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第24話 暗躍! 王都の影に正義と悪 前編

前回のあらすじ:王都でルナティクスが襲われた事を機に、王都に潜む悪の存在に気付いたヒーロー達。衰弱する乱を救う為、そして悪を討つ為に、ヒーロー達は彼方の王都へ向かう。ちなみに方法は未来の万能ロボットに泣きつく事だった模様。

乱を治癒し、王都郊外の墓地に現れた悪党四人組を発見したヒーロー達はその足で悪党四人組を退治する。悪党には逃げられたものの、手掛かりとなりそうな短剣を得たのだった。

 王都近郊の墓場で悪人四人組と盛大に戦ってやらかしてから早数日。

 少々胃の痛い日々を送りながらも、事情を知らない皆には何とかばれずに王都への帰還の日を迎えた。ただトリスタン先生だけは訝しむ様に僕を見ることが何度かあったので、今後も注意しよう。


 そんなこんなで今は、村の出口の前のトリスタン先生の御者する馬車横にて、また別れの挨拶を交わす事になった。



「元気で行って来い。年末は……帰れそうなら帰って来なさい」


「体に気をつけるのよ」


「にーちゃ、また早く帰って来てねーー!!」



 家族三人は笑って送り出してくれました。ネージュも、顔を合わせるだけならレオンの所に行けばいいと分かっているので、今回はニコニコ顔だ。



「……じゃあね。しっかりやんなさい」


「またねーフィアル!! 出来るだけ早く、そっちに行くからー」



 リーザはいつもより少し強めの仏頂面で短い挨拶を、サラは太陽の様な晴れやかな笑顔で僕に手を振ってくれた。

 玄衛門さんの道具でいつでも僕に会いに行ける(僕が対応できる時限定)事が分かり、とってもご機嫌のようだ。

 だが待つんだマイフレンド、そんなあからさまに嬉しそうに送り出すと、ほぼ確実に横の恐竜が気付くから。


「………」


 ほらやっぱり! 無茶苦茶鋭い目でサラを見てる!? 笑顔で僕の方を向いているサラは、横の獲物を狙う狩人に全く気付いていない。


「うっ…うっ…うぐぅっ……。ネージュちゃんと離れ離れなんて、寂しいよ!!」


 馬車に監禁されているネミッサさんは滂沱の涙を流してネージュを見つめていた。別れを惜しんでいつまでもネージュを離さないので、トリスタン先生に無理矢理引き剥がされて馬車に閉じ込められていた彼女だった。


「年末は休みが短いらしいから難しいかもね。また来年の夏帰って来るよ!」



「うん。トーリ、息子を頼むぞ」


「任せろ。お前よりマシな騎士に鍛え上げてやる」



 悪友二人の挨拶も終わり、僕は王都へ向けて旅立ったのであった。




 辿り着いた先で、どえらい事件が持ち上がっている事に頭を悩ませながら……



 ◆



 先日の墓地での戦いは、夜中にゴーレムの大きな自爆花火が上がったことで大騒動になっていた。

 乱の話によると、衛兵隊どころか騎士団も一部派遣された大規模な調査が行われたらしい。可能な限り乱が戦いの痕跡を消しておいてくれたらしいが、『何も無い墓地の真ん中から大きな炎が上がった』という事で逆に隠蔽工作の可能性を疑われるようになったそうだ。


 現在、衛兵隊の調査は下火になっているが騎士団は極秘に調査を続けているという話を、乱は貴族ルートの情報源から聞いたらしい。



 そんなわけで、王都に帰るまでの一週間弱は悶々とした気分で帰る羽目になった。なお、ネミッサさんが尻を叩いてくれたおかげで夏休みの宿題は終わりました。



 ………



 王都に帰って来たのは夏休み終了の丁度一週間前でした。朝の早い時間に着けたので人通りも少なく、スムーズに中層区まで戻ることができました。

 だけど、街中を通っている間にどんどんトリスタン先生の顔が険しくなっていったのが、正直胃に優しくなかったです。


「妙だな……。衛兵の配置、巡回の頻度、見慣れ無い騎士の往来……何かあったか?」


 トリスタン先生は街の様子、特に警備状況の変化から敏感に事件の発生を察知した様子だった。ネミッサさんも窓から周りを見回して、眉を寄せている。


「本当だ。何だか街がざわついているみたい」


「そうなんですか、変ですね」


 それしか言うことが出来なかった。下手な事を言えばまた怪しまれそうなので、出来るだけ普通を装う事にする。


 その後馬車が中層区に入ると、トリスタン先生は馬車を停めてネミッサさんに降りるよう促した。


「お前はこのまま家に帰ってなさい。荷物は俺が後で持っていくから鍵を掛けて用心してろ」


「えーでもお昼ご飯の食材とか買出しに行かないと」


「馬車に積んでる保存食の残りを持って行け。中層区なら大丈夫とは思うが、今日は出歩くな。何があったか俺が調べるから詳細が分かるまではじっとしておくように」


 トリスタン先生から噛んで含めるように言われ、ネミッサさんは渋々といった様子で馬車から降りる。去り際に、名残惜しそうに僕に向かって手を振ってくれた。


「じゃあね、フィアル君。短い間だったけど楽しかったよ。またうちに遊びにおいでね?」


「はい、またお邪魔させて貰います!」


 僕が元気良く返事した事に気を良くしたのか、ネミッサさんは満面の笑みを見せてくれた。



 ………



 ネミッサさんと別れた後、馬車は懐かしの騎士養成学校の裏口まで移動した。

 荷物をまとめて僕が降りると、トリスタン先生は少々厳しい様子で僕に声をかけて来た。


「フィアル、さっきも言ったが王都内で何か事件が起きているかも知れん。お前なら下手な事はしないと思うが、外に遊びに出歩いたりせず寮で待機しているように」


「はい、分かりました。あの……校舎での自主練習は?」


「真面目で何よりだ。多分だが、寮の掲示板なりに注意事項が書かれているだろうから、それに違反しなければ練習場に行くのは構わん。だが寮の管理人に一言伝えておくように」


 それだけ言うと、トリスタン先生は急いで馬車を巡らせて出て行った。多分馬車を返しに行くがてら、騎士団にでも聞き込みに行くんだろう。



 事件の当事者としては、先生に申し訳ない限りである。



 僕は先生に言われた通りに真っ直ぐ寮に帰り、寮の管理人さんに挨拶をしてお土産(地元産のワイン)を渡した。

 管理人さんは驚いたが、こっちの厚意を分かってくれたのかとても嬉しそうに受け取ってくれた。ついでに事件についてそれとなく聞いてみる。


「事件? ああ……あったね。実は二週間くらい前に王都の外にある墓地の上空で爆発があったんだ。怨霊の呪いか死霊術の実験か、色々噂は絶えないけど詳しいことは分かっていないんだ。注意事項? 特に無いよ。ああ、でも出来る限り外出は控えるようにね」


 世間的にはやはり収束した事件の一つと思われているようで、然程行動に制限は掛けられていないようだった。


 僕は管理人さんにお礼を言うと寮の部屋に向かう。まだ夏休みの終わりまで一週間あるためか、寮内は閑散としていた。幾つか人の気配のする部屋もあったが、片手で数えられそうな程だった。

 自分の部屋に着いた時も、部屋の中に人気は無かった。


 鍵を開けて中に入ると、ルームメイトのアンドレイさんはおらず、僕の机にやや変色した手紙が一通置いてあった。


 僕宛のその手紙はアンドレイさんの置手紙で、夏休み終了の前日まで帰省するとの旨が書かれていた。



 おう、フリーダム! 短い間だが、この部屋は僕一人のものになるのだ!! これで便所電話や屋根上電話からもおさらばだぜ。



 で、早速だがヒーロー仲間達に電話を掛けてみる事にした。



 ………出ないでやんの。頭を捻りながらしばらく待っていると、メールが三通届いた。



 乱からは『魔法実験の手伝いで忙しいから、急ぎでないなら後にして』と。

 勇からは『お昼寝中なんで、眠くてお話できないの。メンゴ☆』と(殴りたい)。

 サラからは『サラさんは今剣術のお稽古中で不在でヤンス』と玄衛門さんの代理メールが届いた。



 ………さ、寂しくなんて無いもんね!!



 宿題も無く、娯楽も無く、学友は帰省中、遠方の仲間はそれぞれ作業中で連絡取れず。


 仕方が無いので、一人寂しく校舎へトレーニングに向かう事にしました。今度ディメンジョンマンのスーツにミニゲームでも搭載されて無いか調べとこう……。



 ◆◆



 その日の夜、ヒーローギルドの定例会議が開催された。まずは僕が無事に王都に辿り着けたことを労われ、次いで情報交換になった。


「王都に帰ってる間は通信出来なかったけど、何か進展はあった?」


「僕の方では目立った情報は無いね。貴族関係でも魔術師ギルド関係でも、新しい情報は出てないね」


「式神に王都の監視をさせてるんだが、例の四人組はさっぱり見つからないな。隠れているにしても食糧の補給とかは必要だろうし、多分他に協力者が居るんじゃないかな」


 乱と勇は少々不満げに報告してきた。僕も学校関係からは大した情報が得られなかったので、ルナティクス襲撃犯の捜査は早くも暗礁に乗り上げていた。



「……凄いね、本当に衛兵さんや騎士みたいに活動してるんだ……!」



 僕達の会話に、サラは目をキラキラさせて感動していた。まあ年頃の男の子だし、こういうシチュエーションに憧れるのも無理は無い。


 でも実際は、地味~~な聞き込みや現場検証の積み重ねが主であると気付いて、目の輝きを失っていくだろう……現場?


「そうだ、現場はどうなっているんだっけ?」


 肝心なところを忘れていた。先頭の後、犯人達は墓地の奥に逃げ込んだんだから、そこを調べるべきだ。

 しかし後始末を担当した乱は難しい顔で応える。


「う~~ん……慌ててたから、墓地の戦闘痕の修復と隠蔽を結構広範囲にしちゃったんだよね。時間も経ってるし今から調査しても手掛かりが残ってるかなぁ?」


「衛兵隊も現場検証は終わらせたらしいし、今は封鎖もされていないみたいだから、行くだけ行ってもいいんじゃない? 他に案があれば別だけど……」


 しばし悩んでいた仲間達だが対案が思い付かなかった様なので、とりあえず勇の式神と僕のスーツから造りだした小型カメラで調査を行う事にした。


 手軽に動かせる駒があるって、素敵。


 数十分後、小型カメラを渡した式神が墓地まで辿り着いた。当たり前だが人気は無く墓地は静まり返っている。

 カメラを通した墓地の暗い映像が画面の半分に表示される。朱美さんに頼んで、暗視モードへの切り替えと画像処理をして貰って漸くまともな映像になった。


「凄ーーい!? 夜なのに、昼間みたいに良く見えるよ!!」


「さ、サラさん。アッシに言ってくれれば、似たような事が出来る機械をすぐに出しますっスよ?」


 対抗心を刺激されたのか、驚くサラの横から玄衛門さんが露骨にアピールしてくる。しかしサラは僕に眩い程の笑顔を向けてくる。


「やっぱりフィアルは凄いんだね! これも神様から貰った力なのかなぁ?」


「う~~ん、当たらずとも遠からずかなぁ?」


 神様の神通力と異星人の超科学、ある意味似たようなものかも知れない。あ、サラに無視された玄衛門さんがハンカチを噛みながら悔しがってる。ドラム缶体型の上段と中断の境目が口なんですね。



「おい、翔。奥の方まで持って行くからちゃんと警戒しておけよ」


「分かった。センサーに何か引っ掛かったらすぐ伝える」



 勇から注意されて墓地の画面に顔を戻す。梟型の式神は夜の墓地上空を滑るように飛んでいく。流れていく墓石の群れを観察しながら、何かおかしな所が無いか注意深く観察する。


 そうこうしている内に、戦いがあった墓地の深部まで着いた。


 ゴーレムが拳を振り回して地面に開けた穴とか、ボーグダインの剣戟の余波で切り裂かれた墓石なんかも、全て元通りになっている。


「うーん、いい仕事してますねーールナティクス」


「言っとくけど、おだてても共闘時以外は痕跡直しにいかないからね」


「そこは無理強いしないよ。うーん特に何も無さそうだな……。勇、もちょっと奥に行って」


 勇に頼むと、式神は墓地の更に奥へ向かって飛んで行く。墓地の最深部は広大な敷地に、妙に統一感のある墓石が並んでいた。また隅の方には大きな石碑もあり、そこにはびっしりと名前が書かれている。


「なんだこれ?」


「聞いた話では、ここは亡くなった兵士用の埋葬スペースらしいよ。石碑は、過去の大戦で一度に大量に亡くなった時の慰霊碑だと思う」


 僕の疑問を乱が解説してくれた。さすが長く王都暮らししてるだけあって、王都の知識は豊富だ。

 その間、勇はじっと墓地の様子を観察していた。彼の視線を追ってみれば、中から何か出てきたように暴かれた墓が幾つもある事に気付いた。



「ふーーん、妙に霊の気配が薄いな。この前の戦いではスケルトンが大量に居たから、墓が暴かれてる事は予想してたんだが、悪霊や怨霊の気配が殆ど無いのは気になるな……」



 オカルト系ヒーローとして何か感じ取っているのか、勇の顔に険しさが増していく。その真剣な様子に自然と僕らは黙り、暗黙の内に彼の熟考を妨げないように静かにする事にした。



 しかしただ待つのも勿体無いので、僕なりに足跡の一つでも見つからないか探そうと墓地を見回して見ることにした。

 夜の帳に覆われた墓地は静謐に包まれ、虫の音以外に生命の気配は無い。時折吹くそよ風が墓石の周りに生えている草地を揺らしている。


 草地の草は大体丈の長さが揃っているが、その中から飛び出しているものもある。それは種類の違う雑草の他に何種類かの花も混じっていた。


 僕は何の気無しにその花の群れを見ていたら、ある花を見た時に目が止まった。



 その花は帽子のような花弁が幾つも付いた、繊細ながらもどこか不気味さを感じる花だった。



 突然、僕の脳裏に幾つもの光景が流れ過ぎた。


 真夜中の路地裏、倒れ伏す男、懐から転がり出るコイン……。


 真夜中の墓地、ダークエルフの血に飢えた笑み、翻る短剣……。



 二つの時間、二つの異なる場面、だが一つの共通点がある……!



「朱美さん! 僕が実家に帰る前に捕まえた、路地裏の悪漢の資料を出して! あと、墓地で戦ったダークエルフが落とした短剣も!!」


『え!? う、うん分かったわ!』


 いきなり声を上げた僕に、皆は驚いて絶句する。そんな中、朱美さんはしっかりと対応し、コンマ1秒の時間で資料を画面に映し出してくれた。


「おい翔、何だってんだ?」


「悪い、大声出して。………やっぱりか。朱美さん、皆にもこの画像を転送して」


『了解』


 ピッと音がして、画像の転送が完了したとのメッセージが流れる。最初訝しんでいた勇と乱は、何かに気付くと目を見開き、続いて目を細めた。



「なるほど……何となく事件の繋がりが見えてきたかもな」


「復讐か、制裁かな? それなりに大きな組織が関わってそうだね」


「……え? え? 何か分かったの?」



 事情を知らないサラだけが困惑して顔を巡らせている。後で教えるからな、親友。



 そう、路地裏で倒した悪漢が持っていたコインに描かれた図柄と、カーラとか言うダークエルフが持っていた短剣に刻まれた紋章は、同じ花の絵で一致している。

 そして両者とも後ろ暗さ満々の風体と行動。裏世界の組織の仲間である可能性は、少なくは無い。


「このモチーフを中心に情報収集してみようか。そういやこれ、何の花だろう……?」


「あ、僕分かるよ。お婆ちゃんが教えてくれたから知ってるー」


 やっと付いていける話題が出たからか、殊更嬉しそうにサラが手を上げる。


「おお、ナイスだ親友! これは何の花なんだい?」


「えへへ~~……それ程でも無いよ~~。ええっと、これはね……」


 サラは面映そうに頭を搔き、大きく息を吸い込むとはっきりとした口調で答えてくれた。




「これは『トリカブト』だよ! 綺麗な花だけど、根っこには猛毒があるんだって!」




 ◆◆◆



 王都の商店街では今日も市場が立ち、多くの市民が買い物に訪れている。そんな人口密度の高い区画から少し離れた所に、洗練された大型の建物が建ち並ぶ区画がある。


 それらの店は商品の販売では無くその物流を司る各商家の事務所であった。


『ウルベック食糧品店』、『ヤヌン工具卸問屋』、『キッシンジャー武具店』、『ヤマト総合商社』……など、王都で販売される商品の流通はこの大店の事務所で管理されている。


 商人ギルドの中枢、と言えば概ね正解であろう。その事務所が並ぶ通りは、商人や事務員や依頼を受けた凶祓い達で賑わっている。



 その中で、表向きはさして他の事務所と変わらぬ建物『コール香辛料専門店』はやや人通りが少なかった。

 遠方の地から香辛料を輸入し販売している商家だが、その取引先は主に貴族や大商人などの上流階級が主で、高額の取引が行われているがその取引の数そのものは少ない。


 故に普段から余り人の寄り付かない建物ではあるのだが、最近はただ建物の前を通ることすらはばかる人が増えた。



 その人達に理由を聞くと……「なんだか不吉な気配を感じて近付きたくないから」と、口を揃えて言うそうだ。



 だからと言って衛兵に通報したりはしない。もし彼の店の主人の不興を買えば、上流階級との人脈を使ってどんな社会的制裁が下されるか分かったものでは無いからだ。


 一階ではいつも通り受付の事務員が笑顔で対応してくれるが、三階から上はカーテンも閉められ中を窺い知る事もできない。一体その奥で何が蠢いているか誰も知らないのだった。



 ……



「カーラさんには失望しましたよ………」


 カーテンの閉められた部屋の中で、豪奢な椅子に座った恰幅の良い老人が気だるげに膝上の猫を撫でていた。毛並みの良い美猫ではあるが、主の老人に似てか、やや肥満気味だ。

 そして暗がりで開いた瞳孔は、老人の前で膝を着くカーラに向けられていた。


「…………」


 彼女はただ黙って主の沙汰を待っているのか、静かな面持ちで目を閉じ下を向いている。


 老人は彼女の殊勝な態度にも機嫌を直さず、むしろ語気を強めて糾弾する。


「使えそうな手駒を用意したところまでは結構。ですが肝心の商店襲撃を失敗し、あまつさえ襲撃要員として使うはずのスケルトン達まで失くしてしまうとは…!! 私の買い被りでしたかねぇ?」


「………申し訳ございません」



 カーッ!!



 主の不機嫌が伝播したのか、猫は牙を剥き出してカーラを威嚇する。彼女は薄目を開けると、つっと猫にその目を向ける。

 蟲惑的な紫の瞳に見つめられ、猫の体が一瞬ビクリと震える。その様子がツボに入ったのか、老人は差ディステックに微笑み、猫を落ち着かせるように撫でる。


「おお、怖い怖い。私のペットを怯えさせる事は指示していませんよ?」


「失礼しました……」


「いえいえ、いいのですよ。……代わりに、今度こそあの憎き商売敵共に恐怖を刻み込んでくれればね……」


 そう言うと老人は立ち上がり、カーテンに覆われた窓辺に近付く。膝から強制退去させられた猫は不満気に一声鳴いて、部屋の隅へ逃げていった。


 老人はカーテンの隙間に指を入れると少し開き、斜め向かいにある建物に鋭い視線を向けた。


 建物には『ヤマト総合商社』の看板が掛かっていた。真新しい建物には旺盛な人の出入りがあり、活気の高さが伺い知れる。


「節操無しめ……。どこから伝手を得たか知りませんが、あの新参者の商家は私が独占していた香辛料の市場に土足で踏み入って来ています。それ以外にも食品、鉄材、木材、武器や防具まで手を出して! この街に古くからある商家商店は皆あの店を敵視しているでしょう」


「………」


 カーラは薄目を開けたまま、黙って老人の言葉を聞いている。老人は目に入れるのも耐えられなくなったのか、乱暴にカーテンを閉めるとカーラへと振り返る。



「あの店は徹底的に叩く必要があります。今まで貴女以外にも何人か調査・妨害に送り込みましたが、全て帰って来ませんでした。密やかな妨害が出来ぬなら直接潰すまでです。その為の戦力と、罪を被る生贄…一部死んでますが…が彼らでしょう? その責任者たる貴女に、次こそは仕事を完遂して貰えると期待していいのでしょうね?」


「……お任せ下さい、フォス様。必ずやあの商店と従業員達を二度と商売が出来なくしてみせましょう……」



 淡々と答えるカーラに、フォス・コール会長は初めて満足そうに笑ったのだった。



 ……



 ギィッ …バタン!



「あ、おかえり。どうだった、スポンサーの様子は?」



『コール香辛料専門店』の地下室の一つにカーラが踏み入ると、薬草を煎じていたハセウムが声をかけて来た。


 薬草を煮詰める為の鍋やランプが几帳面に並べられている机の対面では、乱雑に散らばる工具の中で油の匂いをさせながら部品を組み立てているデイボーが座っている。部屋の隅にはゴザを敷いた上で爆酔しているボーグダインがいびきをかいていた。


 カーラは能面だった顔を苛立ちの形に歪め、やや荒くテーブル横の椅子に腰掛ける。

 震動で手元が狂い掛けたのか、デイボーが髭を震わせる程の大きさで怒声を上げる。


「おいコラッ!! 慎重な作業している最中に乱暴に座るんじゃない!」


「あんたら……自分の立場ってもの分かってるの?」


「……前回の失敗で、大体俺様達と同じ位に評価が下げられてる事は分かるブヒ」


 殺気すら込もる目で睨み合っていたカーラとデイボーの間に、寝転がっていたボーグダインが割り込んだ。

 カーラは不機嫌さを一層増した目でボーグダインを睨み付けるが、一つ溜息を吐くと憂鬱そうに頭を下げる。


「くそっ……。ええそうよ、後が無い事は分かってるわよ」


「お互い一蓮托生になったわけだが、どうするんだ? 例のルナティクス含めて二人の超人共がまた妨害に来るかも知れんのだが」


 ハセウムは薬草を煎じる手を休めないまま、カーラに今後の方針を尋ねてくる。煎じた毒草は慎重に小瓶に移して封をしている。


「よし、これでノルマ達成だ。後はしばらく寝かせて別の薬液と混ぜて完成だな」


「……いいわよねーあんたは。別の方面で評価を上げられたから」


「まさか死霊術師時代に齧った錬金術の基礎が役に立つとはなぁ。しかし、ここの主も悪い奴よのう。香辛料の取引の他に、まさか麻薬まで商いしているとは」


 ハセウムは部屋の壁際に置かれた木箱に目を向ける。木箱の中には、香辛料の名前が書かれた袋があるが、開いた口から見えるのはハセウムが煎じていた薬草である。

 ハセウムはこの建物に滞在する条件として麻薬の調合をさせられていたのだった。


「香辛料と偽って快楽を感じる薬草の類を王都に持ち込むとはな。しかもお抱えの錬金術師に払う金が惜しくてハセウムどんにさせとるし、わし等よりよっぽど悪どいわい。……ハセウムどん、ちなみにその草ってどこら辺で取れるんじゃ?」


「いきなり資金源にしようと画策するな。かなり遠方だから、そもそも買い付けに行くまでの旅費が足りんぞ」



「話を振って置いて脱線するの止めてくれない?」



 カーラの苛立ちが頂点に差し掛かっているのを語気から察し、ハセウムとデイボーは黙る。カーラは椅子に深く腰掛けて背を預けると、口元を手で隠し思案しながら考えを述べる。



「フォス様は、邪魔するようなら例の三人組も始末しろと言っていたわ。あんた達、あれに勝てると思う?」



 カーラの質問に三人組は押し黙る。重々しい空気の中、まずハセウムが手を挙げた。


「あーすまんが、あの法力使いとは私は相性が悪い。カーラから借りた呪具を幾つか使い潰して強力な死霊を作って戦う手もあるが、それでも勝率は高くない」


 次にデイボーが手を挙げた。


「あの赤魔人はとんでもなく高い技術の使われたカラクリを使っておる。今の所、木人君シリーズでは対抗できる術が思いつかん。最後の手段の自爆装置ですら単なる花火にされる位じゃからな」


 続いてボーグダインが手を挙げた。


「俺様にルナティクスたんは切れんブヒ。一対一なら奴らを圧倒する事は出来そうブヒが、流石に三人一辺は無理ブヒ。お前らが他を抑えられるなら一人ずつ片付けれそうブヒが……この前はそれも出来んかったブヒ」


 最後に三人は一斉にもう片方の手も挙げる。




『お手上げ』、の負け犬サインが完成した。




 変なところでシンクロした三人の姿に、カーラは極限まで自分の精神が疲労したのを感じた。


「……お笑い劇場は求めて無いの。もっと建設的な話は出来ないわけ?」


「今の戦力と物資では勝てない事が分かっただけ儲けものだろう。いっそ逃げないか?」


 ハセウムは不安そうに視線を彷徨わせながら提案する。情けない不死者の王ノーライフ・キングの姿にカーラは頭痛を堪えながら反論した。


「逃げたところで、また私みたいな暗殺者が見繕われて送り込まれるだけよ。フォス様はあと一週間以内に片付けろとご命令よ。相手の居場所を特定して、一人ずつ襲撃する手も難しいわね」


「手駒が足り無いのも問題だなぁ……。デイボーのゴーレムは壊れたし、私のスケルトン軍団は壊滅したし。一応、怨霊や死霊は何とか連れ出せたが……」


 ハセウムの嘆きに応えるように、隣の部屋から唸り声のようなすすり泣くような声が響いて来る。集めた霊達は、隣の部屋に待機させられていた。

 ちなみにこの霊達の気配を察して、通行人は不吉な気配を感じていたのだが、それはまた別の話。


「そうだ、お前の元同僚は協力してくれんブヒか?」


「『死花』結社の事? あの弱小犯罪ギルドに例の三人組の相手が務まるとも思えないわ。ちょっとマシなスケルトンが十人二十人増えたところで大勢に影響無いでしょうね。それに彼らを使うとしても、お金を払うのはフォス様よ。また私に頭下げろっての?」


 暗雲立ち込める未来に四人は知らず頭を下げていた。お通夜同然の有様だが、それでもカーラは歯を食い縛って顔を上げた。



「なんにせよ、やるしか無いわ。一週間の間に出来る限り情報を集めて対策を練るわよ」



 やる気のカーラに対し、仲間達はおう、ああ、と気の抜けた返事を返すだけだった。



 悪党四人組は起死回生を願い、困難な道を共に歩み始めるのだった。これが長い付き合いの最初の一歩であるとも知らずに。






すいません、この後の展開がどうしても思いつかず、無理矢理ですが前後編に分ける事にしました。後編は現在思考中です。


お待たせするのも心苦しく、きりのいい所まで進めたいので、10月上旬は『アウトキャスト』を少し遅らせて『ヒーロー』の後編を書き上げたいと思います。後編投稿までしばらくお待ち下さい。

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