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第6話 開始! ルリィ先生の歴史授業

*推敲する時間が余り無かったので、変な文章や誤字が多いかも知れません。どうかご容赦下さい。

 スーさんが我が家の裏手に住み着いてから一週間後、スーさんが見つかることも無く概ね平和に過ごして来れました。そして今日から歴史の授業が始まります。


 今日も二階の教室には僕、サラ、リーザがルリィ先生の前で机に座ってます。ネージュは今日は一階の寝室で寝ています。きっとスーさんが木陰から様子を見ていてくれてるでしょう。


 スーさんを信じていない訳ではないが、念のためネージュには発信機を付けてある。また変な悪霊が来て妹を攫って行かないようにね。ま、ここ一週間の間に不審人物が目撃されたという話は聞かないから大丈夫だろう。


 本日の授業は歴史ということで、ルリィ先生が特別な教材を持ってきてくれた。



 それは『地図』である。



 ルリィ先生が巻いてあった巻物を広げると、それは縦横の幅が一m位の古ぼけた紙の地図だった。


「皆、よく見て置くように。これは学術機関などでも滅多に見ることが出来ない、『大エイニオン大陸』の古地図だぞ!」


 ルリィ先生が見せてくれた地図に書かれていたのは、アルファベットのHの真ん中の線を限りなく太くした様な大陸だった。むしろ四角形の四隅がちょっと出っ張ってる感じ、と言った方が分かりやすいかも。地図の中身そのものは言っては悪いがお粗末な感じだ。山や森、川や湖、それに都市の位置が大雑把に描いてあるだけで、それぞれのの位置関係が大体分かる程度だ。

 しかしそれとは別に気になったのが、地図全体の四分の三を占める大陸の右下には、大陸の四分の一から五分の一くらいの大きさの島があった。これは島の形だけで内部は何も書かれていない。気になったので手を上げてルリィ先生に質問する。


「先生、その右下の島は何ですか?」


「うん、今から説明しようと思っていたんだ。フィアルはせっかちさんだな、余りガツガツし過ぎると女の子にもてないぞ?」


 余計なお世話ですたい。


「この小さい島は『小エイニオン大陸』だ。…大陸の定義については諸説あるが、まあ古来からの名称なんでそう呼ばれていると覚えておきなさい。詳しくは後で歴史に沿って教えよう」


 ルリィ先生は予め用意していた大きなカンバスに古地図を固定して、地図を指で示していく。


「歴史と地理は密接に関わってくる。国家の移り変わりも年号だけ覚えるので無く、当時の世界情勢や地理条件から考えた方がより深く歴史を理解できるからな。でもフィアル達はまだ小さいから、まずは簡単に説明する事にしよう」


 ルリィ先生はそこで用意してあった水差しからコップに水を注ぎ、コップの水を半分程飲んで喉を潤す。……語る気満々じゃないですか。お土産の由来話をしてくれる時に気付いたけど、ルリィ先生って自分の知識を語るのが大好きなんだなぁ。心なしか、顔がテカテカしてるように見える。


 ルリィ先生は何度か咳払いして喉の調子を確かめると、まず『大エイニオン大陸』の真ん中から少し下を指差す。


「ここら辺一帯が、今君達が住んでいる国『キルディス王国』の土地だな。その東側、森林地帯が私の祖国『テトラ』だ」


 そこでリーザが手を上げてルリィ先生の解説を遮る。


「先生、『テトラ』と『キルディス王国』は大きな森を挟んで接しているって聞いたんですけど」


 確かにルリィ先生が指した所に森の絵は無い。そこらから更に東に進んだところに大きな森があるけど。


「いいところに気が付いたな。リーザが言う大森林地帯はこの地図が作成された頃には無かったんだ、だから描かれてないんだよ」


 ……ん? 百年そこらでそんな森林地帯が出来るとは思えない……。その地図、何年前に作られたんだ?


「先生、その地図って何年前に作られたんですか?」


「むう、皆質問が多いな。いい事だが。この地図はおよそ千年前にテトラのエルフが大陸全土を踏破して描いた地図だ。長命なエルフだからこそ出来た偉業とも言えよう。最近はもっと精度の高い地図が出回っているものの、当時の技術でこれだけの地図を作るのは相当難しかっただろう」


 鼻高々に語るルリィ先生は本当に誇らしそうだった。なるほど、確かにそんな昔に大陸一周してかつ地図を作るというのは想像を絶する苦労だっただろう。伊能忠敬の日本地図みたいだな、尤も、精度に関しては雲泥の差だけれども。


「さて、いよいよ歴史の話をするぞ。ところで皆、私達の祖先はどこから来たと思う?」


 ルリィ先生は実に楽しそうに僕達を見回している。きっと僕らが誰一人分からないところで意外な事実を突きつけて驚かせようと言う魂胆だろう。…ここは乗って上げようか。

 そう思っていた僕の横で、サラが手を上げてしまった。


「お、今度はサラか。どこだと思う?」


「はい…、小エイニオン大陸だと思います…」


 ルリィ先生はサラの解答を聞いた瞬間、楽しそうな笑顔のまま硬直する。そしてちょっと悲しそうな顔でへにょりと長い耳を下に曲げる。


「知っていたのか、サラ?」


「え、いえ……。先生が『どこから来たのか』って仰ったから、多分海の向こうから来たのかなって思って…」


 うん、それは僕も思った。


「だよね、あたしもそう思ったもん」


 リーザも同意する。結構勘が鋭いな、僕の友人達は。

 僕を除く二人からそうつっこまれたルリィ先生は悔しげに下唇を噛んでいたが、一度顔を伏せると晴れやかな笑顔を見せた。


「うん、正解だ。凄いぞ二人共!」


 先生……涙をお拭きよ……。目元の珠の光は汗じゃないんでしょう? ルリィ先生は僅かに震える声で先を続ける。


「そう、私達エルフだけでなく、人間、ドワーフなどの汎人類種と呼ばれる者達は、三千年程前に全てこの『小エイニオン大陸』から来たと伝えられている。実際、『大エイニオン大陸』の南東から北西に向かって順に歴史の古い都や遺跡があることからもそれは正しいと考えられている」


 ほうほう、まるでアメリカ大陸の開拓史みたいだな。


「今現在、『小エイニオン大陸』には汎人類種は誰も住んでいないと言われている。実際に渡航した者がいないので、実状は分からないがな」


「先生、なんで『小エイニオン大陸』には誰も住んでいないんですか?」


 リーザが手を上げて発言する。一応先生の許可を貰ってから発言した方がいいと思う。ルリィ先生は気にせず答えてくれた。


「順を追って話そう。さっきも言ったが、汎人類種は皆『小エイニオン大陸』に住んでいた。彼らは別々の国家を形成していたが、ある時全て一つの国家に統合された。それが大陸の名前にもなった『エイニオン帝国』だ。だがエイニオン帝国はある時、大災害に襲われて甚大な被害を受けた。そしてその災害によって国土が荒れ果てた帝国は、もっと安全な土地を求めて海の向こうを探索し、この『大エイニオン大陸』を見つけた。その後移住が進み、『小エイニオン大陸』から人が消えたそうだ。これらが大体三千年前の話だ」


 結構壮大な話だ。三千年前に既に帝国が存在していたなんてびっくりだね。


「エイニオン帝国についての記録は殆ど残っていない。学者達の推測では、災害や大陸への移住に伴って、人口減少と技術・文化の失伝が発生し、その過程で記録や資料が失われていったんだろうとの事だ。かつては大帝国を築いた国も、移住後に大陸の隅々まで人々が拡散し、多くの国家や組織が成立していく間に人知れずその国家を終わらせたらしい。大陸南東の端にある『パルトリア王国』の王族がエイニオン帝国の血筋に連なる正等継承者とも噂されたが、その国の王族自身が否定したという話もある」


 ふむふむ、異世界の歴史はまた別のドラマが感じられて面白いな。



 トスッ



 ん? 右肩に何か重みを感じたと思ったら、サラの頭が僕の肩に寄りかかっている。顔は見えないけど、かすかに穏やかな呼吸音、すなわち寝息が聞こえるから、多分居眠りしているんだろう。ルリィ先生ったら簡単に説明するとか言っておいて結構難しい話をしていたからなぁ…。


 というより、サラの香りがやばい。なんでこの子は男の子なのにこんなにいい匂いがするんでしょうね!? 花のような、甘いお菓子のような…どこか艶やかささえ感じる香りだ。しかも髪の毛がサラサラで凄く感触がいい! サラだけに! 何を言ってるんだ僕は?



 トサッ



 おう、今度は左肩にお客さんですよ。……うんリーザさんですね。今日もしっかりと三つ編みにしているせいでこっちは髪の毛の分け目がよく見える。

 ああでもリーザはリーザでいい香りだ。こっちはお日様の匂いって感じかなぁ…。ある意味凄く落ち着く。昼はリーザで夜はサラ、が一番いい組み合わせかも……。匂いの話だよ?



「……私の話は面白く無いのかな……?」



 悲しそうな声が耳に入ったので慌てて正面を見たら、つぶらな瞳をした目の端に、寂しさという名の水を湛えたルリィ先生がいた。先生、子どもっぽいから人差し指を咥えるのは止めた方がいいと思います。



 ◆◆◆



 その日の授業はサラとリーザの睡魔対ルリィ先生の解説力という感じだった。結局内容的には小エイニオン大陸から移民が来てそれが大陸の隅々にまで広がっていった、という事までしか進んでない。ルリィ先生が一生懸命解説しようとすればするほどサラとリーザの頭が僕にのしかかって来るので肩が凝りました。話すのが好きなルリィ先生が『簡潔に説明するスキル』を身に付けるのはいつの事やら。


 サラとリーザは今日の授業が相当きつかったらしく、帰る時もうつらうつらしていました。道の途中で昼寝して無いだろうか…。

 僕はそこまで眠くも無かったし、むしろ異世界の歴史に触れられて興奮していたので逆に眼が冴えちゃった。……決してサラやリーザの体温に興奮したわけでは無い。


 お昼ご飯を食べた後ネージュでも構おうかと廊下に出たところで、右手の紋章から着メールの合図が来た。急いで自室に戻って確認したら、当たり前だが朱美さんからのメールだった。



送り主:朱美

件名:久しぶりにドライブしない?

本文:こんにちわ、愛しのカケル君じゃなくてフィアル君。ごめんねまだ慣れなくて。でも私だけは昔みたいに『翔君』って呼んで良いかな? 私と貴方だけ・・の繋がりが欲しいな☆ それはそうと、最近そっちも物騒みたいね、不審人物とか出たんでしょう? スーツの機能チェックは済んでるし、そろそろ私もチェックして欲しいな~。というわけで、『レッドプラズマ』に乗ってドライブしませんか? オフロード仕様に改造したから裏の林とかいいんじゃない? お返事待ってます。出来れば一分以内に。



 一分は短すぎるよ朱美さん……。いや彼女にとっては一分すら長過ぎるのかも知れない。長文メールに返信する時はこっちも長文になりがちだけど、文章書いてる間にどんどん催促メールが送られてくるもんだから、最近は妙に素っ気無い文面で返しちゃうんだよね。それで『翔君冷たい…』とか言われないだけマシか。


 今日はサラもリーザも昼寝してるだろうし、偶には朱美さんに付き合うのもありか。『レッドプラズマ』も年単位で放置してるしな。


 とりあえず『おk、五分後位に呼ぶ』とだけ返信して、母ちゃんに裏の林に行ってくると伝えて家を出た。



 ◆◆◆



 家の裏手の雑木林にやってきた。途中、木陰からネージュの様子を見守るスーさんを見かけた。向こうもこっちに気付いたが、はにかむように手を振るだけで、近づいてくる事は無かった。う~ん、骨まで見せちゃう大胆さの割りに実にシャイなスケルトンさんだ。まあスケルトンだから骨そのものなんだけど。


 スーさんに手を振り替えした後、急いで林の奥に進む。周りに誰も居ない事を確認してスーツを装着後、『レッドプラズマ』を呼び出す。



 キュイイイイイン…!



「はろー、翔君! 久しぶりー!!」



 空間の穴が開き、中から出てきたのは幼児用の自転車サイズまで小さくしたバイクだった。そしてその横には高校生位の体にレースクイーンの衣装を着た朱美さんが立っていた。


「って、朱美さん、なんて格好してるんですか!?」


「えー、だって久しぶり呼び出して貰ったから、翔君に喜んでもらおうと思っておめかししたんだけど。翔君はレースクイーン衣装嫌いだった?」


 好きか嫌いかで言われれば好きだけども! せめて先に言っておいて貰えれば……メイド衣装を、おおっといけない。

 とりあえず、朱美さんの機嫌を損ねないようにしとこう。


「えっと、よくお似合いですよ朱美さん。でも今の僕には眼の毒なので出来れば別の衣装に着替えてください」


「そう? ありがとう翔君。じゃあ衣装チェンジするから、ちょっと別方向見てて。……どうしてもって言うなら見ててもいいけど…?」


 朱美さんはそう言って頬を染めるが、僕は紳士を目指しているので他所を向かせて頂きます。


 ちっ


 今舌打ちが聞こえた気がしたけど、全力で聞こえなかった事にする。視界の端に軽い光の明滅が見えた後、朱美さんから許可が出る。


「もうこっちを見ていいよー」


 視界を戻した僕の前には、戦闘時の朱美さんの格好、僕のヒーロースーツによく似た白のボディースーツを着た朱美さんがいた。ヘルメットは被っておらず、体の線が浮き出るような衣装だから露出度が低いわりに結構艶かしい。でもこっちは見慣れたものだからあんまり違和感を感じない。


「さてと、じゃあ『レッドプラズマ』の試運転だけど……。前回と形状が違うね?」


「うん、もう三輪車っていう歳でも無いだろうし、補助輪付きの自転車も考えたけど…、やっぱり動力付きの方が速度も出せるだろうし、バイクの形状を保ったまま小型化出来ないか調整して見たの」


 目の前の『レッドプラズマ』は以前使ってた頃の形を大体保ったまま小型化したような形をしている。ただ所々スリムアップが図られているようでもある。


「ちょっと前より細いね」


「うん、実は武装を載せると必要動力がオーバーしちゃったから、重くなるだけだし思い切って取っちゃったの。これで重量も軽くなったから速度も出せるようになったよ。だから今の『レッドプラズマ』には攻撃能力は無いの、注意してね」


 武装は『グラビティ・ブラスター』もある事だし何とかなるでしょう。僕は『レッドプラズマ』の車体を撫でて久しぶりの再会を喜ぶ。


「やあ『レッドプラズマ』…、前世ではありがとう。今世でもよろしく」


 そのまましばらく撫でていると、横からくぐもった声が聞こえてきた。横を向くと顔を紅く染めた朱美さんがはぁはぁと荒い息を吐いていた。


「やだ…、翔君こんなところで優しく私の体を撫で回すなんて……恥ずかしいよ……。でも気持ちいいから、もっとして…?」


 潤んだ眼でこっちを見てくる『レッドプラズマ』のAIさん。僕はそっと車体から手を離す。


「ああん!? 翔君のイケズ~~……」


「そろそろ試運転を始めようか。朱美さん準備して」


 恨みがましい眼でこちらを睨んでくる朱美さんが怖いので、努めて冷静な声で指示を出す。朱美さんはまだ不満そうだったが、立体映像を解除すると『レッドプラズマ』の準備を始める。


「メインシステムチェック開始……全て良好、姿勢制御補助プログラム動作確認良し……火器管制プログラムは停止状態に変更……。OK、準備できたよ!」


 どうでもいい事だけど、機械音声止めたんだね。聞き取りやすくて良いけど。

 そんな益体も無い事を考えながら、僕は『レッドプラズマ』に乗り、グリップを握り込んで厳かに告げる。




「『レッドプラズマ』…発進!」





「ひゃっはーーー!!」




 ドゴォッ!!




 爆発音にも似た音を発して、『レッドプラズマ』は急発進した。




「ぎゃあああああああ!? 朱美さん早過ぎ早過ぎ!! もっとスピード落としてええええええ!?」


「きゃあああああ!! 翔君とのドライブよおおお!! もっと一緒に風を感じましょう、翔君!!」


「いやあああああ!? 風を感じるどころか事故って何も感じなくなちゃううううう! ブレーキも効かねえええええ!?」


 僕はバイクを操作するというより、自動で姿勢変更をして木々の合間を高速で縫うように走る『レッドプラズマ』から振り落とされないように、コアラみたいに必死でしがみつくしか出来なかった。


 僕の顔の横を太い木の枝や岩が通り過ぎていく。音に驚いて前方に逃げ出した猪は、あっという間に追い抜かれて愕然とした表情を浮かべていた。さらに木の根や石を頻繁に乗り越えるので、がっくんがっくん車体が揺れて股間が痛い。


 ああああ、舗装された道ばかりだった現代日本に戻りたいよおおおおお!?



 僕の悲鳴と朱美さんの嬌声が森の中に木霊した。




 ◆◆◆



 深い深い森の奥、日中にも関わらず日の光殆ど差さぬ木々の下、朽ちかけた一軒の猟師小屋があった。その小屋は長い事人の手が入っていないように荒れ果て、屋根、壁ともに穴だらけで風雨に晒されていた。至るところは腐食してカビや苔が繁茂している。


 だがその中はどこか奇妙だった。勿論荒れ果てている。だが一部妙に綺麗な部分があるのだ。


 それは小屋の隅にある床に設置された引き戸だった。地下に貯蔵庫でもあるのだろうあ、その部分だけ真新しく、丈夫な作りになっている。


 そして今、その戸の奥から音が響いてくる。コツコツと微かに響く音は、誰か、あるいは何かが歩いている音にも聞こえる。その反響の仕方から考えて、貯蔵庫はかなりの大きさではないかと考えられる。


 戸がガタリと音を立てて揺れる。一瞬静まり返った後、ゆっくりとその戸は上に開かれた。



 その戸を開けた腕は、汚らわしい闇の瘴気を纏った骨の形をしていた。



 いや腕だけではない。続けて現れた肩から頭、胴体、足に至るまで全て骨だった。そしてその身体は擦り切れた黒のローブに覆われている。だが幾つも開いた穴から、その奥の忌まわしき瘴気と此の世の生物にはありえない、骨の身体が見え隠れしている。


 見るものが見ればすぐに分かるだろう。その者こそ真なる『不死者アンデッド』であると。


 その者はまるで蘇った死者のように地下から現れると、そのまま小屋から出る。


 そして高らかな哄笑が森に響いた。


「くっくっく……。ついに、ついに成功した…! 不死の秘奥、『不死化エヴォルヴ・アンデッド』の儀式が相成ったのだ!! ふはははははははは!!」


 おぞましい不死者の笑いは森を怯えさせ、近くに居た動物達は皆逃げ出し、鳥達も飛び去り、瘴気にあてられた足元の草は枯れてしまう。かの者の存在だけで、まるで森が死に絶えたように辺りが静まり返ってしまった。


 不死者は狂喜に満ちた叫び声のような笑いをしばし楽しんだ後、ぶつぶつと呪詛を吐き出すかのように何かを呟きだした。



「全くあのエルフの女騎士め、しつこく追いかけやがって…。おかげで焦って逃げたせいですっ転んで崖から落ちた挙句、熊に襲われて重症を負ってしまったじゃないか。もう助からないと思って苦肉の策で準備を進めていた『不死化』の儀式が成功したからよかったものの、今度会ったらただじゃおかないぞ…」



 訂正、愚痴を吐き出した。


 まだしばらく何か愚痴をこぼしていた不死者だったが、気を取り直したのか一転晴れやかな表情を浮かべる。


「いや~しかし、儀式には『新しき命』の生贄が必要と本にあったから赤ん坊を探していたが……。見つからないし配下の悪霊は音信不通だし、苦し紛れに今朝生まれたばかりの鶏の卵を捧げてみたら……まさか本当に成功するとは思わなかった。やはり有精卵というところが決め手だったのだろうか」


 割とチャレンジャーな不死者である。死に掛けで自暴自棄であったのだろうか。


 不死者はローブを翻すと片手で顔の半分を隠すようにポーズを取る。


「ともあれ、死霊術師ハセウム改め、『不死者』ハセウムの誕生である。これから私は不死の者達の王になるのだ!! くっくっく、まず手始めにあの小癪なエルフの女騎士のいる村から我が領土に加えてくれよう…。くっくっく、ふふふ、ふわはははははは!!」


 ハセウムさんが高らかに悪役三段笑いを行っていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


「うん? 何事ぞ?」


 ハセウムは訝しげにその悲鳴の方向を見る。視線の先の斜面の上から、先ほどの悲鳴が凄まじい速度で近づいて来た。



「止めてええええええ!?」


「ひゃっはーーーーー!!」



 声と共に現れたのは、真っ赤な乗り物に乗った同じく真っ赤な服を着た人間? だった。乗り物は恐ろしい速度でハセウムに近づいてくる。


「な!? 何だ貴様ら! この私を誰と心得りゅっ!?」


 突然の事態にかっこいい台詞も噛んでしまうハセウムさん。だがハセウムさんの声を彼らが意識する前に、すでに彼らはハセウムさんの目の前に迫っていた。


「ああああああああ!?」


「ひゃっはーーーー!!」


「な、ひ、控えおろっ!?」



 パッカーーーーン!!



 真っ赤な乗り物、『レッドプラズマ』とそのドライバーの次元戦士は不死者ハセウムをあっさりと跳ね飛ばした。



「ぐおおおおおお……!?」



 ハセウムの骨の身体はなす術も無く分解し、衝撃によってなのか身体を覆っていた瘴気も霧散する。



「朱美さん、今何か轢いた! 絶対何か轢いたよ!? だから止まってええええええ!!」


「私のログには何も残っていないよーー! さあ、もうちょっとアクセル吹かそうかーー!」


「助けてえええぇぇぇ…!」



 徐々に小さくなる声を、ハセウムの頭蓋骨は呆気にとられた表情で見送った。


「な、何だったのだあいつらは…? 新手の魔人か何か? それとも私を倒しに来た『まがばらい』か…? と、とりあえず身体を戻さねば…」


 ハセウムは既に居なくなった真っ赤な暴走族の事は置いておき、自身の身体を再構成することにした。

 遠くに飛んで行ってた腕を呼び戻し、各所に散らばっていた骨のパーツを集めるハセウム。しかし思わぬ事態に陥ってしまった。


「無い!? 腰椎の十二番と仙椎の四番五番が無い! 鎖骨と膝蓋骨も見当たらん! ど…どこだーーー!?」


 一部細かいパーツが見つからず、合体出来ずに居た。



 ……その後、ハセウムは自らのパーツを見つけるまで猟師小屋から動けなくなったそうだか、それはまた別の話。



 ◆◆◆



 朱美さんとのドライブは、何かを轢いてしまった後も二時間位続きました。朱美さんは満足したようだったけど、心身ともに疲労してぐったりしている僕を見てさすがにまずいと思ったのか、懸命に謝ってくれました。


 でもお詫びに看病してあげると言う申し出は丁重に断りました。ついでに亜空間内に連れ込まれて看病されそうになったので即座に『レッドプラズマ』を収納、逃げてきました。



 今は森の奥で轢殺された変死体が見つかりませんように、と祈ってます……。よく見えなかったけど、何だったんだろう、あれ?




キーワードの『駄目な悪役達』を出すべく、話の後半を解説から変えて悪役の登場シーンにしました。まあ駄目な悪役の名に恥じず、不死者ハセウム君はすぐに退場しましたが。退場と言っても一時的なもので、しばらく登場しないだけでまた登場します。

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