第9話 襲来! 魔改造ゴーレム!
暗闇が支配する洞窟の中を、松明の炎による限られた明かりが異様な光景を照らし出していた。
ちょっとした広間になっているその場所は実に整然と、もしくは混沌としていた。
片側には大きさ順に本が並べられた書籍棚と机があり、机の上には魔術書、ノート、ペンやインクなどがお母さんが片付けたように整頓されていた。床には質のいい絨毯が敷かれ、簡素ではあるが貴族の書斎にも似た状態になっている。
かたやもう一方では、乱雑に工具が放置され、汚れた布や汚水の入ったバケツ、タールが零れ出している壷、真っ黒の油壷、金床などが所狭しと置かれている。
人の気配がするのは、混沌としている方。だが人にしては異様に背が低い。子供かと思えばそうではない。その口元から顎にかけて豊かな髭が生えている。顔には色のついたゴーグルをして、作業用のエプロンは油汚れにまみれている。
そう、彼はドワーフ。名工多しと名高き大地の種族だ。
そんな彼が一心に手を動かして作業している対象は、巨漢の如き大きさの人形だった。
胴体や手足、頭は樽を加工したもので覆われている。その隙間からは金属の支柱が骨格の様に垣間見える。顔の部分は、樽に大雑把な穴を三つ開けてあるだけだ。恐らく両目と口であろう。穴三つが逆三角形に配置されいるそのシンプルな形は、実にコミカルで全身の威容と不釣合いだ。
胴体は大きな、それこそ作業しているドワーフが二人は入れそうな大きさで、何箇所かに正方形の切れ込みがあり、窓の様に開閉するのでは無いかと思える。
手と足は至ってシンプル。手の部分はグーの形に形成された木細工だ。指が開く事は無いだろう。足は円盤状にされおり、安定感はあるが多少不恰好だ。
ドワーフは一心不乱に胴体部分の調整をしている。そんな彼の背後、広間に通じる通路から、何かを転がす音が聞こえてきた。
「順調かね……? 同士デイボーよ」
そして共にしわがれた声も響く。闇から現れたのは、木製の台車に座る黒衣の人物だった。その者は古びた杖を使って地面を引っ掻き前進している。
しかし杖を握る手、黒衣の裾から出ている手は、人骨のそれだった。
デイボーと呼ばれたドワーフは、作業の手を止めるとチラリと後ろを振り向き、フンと鼻を鳴らして作業に戻る。デイボーは些かの同様も表さず、正面を見ながら応える。
「ああ、最終調整ももう終わる。明日にでも始められるぞい」
「それは結構。あの村を支配下に収めるのも時間の問題と言うわけだ……」
クックックと黒衣の人物は嬉しそうに笑う。だがふと笑いを止めると、確認するようにデイボーに問い掛けた。
「すまんが……、本当に雑用ゴーレムは作れんのか?」
「だぁから何度も言っとるだろうが、ハセウムどん!」
ドワーフは苛立たしげに振り返りながら、工具で自身の凝った肩を叩く。
「わし戦闘用ゴーレムの作り方しか知らんつーの! 第一雑用ゴーレムは意外と難度が高いんじゃ。手指なんかの精密部位は、一から作ると年単位で時間がかかるんじゃぞ」
「そ、そこまで難しい物を作る必要は無いんだ。ただ私の骨を探せるゴーレムを作るだけで……」
黒衣の人物こと、不死者ハセウムはデイボーの剣幕に恐れをなして宥めにかかる。
デイボーは分かってないと大いに溜息を吐き、肩を竦める。
「それこそ魔術による探索の方が早いじゃろうが。あんた元々魔術師なんじゃろ?」
「私は死霊術師であって、魔術師では無い! 占術に関しては全くと言っていいほど習熟していなんだ!」
「どの道、占術系統のマジックアイテムが無ければそんなゴーレム作れんよ。諦めて、当初の計画通りにやるしかあるまい」
ぐぬぅ…と悔しげに呻くハセウム。だが気を取り直したハセウムは物事をプラスに考え出した。
「ふっ、そうよな。かの村が我らが手に落ちれば、その人手を使って我が見失いし骨を探す事も容易い……! そしてその後は、私を斯様な目に逢わせたあの赤い何かに復讐をする!」
「わしはそいつの乗っていた赤い物体に興味があるのう。車輪が付いていて、馬も無いのに走るという事は機械の一種じゃろう。……それが手に入れば、わしの技術は更に増進するじゃろう!!」
二人は気味悪げに笑みを交わす。彼らの間には、後ろ暗い同盟関係が構築されてるようだった。ハセウムが思い出したように手を翻すと、その後方から軽い足音が幾つも響き、後方から何体もの動く人骨が姿を現した。
「私の方でも手駒は用意した。……最下級のスケルトンばかりだが、いないよりマシであろう」
「うむ、そいつらが警備隊を抑えている間に、わしのゴーレムが件のエルフの騎士を倒す」
「エルフさえ倒せば村は我らの物。後はどうとでもなる。ふっふっふ……」
「そうじゃのう……。くっくっく……」
「「うわっはっはっはーー!!」」
二人の狂気に満ちた笑い声が洞窟内に木霊した。
◆◆◆
的場 翔改め、フィアル・ノースポールです。
お祭りが終わり、スーさんが我が家に住むようになってから三ヶ月が経ちました。もうすっかり夏模様です。
スーさんは完全に村に馴染みました。スーさんが出歩いても誰も驚かないどころか、むしろ親しげに近寄ってきます。主にご老人方が。
スーさんが手をかざしたり、擦るだけで腰や肩の痛い部分が治るというので、最近はご老人方だけでなく、中年のおじさんおばさんにも人気です。
そのせいで、スーさんが買い物に出ると二時間三時間は帰ってこれません。大変だなぁ。
しかしスーさんは辛さなど全く感じさせず、今日も熱心に家事をしてくれてます。神官のガーレンさんは、大規模な調査隊を組織してスーさんの出自とスーさんに死霊術を使った輩を探索する為に、都で活動中らしいです。
それには時間がかかるので、まだしばらくスーさんはこのままでしょう。
首が据わった現在のネージュは、お母さん、スーさん、僕、お父さんの順に抱っこされるのが好きみたいです。「息子に負けた……」とむせび泣く父親を目にした時は、哀れみの心と優越感を感じました。
ふふっお義父さん、娘さんは僕に夢中みたいですね(三番目だけど)。
兎にも角にも、我が家は今日も平和な家庭を営んでおります。
近況報告終わり。本日、僕とサラとリーザの三人は、ルリィ先生の授業も終わったので、三人で外に遊びに来ています。
お昼はまだ食べて無いけど、気を利かせたスーさんが手早くお弁当を三人分用意してくれました。いいお母さんになれるよ、スーさん……。
「今日は朱花草を探すわよ!」
リーザは林の中で僕らにそう宣言した。朱花草とは、いわゆる紅花に似た花で、用途も染料の素材と一緒だ。珍しくは無いが、染料にするにはそれなりの量が必要だ。
「なんでまた朱花草を探すの?」
「この間スーさんが、うちのお祖父ちゃんのぎっくり腰を治してくれたから、お母さんがお礼に服をプレゼントしたいんだって。その服を朱花草で染めるのよ」
ああそう言えば、スーさんもこの前そんな事言ってたな。スーさんに関わる事なら僕も協力せざるを得ない。
「あ……、それなら僕も手伝う。僕のお祖母ちゃんも、この前スーさんにお話相手になって貰ったって喜んでいたし……」
一時期はスーさんに怯えていたサラも、最近ではすっかり慣れた様子である。毎日授業を受けにうちに来る度に会ってるから、当たり前かも知れない。
「別に何だろうと、アンタに拒否権は無いけどね、サラ」
「う~~……」
上下関係に関してぶっとい釘を挿してくるリーザと、プルプル震えながら涙目で抗議するサラ。友よ、諦めも時に肝心だよ?
既に諦観の域にある僕は溜息漏らすことも無く、プランを考え出す。
「そうだなぁ……。朱花草って道端とかにも生えてるけど、それを一々回収してたら今日一日で終わらないよねぇ」
「別に今日一日で終わらなくてもいいわ。服が縫い終わるのはまだ先だし」
「え~~……」
サラが不満そうだ。僕もそれは勘弁して欲しい。そんな面倒な作業はパパッと済ませてしまうに限る。僕は一つ思いついた計画をリーザに説明する。
「あのさ、以前サラと一緒に花を摘みに行った広場があるんだけど、そこにもしかしたら朱花草が生えてるかも知れないんだ。まずそこに行ってみない?」
以前は春先だったから白い花しかなかったけど、季節の変わった今なら朱花草も生えてる可能性はある。朱花草は結構どこにでも生えるし、広場になってるあそこなら群生しててもおかしくは無い……といいなぁ。
リーザは僕のプランについてしばし考えていた。そして結論が出たのか、笑顔で頷く。
「うん、それでいきましょ。ピクニックついでに花を摘めば楽しそうだしね!」
こうして僕らの本日のお遊戯が決定した。
◆◆◆
以前撒いていた道しるべの陶片は流石に見えなくなっていた。なので、僕はこっそりスーツのログを確認して大体の方向と位置を確認後、二人を先導して森に入った。
「フィアル凄いね! 一年以上前の事を覚えているなんて……」
「へーー。ま、あんた結構頭いいし、それ位出来て当然よね」
期待が重い。サラは尊敬の眼差しを飛ばしてくるし、リーザはさも当たり前と言うように僕を評価してくる。
スーツの性能に頼っている身としては心苦しい限りだ……。
しかしおかげで道に迷うことも無く、広場に辿り着く事が出来た。
「わぁ……。この前とは違う花が一杯咲いているね」
「あ、ほんとだ。色々花が咲いてるわね」
サラとリーザが感嘆の声を上げる。目の前の広場は結構広く、多種多様な花が咲いていた。
「えーと、朱花草は……」
僕は辺りを見回して仄かに朱い花を探す。すると、花々に混じってそこかしこに、目的の朱花草が風に揺れているのが見えた。
「お、結構あるな! これなら今日中に終わるかも」
「そうね。じゃあ、お昼を食べてから花摘みしましょうか」
「わーい。スーさんのご飯だー!」
珍しくサラが喜んでいる。サラは何度かうちでご飯を一緒に食べた事もあるし、その時スーさんの料理の腕を堪能した事もある。かく言う僕も楽しみだが。
僕らはいそいそと敷物を敷いて、その上にお弁当を置く。僕らが座るのはそこら辺の石だ。車座になった僕らがバスケットの蓋を開けると、そこには綺麗に整えられたサンドイッチと、陶器の皿に盛られたカットフルーツが入っていた。サンドイッチの具は焼いた鶏肉とレタス、トマトなどが挟まれている他、恒例のハムサンドやタマゴサンドもある。
「わーお、おいしそう!」
「リーザ、お手拭あるからまず手を拭きなよ」
さっそく手を伸ばすリーザの手に、僕はまずお手拭を握らせる。リーザはこっちを睨んでくるが、土が付いた手を見直して、黙って受け取る。サラはその横で上品に手を拭いている。
んじゃ、僕も手を拭いて………、いただきま~~~~す!!
「食い物~~~~~~!! 食い物の匂いがするぞ~~~~~い!!?」
僕の手に握られたハムサンドは、口に入る三cm手前で彼方から聞こえてきた濁声によって止められた。
ええい、僕の至高のお昼タイムを邪魔するのは誰だ!? そう思いながら僕が声のした方を向くと………そこには全長三m位の樽人間が居た。
……いや樽人間と言うか、巨人の頭と胴体と四肢のそれぞれに樽を被せた様な、そんな何かなんだけど。なにあの顔? 穴三つ開いてるだけて。
サラとリーザも突然の闖入者に、呆然と樽人間を見上げている。
「匂う、匂うぞ~~……。ここら辺からうまそうな匂いが漂っておる」
ん? 声は樽人間の方から聞こえて来るが、位置が大分下だ。少なくとも、樽人間の口から発せられたものではない。
僕はそっと石の上に爪先立ちになり、樽人間の足元を確認する。……あ、丈の高い草が在って気付かなかったけど、背の小さいおっさんが居る。
体長は一mちょっとかな? もじゃもじゃの髭を生やしたおっさんで、目の部分はゴーグルで覆われている。汚いエプロンをして、そのエプロンのポケットやホルダーに多数の工具らしき物を収めている。実に歩きにくそう。
僕が背伸びしたせいでそのおっさんも気が付いたのか、僕に罵声を浴びせてくる。
「おい! そこのチビ、お前食い物もっとるじゃろう、わしに寄越せ!」
お断りします。……と言いたいところだが、お腹が減って気が立っているだけかも知れないし、一応もう少し事情を聞いてみよう。
「おっちゃん、お腹減ってるの?」
「誰がおっちゃんじゃ! ドワーフ一の狂気のゴーレムマスター、デイボー様と呼ばんか!!」
……怪しい。公然と自分で狂気とか言う人は、厨二病発症者か悪人くらいだろう。厨二病発症者にしては高齢過ぎると思うし、警戒度を少し上げる。しかし初めて見たドワーフがこれか。ドワーフって変人ばかりなんかな。
デイボーさんの濁声に怯えてか、サラが縋り付いてくる。よしよし、怖くないよ。その横に居たリーザは毅然と立ち上がり、デイボーさんに大声を張り上げる。
「何よおっさん。人に物を頼む時や恵んで貰う時は、もう少し下手に出なさいよ。子供だからって舐めるんじゃないわよ!」
リーザさん正しい。 だがその正しさは今はまだ早いっす! もう少し様子を見ないと、あの手の輩は逆上しやすいんだから……。
「貴様~~~、子供だからと思って下手に出れば付け上がりおって……」
やっぱりデイボーさんは怒りに肩を震わせている。あれで下手だったのか。少なくとも礼儀の基準に関しては狂気の片鱗が感じられるな。
デイボーさんはパチンと指を鳴らす。するとカタカタと音を立てながら、彼の背後の森から多数のスケルトンが現れた!
「なっ……!? スケルトンだと! まさか、お前が死霊術師か!!」
「違ーーう!! わしはゴーレムマスターと言っただろうが!! 死霊術師はわしの同士、ハセウムじゃ」
まじか。そういえば、ルリィ先生が目撃したのは人間って言っていたな。
「なんで死霊術師とゴーレムマスターが同士になってるのよ」
リーザさんの至極真っ当なツッコミが入る。確かに接点が無さそうだ。
「借金取りに追われて近くの森に逃げ込んだんじゃが、そこで体のパーツを失くして難儀していたハセウムどんに出会ったんじゃ。んで移動し辛そうだったから台車を作ってやったら、アジトを開放してくれたんで間借りしとる」
どうしてその親切心を今発揮出来ないんだ! 頑張れよもっと! 狂気と言うより、単に気紛れなドワーフなんじゃないか、こいつ。
デイボーはぐふふと薄気味悪く笑いながら、更に悪事を自白していく。
「わしとハセウムどんは、協力してこの近くの村を占領するんじゃ。そして村人を使ってハセウムどんのパーツを探し、わしは食料と工具を得る。ついでに、この近辺に居るであろう赤い魔人も探すつもりじゃ」
……赤い魔人? もしかして僕の事か? ……という事は、森の中で跳ね飛ばしたあいつが、不死者ハセウム?
思考に埋没しかけた僕の意識を、リーザの声が引き戻した。
「そんな事はさせないわ! 私達の村を襲わせたりしないわよ!!」
「ふんっ、生意気な小娘め! 村を襲う前に貴様らの弁当で腹ごしらえじゃ! スケルトン共、行けーー!」
カタカタ音を立てながら、スケルトン達が前進してくる。その手には木の棒が握られているだけだが、子ども相手ならば問題無いと判断したのだろう。
その認識が誤りだったと、すぐに気付くだろう。……あ、サラさん。ちょっと手を離してね。
サラの手をやんわり解く。サラは一瞬とても不安そうだったが、僕が微笑みかけると安心したように顔を緩ませる。
威勢のいい事を言ってたわりに、スケルトンが近づいてきたら顔を強張らせたリーザにも微笑みかけておく。リーザは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「安心して。僕が何とかするから……」
そう言って僕は前に走り出す。リーザは慌てて止めようとするが、サラの声援がそれを止めた。
「頑張ってフィアル! 僕達の村を守って!!」
ヒーローのやる気エンジンに、一番のガソリンが流し込まれました。その声援に後押しされ、跳び上がった僕は、鍵となる言葉を発する。
「『開け、次元の門!!』」
カッッ!!
僕の体に赤い光の帯がまとわりつき、閃光と共にその帯はヒーロースーツとなる!
「次元戦士ディメンジョンマン、参上!!」
花畑に着地した僕は、ポーズを決めてヒーローの登場を世界に宣言する。
突然の事態に大混乱なのか、デイボーはあんぐり口を開けて固まっている。
「……は……?」
……以前の対戦相手は「おのれ、ディメンジョンマンめ!」とか言ってくれたけど、まあそのノリを期待するのは無理だよなぁ。
おっと、今はとにかくスケルトンの相手だ。スーさんを殴るみたいで気が引けるが、僕の罪悪感ごときは友達二人の命には変えられない。
「やぁっ!」
ガコォッ!
僕はパンチを一番近くのスケルトンに叩き込む。位置的に骨盤の部分にヒットしたんだが、倍力機構のおかげで骨盤全体にヒビを入れつつ、それをすっ飛ばす。飛んでいった骨盤は、後方に居たスケルトンの胸にヒットし、そいつをバラバラにする。骨盤を飛ばされたスケルトンは地に伏せたので、頭蓋骨を掴んで別のスケルトンに投げつけておく。
ヒュッ バカンッ!
別のスケルトン二体をまた粉砕し、とりあえず近くのスケルトンは一掃した。
まだまだ後二十体は居そうだけど、正直、前世で戦った悪の組織の一般戦闘員より弱い……。
「ば、馬鹿な! スケルトン四体が一瞬で!? あんな子どもが!?」
あ、デイボーが覚醒した。横の樽人形、もといゴーレム? に変な事させない内に残りのスケルトンを倒しておこう。
「『次元念動』!!」
僕は左手を近くの倒木に向ける。左手から薄い光の帯が倒木に伸び、それを難なく引き寄せる。
「なっ!? 木を持ち上げた……いや引き寄せた!?」
驚くのに忙しいデイボーは無視して、左手をスケルトンの群れに向ける。
「いっけええええええ!!」
そして僕は出力を高めに設定して、倒木を射出する。
ゴウッ! ドズウウウゥゥゥン………
空気を引き裂いて飛んでいった倒木は、二十体のスケルトンを巻き込んで爆裂四散する。
よし、これで後はあのゴーレムだけだ。一応降伏勧告をしとこう。
「デイボー! 最早貴様に残された戦力は、そこの木偶の坊だけだ! 大人しく降参しろ!」
「なあにぃいいい! ……ふっふっふ、よかろう。ならばその木偶の坊の力、思い知るがいい! 行け、試作品ゴーレム第一号、『木人君』!!」
そうこなくっちゃね! ………ってネーミングセンスがダサ過ぎる!?
僕は哀れな名前を付けられたゴーレムに同情してしまったが、ゴーレムはそんな事気にせず動き出す。
ザッザッザッ……!
見た目からして鈍重な動作を想像していたが、実に滑らかに動いている。歩く動作も素早く、普通に人が歩行しているのと変わらない動きだ。腕は確かだな、あのデイボー。
ブウンッ! ドンッ!
「わっ!」
「「フィアル!?」」
サラとリーザの悲鳴が合わさる。油断した! 考え事していたら、あっという間に間合いを詰められて下から掬い上げるようなパンチを食らってしまった。
「…こなくそっ!」
僕は殴り飛ばされた勢いを、空中で身を捻って殺し、着地する。
『衝撃緩和装置、正常作動。損害%・0コンマ以下。戦闘に支障は皆無です』
ヒーロースーツからダメージレポートが送られてくる。結構な勢いで飛ばされたが、スーツにはダメージが無かった。
着地後すぐに構えを取った僕を見て、デイボーが苦々しげに唸る。
「ぬぅ……。やはりベースにしたのが荷運び用のゴーレムだからか、動作制御に出力を取られると肝心の攻撃力が低下するのぅ……」
デイボーは懐からメモを取り出して何かを書いている。いや、これ僕だからいいけど、一般人だったら複雑骨折レベルの力あるよ!?
こんな危険なのは早急に排除するに限る。僕は勢い良く拳を振りかぶって木人君にパンチを叩き込もうと……
「今じゃ! 射出!」
その前にデイボーの声が響いた。
パカッ ブシュウゥゥッ!
木人君の胴体にあった切れ込みが開き、中から黒い液体が噴射され、僕に降り掛かる。うわっ、なんだこれ!? すごいべたつく。
「着火!!」
続けざまにデイボーが命じると、カチッと音がして、何かが打ち鳴らされる音がする。
ゴウッ!!
そして、木人君が火を噴いた。切れ目は火炎放射器の噴射口だったのだ! 当然正面に居た僕も炎に巻き込まれる。
「「フィアルーーーー!!?」」
「うわっはっは、これなら魔人だろうと生きては居れまい!」
サラとリーザの悲痛な声に混じって、デイボーの濁声が響く。……やれやれ、舐められたものだ。
「『次元念動……爆裂』!!」
パンッ!
乾いた音を立てて、僕と、僕の周りで荒れ狂っていた炎は霧散した。
「ば、馬鹿な!?」
お、デイボーから負けフラグ頂きました。僕の次元念動は、使い方を変えて衝撃波を発する事も出来るのだ。他にも力場を作り出して盾を作ったりも出来る、便利仕様なのさ。
さて、改めて木人君に止めをさしましょうか………あれ?
「あの……。木人君燃えてますよ?」
僕の目の前では、噴射口から出た火が樽に燃え移った木人君が居た。
「ああああっ!? 防火加工したはずなのに! まさか、オイル漏れか!?」
そもそも、何故木製品に火炎放射器積んだし。デイボーは踵を返すと、脱兎の如く走り出す。
「待てっ! 逃げるな卑怯者!!」
「やかましい、お前らも逃げろ! そいつの自爆装置に引火したら、この辺一体火の海じゃぞ!」
なんでそんなもんまで積んでるんだよ!? そして、殺そうとして逃げろとか、本当にどんな思考してんだ!
「うおおおおおっ! 『次元念動』……フルパワー!!」
燃え上がる木人君に光の帯を繋げ、木人君を宙に浮かせると、僕は射出設定の出力を最大にする。
「吹き飛べ!!」
ドンッッ!!
木人君は手足や一部のパーツを撒き散らしながらも、胴体部分は空高く上昇して行く。
木人君はそのまま見えなくなったが、スーツの望遠機構で確認したところ、彼方の空中で爆裂四散した様子が確認されました。
木人君……安らかにお眠り下さい。
デイボーは……、逃げられたか。だが近くに奴の仲間が居る可能性もある。とりあえず、サラとリーザを避難させよう。
僕は変身を解除して二人に近づく。
「終わったよ。二人とも大丈夫?」
「ふ、ふぃ、フィアル~~~~!!」
サラが泣きながら抱き付いてきた。あう、不安にさせてごめんよ。ぐすぐす洟を啜るサラの背中を撫でて落ち着かせていると、リーザと目が合った。リーザは何か言おうと口をパクパクさせているが、やがて黙って俯いてしまった。
「リーザ?」
心配になって近寄ると、リーザは顔を上げて、いつもの吊り上った目を向ける。
「心配かけるんじゃないわよ、このどあほ!!」
「ごめんなさい!?」
リーザの鉄拳を顔に頂きました。くっ…、スーツを解除するのが早過ぎたか……。
「……でも、格好よかった……よ……」
しかし、消え入りそうな声でそう追加してくれたので、溜飲は下がりました。
その後、僕は二人に口止めした上でルリィ先生に誤魔化しながら変なドワーフの事と死霊術師の事を報告しました。
そして後日、また朱花草の採取を手伝わされました……。おのれデイボー。勝負に勝って試合に負けた気分だ……。
◆◆◆
「なあ、ハセウムどん……」
「なんだ、同士デイボー……」
暗い洞窟の中で、さらに暗い雰囲気を醸し出しながらお通夜状態の二人は、今後の方針会議を行っていた。
「お前さんのスケルトンに、ハセウムどんの失くした骨を探させたらどうだ?」
「もう試した……。自分の骨を差し出したり、仲間の骨を渡してきたりして意味が無かった」
はぁ……と深い溜息が重なる。悪人二人の計画は、遅々として進んでいなかった。
戦闘シーンの描写が今一だなぁ、と思う今日この頃です。
擬音に頼りすぎているのは分かるけど、それ以外の書き方が思いつかない。まだまだ修行中です。
次回の投稿は……大分先かと。