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第32話 襲来! 蛮族の軍勢来る!! 後編

前回のあらすじ:卒業遠征の途上、エウロの町に滞在していた翔達は数年前に取り逃がしたボーグダインを発見したが、辛くも逃げられてしまう。その夜、ボーグダインを探そうとしていた中、『蛮族』の軍勢がエウロの町を襲撃する。翔達は捜索を諦め蛮族に対処しようとするが、タイミングを逸して騎士団との戦闘に介入できずにいた。せめて町の治安維持を行おうと活動している時、翔はディメンジョンマンの姿で高等学校の先輩を助ける。そして、迂闊な一言によって自分の正体をばらしてしまうのだった。

 唐突であるが、猫人マオレン族の五感は鋭い。獣の形質を備えている為か動物に近い鋭敏な感覚を有し、特に視覚において秀でている。

 また猫人族の集落では独特な呪術が発達しており、世界に流れる『気』を読み取り操る『陰陽術インヤン・マジック』と呼ばれる秘術が存在している。



 猫人族リンイー・ムーランはその陰陽術をそこそこ修めていた。それが事の始まり。



「……怪しいニャ……」



 私は瞳孔を細め、射抜くような視線をフィアルに向けていた。

 幼年学校の生徒は出動待機の命令を受け、いつでも動ける状態で宿のロビーで待っていた。皆は初めての実戦を前に、歩き回ったり逆に座り込んだりして不安と戦っている。痛ましいニャ。


 だけど、私はそんな事より大事なことがあった。壁にもたれ掛かり、隣のニコルと会話している超怪しい友人が気になってしょうがなかったのニャ。


「……あぁ、ちくしょう。この待つ時間はたまらないぜ! フィアルは結構落ち着いてるよな」


「ウン、ソウダネ」


「やっぱり、親父さんが騎士だと肝が据わるのかな。へへっ……商売人の息子じゃ、元から役者が不足だったか」


「ソンナ事ナイヨ」


「そうか? 気を遣ってくれてありがとよ親友。気遣いが上手いだけに、この緊張も気の持ちようってか?」


「ソレナ」




「やっぱりどうにも変ニャ……」


 一見、フィアルとニコルの会話はいつもの通りに聞こえるし、他の皆は気にも留めていない。だけど私の耳にはいつもより明らかに声が平坦で、内容も乏しく聞こえる。それに全然ニコルと顔を合わせようともしてないし、表情が全然動かない。


 なのに、何故皆が気にしないのかが分からないニャ。


「リンさん、どうしたの?」


 じっとフィアル君を見続けていたら、別の方向からサラ君が声をかけて来た。相変わらず嫉妬しそうなほど可愛らしい顔に、ちょっと警戒の色が見える。


「サラ……フィアルの様子、おかしくないかニャ?」


「おかしい、ってどういう事?」


 あれれ? 幼い頃からの付き合いのサラですら、やっぱりフィアルの様子に気付いてないのかニャ。むしろ失礼な事言ったせいか、こっちを睨むように目が細まった気がするニャ。


「いつもと口調が違うし、受け答えも固いし……」


「それは出動前の緊張のせいじゃないかな? ね、リーザ?」


「そうね」


 サラの後ろに居たリーザも同意する。でもなーんだか表情が固いのが気になるニャ。誰からも同意を得られない苛立ちを募らせていると、班長のアンドレイさんがそっと声をかけてきた。


「リン、フィアルの様子がおかしいとはどういう事だい? もしフィアルの心身に不調があるなら、今の内に把握しておきたい」


「……口調や表情だけじゃ無いニャ。まるで作り物の仮面が着ぐるみでも着ているみたいな違和感があるニャ」


「どうして分かるんだい?」


 私は細まった自分の瞳孔を爪の先で指差す。


「私は『陰陽術インヤン・マジック』という猫人マオレン族に伝わる秘術を使えるニャ。この術は世界に満ちる『気』を読み取る力があるニャ」


「フィアルは、その『気』が乱れている、あるいはいつもと違うと?」


 私は首を横に振る。


整い過ぎてる・・・・・・ニャ。異常事態の真っ最中なのに、いつもと全く変わらない気の状態を保ってるニャ。まるで、整った『気』で自分を包んでるみたいに……」


 後ろで軽く息を呑む音が聞こえた気がするけど、アンドレイさんが顔を近づけて来たので振り返ることは出来なかった。

 アンドレイさんはいつもの柔和な顔を厳しく引き締めて、フィアルの方を盗み見ながら囁きかけて来る。


「……仮にそうだとして、では今のフィアルはどういう状態と考えられる?」


「誰かに操られているか、もしくは誰かが化けているか……」


 アンドレイさんの眉間に皺が増える。彼はより一層声を潜めて質問してくる。


「その状態を解除できるか?」


「難しいけど……やってみるニャ」


 私は懐から数枚の御札を取り出す。故郷の陰陽術の師匠から貰った強力な破魔札、これなら魔法の幻術なんかでも吹き飛ばせるニャ。


「よし、僕は念のためトリスタン先生に報告してくる。先生を連れてくるから、僕が合図したらやってくれ」


「分かったニャ」


 アンドレイさんが足早に立ち去った後、私は獲物を狙う虎のように静かに注意深くフィアルを見つめていた。


 だから、サラとリーザが姿を消していた事には全く気付かなかったニャ……。



 ◆



「え、身代わりがバレそう?」


 僕は突如入って来た通信に内心驚きつつも、それどころじゃない状態に生返事しか返せない。


「ごめん! 今とっても忙しいから、レオンティンに連絡して。切るよ」


 まだ何か言おうとするサラの通信を強引に切断して、僕は先を行く先輩の後を追う。


「遅いぞフィアル。俺が居ない事が完全にばれる前に戻る必要があるんだ。急げ」


 反響するお叱りの言葉が耳にうるさく響く。


 僕ことフィアルと高等学校のデルキウス先輩は、町の外へ通じるという地下通路を通っていた。

 昔このエウロの町が貴族領の本拠地だった事があるらしく、その時建造された貴族用の脱出口らしい。今は隠されて封鎖されていたが、頑丈に造られた通路は長年の風化にも負けずにちゃんと外まで続いているようだった。


 なお、入り口を隠していた石碑をどけて鉄製の扉を破ったのは僕です。本当は数人がかりで岩をどけて、町の領主が持つ鍵で開けるのが正解らしい。


「しかし、只者でないとは思っていたがお前が首都を騒がせていた赤い怪人だったとはな。灯台下暗しとはこの事か」


 魔法の照明具で前を照らして歩きつつ、デルキウス先輩はいたく上機嫌に話しかけてこられる。でも僕はいつまた無茶振りされるか気が気じゃ無い。

 でも気になる事が聞こえてきたので恐る恐る質問する。


「あ、あの~……僕のことを前々から探しておられたので?」


「ああそうだ。お前と『マジカル★ルナティクス』、そして包帯だらけの少年もな。……そうだ、後でその二人についても吐いてもらうぞ」


 げ、乱と勇のことも狙ってたのか。しかもその事まで僕に尋問する気満々らしい。


「なぜ僕らの事を探してたんですか?」


「お前達の目的は知らんが、過去の行動は結果的に王都の治安に多大な貢献をしていた。名乗り出れば勲章の三つ四つは授与されようし、上手くいけば爵位授与の可能性すらあった。それらを敢えて望まず、事件を解決すれば速やかに姿を消した。それに興味を持ったからだ」


 まあヒーローですしおすし。基本、僕らの活動は非営利ボランティアなんです。お約束的に。


「無論、その戦闘力が興味の最たるところだがな。さっきロッキー達を打ち倒した手際も実に見事だったぞ」


「あっ!? 先輩方が遠征中に襲いかかって来たのって、もしかしてデルキウス先輩の差し金ですか!」


 僕が大声を上げると、先輩は足を止めてくるりと振り返る。そしてやたらと怖い顔をして注意してきた。



「俺の名前は、二人っきりの時以外は『ジョルジュ』と呼べ。いいな?」


「ア、ハイ」



 彫りの深い端整な顔立ちに凄まれると片言でしか返事出来なかった。ちょっと殺気すら感じたぞ。


 先輩はまた歩き始めたので僕も慌てて後を追う。先輩は早足で歩きながらまた話しかけて来た。


「俺からも聞きたいことがある。魚人の時と言い、お前の身体能力と戦いのセンスは目を見張るものがある。誰に師事を受けた? それともその赤い装束の効果か?」


「えーと、師匠はいません。確かにこのスーツの効果もあるけど……って、魚人の時から見てたんですか!?」


「その前から気には成っていたのだ。魔獣退治で有名な騎士ロイの義理の息子で、剣の腕はからっきしだが妙に戦い方が上手い下級生が居る、とな」


「うへぁ……」


「剣の腕について言われるのが嫌か? 気にするな。俺は剣の腕のみで評価することはせん」


 自分の不甲斐無い噂にげんなりしているとすかさずフォローされてしまった。やだっ、ちょっとときめいてしまう。

 などと思いつつ、僕はこっそりと乱と勇に今の状況を大まかに記したメールを送信しておく。


「むっ?」


「ふぁっ!? ど、どうかされましたか?」


 先輩が急に足を止めたので思わず裏返った声を上げてしまう。だが先輩はメール送信に気付いたわけでなく、通路横の窪みに注意を向けていた。

 窪みの天井は上に続いて穴が開いていて梯子が掛かっている。上の方からは小さくざわめきが聞こえてきている。そして窪みの壁にはかすれた番号と名前が彫ってあった。


「ここだ。町のすぐ外の森にある洞窟に繋がっているはず。フィアル、見て来い」


「は、は~~い」


 こそこそしていた事を気取られないよう、なるたけ従順に振舞う。位置をずらした先輩と入れ替わるように僕は窪みに身を滑り込ませ、いそいそと梯子を上がっていく。


 梯子を上った先は少し開けた空間になっていたが、どこにも出口らしき場所はない。だが一方の壁から喧騒が聞こえて来たことから、そちらが出口と推測する。

 僕はスーツのセンサーを使って壁を調べ、スライド式ドアだった事に気付く。壁のくぼみに手を掛け、力をかけると割とあっさり壁が移動した。


 隙間からは夜の空気と、先程より大きくなった戦いの音が聞こえてくる。

 壁の隙間から外を伺うと、そこはほこらのようで何かの神様の祭壇らしき場所があり、その先に出口があった。外は木々に隠れて戦いの様子は見えないが、蛮族の姿も無かった。


「ご苦労、入り口を開けたか」


「先輩、まだ安全の確認が終わってないので下がっててください」


 壁をスライドする音に気付いたのか、デル…ジョルジュ先輩がさっさと登って来ていた。

 先輩は僕と同じく壁の陰から外を伺っていたが、さっさと祠まで移動してしまう。


「ちょ、先輩!?」


「静かにしろ。……付いて来い」


 先輩は警告しつつ祠の外に出て僕を手招く。スーツの赤外線センサーや動態センサーから周囲に蛮族は居ないと結果も出たので、僕はなるたけ静かに素早く先輩に続く。


 祠の外は高台になっていて、高い木々に囲まれて視界は通らない。だが少し移動したら、木々の合間から攻撃を受ける『エウロ』の街が見る事ができた。


「ふむ……思ったより悪い状況ではないな」


「そうですね」



 戦いは防衛側の一方的な展開になっていた。



 やってることは防壁の上からただ矢を撃っているだけなのだが、蛮族の数がどんどん減っている。それもそのはず、蛮族は盾を持った個体が殆ど居らず、しかも扱い慣れてないのか体の大部分を晒して構えている。


 だが最も被害を拡大させているのは……


「……『蛮族あいつら』……何がしたいんだ?」


「さあ……?」



 蛮族は、一切の攻城兵器を持っていなかった。


 城壁を壊す投石器などは勿論無い。呆れるのは城壁に掛ける長梯子すら用意していないみたいなのだ。

 その為、弓を持った蛮族が騎士を牽制しつつ他の蛮族が防壁の下に土を盛って足場を確保しようとしているが、遅々として進まず逆に被害が拡大している。

 しかも蛮族側の矢は弓の力が弱いのか扱いが下手なのか、殆ど城壁の上に届いていない。


 まさしく、ド素人の攻城戦だった。


 だが気になるのは、そんな命を無駄に捨てるような戦い方を淡々と行う蛮族の姿だ。やられ放題にも関わらず、全く士気が衰える様子が無く戦い続けている。まるでロボットのようだ。


 ジョルジュ先輩もそれが気に成っているのか、戦いの様子よりむしろ蛮族の様子をじっと観察している。そしておもむろに蛮族の方を指差す。


「フィアル、蛮族を一名捕虜にして来い」


「うええええ!?」


 何を言い出すんだこの人は!? 驚愕に呻いてしまった僕の頭を、ジョルジュ先輩は軽く叩く。



 そして手を押さえて舌打ちした。


「ちっ…なんだこの硬さは!? どうみても金属には見えんのに……」


「す、すいません……」


 何となく謝ってしまう僕。宇宙人の技術で造られた未知の物質で出来てるからなぁ。銃弾くらいなら傷すら残さず弾いちゃうし。


 ひとしきり手を押さえていたジョルジュ先輩は、だが妙に真剣な顔になって僕の、正確には僕のヒーロースーツを撫で始める。


「今まで珍妙な外見に騙されていたが、なんだこの素材は? 金属? 布? いや見た事も無いぞ。誰が造った?」


「えーと、存じません」


 本気で知らないし、宇宙人の説明をしても信じて貰える気がしない。ジョルジュ先輩は不満そうだったが、とりあえず元の目的を思い出したように身を起こす。


「まあいい。さっさと蛮族を捕まえて来い」


「そうすると先輩の身の安全が……」


「俺は祠に隠れている。壁を元に戻しておけば、最悪街まで戻ることは可能だからな」


 それもそうか。納得してしまった雰囲気が伝わったのか、先輩の顔が意地悪い笑みの形に歪む。



「分かったらさっさと行け。言っておくが、この機に乗じて逃げたら一族郎党に累が及ぶと思え」


「しょ、承知しました」



 僕は敬礼を先輩に送ると、大急ぎで高台を下って森を駆け始めた。その道中、ふと、ごく当たり前の疑問に思い至った。



「先輩って……何者?」



 ◆◆



 先輩と離れたことでこれ幸いと、別行動中の仲間二人に連絡を取る。通信画面を開いて待っていると、乱だけ通じた。


「すまん、ちょっと面倒な事になった」


「こっちも面倒な事になったよ。翔の身代わり護符が、何故か知らないけど君の班の猫娘さんに怪しまれたって」


 あ、さっきサラが通信で言ってた奴か。でも僕ではどうしようも無いんだよね。


「あ~…どうなったの?」


「今は勇が対処中。件の猫娘さんが妙な術の使い手らしくて、術が無効化されそうとか悲鳴上げてる」


「やばいやん」


 思わず語尾が変になってしまう。すると乱は何かの呪文を唱えて始め、


「『マジカル★ドリームナイト』!」


 キャピキャピな声色で魔法を完成させる。通信機の向こうから、原色の虹が見えそうな『シャラーンッ!』とも『ポワワーン!』ともつかない曰く言い難い効果音も聞こえてくる。


「……とりあえず、宿の皆を催眠状態にしといたよ。後はどうしようかなぁ……今のところ市民の避難誘導は無さそうだけど」


「ああ。防衛線がかなり優勢だからね。下手すればこのまま何事もなく終わるかもよ」


「え、そんなに?」


「マジか!? 俺の出番が…!!」


 事態が落ち着いたのか勇も通信に入って来る。まだ拘ってたのか。


「映像を後で送るね。それよりもこっちがエライ事になってるんだよ」


「正体がばれたって? 前々から俺らの事を探してたって……何者だよ?」


「それが分からないんだ。高等学校の先輩なんだけど、名前がデルキウス……あっ!」


 いかん、口止めされてたのについ喋ってしまった。


「すまん、今の名前は聞かなかった事にしてくれ。普段はジョルジュ先輩と呼ぶように言われてたんだ」


「……デルキウス……?」


 急いで訂正していると、乱がぽつりと名前を繰り返した。その様子が普段と違っていたからか、勇が反応した。


「どうした? 知り合いか?」


 勇から声をかけられても、乱はしばらく反応しなかった。そしてしばらく黙した後、返したのは溜息を一つだった。


「ふう……いいえ、何でもないわ。どこかで聞いた気がしただけ」


「そうか。でもどうするよ? 玄衛門から『黒歴史ライト』借りるか?」


「それは最終手段だな。先輩の正体を突き止めないと、後々また同じ事が繰り返されるかも知れない」


「その意見に賛成。こっちで手伝えることはある?」


 しばし思考して、とりあえずの指針を決定する。


「一旦集合しようか。先輩は二人の事も探してたいみたいだし、三人揃えば目的や正体に繋がる何かを教えてくれるかも知れない」


「宿の皆はどうするよ? サラとリーザは起きてるけど、他は夢現ゆめうつつ状態だぜ?」


「んん~~~……玄衛門さんと義影に何とかして貰おう」


 改めて人手不足を感じる今日この頃、ヒーローギルドは常に人材を募集しております。


 などと脳内で冗談吹いてたら、センサーに感があった。


「僕は今から蛮族を捕虜にしてくる。二人は今から送る座標に集合しておいてくれ」


「分かった、玄衛門と義影にはこっちから連絡しておく」


「気をつけて」


 僕は通信を切ると、近くの木の陰に身を寄せる。前方の木々の合間に、十名程の蛮族の集団がエウロの町へ向けて進んでいた。



「楽勝だな」



 勝手知ったる何とやら。これ位の数の集団戦は数え飽きるほど繰り返してきた。

 僕は木陰からするりと身を出すと蛮族の集団へ向けて跳躍した。


 無警戒に進んでいた蛮族達の頭上から、まず先頭にいた蛮族へと飛び蹴りをかます。



「ディメンジョン・キーーーック!」



 某ライダー風味に蹴りかかってみた。後頭部を蹴り飛ばされた蛮族は前方へと吹き飛び、二、三回バウンドして沈黙する。


 すぐさま後ろに振り返ると、残りの蛮族達は浮き足立つ様子もなく手に持った武器を構えていた。


「あれ?」


 僕が先頭の蛮族を狙ったのには理由がある。この蛮族だけが他の蛮族よりいい装備をしていたからだ。剣と鎧を身に着け先頭を歩くならば恐らくリーダー格だろうと踏んだのだが、当てが外れたか?


 一番近くに居た蛮族が棍棒を振り上げて殴りかかってくるが、実にお粗末な動きだ。


「ほいっ」


 軽くかわして横っ腹に一撃を入れる。

 続けて飛び掛ってくる蛮族の腕を取って地面へ背負い投げ、左右から回り込んで掴みかかる者達には拳と蹴りを腹に打ち込んで倒す。

 直後にヒュンッと飛来する音に向けて無意識に手を伸ばすと、人差し指と中指の間で木の矢がぽきりと折れる感触がした。


「あちゃぁ…投げ返してみたかったのに」


 漫画のようにはうまくいかないものだ。矢を撃たれる機会なんて滅多に無いだろうに。

 そんな馬鹿みたいなことを考えながら、弓に矢をつがえ様としていた蛮族へ向けてお仲間の棍棒を投げつけておく。ちょっと力が入り過ぎてボウリングの球がピンに当たった時のような音がしていた。


 ここまで一方的な戦いになっているのに、残った蛮族達は果敢に攻めてくる。その無機質な有様に、さすがの僕も薄ら寒いものを感じはじめていた。


 結局、全員叩きのめすまで蛮族達の抵抗は終わらなかった。



「ふぅ……」



 戦いが終わった後には妙に疲れた気分になっていた。森の中は大量殺人事件ならぬ大量殺モフ事件とよべそうな具合に、毛だるま蛮族がそこら中に倒れ伏していた。


「さて、適当に一体縛り上げて連れて行けばいいんだが……その前に、朱美さん」


『何?』


 ヘルメットを通してバイクのAIである朱美さんに呼びかける。僕はヘルメットの動作を解析モードに切り替えて、目の前の蛮族のデータを収集し始める。


「今送ってるデータを分析しておいて欲しいんだ。この『蛮族』が何なのか、僕も気になってきたからね」


『勿論いいよ! ……で、ご褒美は?』


 ううん、流石に放置し過ぎて少々ご機嫌斜めのようだ。


「今度ツーリングしようか。……二人で」


『私、超頑張る』


 俄然やる気が出てきたのか、短い返事の後は通信すら切って分析を始めてくれたようだ。ハイテンションになって音速超えそうな速度出さないよう、ツーリング前に釘刺しとこう。


 僕は片方の肩に蛮族を、もう片方に心の重荷を担いで、先輩の元へと戻ったのだった。



 ◆◆◆



 蛮族を抱えて高台に戻ると、早いもので勇とルナティクスが既に到着していた。


「よお、遅かったな」


「ちょっと蛮族を捕まえた後に野暮用をね。街は……まだ大丈夫そうだな」


 高台から改めて戦況を見ると、さっきと余り状況は変わっていなかった。しかし蛮族の数は結構減っているのか、所々虫食いのように戦場に穴が開いている。


「あの勢いなら放っておいても良かったかもな。たくっ義影の奴、大げさに騒ぎやがって」


「万が一の可能性はあったし、早めに情報を貰えたのはやっぱり有り難いよ。あと別に騒いで無かった気はする」


 義影自身も蛮族の事はよく分かってなかったみたいだし、千単位の蛮族が来たら騎士団でも危ないと考えたのも頷ける話だ。


 だけど蛮族の戦術的拙さだけはどうにも解せないなぁ。僕は肩の上でぐったりしている蛮族を抱えなおして祠へ向かう。僕に続いて二人も付いてくる中、ルナティクスが興味を示したように近付いて来た。


「ふうん……結構可愛い見た目してるね。その毛の中身ってどうなってるの?」


「うん? そう言えば見てないな。顔とかどんなになってるんだろ」


 見た目上は毛玉から手足が生えてるだけだからな。鎧を着てる奴の格好から想像すると、頭はあるみたいだったが……。


「ちょっと見ておこうか」


「お、なんだなんだ。面白そうなことしてるな」


 僕が徐に蛮族を地面に下ろすと、ルナティクスに続いて勇も寄って来る。蛮族の正面から毛を掻き分けていくと、上の方に、長い毛に隠れているが毛の無い部分が見つかった。


 その部分の毛を左右に分けると……つぶらな瞳が出迎えた。


「うえっ!?」


「落ち着け、翔。気絶してるよ」


 びっくりして後退りかけたが蛮族が動く気配はなく、早とちりに顔が熱くなる。その間もルナティクスは興味深々と蛮族の顔を眺めている。


「へえ、綺麗な緑色の目ね。小粒の翠玉エメラルドが付いてるみたい」


 蛮族の目は白目が無く、本当に緑色の粒が二つ付いているだけのようだった。その間には大きな鼻があって、その更に下には……。


「! これは……」


「あん? ……げっ!?」


 ルナティクスの動揺に続き、勇も意表を突かれたように声を上げる。声は出さなかったが、僕も同じ様に驚いていた。




 蛮族の顔には、口が無かった。





「随分遅いと思ったら、面白そうな事をしているな」



「うひゃあ!?」「うおっ!」「きゃっ!」



 祠の方から急に声を掛けられ、不意をうたれた僕らは悲鳴を上げる。


 皮肉気な笑みを浮かべたジョルジュ先輩が祠の入り口に立っていた。


「な、なんだ先輩ですか。驚かさないで下さいよ」


「わざわざ祠の前で立ち止まって蛮族の観察を始めおって……嫌がらせか? 不敬罪という語句を調べておいた方がいいぞ」


 そう言うと先輩は大股でこちらに歩いてくると、腰を下ろして蛮族を調べ始める。その様子は真剣そのもので、些細な情報も見逃すまいと鬼気迫る勢いだった。


「ふむ……肉の付き方はかなり絞まっているな。近接戦ならば単純な棍棒でも十分人間を殺せそうだ。この毛は厄介だな、武器が絡むと引き剥がすのに苦労しそうだ。弓か魔法を主体に戦うか、予備武器を用意して……」


 ぶつぶつと蛮族の状態から戦いに関する戦術を述べ始める先輩に対し、僕らはただ黙ってそれを見守るしかない。


 一頻ひとしきり調べ終えると、漸く先輩は立ち上がって僕らの方に顔を向けた。


「ご苦労だったなフィアル。次はお前の仲間達を俺に紹介しろ」


 おっと遂に来ました。傲岸不遜な物言いに勇が顔をしかめるのが気配だけで分かる。でも今はまだ大人しく従っておこう。


「えー、こちらがレオン・タイマンです。戦神バセムの信徒で王都の教会で神官見習いをしています」


「ほう! という事は包帯だらけの少年はお前だな。お前がアンデットの類を容易に浄化しているとの報告は聞いている」


「どうも……」


 勇は言葉少なに頭を下げるだけだ。どうにも先輩の態度に反発しているらしい。だが先輩はそんな勇を好ましく思っているのか、先ほどより上機嫌になっている。


「戦神バセムに仕えるだけあって、中々反骨心のある男じゃないか。フィアルの様に唯々諾々と従うだけより面白みがある」


 なんだとー!? 悔しい、でも事実だから何も言い返せない!

 乱れる心のままにビクンビクンしそうな体を何とか押さえ込み、もう一人の人物を紹介しようと顔を動かす。


「では、こちらが王都でも有名な魔法使い『マジカル★ルナティクス』さんです…どしたん?」


 目の前では世にも珍しい固まるルナティクスが居た。ポーズを決めるわけでもなく、ただ漠然とした何かを必死に思い出そうとして額に汗すら浮かべて難しい顔をしていた。


 その姿に勇も先輩も不思議そうに彼女を見つめていた。


「どうした?」


 先輩が声を掛けると、ルナティクスはビクンと電気でも流れたように体を跳ねさせ、慌てた様子で身繕いするとスカートの端をつまみ上げて上品に一礼した。


「これはお見苦しいところをお見せしました。私は『マジカル★ルナティクス』、月夜に踊りて悪を討つ魔法少女とは私の事。貴方もピンチになったら月へ向けて私の名前を呼んでね♪」


 最後にウィンクしつつ扇情的なポーズを決めるルナティクス。魔法少女らしいハイテンションを維持しないと変身が解けるとはいえ、元の姿を知っている身としては少し痛々しい。


 勇も思わず目を背けて哀れみの視線を隠し、先輩は先輩で見た事も無いであろう特異なキャラに困惑していた。


「そ、そうか。昼間は出来るだけ危機に陥らぬようにしよう。……さて、お前達に聞きたい事がある」


 先輩は改まって姿勢を正すと、裁判官か審問官のように僕らを見下ろして口を開いた。



「お前達の目的は何だ?」



「人助けです」「ボランティアで悪党退治」「魔法の力で世直しよ!☆」



 ああんっ!? ここに来て見事に主張がバラバラに!


 ヒーローギルドの理念とか書いた看板を作って置いておこうかな。ああいう物の重要性をこんな所で知る事になろうとは……。


 ちょっと落ち込んでしまったが、先輩は厳しい表情を崩さず僕らを見下ろしたままだ。

 黙って僕らに視線を注いでいた先輩はしばらくしてもう一度口を開けた。



「真か?」



「「………」」


「えーと……少なくとも、平和を尊び悪を憎むことは、僕らに共通する心だと信じてます」


 仲間二人の視線に晒されて、リーダーらしく代表して答える。満足してくれたのかうんうんと頷く気配を感じる。


「名誉も報酬も求めず、か?」


 それでも先輩は納得してくれず重ねて詰問してくる。……そこの間違いは正しておこう。



「報酬なら貰ってます」


「何? 誰からだ」


「助けた人達、悪の組織を排除した町、事故を未然に防いだ時の関係者、とか」


「金銭を受け取っていたのか?」



 僕は首を横に振る。



「人々の笑顔、平穏な日常風景、助かって安堵した表情」



 それが僕らの報酬だ。かけがえの無い、ともすれば容易に崩れ去る理想郷の光景。


「そんなものが命を賭けるに足る報酬だと? 変態か」


 胸を張って応えよう。



「はい。僕らは平和に快感を覚える変態です」




「あ、一緒にしないでくれます?」


 即行で仲間に裏切られた。


レオン~~? リーダーの意見に異議があるんかコラ?」


「ちょ、こっちに寄らないでくれますリーダー? 変態が移るんで。僕はもっとスマートな理由で戦っているんで」


「言ってみろよ」


「助けた人達からの賞賛と、美人のチャンねー達からのラブコールが俺の燃料だ!!」


「やだっ、変態二号機じゃない……。私はただ悪い子達におしおきして、平和を取り戻すのが好きなだけよ」


 あ、くそっ。ルナティクスまで裏切りやがった。さっきまで共有してた仲間意識が急速にしぼんで来た。


 はたと現状に気付いて、恐る恐る先輩を見上げる。僕らの醜い言い争いを見ていた先輩の心中は如何なものに変わったのだろうか?



 ……なんか、今にも決壊しそうなダムみたいになっていた。



「くっ」


 水漏れの音が聞こえる。


「くっ……はーーーはっはっはっは!! そうか、本気でそう思っていたのか!!」


 愉快痛快と先輩は森中に響き渡りそうな声で大笑いしている。すると、僕ら三人はほぼ同時に異変に気付いた。


「森がざわめいている?」


「センサーに感あり……蛮族だ! 結構な数がいるぞ」


「こっちに近付いているわ!」


 まだ森に潜んでいた連中がいたのか、先輩の声に惹かれるようにこっちに進路を取ってぞくぞくと集まって来ているみたいだ。


 だが先輩はまだヒーヒーとお腹を押さえて笑いの園から帰って来ていないようだった。


「先輩!」


「ちょ、ちょっと待て……ハハッ、ああ、可笑しい……」


 緊張を高めるこちらに対して、先輩は漸く笑いが収まってきたようだった。目の縁に涙を浮かべて他は満面に至りそうな笑みを保ったまま、先輩は森を指差す。



「気に入った、お前らまとめて俺が面倒みてやろう。だが、まずはこちらに来ている蛮族ども討伐しろ」



「偉そうに、何様のつもりだよ!? やるけど!!」


 勇はついにキレたのか、先輩を罵倒しつつ『阿修羅』モード変身の為の呪文詠唱に入る。

 そこで先輩はふと、忘れていた事を思い出したように手を叩いた。



「そうだったな、部下にするならば俺のことも明かしておかねばいかんな」



「先輩、後にして下さい! とりあえず祠に避難を!!」


 蛮族がもう高台の麓まで来ているのが分かる。僕ら三人が臨戦態勢を取る中、先輩は一歩も動かず踏ん反り返る。


「お前達の働きぶりを見ずにおれるか。優秀な手駒の初舞台だ、精々楽しませてもらう」


「だから何様のつもりだよ!?」


 勇の罵声と高台を駆け上がってくる蛮族の足音が耳に響く中、いやに耳に通る威厳のある声が後ろから聞こえてきた。





「俺か? 俺はな……デルキウス・『シルツ』・ロンバルディア・キルディス。キルディス王国第二王子、様だ」





「あ、それだ」


 ルナティクスが胸のつかえが取れたように、先輩の言葉に納得していた。



 俺様一直線の先輩は、王子様だったらしい。


 迫り来る蛮族から顔を背け、大口を開けながら僕と勇は先輩の得意満面な笑顔を眺めていた。


遅くなって大変~~~~申し訳ありませんでした! ちょっと仕事やら何やらで精神的に書く余裕が無く、投稿が大分遅くなってしまいました。これからはもう少し早く出来るよう努力します。(何回目だっけ)

ただ、次回は『アウトキャスト』を書きますので、『ヒーロー』はまたしばらくお休みです。お待ち下さい。

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