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第28話 邂逅! 異なる仲間と試練の未来!!

前回のあらすじ:学友ニコルの実家の商売が傾き、学費が払えなくなった彼は退学の危機に直面していた。ヒーロー達はその危機の裏に、『ヤマト総合商社』という商家の影を見る。その商家が新しく作った大型の雑貨屋に潜入したヒーロー達が発見したのは、ギャグアイテムとエプロンに身を包んだ変人忍者だった! 彼の導きにより大金を入手したフィアルだったが、忍者の真意までは掴みかねていた。

そして、ヒーロー達は『ヤマト総合商社』に直接乗り込むことを決意したのだった……。

 空の頂点に真円の月が座す夜。王都の商業区にある大店『ヤマト総合商社』の屋上は静かだった。その静寂を破らぬよう、ヒーローギルドのメンバー四人と一缶は音を立てないように空から舞い降り、着地した。


「凄いね、ルナティクスさん。身隠しの魔法と飛行の魔法を一辺に使えるなんて」


「お褒め頂きありがとサラ君。でもそれ以上の賞賛はまた後でね……翔?」


「……こっちのセンサーでは屋内に人の気配は無いな」


「こっちも引っ掛からないっス」


 姿を消したまま、ひそひそと声を交わして状況確認をする。玄衛門さんも僕のスーツのセンサーも、『ヤマト総合商社』の建物内に誰もいないと結論付けた。


「なんだよ、貴重な睡眠時間削って折角来たのに人っ子一人いないのか? 騙しやがって……お肌の調子が悪くなったらどうすんだ!」


「勇の肌事情なんて知らないよ。でも、手紙では今晩って指定されてたのに……」


 もしかしてあの忍者が何か仕組んでいたのか……? そんな疑念が頭をもたげかけていると、一陣の風が僕らの間を通り抜ける。


 ヘルメットで守られた僕と玄衛門さん以外は一瞬目を伏せて風塵から目を守る。だが僕はその風の中にほんの僅かな人影を見つけた。



「誰だ!?」



「出迎え遅れてすまんな。まさか屋上から来るとは思って居なくて、下で待機していたんだ」



 気配を追って顔を向けると、いつの間にか真正面に見覚えのある忍者が腕を組んで立っていた。今日はエプロンと鼻眼鏡は付けておらず、鉢金と覆面の間から鋭い目が覗いている。


 言われてみれば、普通下から訪問すると思うだろうな。そのせいで機嫌が悪いのかと思っていたら…鋭かった視線もすぐに柔らかくなり、彼はゆっくりと両手を広げた。



「歓迎しよう、モトの同胞達よ。俺の名前は百地ももち義影よしかげだ。義影でいい。故郷のあざなでは『黒刃クロバ』とも呼ばれていた。我が拠点、『ヤマト総合商社』へようこそ」



「ヒノモト…?」



 サラが首を捻っていると、義影は軽く手を振って気にするなとアピールする。


「ああ、君は同胞では無いから分からんだろうな。そこまで大した事じゃ無いから忘れてくれ」


 サラは何か言いたそうだったが、大人しく頷く。さて、それじゃあ……。



「早速だけど、ニコルの実家の商売を邪魔した理由と、あの賞金の意図を教えて貰おうか?」



「待て待て、そう急くな。まだこちらのかしらが来てないんだから」



 僕の質問はのっけから躓いてしまった。


「え、もしかしてまだ居るの? 君だけじゃなくて……二人!?」


「居るともさ。『ヒーロー』と言えるかは定かでないがな……俺も含めて」


 義影は覆面の下で薄く笑いながら、屋上の隅にある出入り口に視線を向ける。ヒーローでない? という言葉に疑念が浮かび上がると同時、センサーが出入り口付近からの振動を検知する。


 思いのほかゆっくりと開いた扉の先には、身なりのいい黒髪・・の少年がいた。ぼさぼさ、と言うより元々天然パーマなのか、波立つ黒髪の下には不思議と目を引く垂れ目が見えた。



「はー…はー…はー…。ちょ、ちょっと待ってね。急いで階段駆け上がってきたから、息切れが……」


「あ、どうもすいません…。人目を避けてたら、空から来ちゃって…」



 扉からよろよろと歩み出て来た少年は、荒い息を吐きながら僕らに掌を向けてきた。うん、本当にごめんね。

 しばらくして少年は一度大きく息を吸い込み、吐き出した。それで息を整えたのか、次に発した言葉はとても明瞭に響いた。



「初めまして、ヒーローギルドの皆さん。僕は彼山かやま金市かねいち。こっちの世界ではヤン・スクナで通ってる。元の世界では世界最年少の、そして世界でも五本の指に入る相場師として名を馳せた『流れを知る者ストリーム・ワイズマン』だ」










「中二臭いな」



 言ってはいけない事を、勇がぼそりと呟いてしまった。


「…っ!? 『アスラ』とか名乗ってる聖職者さんにそう言われると、とても情けない気分になるね」


「おまっ!? 別に『アスラ』はいいだろーが! 下手に英語とか使う方が陳腐だろ!!」


「それ僕に飛び火してるだろーが! 悪かったな、『ディメンジョンマン』なんて名乗ってよ!?」


「『マジカル★ルナティクス』なんて名乗ってごめんねー。そーね、安易に英語使っちゃダメよねー」


 僕とルナティクス双方から険悪な雰囲気で睨みつけられ、さしもの勇も形成不利とみなしたのか、火消しに走る。


「ま、待てよ親友。お前らのはいいさ、分かり易いしな。語感と姿形で何となく分かる。でもあいつ格好からしてちょっと裕福な一般人じゃん!? そんな奴が『ストリーム・ワイズマン』とか名乗っても痛いだけだろ?」



「義影、やっぱりあいつらとは仲良くできないかも」


「すまんが、俺は微妙にあの小僧と意見が一致してる。その二つ名は少し考え直した方がいいと思うぞ」



 あっちはあっちで仲間割れしていた。愕然とした金市さんを哀れむように義影が見下ろしていた。



「……結局、何しに来たんだっけ……?」



 その後もぎゃーすか言い争いをしていた僕らを止めたのは、蚊帳の外だったサラの一言だった……。



 ◆



 人気の無いヤマト総合商社の中に招き入れられた僕らは、広めの個室に通されて茶を振舞われていた。


「粗茶だけど、よろしければどうぞ」


「あ、お構いなく……」


「懐かしい和風の挨拶交わしてないで、さっさと本題入らない?」


 僕と金市さんのやり取りに鬱っ気の入った乱が割り込む。ルナティクスの変身を解いたせいで少々機嫌が悪そうだ。


「そうだね。明日も講義があるし。できるだけ手短にやろう」


「望むところだ。僕らも明日は仕事があるしね」


 金市さんはソファーに座り直し僕らを見回す。その後ろに義影さんが静かに佇んでいた。

 僕は逸る心を抑えて一つずつ確認するように質問を始めた。


「まず、二人の出自とか……経歴って聞いていい?」


「ああいいよ。僕からいこうか。僕は元の世界の日本で、十八歳の若さにして巨万の富を築いた投資家、相場師だった。僕の能力は、『人の欲しい物が分かる』事だ。誰が、何を、どれだけ、いつまでに…ってね」


「つまり『需要』が把握できるってこと? 世界規模で?」


「そこまで便利じゃない。制限として、その地の人々の話題やニュースを聞くことが条件だ。遠方の場合でも噂話が聞ければ分かる。多少誤差はでるけどね」


「ネット環境があれば、世界中の株式市場で荒稼ぎできそうだな」


「実際そうしてたね」


 彼は幼い頃から何となく人の望むものが分かる能力で人気を集めていたらしい。宿題をし忘れてきた友人にこっそり答えを教えたり、要領よく家事の手伝いをして母の機嫌を良くしたり。またそんな彼をやっかむ相手には欲しがっていた物を提供して逆に友誼を深めたりと。


 そして高校を卒業する時点でとても大きな人脈を作り上げ、密かに溜めていた資金を元手に投資を繰り返し、会社を興し、あっという間に大企業を取り締まる青年実業家になっていた。



「でもね……いつしか僕は、金儲けの為に争いを作り出したり敵対的な売買行動をする奴らと争うようになっていた」



 どこの世界も変わらないもので、巨大な投資ファンドや財閥、大企業といったものは大金を得る為にえげつない真似をするようだ。

 金市はそんな奴らの『需要』を先読みして、それを妨害していたらしい。


 例えば、外国のある地方に希少な資源が埋まってることを突き止めた企業が、荒くれ者の集団を使ってその地域を襲わせ、土地の値段が安くなったところで買い叩こうとしていた。


 金市さんはそれに先んじてその地域に巨額の投資をして一大観光地にしてしまった。ついでに地方政府にも金を送って治安向上を促した。

 件の採掘企業は、観光地化して地価がうなぎ上りに上昇した上、マスコミの注目も集められたので、密かに動くのが難しいと判断して事業から撤退したそうだ。


 いわゆる『経済型ヒーロー』って事かな? そういうのもあるのか……。



「規模が大きい話だね……」


「その分根回しが凄く大変だったけどね。でも、観光地化した土地の人達が幸せそうに笑ってるの見て、やって良かったと思ったよ」



 照れ臭そうに鼻の下を擦る金市さんの顔は、とても満足そうな笑みに彩られていた。そして彼は笑顔を引っ込め視線を後ろに流す。



「次は俺か? ……大して面白い話でもないぞ」



 そう前置きした義影は淡々と話し始めた。


 彼は日本の裏社会に残っていた忍者一族の一人だった。

 昔、地方豪族だった彼の先祖は傭兵として一族を戦国大名に派遣し財を成した。その稼業は時代が変わっても変化せず、長年培った術を使って歴史の裏側の、それも暗殺や裏工作などの後ろ暗い分野で活躍していた。


 義影はそんな一族の分家筋に生まれた子どもだった。だが秘められた才能は本家の者にも並ぶもの無し、と当時の頭領から褒められるほどだった。


「そのいらん褒め言葉のせいで、本家との確執が生まれたんだがな……」


 あとはお定まり。本家の忍者達から疎まれた義影は罠に嵌められ、任務中に殺されそうになった。そして殺しにかかってきた忍者を全て返り討ちにし、今度は里の裏切り者として指名手配された←ここまでテンプレ。


「テンプレ扱いするな。……三文小説みたいな話なのは認めるが……」


 おっと、思考が顔に出ていたのか義影さんの顔が曇った。軽く頭を下げて謝罪をすると、溜息吐きつつ続きを話してくれた。


「里の忍者に追われながら日本各地を転々としていたんだが、あまりにも執拗な追跡に腹が立ってな。奴らを丸ごと潰す事にしたんだ」


 日本の暗部を担ってきた、ある意味悪の組織である忍者の里。その出身者が逆に故郷の里を滅ぼすことを決意するとは……ダークヒーローものの展開だな。

 その後、義影は里の活動を妨害したり、暗殺対象を救出して助力を得たりして里の力を弱めていったそうだ。


「なあ、義影はどんな忍術が使えるんだ?」


 話の終わりを見計らって、ちょっと鼻を膨らませた勇が声を上げた。確かに、その忍術の内容は気になる。

 期待に目を輝かせる勇に対して、義影は……



「教えるわけないだろう。馬鹿か? シノビが手の内をそう易々と明かすかよ」


「なっ!? けち臭いこと言うなよ、どうせ俺達の能力は調べ尽くしているんだろ!?」



 割と辛辣に、素っ気無く断った。



「落ち着け、勇。少なくとも、身代わりの術は持ってる筈だ。一瞬でどっかから爺さんを持ってきて入れ替わる術を目の前で見た」


「あ? ああ、あれか。少し違うぞ」



 そう言うが早いか、義影は自分の肩の辺りを掴むと、一瞬の内に忍者服を剥ぎ取った。


「な、何かご注文ですかのう……?」


「あの時のお爺さん!?」


 サラが驚き叫ぶ。目の前に居たのは、確かにあの『クロイヌヤマト』で見た店員のお爺さんだった。驚きに固まっていると、お爺さんの姿が掻き消え、影から浮かび上がるように忍者服を着た義影が現れた。


「身代わりじゃなくて『変わり身』の術、な。本気で気付かなかったから逆に驚いたぞ」


 呆れたようにこっちを見下す義影の視線に、僕とサラは赤面して顔を隠す。に、ニンジャ汚い……。


「苛め過ぎるなよ、義影。さて、他に質問は?」


 金市さんが話題を転換してくれたので有り難く乗っかって、僕は本題とも言える内容に移ることにした。



 ◆◆



「じゃあ……何故、金市さんはニコルの実家の商売を邪魔したのかな? だけど、この前の雑貨店ではわざわざ賞金を使って支援してくれもした。正直なところ、君達の行動がよく分からなくて判断に困ってるんだ」



 僕の質問を受けた金市さんはふむ、と息を吐き出すと腕を組みカールしてる前髪をいじる。


「僕の事も呼び捨てでいいよ。最初に誤解を解いておきたいんだが、僕らは最初から君達と敵対するつもりは無い。だがニコル君の実家が被害を受けたのは、僕らの目的の為に必要な事であったのは確かだ」


「……?」


 敵対するつもりは無いが、ニコルの実家が被害を受けたのは予定通りだった?


「それはどういう……まさか、ニコルの実家がよくない取引を……!?」


「あー……そういう事でも無いんだ。順を追って話すよ」


 いきり立ちかける僕を制すと金市は茶を一口含み、つらつらと事情を説明し始めた。



 金市が教えてくれた事は、僕らにとってかなり衝撃の事実だった。


 彼はキルディス王国中に行商人を手配して、各地の産物を扱い幅広く商売を行っていたが、その過程で一つの歪な『需要』の流れに気付いたのだそうだ。



「それは……キルディス王国の国境沿いの貴族領に存在していた。彼らは常に『金』、正確には『資金』を求めていた。その需要に応えていたのが王国中心部の貴族や商人達だった」



 何故国境沿い、つまり王国外縁部の貴族がお金を求めていたのかというと、放蕩などの理由でなくもっと切実なものだった。


 キルディス王国は現在進行形で魔物や蛮族の襲撃を受けている。昔よりは少なくなったが、それでも無視できる規模ではない。

 王国外縁部の貴族達はほぼ常に戦いに晒され戦費が嵩み、魔物の襲撃を受けた村からは税収もままならず財政的に困窮し易い。


 そこに王国中心部の貴族や商人が付け込み、法外な利子で資金の貸付を行うことがあるのだそうだ。

 無論、毎年赤字財政に近い外縁部の貴族達は借金の返済も難しく、家宝の武具や領地での特権を認める、果ては娘を身売り同然で政略結婚させる例も相次いでいるらしい。



 その結果、王国外縁部の貴族達が中心部の貴族を恨み、王家に対しても叛意を抱きかねない状況になっているそうだ。



「つまり……王国内部の経済的な勢力の偏りのせいで、内戦待ったなしの状態だった?」


「僕らが介入する直前で、割と秒読み段階だったかもね」



 青い顔する僕らとは対照的に、金市はけらけらと笑っている。


「随分余裕があるけど、今は大丈夫なの?」


「完全に、とは言い難いけどね。悪質な金貸しについては粗方叩き終わったし、借金の帳消しにも成功している。これでしばらく反乱の火は上がらないだろう」


 ほっと一息つく僕らだったが、またも対照的に金市の顔が引き締まる。


「だけど本質的には何も変わっていない。このまま王国外縁部の負担が増していけば、いずれ崩壊の日は来る。僕らの活動は、飽くまで延命処置に過ぎない」


 やっぱりか……。予想はしてたけど、未来に立ち込める暗雲は払われていないようだ。

 サラも不安げな様子で僕に縋ってくる。


「フィアル……僕らの国は、いつか同じ国の人同士で戦争になるのかな……?」


「そんな事…………させない。絶対にさせるわけにはいかない!」





「お、その意気なら大丈夫そうだねー」



 気合を込めて暗い未来を否定した瞬間、金市の顔が緩んだ。



「え? 大丈夫って……何が?」


「さっきの問題の解決策は、実は既にあるのさ。しかも計画はもう始まっている」



 どうゆう事? 疑問符を浮かべまくる僕らだったが、唐突にピコーンと電球が灯ったような電子音が響く。皆の顔が一斉に向くと、そこには頭からまさしく電球を生やした玄衛門さんがいた。何、その謎仕様?



「あ、もしかして……フィアル坊ちゃん達に肩代わりさせる気っスね!」


「ご名答。自由騎士となったフィアル君とそのお仲間のヒーローギルドのメンバーが、各地を回って魔物や蛮族討伐を行ってくれればいい。そうすれば貴族達の負担は減り、反乱の危険は無くなるだろう」


「そ……それは……まあ望むところだけど……」



 なんだか、凄くお膳立てされてきた気がする。これも『神様』の采配か……うん? 神様?



「そうだ、金市達は『神様』について知ってる? 僕達をこの世界に招いたと思う存在について」



 いきなりの質問だったがそれも予想済みだったらしく、彼らは落ち着いた、だけど悩ましい表情を見せた。

 沈黙の後金市が、次に義影が重々しく口を開いた。


「僕は前の世界では病死してたんだ。働き過ぎで健康診断もさぼってたからね、早咲きの癌であっけなく」


「俺は里の頭領と相打ちになって死んだ。流石に里の精鋭十数人を下した後だと、命を引き換えにしなければ無理だった」


 あ、義影にちょっと親近感。僕の最期に似た状況だったんだな。

 末期の状況に続いて、転生の瞬間へ話は移る。



「病院のベッドの上で、朦朧とする意識の中で財産整理の遺書を書いてる最中だった。突然部屋の中に光輝く『何か』が現れた。そいつはこう言ったね。『君の力、人々の望みを叶える力を無くすのは惜しい。どうかその力を、迷える民のために残させて欲しい』…って」



「俺が『そいつ』を見たのは、戯れに頭領が座ってた壇の座布団に腰掛けた時のことだ。血と一緒に意識も流し出してしまおうと死を覚悟していたら、目の前に光る玉が浮かんでいた。『君の傑出した戦いの才能、失うのは惜しい。正義に寄り添う影として、世界を救う手助けをしてくれ』、と言っていたな」



 勿体無いお化けか、神様。


 僕らの才能を惜しんでくれるのはいいんだが、選択権がほぼ無い死の直前まで待つのは、どうなんだろうね。目的達成まで待ってくれたと思えばいいのか。


「えーと、ちなみにそれ以上の情報は……」


「無いね。こっちに転生してから一回もその存在を感じた事はない」


「俺もだ」


 すっぱり否定されてしまった。


「えーと、じゃあ二人とも転生後はどうやって合流したの?」


「バイトの面接に来た義影と出会って、その場で雇った」


「なんじゃそりゃ!?」


 勇が素っ頓狂な声を上げる。危うく僕も上げそうになったけど。


「俺の実家は俺が六つの時に両親が流行り病で亡くなってな。親族も頼れなかったから、食い扶持を稼ぐために金市の店に奉公を申し出たんだ」


「く、苦労したんだね……」


「まあ確かに、丁稚として応募したはずがいつの間にか隠密にされてたな。しかも任務が無い時はしっかり店員としても働かせやがる。そろそろ労働条件の改善を要求したいな」


「その忍者衣装とか刀とか忍者道具とか色々買ってあげたじゃん。給料もそれなりに払ってるんだから、頑張って勤労してよ」


 けらけら笑う雇い主からのご無体なお言葉にさしもの義影も絶句し、大きな溜息一つ吐いて文句を飲み込んだようだった。


 さて、そろそろ夜も遅い時間だ。締めに入ろう。



「じゃあ最後に確認をするよ。金市と義影は僕らと敵対するつもりは無い。じゃあヒーローギルドに加入する?」


「それは断るね」


「同じく」


「どうして?」



 今までの行動から何となく予想してたけど、理由は知りたい。金市は困ったように苦笑しながら肩を竦める。


「こう言っては難だけど、僕らは決して『ヒーロー』とは言えない行動を取る時もある。悪と戦う際に、時として正道を歩めない事も多いんだ」


「その時、お前達はどうする? 『ヒーロー』として、俺達を裁くか?」


 ……痛いところを突かれた。そこは未だに僕らが克服できていないところだ。


 悪人だからって、僕らはそいつをそのまま殺したりは出来ない。そんな事は僕らはやって来なかった。乱でさえ、敵対する魔法使いを殺しはしなかったそうだ。ただ魔法を使えないよう封印したりしただけで。


 悪党を捕まえても精々官憲に突き出すくらいで、場合によっては生温いとしか言えない対応しかしてこなかった。



「僕と義影の敵はいつだって『人間』だった。留められない欲の果てに生じる『悪人』だった。……だから、そいつらの相手は僕らがやろう」


「時にはお前達を利用させて貰う。そして、お前達も俺達を利用しろ。お前達が裁けぬ悪は俺達が片付けてやる」



 後悔に下を向いていた顔をあげると、そこには頼もしく微笑む金市と義影が居た。彼らもまた世の平和を願う仲間だと、そう強く確信できた。



「ありがとう……二人のヒーロー魂、確かに感じたよ」


「本物のヒーローに認められるのは嬉しいね。より良き未来のために、今は同士には成れなくても…せめて友人ではいよう」



 僕ら四人と一缶、そして異なるヒーロー二人は互いに手を重ね合わせ、固い握手を交わしたのだった。



 ◆◆◆



 二人の新たな友人達との会談は良い結果に終わった。


 金市はなるべく早くニコルの実家の商売の支援を約束してくれた。トリスタン先生と相談して、賞金をニコルの学費に回す事も成功した。


 当のニコルは微妙に不本意そうだった。本人曰く、


「商人が金銭の貸しを作るのは結構悔しいもんだな」


 とかほざいていた。

 後に、トリスタン先生から「騎士になるつもりがないのか?」と、商人根性が抜け切れていないのを指摘されて赤面してもいたが。



 とにかく友人の危機という問題は思いの他早く解決した。だが、次なる問題が早くも目の前に立ちはだかっていた。



 ◆◆◆◆



 春の日差しが眠気を誘うある日の朝。教室の中はいつもと変わらぬ騒がしさに包まれていた。親しい学友達と交わす談笑は、しかし少し不安な雰囲気も含んでいた。


 不安を含む話題は、卒業試験と卒業後の進路が殆どを占めていた。


 最終学年へ上がった僕らは残り少なくなった学生生活を惜しみつつ、自分にあった進路を探す人生の岐路に立たされていた。


「で、フィアルはどうするんだ?」


 学友達の会話を耳に入れ、興味が湧いたのかニコルが尋ねてくる。学費の心配が無くなったからか、いつものおちゃらけた雰囲気を感じる。


「そうだねぇ、僕を拾ってくれそうな貴族様が居れば見習い騎士も考えるんだけど……多分、高等学校受験かなぁ」


「やっぱそっちか~。俺はどうしようかなぁ…。実家の商売も上向いてきたらしいし、高等学校を受験してもいいって親は言ってくれてるんだけど」


「僕はフィアルと一緒がいいから……早めに進路教えてね?」


 するりと会話に入ってくるサラさん。ついでに身もするりと寄せて耳に囁いてくるのは止めて欲しい。女子の一部が興味津々で見ているから。男子の一部からは嫉妬の視線を感じるし。


「そうそう。あんたはよく連絡を忘れるから、決めたら即座に言いなさいよ」


 サラとは反対側からリーザも混ざってくる。なんか僕の頭越しに火花を感じるけど、気のせいにしておこう。


「ニャ~……私は高等学校に進んで勉強することが決まってるから、フィアル君が高等学校に来てくれると嬉しいニャ」


 対面に居たリンが上目遣いにお願いしてくる。くりっとした猫目が不安そうに揺れる様は実に庇護欲をそそるが、こればっかりは確約は出来ない。


 自由騎士になるためには、まずそのパトロンとなる貴族を探さないといけない。けど人脈作りを完全にサボっていたせいで、その目処はまるで立っていない。


 一応、卒業試験に合格した後に有力貴族を学校に招いて卒業生のお披露目がある。それまでの学生生活の活動や成績が公表され、有望と目された学生には貴族から直接指名が来ることもある。


 しかしその為には、成績首位をずっと独占していたとか、剣の試合で華々しい成績を収めたとか印象に残る経歴が必須だ。



 ちなみに僕の学業成績……六年間通して大体五位以内に入っている。たまに首位になる事もあった。

 剣の腕前……大した成長は無い。トリスタン先生曰く『ぎりぎり卒業ライン』。体術全般なら上位に入るんだけどなぁ……。

 それ以外の活躍……表沙汰に出来ないヒーロー活動、多数。



 総評……ぶっちゃけぱっとしない。悪くはないんだけど印象に残り難い。



 そんなわけで、就職浪人ならぬ自由騎士浪人のために高等学校入学の線が高い。


「そうだ、班長は?」


 唯一会話に加わらず、軍学書を読んでいたアンドレイさんに話を振る。彼は本から目を上げると、厳しい強面に穏やかな笑みを浮かべた。


「僕は高等学校に進むよ。もう少し勉強したいからね。いずれ兵を率いる身としては、戦術・戦略を可能な限り学んでおきたい」


「兵を率いる……。あの、アンドレイさんの実家の領地ってキルディス王国のどこら辺なんですか?」


 失礼ながらアンドレイさんの故郷がどこら辺か全く知らなかった。アンドレイさんは少し考えたあと、机の端っこに簡単な地図を描いてくれた。


「キルディス王国が大体こんな形をしていて、王都がここ。僕の生家は…ここだね」


 アンドレイさんの指し示した位置は王都からほど近い場所にあった。

 つまりはアンドレイさんは王国中心部貴族の一部なのか。いずれ来るかも知れない、外縁の貴族達との争いを意識しているのだろうか?


 軍学書に顔を戻したアンドレイさんの静かな横顔からは、それは読み取れなかった。


 そうしていると予鈴が鳴り、間を置かずトリスタン先生とリーゼ先生が入って来た。皆は慌しく席に戻り直立不動で待機する。

 入ってきたトリスタン先生は大きな籠を持っていて、それを教卓の横に置いた。


「全員席に着け! リーゼ先生、点呼を」


「はい。一番! アンドレイ・ロクス・ユースフ!」


「はい!」


 リーゼ先生の点呼に続いて一人ずつ声を張り上げていく。なんだか今日は先生方も気合が入ってる気がするな。

 点呼が終わると、トリスタン先生は持ってきた籠から冊子を取り出して教卓に並べる。どうやら生徒全員分はありそうだ。


「一番前の者は後ろの奴の分まで取りに来い。持って行ったら後ろに回して席に着け」


 それぞれの列の生徒達が冊子を受け取り、それを後ろに渡す。僕のところまで回ってきた時に表紙を見れば、『卒業遠征』という表題が書かれていた。


 冊子が全員分に回り皆が席に着いたことを確認すると、徐にトリスタン先生は話し始めた。



「さて、勉強熱心なお前らのことだから卒業試験についての予習も済んでいることだろう。例年ならば王都内、或いは近郊での野外演習と筆記試験が卒業試験になっているが、今年は形式が変わる。春から夏、場合によっては秋までかかる騎士団の長期遠征に随伴し、実際の軍事行動に参加してもらう」



 教室内にどよめきが響き渡った。卒業試験の余りにも激しい変化に動揺を隠せないようだ。

 だがトリスタン先生がめを細めると、それだけで皆ピタリと口を閉じた。


「お前達の混乱は分かる。野外演習も実戦形式に即した過酷なものではあったが、この遠征は実戦そのものだからな。だが雛鳥にすら満たないお前達に戦えとは言わん。お前達の役目は飽くまで後方支援であり、連絡要員や騎士達の寝床の準備、食事の用意など雑用が主だ」


 ちょっと安心したと同時に、一部の優秀な生徒達は少し不満そうだ。それを見透かしたのかトリスタン先生の口調が酷く冷たく厳しくなる。


「活躍の機会が無さそうで心配か? 安心しろ。今回の遠征では学生の死者も想定している。皆には遺書も書いてもらうし、希望があるなら一年留年も認める。それだけの危険性があると考えられているのだ。頑張れば武勲の機会に巡り合えるかも知れんぞ?」


 その言葉で一気に教室内の空気が冷え込んだ。青醒め、一部には震えだす生徒も居る。トリスタン先生はそれらを目に留め、でも何も言わず淡々と先を続ける。



「この遠征に最後まで参加した者は全員に卒業の権利が与えられる。後方任務とは言え、実戦の経験は貴重な財産となり、実戦経験者が不足気味の貴族領から勧誘もあるだろう。だが命には代えられん。さっきも言ったが、怖ければ一年留年も許可する。それも含めて渡した冊子を使って説明するから、心して聞くように」



 トリスタン先生の指示に従い、冊子をめくる音が教室内にうるさいほどに木霊した。



 なんだか、大変な事になってきたな。



 ◆◆◆◆◆



 先生の説明によれば、王家直属の騎士団の一部が治安悪化の甚だしい地方貴族領へ赴き、その要因である蛮族の討伐を行うそうだ。これには魔術師ギルドや武神『バセム』の教会からも同行者が居る割と規模の大きいものだそうだ。

 ご親征、ではないらしく王族が指揮することは無いみたい。


 しかし普通そんな事態になれば、その地方貴族の管理能力欠如を理由にお取り潰しか領地没収になりそうだが、まるで後詰か援軍のように王家が軍を派遣するのは不思議だ。

 もし金市の話を聞いてなかったらそう思っていただろう。



 そう、遠征先の地方貴族領は国境付近の、いわゆる王国外縁の貴族領だったのだ。



 王家も国内の政治状況を把握していて少しでも反乱の芽を摘もうと苦慮しているのかも知れない。それはいい事だし、もし僕が自由騎士になったら一番に巡るであろう国境沿いの地方貴族領を知るいい機会だ。



 故に、参加しないという選択肢は僕に無かった。



 ◆◆◆◆◆ ◆



「そうか、参加するのか……」


 トリスタン先生は、卒業遠征に参加する契約書に書かれた僕のサインを見つめながら、複雑な感情を込めて呟いた。


 遠征の説明があった次の日、僕は早々と職員室に赴いて遠征に参加する旨を先生に伝えた。


 先生の表情は諦観か、あるいは迷いか。僕の意思を尊重すべきか、それとも止めるよう促すか。その狭間で揺れ動いているようだった。


「書類は受理した。……俺はもう何も言えん。言う資格は無いと思っている。ただ、ロイとエレナさんへの手紙は書いておけ。妹へは……いや、お前の意思に任せる」


「はい。あの、ネミッサさんは遠征には……?」


「参加しない。遠征の話はいずれあいつの耳にも入るだろう。何か言ってくるかも知れないが、もしそれで少しでも気が迷うようなら、俺に言え。すぐにこの書類を破棄してやる」


「迷いません。僕には目的がありますから」


 だって将来の職場体験はやっぱりやっておきたいし。


 気負いの無い返答が逆に心配になったのかトリスタン先生の顔が不機嫌そうに歪む。でも一声唸ると受領のサインを契約書に書き込んで、僕に戻るようぞんざいに手を振った。


「説明した通り、遠征の開始は二週間後だ。その間は授業も訓練も無いから精々遊んでおけ」


 悔いを残さないようにって事なんだろうが、生憎そんな暇無さそうなんだよなぁ。


 僕は一礼して職員室から出ると、人目の無い廊下の隅へ隠れて左手の甲を撫でる。



 ヒーロースーツの機能からメール機能を呼び出し、仲間からのメールを確認する。



『From.勇 題:裏工作完了。俺も参加するぜ!』


『From.乱 題:夜中に精神操作魔法使って眠い……。参加できるよ』



 題名だけで察せた。二人も魔術師ギルドと教会からの遠征組に潜り込むことができたようだ。さて、ばれないように学友達を守るための算段を後から三人で考えなきゃな。



 今日もヒーローギルドの仕事は山積みなのだった。



 ◆◆◆◆◆ ◆◆



 とある地方貴族領の、とある町の片隅にある、寂れた廃屋。

 薄暗く黴臭い室内で、何やら喧しい話し声が響く。



「ちょっと、ボーグダインはどこ行ったの?」


「いつもの酒場じゃ。また例の吟遊詩人が来てるとかで、ファンクラブの半被はっぴを着て出て行ったぞ」


「はあっ!? あいつ、今日は荷物持ちさせるから絶対ここに居ろって言ったのに……!!」


「わしは知らんよ。それより、そこのハンマー取ってくれ」


「黙らっしゃい! ……こうなれば、アンタの木人君十九号を借りるわよ!」


「あ、待て、そいつはまだメンテ中じゃ!!」


「……だーーーーっ!! 同士デイボー、カーラ! 少し黙っててくれ、この薬の納期は今日までなんだから、集中させてくれ!?」



 カタンッと瓶が倒れるような音がして部屋に異臭が充満し、激しく咳き込む音と骨がきしむ様な悲鳴が木霊する。



 残念な悪党達の苦難の日々はまだまだ続いているようだった。そして、より一層の苦難の日々がそこまで近付いていた。



遅くなって申し訳ありません。仕事の関係上、どうしても執筆時間が削られて、またネタも考える気力が湧かず、筆が進みませんでした。


言い訳ばかりの人生だ……。次回はもう少し動きのある展開を書こうと思ってます。


2016/3/9 修正


金市が翔達ヒーローギルドに、王国外縁部の蛮族討伐をさせる計画を話す場面で


~各地を回って貴族や蛮族討伐を行って~ → ~各地を回って魔物や蛮族討伐を行って~


上記のように変更しました。貴族を倒してどーする。


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