレを、愛して」
この不安を、消して。
「言ってくれないなら、強引に、麗のこと……奪っちゃうよ?」
「……だ」
「何?聞こえない。……もう一度」
「智なんか、大嫌いだ……」
返ってきた言葉は酷く辛いものだった。涙を堪えながら、そっか、と一言だけ言った。
いまだに涙を堪えるオレに、麗はオレの服の裾を掴んだ。
「大嫌い、だ……から……だからっ……」
肩と声を震わせながら、麗は言う。そこでやっと、麗の本意を知った。
「じゃあ、手加減はしないよ?……麗のゼンブ、奪うから」
素直じゃないな、相変わらず。
オレは心の中でそう呟きながら、麗を押し倒した。