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第3話 救出! 幼馴染のあの子を救え!

 朱美さんを呼び出してからまた一年の月日が流れた。

 その間色々本を読んだりヒーロースーツの調整したり朱美さんのご機嫌取ったり、それなりに充実? した生活を堪能した。


 そうそう、この世界での僕の名前はフィアルと名付けられました。なんでも遥か北の大地に住んでいる大鷲の名前なんだって。空をかける大鷲の名前かー、前の名前を連想させるね。偶然だろうか?


 ついでに姓はノースポールだって。北極点か。響きが似てるだけで英語とは関係ないっぽいけど。


 さて、二歳半ともなると行動範囲の制限も余り無くなってきました。今日もお外に遊びに行くとしましょう。


「フィアル、ちょっと待ちなさい」


 エレナ母ちゃんから呼ばれてしまった。


「なーに? 母ちゃん。ちゃんとハンカチは持ったよ。お昼ご飯までには帰るから」


「そうじゃなくて、外にいくならお隣のテイラーさんの家にこれ持っていってくれる?」


 そう言ってエレナ母ちゃんは籠に入った林檎に似た果物四つを渡してきた。大きさは小さいので体が小さい僕でも持てる。


「昨日、ロイお父さんがお友達のルリィさんからメロの実を沢山貰ったの。お隣のテイラーさん一家にこの前杏ジャム貰ったから、そのお返しね。フィアルも食べたでしょ、ちゃんとお礼を言いなさいね」


 はい、テイラーさん家のお母さんメアリーさんの作った杏ジャムは絶品で御座った。我輩パン二枚分もお代わりしてしまったで御座る。

 エレナ母ちゃんは尚も何か言おうとしてたが僕は急いで家を出た。大体これからが説教や注意で長いのである。


「あ、フィアル! ……っもう…」


 後ろから困ったような溜息が聞こえてくる。ご免なさい、エレナ母ちゃん。でもちゃんと言いつけは守ってますから。


 僕は隣のテイラーさん宅を目指して歩き出す。テイラーさん宅は隣と言っても実は結構距離がある。僕の家の周りは一面小麦畑で、ざっと僕の家三十個分位の耕地面積がある。その畑の先にテイラーさんの家がある。うちからの距離は大体二百m超離れてるね。

 まだ収穫には間がある緑色の小麦畑を横目に、僕はえっちらおっちら道を歩く。畑の奥、遠目に複数の人に指示を出しているロイ父ちゃんの姿を見つけた。これから雑草取りのお仕事かな、夜には腰を揉んであげよう。


 などとつらつら考えながら歩いていたらテイラーさん宅前まで来てしまった。今日は晴れてて気温もいい感じに涼しいからぼーっと歩くだけでも気持ちよかった。


 この世界にも四季が存在し、今は春の盛りを前にした三月後半だ。この世界の暦も十二の月に分けられているから分かりやすいね。一月が四十日で一週間が十日って事はまだ時々戸惑うけど。


 僕はテイラーさんの家のドアをノックする。この家も僕の家と同じく二階建てで、石造りのどっしりした感じの家だ。古臭いけど、丈夫さはかなりのものだろう。テイラーさんもロイ父ちゃんと同じく退役軍人さんの家系だ。最も、退役軍人はお爺さんに当たる人で、現家主のアダム・テイラーさんは普通の農家の人と代わらない。アダムさんのお兄さんは近くの街で騎士をしているらしい。


 そんな事を考えていたらゴトゴトと音を立ててドアが揺れた後、ゆっくりと開かれた。


 そこに居たのは絶世の美少女…………に見紛う程の美少年だった。彼はサラレット・テイラー。僕と同い年の少年で、僕の友達だ。生まれつき色素が弱いのか、白磁の様に白い肌、親御さんは両方共金髪なのに、更に色素が抜けて髪は白銀の輝きを放ち、肩の下まで伸びた長髪は綺麗に切り揃えられている。顔立ちはもう完全に少女であり、すこし垂れ目なところが穏やかさを演出している。愛称はサラ、あだ名まで彼を女の子に近づけようと画策している。


 サラはにっこり笑って僕を出迎えてくれた。うおっ、笑顔が眩し!


「おはよ~~、フィアル。今日は早いね、何して遊ぶ?」


 おっとりした声もまた耳に心地良い。将来は街に出て役者にでもなれば一生安泰しそうな逸材だ。僕は籠をサラに差し出しす。


「この前メアリーさんに貰った杏ジャムのお返しにメロの実持ってきたよ。ご馳走様でしたってメアリーさんに言っておいて」


 サラは僕の抱えた籠の中を見て、花が綻ぶように笑顔を見せる。反則級の可愛さだ。


「うわぁ美味しそう! ありがとうね、フィアル」


 そう言って籠を受け取るサラだったが、腕がプルプルしたかと思うと籠を床に下ろしてしまう。そして涙目になって上目遣いにこっちを見る。


「う~~~……重いね、これ。ごめんフィアル、運ぶの手伝ってくれる?」


 ぐはっ! 君ホントに男? そのウルウル涙目と上目遣いは僕の心の中のレフェリーが反則と止めに来るレベルですよ!


 僕は顔が赤くなってません様に、と祈りながらサラに代わって籠を持ち上げる。


「仕方ないなー、どこに運べばいい?」


 サラはパッと明るい顔になってこっちに笑顔を向けてくる。ヤメテッ! 君の視線は百万ボルトの電流並に強力だから!!


「ありがとー、フィアル。フィアルはやっぱり頼りになるね、台所まで持っていけば母さんがいるから、付いてきて」


 サラは後ろを振り向くと奥に歩いて行く。……振り向いた時に流れる銀髪から漂ってきた香りは、無茶苦茶いい匂いがしました……。



 ◆◆◆



 メアリーさんに果物籠を預けた後、僕はサラと一緒に外に遊びに出かけた。サラは大人しくてあまり自己主張しないから、いつもは僕の提案で追いかけっこや虫探し、野苺とかを探して食べたりしてるんだけど、今日はサラが珍しく話を振って来た。


「あのねー、明日お祖母ちゃんの誕生日だから、お祖母ちゃんの好きなお花を集めてプレゼントしたいの。フィアル、手伝ってくれる?」


 サラのお祖父さんは亡くなっているけどお祖母さんはご存命だったな。今年で六十云歳と結構なお年だ。

 僕はどうしてもやりたい事は無かったので快諾した。……上目遣いで頼んでくるサラの目力にやられたからじゃ無いんだからね!


「いいよー。その花はどこにあるの?」


「ありがとうフィアル! あのね、フィアルの家の裏手の林の、その更に奥にたくさん生えてる場所があるんだって」


 え、あの林の奥って相当欝蒼としてた気がするけど。迷わずに行けるかな、ていうか帰れるかな。

 僕がちょっと悩ましげな表情をしてしまったのがサラには分かったのか、サラの顔がさっと曇る。


「ダメ、かな…? フィアルは僕と一緒に行くの……嫌?」


 うん、今度は真っ直ぐ、でも不安そうにチラチラ目線を上下に往復させながら、そんな際どい台詞を吐くのは止めなさい。分かってやってるんじゃないだろうな、この子は。


「あー、大丈夫だよ。行く行く。でも迷ったら危ないから、メアリーさんとかうちの母さんとかと一緒に行かない?」


「ダメだよ、お母さんもエレナおばさんもお喋りだから、お祖母ちゃんに喋っちゃうかも知れないし。そしたらお祖母ちゃんを驚かせられないよ」


 でも親御さんの知らない内に迷いそうな場所に行くって別の意味でびっくりしちゃうだろ。お祖母ちゃん心労でぽっくり逝っちゃうかも知れないよ? ついでに共犯者の僕も漏れなく怒られる。


 されど友人の頼みを無碍にする事も出来ない。ここはロイ父ちゃんからの拳骨とエレナ母ちゃんのお説教を甘んじて受けますか。


「分かった、じゃあせめて道しるべを持って行こう。サラ、さっきのメロの実入れてた籠持ってきて」


「? うん、分かった」


 サラは僕が何をするか首を捻ってたみたいだが、素直に籠を取りに戻ってくれた。その間、僕はテイラーさん宅のゴミ置き場に向かう。丁度目に入ってたよさげな目印があったんだよね……。



 ◆◆◆



 今、僕は手に持った籠から取り出した陶器の欠片を適当に撒きながら、林の奥へ向かってサラを伴って歩いている。後ろからサラが感心したように声をかけてくる。


「フィアルって頭いいね、目印ってこう言うことだったんだ」


 嬉しそうで誇らしげな声が耳元で聞こえてきてこそばゆい。テイラーさん宅のゴミ捨て場に赤色が付いてた陶器の欠片がたくさん捨てられていたのでちょっと拝借してきたのだ。サイズが大きい欠片は踏んで適当な大きさに割ってある。後はこれを分かりやすい間隔で撒けばいい目印になる。


 ありがとう、アイデア発案者のヘ〇ゼルとグ〇ーテル兄妹。願わくば、この世界に陶器の欠片を食べる生物が居ませんように。


 空は晴れてるから日はそこそこ差し込んでるとはいえ、奥に進んで行くと徐々に木々が多くなって少しずつ暗くなっていく。それが不安を煽るのか、サラがきゅっと僕の服の裾を摘まんでくる。

 僕はサラの不安を紛わせようと話題を振って見た。


「そう言えばサラが探している花ってどんなの?」


 サラは急に話しかけられてちょっと驚いたようだが、ちゃんと返事は返してきた。


「あのね、白い花弁の真ん中にピンク色の線が縦に伸びてるお花なの。お祖母ちゃんがお祖父ちゃんにプロポーズされた時に貰った花なんだって」


「へー。告白に丁度いい花言葉とかがあるのかな」


「花言葉?」


「その花に込められた思いとか、花に込められた象徴的な言葉の事。薔薇なら愛情とか」


「そうなんだ! フィアルは物知りだね、凄いよ」


 サラがニコニコ顔に戻ってくれた。良かった良かった。…ただ一つの懸念としては、この世界に花言葉なんてあるんかいな、という事だが、まあ大丈夫と信じよう。


 さて、かれこれ二十分ばかし歩いているけど、まだ見つからないのかな。サラも林の更に奥としか聞いてなかったみたいで具体的な場所は分からないっぽいし、欠片が無くならない内に一旦戻るか?


「あ、フィアル見て見て!!」


 と思ったらいきなりサラが僕の首を捻って、無理矢理右横を見せる。痛いですサラさん。僕が首の痛みに涙が漏れそうになっていると、離れた所に開けた場所があり、そこから白い波の揺らめきが見えた。目を凝らすと、白い波は風に揺れる花の群れと分かった。


「あれじゃないかな? 行って見る!!」


「あ、サラ待ってよ。一人じゃ危ないよ!」


 サラは花を見つけた興奮によりいつもの臆病さはどこへやら、一人で走って行ってしまった。僕は目印の陶器の欠片を撒きつつ後を追う。


 ……痛っ! 陶器の欠片で指切っちゃった。


 ちょっとばかし深く切ったので僕は一旦足を止め、指を舐めつつハンカチを取り出して止血作業を行う。まあここら辺の応急手当は慣れたものである。やろうと思えば包帯で骨折のテーピングも出来るぞ、…悪の組織との激闘の末に身に着けた悲しい技だけども。


 そんな事していたら、僕の右手のヒーローシンボル(手の甲の紋様)から、メールを受信したとの知らせが届いた。


 朱美さん、何もこんな時にメールしてこないでも…。僕は広場の方を見ると、サラは既に広場で夢中になって花を摘んでる様だった。メールを返信するまでちょっと待っててね、サラ。


 シンボルに触れてメニュー画面を呼び出す。メールの項を選び、最新の受信メールをタップする。内容は以下の様だった。


 件名:なんだか胸騒ぎがして……

 本文:おはよう翔君。あ、フィアル君だったね、ごめんねまだ慣れなくて(テヘペロ。ところで私今朝から物凄く不吉な予感がしたの。偶に感じることはあるんだけど、今日、今さっきそお嫌な予感が凄く高まって…。いつもは翔君の横に泥棒猫が居るようなムズムズする感覚なんだけど、今さっきのは翔君が大怪我した時にいつも感じてた感覚と似てたから心配になってメールしちゃいました。もし何かあったらすぐ呼んでね、無理しちゃ嫌だよ? 貴方の愛機『レッドプラズマ』と朱美より愛を込めて。


 朱美さん………、センサー高感度過ぎやしませんかね? ピンチの時には真っ先に自動操縦で駆けつけてくれる頼れる相棒が、今ではス〇ーカーに思えてきた。ごめん『レッドプラズマ』。


 とりあえず心配無いと返事のメールを作ってる最中、広場の方から切羽詰った声が聞こえて来た。


「フィアル、助けてええええええ!!」


 て、サラの悲鳴じゃないか!? 何があった!


 僕は籠を投げ捨て広場に走る。近づいて見えてきた光景から、僕はサラの状況を理解する。

 サラは野犬の群れに囲まれ、花畑の中央でへたり込んでいる! 




 つまり、『絶対絶命の危機』ってやつだ!!




 それを理解した瞬間、僕の全身を巡る血液が煮えたぎる溶岩になった様に感じた。かつて悪の組織との戦いの際に救えなかった人達の顔がフラッシュバックし、最後に死んでしまった家族の顔が脳に焼け付く。

 それに重なるように、野犬の群れに襲われて血を流すサラの姿が浮かんだ。


 僕は一瞬の躊躇も無く、右手のシンボルに手を伸ばした。



 ◆◆◆



 気付いた時はたくさんの野犬が周りを囲んでいた。

 お祖母ちゃんの好きな花を見つけたという嬉しさからフィアルを置いて先に来てしまった自分の馬鹿。花を摘んでこれから花飾りを作ったり、どんな飾りつけをしようかと考えてたから、目の前に野犬が来るまで気付かなかった。

 フィアルと一緒に居たらもっと早く気付けただろうし、逃げられたかも知れない。でもこんなに近くまで来られた、そんな事は出来っこないと分かる。


 グルルルル……


 野犬の唸り声に身が竦み上がる。足がプルプル震えて一歩も動けない。舌なめずりしてる野犬を見たせいで嫌でも自覚してしまう。


 僕はこれから犬の群れに食べられちゃう。


 それをはっきりと自覚したせいで涙が零れて来た。野犬の群れは僕を馬鹿にするようにゆっくりと包囲の輪を縮めてくる。

 この輪が閉じきった瞬間が僕の最後だ、そう思った瞬間僕はあらん限りの声で叫んでしまった。


「フィアル、助けてええええええ!!」


 何てことをしてしまったんだろう。叫んでから気付いた、このままではフィアルが来てしまう。野犬の群れの目の前に。大好きな親友が食べられちゃう。

 僕は声を殺して、せめてフィアルが逃げられるようにしなければいけなかったんだ。でももう遅い、フィアルはきっと来てしまう。優しい彼の事だから、全速力で。


 だから僕はもう一度叫ぼうとする。フィアル、逃げて、と。


 幸いさっきの叫びで野犬達は怯んでいる、もう一回叫ぶ時間はあるだろうか。僕はお父さんお母さんお祖母ちゃんの顔を思い浮かべ、最後にフィアルの顔を心に焼き付け、勇気を振り絞って大きく息を吸い込む。


 そしてフィアルを逃がす為に叫び声を上げようとして、



「待てーーーーい!!」



 それより先にくぐもったフィアルの叫びが聞こえてきた。



 フィアルの声に注意を引かれたのか、野犬達が一斉に僕の背後の方を向く。僕も急いでそっちを向くと、そこには体中を真っ赤な布みたいな物でぴっちり覆われたフィアル? が居た。

 フィアルは足を大股に開き、片手を突き出しながらもう片方の手を顔の横に持ってくる変なポーズを取っている。そして森中に響きそうな大きな声で喋りだした。


「いたいけな少年を襲う飢狼共め! たとえ貴様らの今日のご飯の為とは言え、か弱い男子を襲うことはこの『次元戦士・ディメンジョンマン』が許さん!!」


 周りにいるのは狼じゃなくて犬だと思うけど、突っ込んじゃいけない空気と言うのは分かった。それ以前に、なんだろう、『次元戦士・ディメンジョンマン』って?


 フィアルは一度両手を素早い動きでクロスさせると、左手を僕の方に突き出した。


「『次元念動ディメンジョン・テレキネシス』!!」


 フィアルの叫び声と共に、フィアルの左手から薄い光が急速に伸びてきて、僕を包む。


「ほえ?」


 思わず変な声が漏れたと思ったら、僕は空を飛んでいた。


「え? え!? えええええええ!!?? きゃあああああああ!!」


 僕は一瞬で空に飛んで行ったと思ったら、それと同じくらいの速さでフィアルの元まで引っ張られる。…おしっこ漏らすかと思った…。


 でもフィアルの目の前まで来たら速度が緩んで、フィアルが優しく抱きとめてくれたから何だか安心して力が抜けちゃった。…漏らさなかったよ!?


 僕は抱きとめられたままフィアルの顔を見上げる。フィアルの顔は何だか固そうな兜みたいなもので覆われて、目の部分は薄黒い硝子みたいなもので隠れてたけど、その奥から優しい眼がこっちを見ていることは何となく感じた。


「もう大丈夫だよ。君は必ず僕が守る」


 その言葉に、僕の心臓はさっきまでとは違った不思議な心地よさで早鐘のように高鳴った。



 ◆◆◆



 これが女の子だったらなぁ……。いかん、思わず不謹慎なことを考えてしまう位今のサラの顔はやばかった。潤んだ瞳、紅潮した頬、抱きとめた時の華奢な体躯。勘違いしちゃいそうだ……何とは言わないけど。


 僕はサラを背後に隠し、野犬の群れに体を戻す。野犬はサラが飛んで行ったことに驚いたようではあったが、そのまま逃げる事はしなかった。僕を中心に扇状に展開して唸り声を上げていて、今にも飛び掛ってきそうだが、この配置は丁度いい。


 僕は胸の前で両手でボールを掴むようなポーズを取る。僕の両手の間に微かな光の球体が現れ、それが徐々に光量を増していく。


 グルルルル…?


 野犬の群れはまた僕が何かすると思ったのか、襲い掛かるのを躊躇した。今だ!!


「くらえっ! 『次元閃光ディメンジョン・フラッシュ』!!」



 ビカッ!!



 キャイン!? 


 激しい光に目を焼かれた野犬達は可愛らしい悲鳴を上げてのた打ち回り、しばらくするとほうほうの体で僕から逃げるように森の奥に駆け去って行った。


 しばし構えたまま野犬達が戻ってこない事を確認して、僕は構えを解いた。

 今やったのは『次元閃光ディメンジョン・フラッシュ』と言って……、うん、なんの変哲も無いくらましの光です。


 別にポーズを決めなくても右手突き出してコマンドワード言うだけで発生させられるし、実はコマンドワードすらいらない簡単な機能なんだよね。


 光量を下げて発光時間を長くして、懐中電灯代わりにも使える便利機能だったりする。まあ野犬の群れと言えど殺生するのは可哀想かなと思って咄嗟にこれを使ったけど、意外に効果あったな。


 *野犬は光を怖がるので、懐中電灯を向けると逃げ出すそうです。カメラのストロボも効果あるとか。


 僕は後ろを振り返ると、ペタンと地面にへたり込んでいたサラに出来るだけ優しく声をかける。


「怪我は無いかい、少年? もう大丈夫だよ、野犬共は去った」


 サラはしばらく呆としていたが、顔を左右に振ると、安心しきった顔でにっこりと微笑む。




「うん、ありがとうフィアル。その格好かっこいいね!」




 …時が止まった。


「いや、僕、じゃなくて私は、『次元戦士・ディメンジョンマン』だ! フィアルなどと言う名前では無い!」


 慌てて否定する僕を、サラは不思議そうな表情で見上げてくる。その視線が痛いです。


「でも声がフィアルと一緒だよ? 背の高さも同じだし。それに……、フィアルって嘘付く時は内股になるんだよね」


「えっ!? 嘘!!」


「うん、嘘」


 無意識に自分の股を見た姿勢で僕は固まる。……こやつ(サラ)、意外とやりおるわ……。


 サラは好奇心に満ちた眼をして僕に詰め寄ってくる。


「やっぱりフィアルなんだね! その格好どうしたの? それにさっきの僕を引き寄せた光とか、物凄くピカッて光った光の球とか、どうやったの? もしかしてフィアルって魔法が使えるの?」


「あーうー……、なんと言いますか……」


 記憶に御座いませんとか言いたい。でも流石にもう誤魔化せそうに無いだろうし、どう説明すればいいんだろう……。


 僕が悩んでいると、ヘルメットのバイザーの隅にメールの受信を知らせるマークが表示される。何なの、この忙しい時に…? 

 と思ったらメールは自動的に開封され、内容がバイザーに表示される。



 送り主:朱美

 件名:何で返信してくれないの?

 本文:ねえ、何で返信してくれないの? 朱美言ったよね? 呼び出されなくても我慢するけど、メールだけはちゃんと返してね、って。どうして返してくれないの? しかもまたヒーロースーツだけ呼び出して。機能確認は終わったんじゃなかったの? なんでヒーロースーツだけ贔屓するの? ねえ、教えて? 私が次元の壁を破る前に……。



 重ーーーい!! 説明不要の重さ! 送り主は朱美さんだったー!! そう言えばメールの返信忘れてた!


 ああ、……パ〇ラッシュ、僕はもう疲れたよ……。




 その後、サラには今度説明すると説得して急いで朱美さんにメールを返信した後、籠一杯の花を摘んで僕らは帰路に就いた。



 そして待ち構えていたエレナ母ちゃんとメアリーさんにこっ酷く怒られました。主に僕だけ。

 ……ヒーローは辛いぜ。



ハーレム要員二号、サラレット・テーラー君の登場です! 属性は『男の娘』です! …投石は甘んじて受けます。

まともなヒロインを出せと仰られる方は多数いらっしゃると思われますが、私なりに独自色を出そうと懸命なのでどうかご理解願いたいorz

最終手段『性転換』もありますから、ご安心下さい。そう、私の手に掛かれば全ての女性ヒロインを男性ヒロイン?に換えることすら可能なのだ! ……そっちじゃない? 尚、私の嗜好に男の娘は含まれません。


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