第38話 決断! 今が選択の時!!
前回のあらすじ:蛮族の湧き出る森へ偵察に出た翔達だったが、深い森と様々な生命が溢れる環境にて隠れ進む事は難しく、蛮族と遭遇し戦闘になる。戦闘後、死体を残す蛮族を持ち帰ろうとした時に、強烈な電波攻撃を受けて蛮族の死体は消失し、ヒーロー達は撤退を余儀なくされる。上司であるデルキウス王子は、森を隠れ歩く為の秘策として、ある人物との面会を命じるのだった。
コーツランの城塞、その北の森へ調査に行った次の日、僕は気だるげに寝袋から身を起こした。
ここは幼年学校の兵舎でなく、高等学校の宿舎近くの倉庫の中。昨日、王子との会議が終わった後、そのまま寝具を敷いて眠る事になり、狭くてかび臭く、かつ固い板張りの上で一晩を明かしたのだった。
最悪に近い環境だったが、疲れもあってぐーすか寝てしまった。スーツの機能で時刻を調べると、日も上りきった朝九時くらいの時間だった。
周りを見回せば、勇と乱が両隣でまだ寝ていた。
サラは昨夜の会議後、宿舎に帰っている。僕らより早起きしなければいけないから、多分眠いだろうな。
と、重たい頭で漠然と思考していたところ、後頭部に声が投げかけられた。
「寝坊助がやっと起きたか。弛んでるんじゃ無いか? ヒーローギルドトップの名が泣くぞ」
「……うっさい。昨日、電波攻撃でぐったりしてたのは誰だよ。助けたお礼まだ聞いてないぞ」
嫌味ったらしい言い方だが、侮蔑の雰囲気は無い。軽い挨拶みたいなノリで悪ふざけを交わせるのは、多少は親しみを感じ始めてくれたのだろうか。
振り向けば、ばっちり忍者スタイルをきめて、樽の上で胡坐をかいている義影が居た。
口元を覆面で隠しているため、義影の表情は完全には分からないが、どこか愉快そうに目が細まる。
「ああそうだな。俺もまだ予め作っていた宿営地を使わせてやったお礼を聞いてないな。ほら、どうした翔? 遠慮はしなくていいんだぞ?」
あー言えばこう言う奴め。こいつの減らず口だけはやっぱり慣れないかも。
目元だけでニヤニヤ笑いを表現している義影を無視して、僕は体を起こして身繕いを始める。
追撃するつもりは無いのか、義影は口調からからかう雰囲気を消して話し始める。
「王子からの指令が届いた。本日の正午、コーツラン城にて件の人物と面通しがある。正門から入れるよう取り計らっているから、この割符を持って来いとの事だ。それまでは休憩しておけ」
義影の方から、何かが風を切って飛来する音が聞こえる。僕はそれを視界にも収めずに片手で掴み取る。それは鍵山のように歪な形に切り離された金属板だった。表には、獅子の絵が描かれている。
「……対になる板と合わせるのかな?」
「そうだな。似たような物は昔の日本や中国でも使われていた。俺の里でも使っていたな……」
目を素早く横にスライドさせ、義影の様子を盗み見る。最後の言葉に若干の感情を感じ取ったからだが、盗み見たつもりが、ばっちり目が合ってしまう。
「お前は本当に分かり易いな。腹芸不得手な頭なんぞ話しにならん。外部との交渉は別の奴に任せろ」
「くっそ……。金市にでも頼むよ」
「手数料は用意しておけよ、あいつも只じゃ動かん。それと……今は協力関係とは言え、本質的に俺達は別の組織だからな」
その線引きは忘れるな、とさっきより平坦な声で義影は強調する。
「分かってるよ。金市との値引き交渉くらいは頑張るさ」
「………」
冗談めかしたのが気に食わないのか、義影は黙って僕を見つめるだけだ。
結局、僕の身支度が終わって他の二人を起こすまで、倉庫は静かなままだった。
◆
日も上りきった街中を、フードや帽子で顔を隠した四人の少年が城を目指して歩いていた。
無論、僕らヒーロー三人衆プラス忍者だ。
「暑い……人に見られちゃいけないとは言え、蒸れちまうよ」
「我慢してくれ。僕の班員は街の巡回警備中だろうから、偶然見つかったら問い詰められる」
アンドレイさんとかは空気読んでくれるかも知れないけど、リーザやニコル、それにリンは絶対に根掘り葉掘り聞いてくるはずだ。そうなると、サラの援護があっても誤魔化すのは難しい。
「お喋りは止めて足を動かせ。衛兵が何名かこっちを怪しんでるぞ」
はっと気付けば、遠目にこちらを向いている衛兵さん数人の姿が確認できた。義影の言に従い、僕らは足を早めて城に向かう。
程なく、城の正門へと着くことができた。
そして正門を守る衛兵が僕らを止める。
「待て。お前達、城に何の用だ」
「本日正午に、城に来るよう言われている者です。割符はここに」
そう言って割符を取り出すと、衛兵は少し待て、と言って詰め所に戻る。
しばらくして、もう一つの割符を持って衛兵が戻って来た。彼は僕の割符を受け取ると、自分の割符と合わせて照合する。
「……確かに合ってるな。人数、年齢、性別も指示通り……。通ってよし」
「ありがとうございます」
頭を上げると、衛兵さんは正門脇を指差して行き先を示す。
「入ってすぐから右に曲がって、壁沿いに進んで行け。兵士用の出入り口から中に入ると、案内役の兵士が待機している。後はそいつに着いて行け」
「はい、分かりました」
正門は他にも物資を搬入するための馬車などが行き交っているので、邪魔にならないように端っこを歩きながら教えられた道を進む。
城の中庭を壁に沿って歩いていくと、勝手口のような簡素な扉があった。
扉をノックしてしばらくすると、扉が開いて中から軽装の兵士が顔を出した。
「お前達……ああ、聞いてるよ。付いて来なさい」
こちらが何も言わずとも、手招きして中へ招き入れてくれた。そのまま小部屋を抜けて、城の通路を進んでいく。
それなりの時間を歩いて城の奥へと入り込み、綺麗な調度品などで飾られた通路へと辿り着いた。
「ここら辺は城の客室が並ぶ通路なんだ。君達を呼んだ御方は一番奥の部屋に居られる。粗相の無い様にな」
それだけ言うと、兵士は踵を返して帰っていった。
「……え、誰か待ってる人の名前とか知ってる?」
僕が尋ねると、他三名は揃って首を横に振った。
「義影も聞いてないの?」
「知らんな」
義影は聞いてると思ったのに。不安そうに逡巡していると、勇の表情が変化している事に気付いた。
「どしたん?」
「いや……あの扉の向こうに、物凄い徳の高い人のオーラを感じてるんだ。どっかで感じた事があるような……」
オカルト系ヒーローの感知能力がビンビンに反応しているのか、髪の毛が少し逆立っているようにすら見える。
「え、じゃあバセム教会のお偉いさんとかが居る?」
「いや、今まであった一番偉い司祭様よりよっぽどオーラが強い。もしかしたら教皇様でも居るんじゃねーの?」
勇も判断しかねているのか、冗談めかした応えしか返って来ない。返せないのかも知れないが。
「行けば分かるんじゃない? 待ち合わせの時間までもう間が無いから早く行こう」
乱がせっつくので、とりあえず歩を進める。扉に近付くほどに、僕もどこか懐かしい気配を感じ始めていた。
そう言えば、この先に居る人物についてサラが興奮気味に話しかけていたのを思い出す。あのおっとりした子があそこまで興奮するという事は、もしかして昔会った事がある人だろうか?
しかし心当たりが頭に浮かぶ前に扉へと辿り着いてしまう。一つ深呼吸して、扉をノックした。
「入りなさい」
中から聞こえてきた声が、強烈に脳天を刺激した。
この声は聞いた事がある。実家だ、実家のある扉を叩いた時にいつも聞いていた声だ。
記憶の中の声と一切変化が無い。あれから何年も経っているのに、全く年齢変化を声に感じさせない人なんて……。
一人しか、心当たりが無い。
「失礼します!」
逸る心を抑えきれず、大声を上げて扉を勢い良く開いてしまった。
「こらっ、もう少し行儀良く入りなさい!! 先生はそんな風に教えた覚えはないぞっ!」
「ルリィ先生!?」
扉の向こうは一等豪華な客室になっており、そして部屋のソファーで寛いでいたのは、子ども時代の家庭教師をしてくれた、エルフの貴族であるルリィ・エトランゼ先生その人だった。
そして、向かい合うソファーに座ってこちらを微笑みながら見つめる女性は……。
「久しぶり、フィアル君。大きくなったね。ネージュちゃんは元気?」
「……ま、まさか……スーさん?」
細身に雪のような肌と、銀に近い金髪を短く揃えた可憐な女性。ともすると中の骨格が透けて見えそうなほどに儚げな雰囲気と声は間違えようも無い。
だが、肉が付いているので思わず確認してしまった。
待ち人は、懐かしき子ども時代を共に過ごした家族同然の人達だったのだ。
◆◆
「ほんのフィアルが王都に旅立ってから五、六年か? 早いものだな……」
部屋に招き入れられた僕らは、スーさんの座っていたソファーに鈴なりになって座ってルリィ先生と対面していた。
スーさんは、僕らのお茶を用意してくれると、ルリィ先生の横に座る。
「本当…フィアル君はとても成長しました。でも、正義感に溢れる瞳は変わりませんね」
穏やかに微笑むスーさんに褒められると、恥ずかしいような誇らしいような気持ちになって、なんて言うか、こう、心が痒い。
「あ、あの~~……先生、もう一人の教え子については……?」
「うん? 勿論忘れていないさ、レオン。構ってもらえないと寂しがる性格は変わってないな」
「はうっ!?」
痛点をいたく刺激された勇は胸を押さえて身を折る。小さい頃を知っている先生というのは、時に容赦無く黒歴史を暴かれるので、油断ができない。
「まあまあ。レオン君も大きくなったね。頑張って修行しているから、以前より法力が備わっているように見えるわね」
「……いや~~スーさんにそう言われると照れるっすね」
一転、スーさんに褒められて相好を崩す勇。体の成長に伴って、元の世界で持ってた法力が戻って来ただけじゃないかとも思うが、言わぬが華だろう。
「そうそう、今は彼女の名前が別にある。スーラトリア・エスネ。それが彼女の新しい名前だ」
「つまり……『スーさん』ですよね」
「まあ、お前達はそれでもいい…かな?」
「はい。いつも通りで」
ちょっと困った様子のルリィ先生が確認すると、スーさんは快く承諾してくれた。
「名前の由来は何ですか?」
「本名だ。彼女が埋葬されていた墓地を発見し、その墓碑銘から探り当てた。いや~~びっくりしたぞ。まさか彼女が詩にも詠われた『王を導きし……」
「ルリィさん、その話はまたいずれ……。今は王子から要請された任務があるでしょう」
やんわりと、それでいて断ち切るような力強さで、スーさんは話の腰を折った。微笑みの奥に大岩の如き迫力を感じたのか、ルリィ先生は冷や汗一粒流して、お茶を一口飲む。
「そ、そうだったな……さて、フィアル、レオン。お前達に確認しておきたい事がある」
若干おどおどしていたルリィ先生の顔が引き締まり、お茶のカップを置くと身を乗り出してくる。僕らも自然と緊張して背筋を伸ばす。
しばらくの間を置いて、ルリィ先生の口が重く開く。
「お前達……王都で正義の味方ごっこをしていたそうだな?」
ブッ! と僕と勇が噴き出し、続いて咳き込む音が木霊する。
「エッホ! ゲッホ! ……先生、それをどこで……!?」
「デルキウス王子から聞いた。何でも、今では子飼いの部下になってるそうじゃないか」
あは~~ん……そりゃあ言うよね。これから同じ任務を遂行する仲なんだから。むしろ驚きの余り予想の外だった僕が馬鹿だ。
「そしてそこに居る魔術師の少年、君も仲間の一人だったと聞いた。そっちの少年はまた別口らしいが……」
「俺はただの小間使いです」
義影は白を切るが、ルリィ先生の鋭い視線は鈍らない。だが鉄面皮を貫く義影を追求するのは後回しにしたのか、その視線は僕に戻って来た。
「フィアルとレオンは、昔からどこか他の子と違うと思っていた。二人とも養子で、この国では余り見かけない容貌。しかし人種は似通っている気がする。そして……」
説明し辛いのか、言葉を切って考え込むルリィ先生。やがて、自分でも信じきれていない固い表情で僕らを睨む。
「まるで……『生まれ変わった』ように、ほんの小さい頃から大人びた気配を感じていた。加えて、王子の説明ではフィアルもレオンも不思議な力で変身するそうじゃないか。私の人生でも、そんな者は見た事がない」
核心を突いたルリィ先生は、そのまま止まる事無く、決定的な質問に移る。
「お前達は……何者だ?」
「ルリィさん。顔が怖いですよ」
威圧感すら発していたルリィ先生の横合いから、スーさんの穏やかな言葉が割り込んでくる。
途端に、ルリィ先生の顔が発火したように赤くなる。
「スー! 私は真面目な話をしているんだぞ!?」
「ルリィさん、言い忘れている事がありますよ」
それをまず言わなければ駄目でしょう。と、ちょっとだけ怒った様子のスーさんに毒気を抜かれたのか、ルリィ先生はソファーに寄りかかって天井を仰ぎ見、大きく溜息を吐いた。
顔を戻した時、いつも通りの先生に変わっていた。
「悪かった、いらぬ緊張をさせてしまったな。……例えお前達が何者でも、お前達は私の可愛い生徒だ。全力で守ってやる。だから、本当の事を話して欲しい」
苦笑しつつ自分の不出来を詫び、僕らを信じると宣言してくれた。
それが、僕にはとても嬉しかった。
「先生……」
「……なんだ、泣くことは無いじゃないか。そんなに私は怖かったか?」
「いえ……嬉しくて……」
僕は涙がこぼれないよう目元を手で押さえるが、どうにも失敗したようで、太股に冷たい水を感じていた。
不安はあった。サラやリーザ、王子は受け入れてくれた。だけど、いつかは僕らの事を疑いの眼で見る人が現れるんじゃないかと、怖れていた。
でも、信じてくれるんだ。きっと誠実に相手へ向かい合えば、きっといつかは、この世界の人達にも受け入れて貰える。それが分かったから……これは嬉し涙なんだ。
僕もそれに応えて、僕らの本当の素性を明らかにする事にした。反対意見は出なかった。
……
「転生者……。それも、それぞれ異なる世界からの、か……」
一通り僕らの略歴を話した後、ルリィ先生とスーさんは流石に驚きを隠せない様子だった。
特にスーさんは、僕らをこの世界に召喚した『神様』について興味を示していた。
「その……あなた達が会った『神様』は、一体どの神々であられるのでしょうか?」
「それが、さっぱり分かりません。『神様』の正体について調べてもらう為に、勇にバセム教会へ入信して貰ったんですが、数年間調査しても手掛かりすら見つかりませんでした」
光り輝く存在で人型をしている神様なんて、それこそこの世界で信仰される殆どの神様が該当する。少なくとも邪神の類では無いと思うが、偽装目的で人型を取っていたのかも知れない。
ルリィ先生も悩ましい様子で首を捻っている。
「異世界から何かを召喚する、それ自体は珍しい事ではない。私も精霊を精霊界という別世界から召喚するからな。しかし存在すら知られていない世界から複数の人物を呼び出す者など……聞いた事が無い」
「私の知識でも思い至りません……ただ……」
スーさんが言い淀んだことで皆の視線が集まる。
「……最高神『ノートン』は他の多くの神々を造った偉大なる神です。その際に『遠き地の異邦人を模って』神々を造った、という逸話があります」
「ノートン神の神話も一通り調べましたが、今の話は初めて聞きます」
「そうでしょうね。これは、私が修道院で暮らしていた頃、当時の院長から外典の一種として口頭で教わったものですから。王都のバセム教会で知る者は居ないでしょう」
勇はなるほど、と悔しげに納得した。異なる教会の神様、それも極マイナーな逸話までは調べきれなかったのは仕方ないだろう。
「『遠き地の異邦人』が『異世界の住人』であるなら……最高神ノートンが異世界を覗き見る事ができる、と考えられる。そして、干渉する事も出来るのかも知れない」
「あくまで仮説ですが……」
「ともあれ、今はその『神様』の正体を探る時ではない。この街の危機、ひいては王国の危機である『蛮族』について話を戻そうじゃないか」
乱が話をまとめ、スーさんがそれに注釈を付け、最後にルリィ先生が締める。
それは僕らも同意見なので意識を切り替える。スーさんも少々悩んでいたがやがて居住まいを正した。
「大体の事情は王子から聞いている。北の森に『生命のマナ』の発生源があり、そこから『蛮族』が大量発生しているとの事だな?」
「恐らく『蛮族』を操っている存在も居ます。そして、森で蛮族と戦えば、強烈な電磁波……えーと、攻撃を受けます。僕は大丈夫ですが、他の皆は防げません」
ルリィ先生の質問を少し捕捉する。
一応、玄衛門さんに電波防御の道具が無いか聞いてみたのだが……。
「パンパカパーン!! 『これで異星人の毒電波も大丈夫。プロテクター・アルミん!!』」
…とか言ってアルミホイルのでかいロールを取り出したので、一発頭を叩いておいた。ちなみに全身を包まないと効果ないらしい。使えねー。でも、一応貰っておいたりする。
「まあ、防げなくも無いと思いたい程度には信頼しているかも知れない仲間から貰った、防御道具もある事はあるんですが……」
「それだけ歯切れを悪くするくらなら、ほぼ信じられない、とでも言い換えなさい」
ルリィ先生は溜息を吐いて額を押さえていたが、手を下ろした時には自信満々の笑顔になっていた。
「なあに心配する事は無い。要は『蛮族』を操っている親玉にばれないよう、森を渡ればいいのだろう? 私に任せておけ」
胸を張るルリィ先生は、昔通りの頼れる師そのままの姿だった。
◆◆◆
その日の夕方、森への再侵入作戦が開始されようとしていた。
メンバーは僕、勇、乱、義影に、ルリィ先生。
「……あの、スーさん。お見送りはもうここまででも……?」
「え、私も行きますよ?」
ふぁっ!? 危うく叫びそうになったところ、寸でのところで自分の口を塞げた。
今、僕らは秘密の抜け道を通って城壁近くの丘のふもとに出た所。大声を上げれば、万が一見張りの兵士に見つかる可能性がある場所だった。
なので、極力小声で先生に抗議する。
「ちょっ! 先生、スーさん連れて行くなんて正気ですか!? あれですか、実家に居た時みたいに家事全般スーさんに依存してて、一緒に居ないと駄目になったんですか!?」
「フィアルは面白いなー。先生をそんな目で見ていたなんて戯言を堂々と吐くなんて……。面白すぎて、先生真顔になっちゃいそうだぞー」
能面のような冷たい表情で握り拳を掲げるルリィ先生を目の当たりにし、思わず体が幼少時代を思い出して身を竦ませる。
「ああっごめんなさい先生っ!? ぶたないで! 体罰はいけません!!」
「昔はいい子で罰の必要すらなかったのに、先生は悲しいよ……」
眉を寄せてルリィ先生は残念そうに首を振る。
嘘だっ! 主にリーザとの喧嘩の件で何回か怒られた記憶がある! 風の精霊によってリーザ共々空中に巻き上げられ、半べそかいたトラウマが……。
青い顔しているとスーさんは腰を屈めて僕の真正面に立つ。
「あのね、フィアル君。私はルリィさんへの恩返しとして奉仕してるの。これは、修道女として私が決めた使命なの。だから、私も同行させて欲しい」
うぅっ……真摯な瞳でそう頼まれては、大変断り辛い。
「それに私は癒しの法力も使えるから、皆が怪我をしたり体調不良になったら治して上げられるわ」
「スーさんの法力は本当に頼りになるぞ。私も旅の途中で随分助けられた」
ルリィ先生の援護射撃もあっては、認めざるをえない。
「分かりました。スーさんは、僕らが全力を以って守りますから」
「ふふっ、頼りにしているからね」
「お任せ下さい!」
勇は胸を叩き、鼻息も荒く請け負う。
太陽のように眩しい笑顔のスーさんが、僕らにとって最高の報酬だな。僕もやる気が出てきた。
決意を新たに、僕らが気勢を上げていると……
「……先生は?」
指をくわえて、寂しそうに羨ましそうに、一人蚊帳の外だったルリィ先生が涙目でこっちを見ていた。
先生、あなた僕らが守らなくても十分強いでしょうに。僕と勇の心境は、きっと一致していた。
「「勿論、先生もですよ!」」
直後、僕と勇が異口同音に誤魔化しに走ったから。
横に立っていた義影と乱が顔を逸らしていたのは、巻き込まれたくなかったか、はたまた笑いを堪えていたからか。多分両方なんだろうな。
こうして、僕らの二回目の偵察はちょっとした騒がしさの内に始まった。
……
森の入り口まではルナティクスのワープ魔法で問題なくやって来れた。これ以上先にワープする場合、出口側の安全確認が必要だが、式神を飛ばすとまた電波攻撃でやられる可能性が高い。
だから、森を徒歩で踏破する必要がある。
「なるほどな……異世界の魔法も万能ではない、と言う訳か」
「そそ☆ いくら可憐で無敵なマジカル★ルナティクスでも、出来ない事があるのよね~」
んふ~と悩ましげに、しかし多少の自賛も含めて溜息を吐くルナティクス。変身後のキャラの変わりっぷりに、考察していたルリィ先生は若干不安そうに僕に囁きかけて来る。
「あの……大丈夫か、あの子? さっきまではとても大人しい子のようだったが……。それと、実は女の子だったんだな……」
「彼は、ああやってテンション上げてないとあの姿に変身出来ないんです。元の性別はちゃんと男ですんで、間違えないよう、お気をつけ下さい」
「え、今は?」
「ルナティクスはまだ青~い蕾の十二歳で~~す! アハッ☆」
語尾どころか空中にすら星のエフェクトを浮かべて、ルナティクスは自己紹介を割り込ませてくる。横向きピースサインの間から片目を覗かせ、しなを作る様はまさに魔法少女!
きっと後で死にたくなるんだろうなぁ。
彼の献身と懸命っぷりには頭が下がる。僕は思わず顔を逸らし、熱い水が目元から溢れないよう手で押さえる必要があった。
「ルリィさん。それよりこの森、どう思う?」
義影は催促するように森を指差す。ルリィ先生は森を一瞥し、目を細める。
「ふむ……木々や植物の異常成長に影響されて、狂った樹精霊が沢山居るな。説得に手こずりそうだ」
「狂った精霊ってどんな感じなんですか?」
僕の質問にルリィ先生はしばし思案し……途中であっと顔を上げるが、途端に申し訳無さそうな顔になる。
「……丁度、フィアルの友達の彼みたいな感じ、かな。元の姿が通常の精霊。狂った精霊が今」
『lunatic』:意味は『精神異常者』『狂人』。形容詞表現では『精神異常の』『狂気じみた』。
……すまん、友よ。何も言えねぇ。ここまでピタリと嵌ると神の采配としか思えないんだ。
「フィ~ア~ル~? ちょっとルナベアーさん十体くらいと戯れてみない?」
「悪かったから、ガチで殺しにくるのはノーサンキューな」
顔色を読んだルナティクスが、狂気度三割り増し位の笑顔で杖をこっちに突きつけてくる。諸手を挙げて全面降伏しておいた。
「ま、まあ話が通じないわけじゃないから、多少時間はかかるが協力してもらえるだろう。ついでに、狂う程にエネルギーを得ている状態だから、精霊の力も格段に高くなっているはずだ」
「分かりました。じゃあ早速、説得と先導をお願いします!」
ルリィ先生が慌てたように早口で解説してくれたので、とりあえず話を逸らすして本筋に戻すことが出来た。
そして、僕らは今一度森に足を踏み入れた。
……
森に足を踏み入れて一時間後、ルリィ先生の凄さをまざまざと実感できた。
深く、かつ多数の動物達で騒がしい森の中で、義影や僕のセンサーが気付くよりも早くに蛮族の存在を発見して移動ルートを予測する。それに合わせて僕らの進行方向を変える、あるいはやり過ごす。
もし囲まれてどうにもならない時は、草や木々を急速成長させて隠れたり、蛮族の進行ルートそのものを変えるすらできた。
「生命のマナのおかげで、植物の急速成長がしやすいから楽でいい」
僕らを守るように屹立する木々と藪の壁の中、ルリィ先生は事も無げにそう言っていた。
「樹精霊の皆もご苦労様」
先生は、一本の草の塊と木が融合して人の形をとったような存在、樹精霊の具現化した存在に向かって労いの言葉をかけ、ぽんぽんと撫で擦る。
すると樹精霊の頭部にある草の塊から無数の蕾が現れたかと思うと、あっという間に花が咲き乱れて花束のようになる。アフロ頭に花が咲いたみたいだ。
「あ、ちょっと小腹が空いたから、何か食べ物もくれる?」
先生が頼むと樹精霊の花が一斉に枯れ、一部の花の中央から果実が成長し始めて、林檎のような果物が人数分できた。
ルリィ先生はありがとう、と一言呟くと、それをもいで躊躇なく食べ始める。
「? どうした皆? 折角作ってもらったんだから、遠慮せず食べなさい」
「……奉仕に慣れきった姿って、凄いすね」
お貴族様なので当たり前なのかも知れないが、普段見られない先生の姿に困惑を隠せない僕ら。
と言うか、むしろちょっと引いていた。
「なっ……!? べ、別にいつもこんな横着をしているわけじゃないぞ! 旅の途中では弓で狩りをしてたこともあったんだぞ!!」
「ええ、確かに兎とか鹿とか狩ってこられた事はありましたけど……。でも、矢傷が無いものもあったような……」
スーさんの指摘にぐっと詰まるルリィ先生。その顔は羞恥にほんのりと赤くなり、それが可笑しいのか樹精霊の頭にまた花が咲き乱れる。
ルリィ先生は頬を膨らませていたが、ぷいっと振り返ると手を振る。それに合わせて壁になっていた藪が開いて道になる。
「さっ、もたもたしている暇は無いぞ。日が暮れる前に、どこか一泊できる場所を探さないと」
先生はそういい残すとずんずん進んでいく。遠目に、目元を手で拭うような仕草をしていたが、もしかして半べそかいていたのだろうか。
「年経たエルフにしては……何と言うか、子どもっぽいな」
「精神が若いのかもね」
義影とルナティクスはそう評していたが、僕と勇は、奇妙な土産物集めに執心したり、授業を聞いてくれないとやたら寂しそうにしていたりするルリィ先生の姿を覚えているため、多分あれは素だなぁと確信してた。敢えては言わなかったが。
それらを完全に理解しているスーさんは苦笑しつつルリィ先生の後を追い、僕らもまた後に続く。
木々に遮られて日の落ち具合は完全には分からないが、スーツの時計からは日没までそう間が無い事は分かっている。なので蛮族に見つからないよう、早急に安全な寝床を確保する必要は確かにあった。
昨日は掻き分けて進んでいたいた草むらも、今日はルリィ先生の前から歩き易いように倒れこんでおり、移動そのものはスムーズである。後は、何とか隠れ場所を見つけられれば……。
「失礼、ルリィ殿」
突然、義影が先行する先生へ声をかけた。全員が足を止め、義影の方を向く。
「どうした? えっと……ヨシカゲだったか」
「あちらをご覧いただきたい」
義影が指差した方には、地面が小屋くらいの高さまで盛り上がっている場所があった。丘をだいぶ小さくしたような感じだ。
その側面は突き出た岩からつる草が垂れ下がり、所々苔が繁茂しているのが分かる。
「あれは……洞窟か?」
「かすかに風の音が異なる気がしました。仮宿にできるかも知れません」
こっそりスーツのセンサーを起動して調べると、つる草の奥に空間があり、少し進んで下るとそれなりの広さがある事も判明した。今居る六人が余裕をもって休める程度は十分ある。
「結構広い洞窟みたいです。調べてみましょう」
僕も提案すると、先生は森と日の陰り具合を調べ、首肯した。
「うん、少し早いが寝床の準備にかかろう。皆、付いて来なさい」
つる草をどけて洞窟の中に入り進むと、少々カビ臭いが高さ広さともに十分な空間があった。
「うん、ここで一泊しよう。出入り口周辺は樹精霊に頼んで隠しておく。クッションになりそうな草も一緒に生やして貰うから、フィアル達はそれを外から持ってきて床に敷いてくれ」
「分かりました」
洞窟内を簡単に掃除して草の葉を床に敷く。明りはルリィ先生が持ってた『微光』の魔法アイテムを天井に吊るして確保する。水桶みたいに固まった草の葉に乱が『湧水』で水を確保し、とりあえずの拠点が完成した。
一昨日、昨日と野宿ばかりしてたのもあり、完成と同時に僕らは床に寝転がった。
「疲れているな。無理も無い、か。むしろその年でよく頑張っているよ」
ルリィ先生は僕らの不作法を咎めもせず、労わってくれた。慌てて起きようとしたところ、スーさんも先生と同意見なのか、僕の横に座って優しく肩を抑える。
「フィアル君は偉いね。でも、余り頑張り過ぎると肝心な時に力が出せないから、今は休みましょう?」
「そうだぞ。見張りは先生がやるから、少し眠りなさい。起きたら先生が果物を剥いてやろう」
「私も手伝いますねー」
樹精霊産の果物を掲げる先生に、やんわりと、しかし有無を言わせぬ口調でスーさんが割り込んだ。
ルリィ先生がまたもしょんぼりとし始めた光景に、思わず顔がほころぶ。そして急速に襲い来る睡魔に抗えず、僕は身を横たえ、瞼を閉じたのだった。
◆◆◆◆
懐かしい夢をみた。
僕がこの世界に来る前、現代日本の裏に潜む悪の組織と戦っていた頃の夢だ。
悪の首領マデゴーグ率いる悪の組織、そこから現れた改造人間、サイボーグ、ロボットや人型バイオ兵器の数々。
僕はそれらを『怪人』と呼んでいた。それぞれが特徴的な能力を使って悪事を働き、戦いの時も僕を苦しめた。
光の幻影で分身したように見せかける奴、特殊なフェロモンで野犬などの野生動物を操る奴。ロボットタイプの奴は四肢を分離して、ミサイルパンチやミサイルキックなんてしてきたっけ。
そんな、過去の戦いの記憶が夢として流れていた。
そうだ。そう言えば電波を操る怪人も………
……
「フィアル……起きろ」
固い声が耳に入り、そこに含まれる緊張を脳が感じ取った瞬間、一気に頭が覚醒した。
僕は身を起こし、出入り口の方を見つめるルリィ先生に囁きかける。ちらっと時刻を確認すると、もう日没の時刻を過ぎていた。
「先生、どうしました?」
「森が急に騒がしくなった。蛮族の動きも活発化しているが、ある一方向に移動している」
つまり、その方向に異常が発生しているという事だが……。思考している合間に、他の皆も起き出した。
義影は先生の説明を寝ながらに聞いていたのか、すぐに会話に入り込んでくる。
「森の奥へ、ですか?」
「いや逆方向だな。それに、どうもここからそう離れていない」
まずいな。何があってるかはまだ分からないが、下手するとまた電波攻撃が行われるかも知れない。僕の懸念は義影も思い立ったのか、こっそりと耳打ちしてきた。
「……フィアル、例の電波攻撃対策だが、たしか玄衛門から道具を貰っていたな」
「あるけど、あれって全身包まないと……」
「壁に貼り付けるだけでも効果はあるかも知れない。今の内に手分けして貼っておこう」
おお、そういう使い方もあったか。僕は急いでアルミホイルのロールにしか見えない秘密道具を取り出すと、義景や勇、乱と一緒に洞窟の壁に貼り始めた。
何をしているか分からないルリィ先生とスーさんは僕らの奇妙な行動に困惑の表情を浮かべる。
「フィアル? い、一体何をしているんだ? 気でもふれたか?」
「自分でも傍から見たらちょっとアレだと理解してますが……敵の攻撃を防ぐためなんです!」
「そ、そうか……」
勢いこんで必要性を主張したおかげか、とりあえず先生は納得してくれた。スーさんは銀色に染まっていく壁を落ち着かなげに見回している。
一通り張り終わると、今度は騒動の方が気になり始めた。
「一体、森の中で何があっているんだろう?」
「……樹精霊や風の精霊からの伝聞では、どうも蛮族以外の何者かが蛮族達と戦闘中らしい」
「何者でしょう?」
「そこまでは……樹精霊は狂ってるし、風の精霊は大雑把だから、どちらも話しの具体性に欠けるんだ」
困ったように出口の方を見るルリィ先生。出口を塞ぐ植物はわさわさ揺れ、笛のような陽気な風の音が流れ込んでくる。
「よし。フィアル、行け」
釣られて見ていたのが悪かったのか、義影が僕の背を叩く。
「ちょっ!? 僕一人で!?」
「電波攻撃に耐えれる奴はお前だけだろ。むしろお前しか出れん」
まさしく正論…! 圧倒的論破に出かかったぐうの音を飲み込まざるを得ない!
「フィアル君だけを危険に合わせるわけには行きません。ここは私も……!」
「フィアル、逝っきまーーす!」
スーさんが自己犠牲精神を発揮しそうになったので、最速でヒーロースーツに変身して外に飛び出る。あの人を危険に合わせるくらいなら、蛮族と毒電波の真っ只中に飛び込んだ方が精神的に楽だ。
スーさんの引き留めなどは勇に任せて、夜の森を進みながらセンサーと暗視機能を起動する。
ルリィ先生や義影ほどでは無いが、ヒーロースーツの機能を使えば、そこそこ偵察できるのだ。
幸い、まだ電波攻撃は開始されておらず、センサーも正常に稼動している。得られた情報に従い、騒ぎの方向に進路を向ける。
一分もしない内に、大乱闘のオーケストラが耳に入って来た。
森のいたる所から蛮族の列が延々と一点に向かって進撃し、そして片っ端からぶちのめされていた。
「ブッヒッヒ! たらふく飯を食べてしっかり休んだ俺様に、蛮族如きが何人来ようと無駄ブヒ!!」
猪の鼻声のような笑い声に続き、暴風のような剣風が木々を揺らし、吹き飛ばされた蛮族は空中でバラバラになって煙に変わっていく。
「ふはははは! 然り。我が肉体、否、骨格も元に戻った今、我が魔術の冴えも元通りである!」
ボロ布のローブを着た骸骨が禍々しいオーラを帯びた手を突き出す。すると掌から、黒ずんだ血液のような飛沫が散弾銃のように打ち出され、蛮族を穴だらけにしては雲散霧消させている。
「魚介類や水草でゴーレムを作ったのは初めてじゃったが……以外に使えるのう! あの種族の技術力も中々やるわい」
見覚えのあるドワーフがご満悦でゴーレムに指示を出して、蛮族達を薙ぎ払わせている。
ゴーレムは大きな二枚貝を胸板に、巨大な魚のお頭の骨を頭部に、甲殻類の殻を鎧みたいに組み合わせた形をしてる。しかも手の部分は巻貝で高速回転中だ。ドリルかよ。
「ほ~~ほっほっほ! さあ進みなさい、あんた達! 私の栄光のために!!」
「「「働けよ」」」
最後に後ろで踏ん反り返って高笑いしていた女ダークエルフは、他三名から素で突っ込まれて一瞬固まっていた。
「やかましいわ! 大体ここまで発見されずに来れたのは私の魔法のお陰でしょう!? 十分働いたわ!」
「でも見つかってるじゃないか」
「その生臭ゴーレムがいけないのよ!! あんなでかいのが歩く痕跡まで完全に消せるわけないわ!」
「自信満々で任せなさい! とか言われた気がしたんじゃが……欲に目が眩んで身の丈を見誤ったか?」
「お黙り!」
ピシィッ! と音がして魚介ゴーレムの頭部がずれる。
「おまっ!? わしの作品に当たるなと何度言えば分かるんじゃ! 鞭打つならそこの萌え豚にしろ」
「俺様を巻き込むなブヒ! その魚臭いごーれむ、三枚に下ろしてやるブヒよ!?」
実に元気な悪党四人衆さん達だった。
……帰っていいかな。
と思って踵を返した瞬間、スーツから耳障りな警告音が鳴り響いた。
『警告! 不明な電波が検出されました! 防御措置のためセンサー類を一時的に停止します!』
ドクンッ! と森全体が鼓動した気がした。それは津波のような勢いで悪党四人衆とそれに群がる蛮族達を飲み込んだ。
蛮族は倒れ込み、ブルブルと震えだすと小さな破裂音を残して煙に変わっていく。
悪党四人も例外でなく、昨日の仲間達のように倒れ伏していく。
「ぬう!? みんなどうしたのだ、急に倒れこんで!?」
あ、ハセウムだけは無事だ。アンデットには電波の効果が無いのか?
「く、苦しいブヒ……!」
「な、なんじゃこれは…!? 頭が割れそうじゃ……」
「呪い、じゃない。これは……何なの!?」
残り三名は苦しんでいて、魚介ゴーレムは命令が途絶えたので突っ立っている。だが特に異常は無さそうなところを見ると、もしかして魔力や呪術で動いているものには、この電波は影響無いのか。
しかしどうしたものか。放っておけば死んでしまうかも知れないが、かと言って助けに入るのもためらう。
僕がどうしたものか悩んでいると、ハセウムは慌てながらも仲間を一箇所に集めようと悪戦苦闘していた。
「皆、気をしっかり持て! 必ず助けてやるからな!!」
「ぐええええ、ハセウムどんの瘴気で余計に気分が……」
「近寄るなブヒ…! えんがちょ、えんがちょブヒィ!!」
「お得意のスケルトンでもさっさと呼び出して、ここから連れ出しなさいノロマ!!」
……そして、仲間達から散々に罵倒されていた。悪党同士でも友情や人情は存在するんだとちょっと感動しかけたのに……。ハセウムも両手で顔を覆ってしくしく泣いている。
「ああ、ここで終わりなのか。折角、敵の親玉がいる本丸までもう少しの所なのに……!!」
と、ハセウムのかぼそい嘆きが僕の耳に入った。
「………おいっ、こっちだ!!」
そして、僕は彼らを助ける事に決めた。
「何奴!? ……貴様は、赤い怪人!!」
「こ、こんな所まで追って来たブヒか!?」
四名は驚愕の表情でこっちを見て、後退りして距離を取ろうとする。
「落ち着け、今は戦うつもりはない。お前達を助けるから、こっちについて来い!」
「何だと、散々私達を苦しめたお前を信じろと言うのか!」
「どっちにしろ、あんたじゃ仲間運べないじゃん」
僕は倒れ伏す三名をひょいひょいと背中に抱え、腕に抱え……ボーグダインはでか過ぎるので首根っこを掴まえて引っ張り、走り出す。
「ブギィィィィ!? 絞まってるブヒィ!」
「ほんの一分ぐらいだから息止めてて!」
「ま、待て……ええい、仕方無い!」
強引に拉致ってしまったが、ハセウムも腹を括って付いて来た。そのまま森を突き抜け、皆の居る洞窟まで戻った。
入り口を覆っていた蔦を蹴破って中に入ると、皆は驚いてこっちを見て、そして頭を押さえる。
「フィアル、そいつらは……! って、頭が……」
「……くっ、一体どういうつもりだ……?」
勇と義影が抗議してくるが、とりあえず後回しにして、抱えていた三名を洞窟の隅に下ろす。
と同時に、ハセウムが中に入って来た。
「一体ここは……げえっ!? あの時のエルフ娘!?」
「お前は、あの死霊術師か! こんな所に……うっ……」
ハセウムと対面したルリィ先生だったが、剣を抜く前に頭を押さえて膝を着く。
僕は大急ぎで電波遮断の秘密道具を掴むと、破けた出入り口のところを塞いでいく。
粗方塞ぎ終えた頃に、徐々に皆の調子も回復したようで、お互いに警戒しながら対峙する。
そしてルリィ先生が口火を切る。
「確かハセウムだったか。こんな所に居たとはな、しかもお仲間まで連れて。もしや、お前らがこの蛮族騒動の元凶か?」
「本来、それすら明かすような間柄では無いが……一応助けて貰った礼として応えよう。違う、我々もまた、この蛮族を生み出している者を討伐に来たのだ」
「何ぃ…?」
チラリとルリィ先生が僕の方を見てくる。僕は一つ頷き、彼らを指差す。
「森の中で蛮族に襲われているところ、例の電波攻撃を受けました。彼らは、敵の親玉について何かしらの情報を持っているようです」
「……そして、貴様らはこの奇妙な攻撃…『デンパ攻撃』? の情報と対策がある、という事か」
ハセウムは顎の辺りを骨の手で撫でながら僕らを見回す。スーさんはこっそりルリィ先生の後ろに回り、その視線を回避した。
スーさんの動きに首を傾げていたハセウムだったが、手を下ろし、腕を組む。
「どうやら、我らと貴様らは、蛮族の親玉を倒すという一点では、目的が一致しているようだな。ついでに、互いに有益な情報も持っている。なるほど……」
ルリィ先生を見ていたハセウムは、その顔を動かして僕に視線を定める。
「では、情報交換の交渉をしようか。その為に我々を助けたのだろう? 少年」
「……言っとくけど、お前達を許したわけじゃ無いからな」
「無論、それはこちらとしても同じだ。……さあ、どうする?」
この日、ヒーローギルドは蛮族という巨悪を倒す為に、より小さな悪と取引する事になった。
この判断が正しいかどうか、それはまだ分からない。ただ未来で、間違いでなかったと確信できるよう、全力を尽くすだけだ。
僕のヒーローとしての資質が、試される時が来たのだろう。
大変遅くなって申し訳ありません。私生活の問題もあり、大変難産でした。
さて、今後の投稿についてですが……この遠征編を区切りに一度この小説を終わらせます。
理由としては、仕事と私生活の忙しさが増し、小説を書く余裕がだいぶ少なくなりました。
筆者としては、もう一つの小説『アウトキャスト』に集中したく思い、この様な決断に至りました。
これまで読んで来て下さった皆様には大変申し訳ありませんが、この小説は少年時代編で終了となります。続編を書くかは、まず『アウトキャスト』を書き終えて、その後の仕事の状況などによります。
お待ち下さいとは申しません。数年後、何らかの偶然で続編が見つかった時、どうしようも無く暇な時にお読み下されば幸い、と存じます。よろしければ、終了までもうしばらくお付き合い下さい。




