第19話 特訓! 未来への成長の日々!!
前回のあらすじ:オーク族の戦士ボーグダインに襲われたところを『マジカル★ルナティクス』に助けられた翔。その夜、ヒーロー仲間の勇と共に彼女と邂逅した翔は、そこでルナティクスもヒーローである事を知る。お互いを認め合い協力関係を構築できた彼らであったが、王都の地下では悪党達もまた運命の邂逅を果たしていた。
天上のヒーロー達と地下の悪党達。彼らの戦いは………まず悪党達が暗殺者の手から逃げ切るまで保留になりそうであった。
先日の『マジカル★ルナティクス』の中の人、もとい月輪乱との会合も無事終わり、協力関係の締結と連絡手段の構築が出来ました。
今まで出番の無かったスーツ以外の通信機も、ついに二台目まで放出することに成りました。携帯電話の電話帳に電話番号が増えていくみたいで、ちょっと嬉しい今日この頃。
あ、そうそう。やっぱり次の日は寝不足で散々な授業結果になりました。
今自分は、先日の午後の授業で寝ながら走った罰の走りこみを、放課後にこなしている最中です。
「はっ…はっ…はっ…!」
最近は大分走るのにも慣れてきて、短距離走も長距離走もそこそこ走れるようになってきました。次の日に疲労や筋肉痛にならない位には、だけど。
だが、まだまだトップ集団には及ばない。授業中に前を走るエリート達の背中が遠く感じられる。
それで落ち込んでいる暇も無い。僕は自由騎士になるのだから。
『マジカル★ルナティクス』にお願いすれば、戦闘後の破壊痕も直せるだろうって? ええ、提案してみましたよ。そしたら……
「は? 何で君の戦いの傷痕をわざわざ僕が変身してまで直さないといけないの? 言っとくけど、あの変身後って軽く首吊りたくなる位に鬱になるんだけど?」
ってお言葉を、肝が縮み上がる位に暗い苛立ちに満ちた眼差しと一緒に貰いました。一緒に聞いてた勇も青い顔していた。もし隣に本人が居たら、二人して抱き合ってガクガクブルブル震えていたかも知れない。
そんなわけで、パトロン探しは続行する事になった。一応、ルナティクスと共闘した時に限って、僕の戦闘痕も直してくれる、という約束は取り付けれた。
今日も今日とて、自由騎士を目指す訓練は続く。
「これで……終りっと!」
やっとの事で罰の訓練場十周を終わらせて、流れる汗を拭いながら校舎に向かって歩き出す。もう校舎に人気は殆ど無い。基本的に、課題や罰以外で放課後まで校舎に残る生徒は少ない。
訓練場で木人相手に剣を振るう上級生は偶に見かけるが、訓練施設は寮にも併設されているから、こっちに残って訓練する人は殆ど居ない。
ついでに言うと、我が戦友のニコルは「ハハッ、夜更かしはいけないぜ、少年!」とか笑いながら先に帰りやがった。もう算数は教えてやらん。
故に人気の無い放課後の校舎で、尾行されれば割りと簡単に分かってしまうのだった。
「えっと、何か用? ……ナンシーさん」
柱の影に隠れていた影がビクリと震え、おずおずと一人の少女が姿を現した。赤毛のクラスメイト、ナンシーさんの登場である。
「ご、ごめんねフィアル君。後を追けるつもりは無かったんだけど……。その、少しお話してもいい?」
「うん、いいけど」
なんじゃろか。夕暮れの校舎、相手は女の子、そして自分は放課後の運動を終えて爽やかな汗に包まれている。
………告白かっ!?
いやそれは短絡過ぎる。こんな思考になってしまうのは男子中学生とか高校生で十分だ。でも転生前はそうだったから別にいいのか?
そんな下らない思考を脳内で再生している間、ナンシーさんはもじもじと体を動かし、話し始める取っ掛かりを探しているようだった。
辛抱強く待っていると、漸くナンシーさんの口が開いた。
「フィアル君って、トリスタン先生とどんな関係?」
意外な名前に僕は虚を突かれて眼を瞬かせる。
「え~~と、トリスタン先生? ……僕の父さんがトリスタン先生と騎士学校からの同級生で、騎士時代も同僚とだったらしい。一応友人関係でいいのかな」
トリスタン先生も、憎まれ口は叩くものの、そんなに父さんの事を嫌ってはいない様だったし。
ナンシーは僕の話を聞いて、へぇ…、と妙に納得したような声を漏らす。
「やっぱりそうなんだ。親戚かもと思ってたけど、フィアル君のお父さんとお友達だったんだ。えと、フィアル君はトリスタン先生のお家に泊まった事あるの?」
「うん、あるけど……」
そこで、僕らの会話を遮るように閉校を知らせる鐘の音が響いた。
「おわっ!? ナンシーさん、とりあえず寮に戻ろう。戻りながら話をするから」
「う、うん分かった!」
そして僕とナンシーさんは校舎の出口へ急いだのだった。
◆
寮への道を帰りながらナンシーさんのこれまでの生い立ちとかを聞いた。ナンシーさんの本名は、ナンシー・フィール。僕と境遇が似ていて、騎士にならないと土地の没収の危機だったとかでこの学校に入学したそうな。
ナンシーには兄弟がおらず、姉と妹が一人ずつ居るらしい。お姉さんは体が弱く騎士は到底目指せず、妹さんは幼い為、ナンシーが志願して騎士学校に来たらしい。
そこで例のリンドとか言う貴族のボンボンに目を付けられて、苛められてしまった。
最初は軽い侮蔑の言葉が飛んでくる位だったのが、徐々にエスカレートして行き暴言に変わり、最終的に暴力を振るわれたそうだ。
何がそんなに気に入らなかったんだか。
「多分、私のお父さんがリンド卿のお父上との剣術の試合で、勝ってしまった過去が原因だと思う……」
「そんな事で?」
「だって、強ければ尊敬される国だもの。もう十年以上前の話らしいけど……、それでもリンド卿は負けたって事が凄く嫌だったんだろうね……」
武名で鳴らす国も色々問題があるなぁ。暗くなり始めた空を睨みながら困ったもんだと思っていたら、横のナンシーさんの様子がちょっと変化し始めていた。
「最初は耐えられるか不安だったけど………トリスタン先生が、私を救ってくれたの」
何でも、ナンシーさんがリンド卿に頬を殴られて教室から逃げ出し、廊下の隅で泣いているところにトリスタン先生が現れたらしい。そして強引にナンシーが誰に殴られたか聞き出すと、ナンシーに回復魔法を施して突風みたいな勢いで走り出したそうな。
……で、例の校門での騒動に至るわけか。あれはびびった。
「先生はね、私の恩人なの。だから、私、先生に認められるような騎士に成りたくて……」
イイハナシダナー。
流石トリスタン先生。やたらスパルタでも、家では娘さんに頭が上がら無くても、その有り様はまさしく立派な騎士そのものだ。
「……そして、いつかは先生のお嫁さんに成りたいな……」
…………ワッツ?
横を歩くナンシーさんの顔に目を向けると、暗くなってる中でもはっきり分かるほど頬が赤らんでおり、その瞳は潤んでいた。
トリスタン先生、七歳児にロックオンされてますよ。
心の動揺を押さえつつ無言で歩いていると、ナンシーさんから熱っぽい視線が飛んできた。
「先生ってどんな女性が好みかなぁ? たしか奥さんも居たと思うけど、もう亡くなってるって聞いたし、私が代りに先生のお世話をしてあげたい……。フィアル君、先生のお家に行った事あるんでしょ? 先生がお家でどんな事してたとか、奥さんがどんな人だったか教えてくれない?」
うう、視線の圧力が凄い。し、しかし答えるべきか答えざるべきか、それが問題だ。
頭の隅を過ぎるのは、ネミッサさんの顔。仮にナンシーがトリスタン先生の嫁に行ったとして、果たしてネミッサさんと上手くやっていけるだろうか?
「やーーーーーん、ナンシーちゃん可愛いーーーー!! お姉ちゃんとお風呂に入ろーー!?」
こんな台詞と共に拉致されるんじゃ無かろうか。いかん、ナンシーの貞操が危ない(マテ。
結局、しどろもどろの口調で、良く分からないと伝えるのが精一杯でした。この件はしばらく保留だな。
◆◆
さて、それからまた一週間ほど過ぎた頃、午後の体育の授業に変化がありました。
訓練場に集合した僕らの手には、使い込まれた練習用の木剣が握られている。並んで立つ僕らの前ではトリスタン先生が同じく木剣を持って仁王立ちしている。
「では、本日より総合白兵戦術の基礎を始める! 今日は木剣を使った訓練だ。俺と一対一で模擬戦をして貰う。では……レオ! 前に出ろ」
「…はい!」
トリスタン先生の指名に従い、レオ・ダイアモンドという名の同級生が前に出る。彼はクラスの中で勉強、体術共にトップに君臨する生徒だ。
精悍な顔つきと、鍛えられた体格。どこぞの貴族の庶子らしいが、本人は寡黙かつストイックな性質なのか、人と話さないし付き合わないから、正確な事は分からない。
レオはトリスタン先生の前に直立不動で立つ。心なしか威圧的な雰囲気を出すトリスタン先生を前にしても、揺るがぬ立ち居振る舞いはさすが学年トップだけはある。
「今回の訓練の目的をお前との試合で皆に知らしめる。覚悟しておけ」
「? はい、分かりました!」
……なんか妙な雲行きだな。トリスタン先生の言い方も気になるし、さっきからトリスタン先生の目がやたら据わっているのも心をざわめかせる。
レオも先生のいつもと異なる気配を察してたのか少し眉を寄せていたが、返事は思い切り良く明確なものだった。
レオの返事を聞き届けたトリスタン先生は無言で木剣を構える。レオもそれに倣って木剣を正眼の構えで構える。
始め、の合図も無かった。
ビュンッ!!
「!?」
ドカッ
目に捉えるのが難しいほどの速度で、トリスタン先生の木剣がレオの小手に打ち込まれる。手加減抜きと分かるのは、レオの手からあっさりと木剣が滑り落ち、彼が手を押さえて蹲ったからだ。
「~~~~~………!!」
絶叫を漏らす事無く痛みに耐えているレオだが、トリスタン先生は容赦無く追撃を与える。
ドガッ!
蹲るレオの横脇に掬い上げるような木剣の一撃が入り、レオの体が宙に浮く。
「…ああっ!」
堪らずレオの口から苦鳴が上がる。地面に転がり起き上がる事も出来ないレオに、トリスタン先生が滑るように近づく。
「ひっ…!?」
先生がレオの前で木剣を振り上げた時、レオの口から悲鳴が漏れる。
それで、やっと先生の剣は止まった。
トリスタン先生は、変わらぬ冷たい眼差しでレオを見下ろす。レオは、必死に体を起こそうとしているが、震える体は言うことを聞かず、ただ徒に手で地面を搔いているだけだ。彼の目にいつもあったトップにある自負と自信の色は見えず、ただ恐怖一色に染まっていた。
「………『再生』」
トリスタン先生は木剣を下ろし、レオに回復魔法をかけると、訓練場の端を指差す。
「移動しろ。指示があるまで待機だ」
「……は、はいっ……」
レオは無理矢理体を起こすと、木剣に縋るように訓練場の端に向かう。痛々しいまでに腫れた手と、強く打たれた脇腹を庇うように進むレオ。その顔には恥辱と、そして僅かばかりの安堵が浮かんでいた。
学生達は恐怖に身を固くしているか、瘧の様に震えている者ばかりだ。
かく言う僕も、緊張と恐れに固くなりかけている体を意識して解している最中です。
トリスタン先生は僕らを睥睨すると、淡々と尋ねてくる。
「分かったか?」
質問は簡潔明瞭。だが、その真意は意味不明。
目の前でトップエリートの同級生を打ち据えられて、何が理解出来るのか。世間の恐ろしさか?
「分からんのか? ならばもう一人前に出て貰おうか」
先生の死の宣告に、学生達全員がびくりと身を震わせる。先生の視線が次の生贄を求めて彷徨い、その視線に晒された者は目を伏せ、顔を背け、自分に当たりませんようにと祈りを奉げる。
そうこうする内に、その視線が僕に近づいて来た。
だがその視線は僕へ向けられる事無く、僕の横で止まる。
僕の横には、歯の根を合わせられず、カチカチとやかましく歯を鳴らしているニコルが居た。
その音が耳に障ったのか、トリスタン先生の目が細まる。
「よし、次はニコ……」
「はいっ! 僕が出ます!!」
……やっちまった。つい、手を上げて大声で身代わり宣言しちまったい。皆の視線が僕に集まるのを感じる。特にニコルからは驚きと救世主を見るような視線だ。
ああ、ヒーロー稼業をしてた身としてはその視線は嬉しいけど、代償でけぇなぁ畜生。
トリスタン先生は、何故か不愉快そうに顔を歪めていたが、乱暴に手を振って僕を手招く。
「いいだろう、前に出ろフィアル」
「はいっ!!」
ヤケクソ気味に声を張り上げ、列を掻き分けてトリスタン先生の前に出る。
さて問題が一つある。………僕、剣なんか使ったこと無いの。
ヒーローやってた頃は基本格闘戦ばっかり。使った武器は銃関係がほとんど。こっちの世界に来てからも、訓練したのは勇との組み手くらいで、剣の練習は全然していない。誕生日の親子喧嘩も奇策に走ったしな。
中学時代に体育の授業で剣道を少しやったけど、とても体に馴染んでいるものとは言えない。
故に、ガチでやる気のトリスタン先生への勝率はゼロだ。ぶっちゃけ格闘戦でも勝てる気はしない。
こんな衆人環視の中でヒーロースーツなんて使えないし、精々痛い思いをしなくていいように、できるだけ上手にやられたフリをしよう。
ここまでの思考を2秒くらいで済ませ、覚悟は完了した。
腹を決めた僕の内面が理解できたのか、トリスタン先生の顔がやや緩む。
「フィアル、ロイの息子だからと言って手加減はせんぞ?」
「はい。よろしくお願いします」
もとより父さんとの友誼がここに持ち込まれるとは思っていない。てか僕の知らないトリスタン先生から父さんへの恨みがここで晴らされるんじゃないか、と先日のナンシーとの会話を思い出しながら戦々恐々の想いです。
「フッ…」
思い切りの良い返事がトリスタン先生のツボに入ったのか、満足気に微笑まれた。逆に怖い。
そう思いながら僕が木剣を構えると、抜き手も見せぬ先生の逆袈裟斬りが飛んできた。
ボッ!
こええええええっ!? 横を通り過ぎる風圧だけで、軽いジャブを貰った気になるのは久しぶりだぞ!?
何とか初撃を回避出来たが、体勢が思いっきり崩された! 間髪居れず二撃目が来ると思って身を固くする。それがいけなかった。
二撃目はやや遅れてやってきたのだ。
二撃目が繰り出される直前に見たトリスタン先生の顔が、初撃が回避されるとは思ってなかったであろう、意外そうな顔であった事だけが少しだけ僕の心に小気味よさを与えてくれた。
先生の斬撃の痛みで、すぐに吹き飛んで行ったけどさ。僕の体と一緒に。
ドガッ!!
返す刀で横薙ぎに振るわれた先生の木剣は僕の左二の腕に命中し、さっきのレオと同じ様に僕の体を吹き飛ばして、地面との抱擁を強要する。
痛い、めっさ痛い! 地面を転がりながら心の中でのた打ち回る。でも、きっと……
ヒュッ
ほら来た!? 左腕の痛みを無視して、強引に地面を転がる。土塗れになりながらも距離を取ったことが幸いし、先生の剣に二度目の空振りを味わわせた。
へっ、踊り子さんにはお触り厳禁だぜ。などと悪態吐きたい衝動に駆られながらも、そんな暇無いと転がる速度を上げ、遠心力も手伝わせて身を起こしてトリスタン先生に向かって木剣を構える。
対するトリスタン先生は、本当に驚いたように目を見開き、動きを止めていた。
だが、いつ攻撃が再開されるか分からない。僕は油断せず、トリスタン先生の動きを見逃すまいと凝視する。
しかし一向に攻撃が再開される様子が無い。すると先生の手が軽く挙げられた。
「フィアル……、痛くないのか?」
「へ?」
余りにも普段とは異なる、気の抜けた調子で声をかけられたもんだから、つい自分の左腕を見てしまった。
僕の左腕は、僕の意識に反してプラプラしてました。
あ、やば。意識して無視してたのに、そんな自覚させると……
「~~~~~~ああああああ……っ!!??」
くそっ!? 痛みを思い出しちゃったじゃないか!! もう一回痛みを忘れる作業するの凄くきついのに!
耐えろ僕。Be Coolだ僕。腕千切った時を思い出せ。あの時よりは痛くない。だってくっ付いてるもん。
だから大丈夫…………んなわけあるか!!
頭の中のアドレナリン貯蔵室を蹴破って、あるだけ出せ! と恫喝する妄想をしながら、もう一回歯を食いしばって構える。
プルプル震える僕の剣先を見ていたトリスタン先生は、少しばかり困惑した顔付きになった後、顔を引き締め、構えを解いて僕に近づく。
「剣を下ろせフィアル。『再生』」
先生は間髪いれず僕に回復魔法を施してくれる。痛みは和らいだが、左腕はまだ言うことを聞かない。
先生が僕の腕を触ると、それだけで激痛がぶり返す。
「くあっ…!?」
「折れているな。……『復元』」
より強力な回復魔術が施され、さっきよりは大分左腕が動かし易くなった。
「これでいいだろう。骨が完全に再生するまではまだ時間がかかる。お前もレオと一緒に休んでおけ」
「……先生、それよりこの訓練の目的って何なんですか?」
文字通り骨を折って頑張ったんだから、それ位教えて欲しい。だがトリスタン先生は表情を引き締めて首を振る。
「分からないならば、全員が体験するまで待ってろ。ただ、これは必要な訓練だ」
結局全員するんかい!?
骨折り損だよチクショー。すまんニコル、頑張って耐えてくれ。
よろよろと訓練場の端に向かう僕の後ろでは、すでに次の試合という名の可愛がりが始まっていた。先客のレオの横に座り込むと、先生の木剣を脳天に貰っているニコルの姿が見えた。
でも僕の時より大分手加減されてるな。たんこぶだけで済んでるし。
べそかいてるニコルをぼーっと眺めていたら、横から視線を感じた。
目を向けると、固い表情のレオ君がこっちを見ていた。
「どうかした?」
なるべく気さくな感じで話しかけたが、レオは、あ、とか、う、とか呟いて黙ってしまった。
固く、睨みつける様な眼差しからは、余り機嫌のいい状態は感じられない。
「やー、痛かったねー」
「……そうだな」
緊張を取ろうと軽い感じで模擬戦の感想を漏らしてみたら、返ってくるのはやっぱり固い声。ぷいっとそっぽを向いてしまったレオからはもう何の反応も期待出来そうに無い。
駄目だ、アンドレイさんより手強いよこの人。ここは下手に刺激しないようにしよう。
僕はそっとレオから視線を外して、泣きべそかきながら近づいてくるニコルを迎える事にした。
◆◆◆
全員打ち据えられた頃には、もう終鈴間近だった。
汗一つ流さず生徒全員の相手をしたトリスタン先生は、体育座りで並んでいる皆の前に、模擬戦前と同様に仁王立ちしている。
生徒全員はいずれも一度ボコボコにされた上で回復魔術を施してもらっているので、負傷は残っていないものの、その心には消えない傷が残っているだろう。
憔悴した雰囲気が漂っていることが、その事実を物語っていた。
木剣を地面に付き立て、その上に両手を置いているトリスタン先生は厳かに話し始めた。
「さて、この訓練の目的を説明してやろう。それは、『痛みを知る』事だ。お前達の中には剣術の訓練などで怪我を負った経験がある者も居るだろう。だが、実際の戦闘の様に殺意や敵意を込めて打たれた者は少ないはずだ」
すいません、修羅場なら経験した事があります。殺意も敵意もアリアリで。
「いずれ騎士になった暁には、戦場に出ることもあるだろう。魔獣や魔物との戦いに出ることがあるだろう。その前に、痛みを知り、そして克服しておいて貰わねばいかん。戦場で、痛いからと言って待ってくれる者などいない」
正論だ。せめて最初に言っておいて欲しかったけど。理不尽な出来事への耐性も付けろって事ですかね。
と、そんな事を考えていたら手を上げる生徒が居た。いの一番にのされたレオ君だった。
「先生質問があります」
「次回からは俺が質問を許可してから手を上げろ。何だ?」
トリスタン先生は高説を邪魔されたにも関わらず、忠告一つでレオの質問を受け入れた。レオは僕の方に指を向ける。
「この模擬戦において、生徒によって先生の攻撃に差があったように見られます。フィアルとその後に続いたニコルでは、ニコルに対して明らかな手加減が見られました」
「(……嘘吐け。どっちの剣も見えなかったぞ)」
ニコルはもう治った頭を撫でながら囁くように毒づいた。いや、僕の腕を折った剣がニコルの頭に決まっていたら、きっとニコルはここにいないと思う。
じゃあどこに居るかって? 墓の下かな。
レオの質問を聞いたトリスタン先生は、事も無げに答えた。
「当たり前だ。実力も気概も無い連中を散々打ち据えたところで、自主退学生が増えるだけだ。その者の性格や能力に応じて、へこたれ過ぎん様に打っているだけだ。逆に、多少自分の腕に覚えがあるような連中には、鼻っ柱が高くなり過ぎんよう強めに打っている」
先生、僕そんなに実力無いのに腕折られました!? 骨折られたの僕だけですよ!! 僕の鼻、ピノキオ並に長かったすか!? 日本人の平均位の鼻の高さだと思います!!
むしろ鼻が高い奴は他の連中……などと心の中で愚痴っていると、周りの空気が変化したのを感じた。
どうも二つの空気が混在して感じる。
一方は消沈した空気。これはたんこぶや擦り傷程度の軽い怪我を負った連中から。
もう一方は羞恥の空気。これは、痣や裂傷などの深めの傷を受けた者達で、主に上位陣の面々から放たれている。
トリスタン先生も生徒達の様子が変わった事に気付いたのか、にやりと人の悪い笑みを浮かべる。
「気付いたようだな。手加減された者達はまだまだ精神的にも未熟と判断されている事を忘れるな。そして、少々傲慢の気がある連中にとって、悲鳴を上げるほど打ち据えられた記憶は自分の未熟さを自覚する良い機会になっただろう」
あーうん。レオを筆頭に上位陣はかなーーり痛めつけられてたからねーー。確かに全員悲鳴を上げてたわ。だから羞恥の気配か。
と、そこでトリスタン先生が僕の方に顔を向ける。僕を見つめるトリスタン先生の顔は、悩むような訝しむような、曰く言い難い顔に成っていた。
ゴ~~ン…… ゴ~~ン……
タイミング良く終鈴の鐘が鳴る。トリスタン先生は表情を引き締めると、皆を見渡す。
「本日の授業は以上だ。解散」
先生の許可が出たので、三々五々と皆は校舎へ帰っていく。僕も帰ろうと動き始めたところで、
「フィアル、ちょっと来い」
トリスタン先生に声を掛けられてしまった。
◆◆◆◆
誰も居なくなった訓練場の隅っこにあるベンチに、何故かトリスタン先生と隣り合わせで座っている僕。
何だろか、剣の構え方とかから、全然剣の練習してない事がばれたんだろうか。やっぱり騎士に成る為には、剣の腕も磨かないといけないよなぁ……。
ちょっと暗雲が立ち込めてきた未来に落胆していると、トリスタン先生は僕と視線を合わせないように話しかけて来た。
「フィアル、ロイはお前に剣の修行をさせていたのか?」
「…? いいえ。父さんは別に僕に剣の修行をしろ、とは言ってませんでした」
むしろ、農場を継がせたかったんでは無かろうか。農作業のやり方とかを他の農家の人に聞いては、僕に熱心に教えていたし。
トリスタン先生は軽く頷いて納得してらっしゃる。
「だろうな。騎士になる義務はお前の子どもの代に発生する。ロイの性格からして、必要も無いのに剣の技をお前に授ける事は考え難い。だとしたら、だ……」
トリスタン先生の目が細まり、横目で僕を睨みつけてくる。その目には強い疑念の色があった。
「模擬戦でのお前の動き………いや動きだけでは無いな、痛みに耐える技術はどこで覚えた?」
「い、痛みに耐える技術? そんなのもがあるんですかぁ?」
出来るだけわざとらしく成らないよう嘯くが、トリスタン先生の眼光は揺るがない。
「ある。痛みを意識して感じないよう抑制し、痛みによる行動の障害を除く技術がな。ただしそれを習得するには、何度も痛みを経験して痛みに慣れることが前提だ。一度なら戦いの高揚で無意識に痛みを抑制したと思えた。だがお前は二度耐えて俺に剣を向けた」
ついにトリスタン先生の顔がこっちに向けられ、ぐぐっと近寄ってくる。
「お前は、痛みを伴う戦いや修練を積んだのか?」
「……死霊術師の呪いで死に掛けた事なら、い、一度だけ」
あれは皆が知ってる事だからばらしても構うまい。僕の発言が余りにも意外だった為か、トリスタン先生は怪訝な表情で顎を撫でる。
「そう言えば、そんな事も言っていたな。死霊術には詳しく無いからお前に掛けられた呪いに関してほとんど分からんが……」
「あれは、死ぬほど苦しかったですね。ほっとけば本当に死ぬみたいでしたし」
必死に誤魔化そうと演技してきたのが功を奏したか、トリスタン先生の顔から疑念の色が薄くなっていく。
「ふむ……まあいいだろう。その年で、それだけ痛みのコントロールが出来る事は別に悪いことではないしな」
先生は立ち上がると校舎へ向かって歩き出す。どうやらお茶を濁すことに成功したみたいだ。
溜息を吐きたい衝動を堪えながら、僕も腰を上げて校舎へ向かう事にする。
だが、最後にトリスタン先生が振り向いて声をかけて来た。
「ああフィアル。お前は真面目に剣術の稽古をした方がいいぞ。あの構えは酷すぎる」
この日一番の心理的ダメージを負いました。一人だけほぼ無傷なのは、神様が許してくれなかった様です(涙)。
◆◆◆◆◆
また別の日の夜。ヒーロー定例会議が開催される事になりました。
テレビ電話形式なので会場はそれぞれ異なります。勇は自宅の部屋から、乱は魔術師ギルドの寮の自室から、僕は………寮のトイレから。
「便所飯ならぬ、便所電話か。大変そうだな翔?」
にやにや笑いの勇をめっちゃ殴りつけたい。通信機を、ボタン一つで電気ショックが流れる仕様にしておけば良かった。
「……で、今日の議題は何なの?」
乱は勇の言動をスルーして、淡々とした口調で会議を進める。
このヒーロー定例会議の目的は三つだ。
1.この世界での治安向上を目標とした情報交換
この国、いや大陸全体で言える事だが、治安が悪い。
普通の人間の悪党だけならまだしも、この世界にはアンデットだのモンスターだの魔獣だの、人間以外の脅威がわんさか存在している。
そんな奴らを討伐する為に騎士団などが存在しているわけだが、それも手が足りている状態とは言い難い。
辺境の村が壊滅したなんて話は毎月のように聞く話だ。下手すると大都市が襲われて半壊した、なんて事も噂に上ることもある。
モンスター達には悪いが、ヒーローとしてそういう事態は見過ごせ無いので、将来的にモンスターの討伐を行おうと考えている。他にも、盗賊ギルドや暗殺ギルドなどの噂も集めておき、折を見て店仕舞いして頂く予定である。
2.他のヒーローの探索
この世界に来たのが僕ら三人だけとは限らない。他にもまだヒーロー仲間が居る可能性が考えられるので、各地で悪党を倒していたり、または災害などから人々を守っている正体不明の人物についての情報を集める事にした。
3.この世界と『神様』についての情報収集と考察
便宜上『神様』とは呼んでいるが、僕らをこの世界に集めている謎の存在の意図が分からない。『神様』の言った事をそのまま信じるのは簡単だが、その腹の内に別の考えがある事も否定出来ない。
知らない内に悪行の片棒を担がされるのは業腹なので、『神様』の存在とこの世界について調べを進める予定だ。
この3つの事案に対して、定期的に会議を開き、情報交換や議論を行う為の会議が、『ヒーロー定例会議』だ。今日は、各情報に対する収集作業の役割分担についての話合いを予定している。
「今日は情報収集の役割分担について提案があるんだ。僕ら三人はそれぞれ所属が違うだろ? 僕は騎士団関係だし、勇は教会関係だ。乱は魔術師ギルドで丁度ばらけているんだよね」
僕の話に勇と乱は画面の向こうで、なるほど、と頷いている。
「確かにその通りだ。別々の組織に属しているから、毛色の違う情報が集められるって事だな」
「……そうなると、自然と三つの目的それぞれに分かれて情報収集した方が良さそうだね」
「うん。僕は騎士団から治安に関しての情報が集められると思う。乱は、奇妙な事件の際は魔術師ギルドから魔術師が派遣されるって聞くし、ヒーロー仲間の情報が集め易いんじゃ無いかな? 勇は教会関係者って事で、『神様』の事を調べられるかも知れない」
「『神様』関係の情報は年単位で進展は無いと思うぞ。現状で調べられる範囲は調べたが、資料が少なすぎる。俺が王都の教会に行って、そこである程度上の地位になってからしか、本格的に調べる方法が無い」
勇は苛立たしげに机に頬杖を付いた後、明後日を見ながらお手上げとばかりに両手を上げる。
「それは仕方無いよ。少しずつやっていこう」
「ヒーローについては………少し難しいかもね。どちらかと言うと、『凶祓い協会』の方が情報は集まり易いんじゃない?」
「それだっ!! そうだ、それを忘れてたぜ!!」
突如勇が身を乗り出す様に画面に近づいたので、僕と乱は一様に身を引く。
「何だよ勇。教会辞めて凶祓いになるのか? 結構ブラックな派遣労働者みたいな労働環境って聞くけど」
勇は小馬鹿にしたようにチッチッチと指を振りながら舌を鳴らす。格好付けたいんだろうが、動作が古過ぎて何か滑稽だ。
「違うぜ翔。俺が言いたいのは………『ヒーローギルド』の立ち上げだ!!」
ひーろーぎるど?
「なんじゃそりゃ?」
「これからヒーロー仲間がどんどん増えていくかも知れないだろ? だったらいつまでも「ヒーロー定例会議」みたいな芋臭い名前で集まるのはナンセンスだぜ。ここは、凶祓いギルドとかと同様にギルドを作るべきだ!!」
「……ギルドとは本来、商工業者の独占的・排他的な同業者組合の事を指すんだけど。僕らの活動はお金取らないから、非営利団体としてはギルドの名称はおかしいんじゃない……?」
「んだよ、なら『ヒーローズ・ボランティア』とかにしろってか? ……無いな」
勇の心の琴線に触れなかったようだ。
「うーん。名称はともかくとして、おいおいヒーローが集まれる場所とかも作りたい、ってのは確かにあるなぁ。皆で鍋を囲んだり、日本の話をしたりして……」
「ちびっこクラブか。まあ、日本のヒーローだけ来るとは限らねぇけどよ……。あ、ギルド長には翔を推すぜ!」
空想に浸ってたところで、勇からとんでもない推薦を貰ってしまった。
「待て。何で僕? てか勇がやりたいんじゃないの?」
「俺昔チームリーダーとして活動してたけどよー。滅茶苦茶大変なんだよ、リーダーって。喧嘩する仲間の仲裁したり、活動のための事務仕事もこなさなきゃいけなかったり……」
勇は過去の辛い記憶に思いを馳せているのか、遠い目をして空を見つめる。
「だから、そういう面倒臭いのは翔に丸投げしたい! 俺は副ギルド長として、現場で活躍してやるぜ!」
「お前、立ち上げの際の事務処理担当な。ギルド長命令だ」
「妥当な判断だね。仕事の振り分けが上手いのがリーダーの秘訣だ」
勇は頭を抱えて、Oh,My God!! とか叫び、そんな情けない姿を乱は暗い笑みで嘲笑っていた。
本日のヒーロー定例会議は、大して進展も無く終了しました。ああ、眠い……。
………
そして忙しい日々は過ぎていく。少年時代の輝かしい思い出が積み上げられていく。輝かしき黄金時代はこれからも続くだろう。
しかしその黄金にも、多少の曇りがあってこそ磨き甲斐があるというもの。充実した日々を過ごすには、多少の苦労も必要なのである。
ヒーロー達にとっての曇り、磨き取り除かねばならぬ汚れ、それは王都の地下で密かに蠢動していた。
………
王都の地下に存在する地下水道。古代に作られ、今は忘れられ放置されたその迷宮には様々な悪しき者達が潜んでいると言われている。
不死者、狂人、犯罪者に暗殺者。他にも魔物の類すら隠れているとの噂もある。
少なくとも前四つについては正解である。
地下水道にある、恐らく建設時に休憩小屋として作られた、奥まった場所にある小部屋に小さな光りが灯っていた。
そこではいい臭いのする夕餉の香りが漂っていた。
「おいボーグどん、出来たぞ。夕食のベーコンエッグ」
「お前喧嘩売ってるブヒ? 献立に豚を混ぜるなとこの前言ったブヒ!!」
部屋の隅で写真機のマジックアイテムを磨いていたボーグダインは鼻息荒く夕飯を持ってきたデイボーに食って掛かる。さすがにもうパンツ一丁でなく、古びた革鎧を装備し、長剣を腰に佩いている。
明らかに手入れの具合が マジックアイテム>長剣 なのがボーグダインらしい。
「我慢せい、ベーコン安かったんじゃから。お前の好物のベイクドポテトも添えてやったから文句言うな」
デイボーは有無を言わさず夕飯の皿をボーグダインの前に置き、向かい合って自分も座り自分用の皿から夕飯を食べ始める。ボーグダインは渋い表情をしていたが、背に腹は変えられないのか写真機を大事に懐に入れてフォークを手に取る。
彼らが夕飯を食べている途中で、部屋の扉が開いて、ボロ布の塊が入ってくる。
「斥候のスケルトン鼠の配置が完了したぞ……。ああ疲れた……」
「お疲れさん、ハセウムどん。例の店までのルート構築は出来そうか?」
デイボーはボロ布の中にいた骸骨、ハセウムを労う。ボロ布から瘴気を漏らしている死霊ハセウムは、コキッコキッと肩を鳴らしながら近くの椅子に座り、背もたれに身を委ねる。仕事を終えて帰って来た親父そのままの姿であり、とても死霊の王には見えなかった。
「何とか行けそうだ。暗殺者の存在は今のところ感じられん。私達の首が飛ばない内に、少しでも資金と資材の確保を行わなければな」
「確か、襲撃目標は木材問屋の大店だったブヒね。もっと金のありそうな所を狙った方がいいんじゃないブヒか?」
「そんな所は相応に警備が厳重じゃからな。ワシ等の戦闘力はそれなりに高いが、何せ数が少ないからのう。やれる所から地道に行く方が近道じゃ」
「金はともかく、木材の確保は無理じゃないブヒか? 地下水道に持ってこれるような大きさの建材は無いと思うブヒ」
「どっちかと言うと、必要なのは木材を加工する工具なんじゃ。ワシはその気になれば廃材からでもゴーレムを作れるが、工具が無いとそれも出来ん。動力源の魔石は、ハセウムどんの魔力を使えばいくらでも作れるからな」
「結構体に負担がくるから、余りアテにして欲しくないんだが……」
ハセウムはそのまま本当の白骨死体に還りそうな位に、瘴気を薄れさせて項垂れる。
ボーグダインはベイクドポテトを頬張りながら、こいつも苦労してるブヒね、と胸中で呟いていた。
「一週間後に大きな木材の搬入があるらしいから、その直前ならば現金が用意されているはずじゃ。市場で関係者の奥さんに聞いたから、間違いあるまい」
「何で一番顔ばれしちゃいけない奴が外に出て情報収集してるブヒ……」
ボーグダインが呆れ顔で突っこむ。デイボーは唇を尖らせて反論する。
「ハセウムどんは見た目骸骨じゃから外に出れんし、ボーグダインは犯罪者として有名過ぎるじゃろう。ワシが出るしか無いんじゃ。変装もしとるし、大丈夫じゃって!!」
今一つ安心できないボーグダインだったが、それでも久しぶりの荒事に胸が躍っているのも確かだった。
夕飯を食べ終わったボーグダインは腰の長剣を僅かに鞘から出し、その白刃を見つめながら悦に入ったように笑う。
「オッオッオッ、まあ最近体が鈍ってきた気がするし、思いっきり暴れられるなら悪くないブヒ。そして、事件が起こればきっと彼女も出てくるはず………待ってるブヒ、『マジカル★ルナティクス』!!」
「いや、出て来られると困るんで、極力こっそりやるからな」
「そうそう。ボーグダインには主に工具や金貨袋の運搬を頼む。陽動に私のスケルトンを使うから」
「そ、そんなんありブヒか~~~~~~~~!!??」
ボーグダインの悲痛な声が小部屋どころか地下水道に木霊しかけ、ハセウムとデイボーによって慌てて押さえ込まれた。
幸い、暗殺者の耳には届かなかった様であった。
隠し小部屋の三悪人。彼らの悪の目標へ向けた忌まわしき計画は順調に進行中だった。少なくとも今は……。
◆◆◆◆◆ ◆
フィアルの故郷の村では、二人の少年少女が必死に訓練を行っていた。
村にある空き地で、徐々に熱を増してきた陽光の下、エルフの騎士が剣の指導を二人に施している。
「遅い! フェイントに気を取られ過ぎるな。肝心なのは本命の一撃だろう、相手の気を逸らすことばかりに集中するな」
「くっ……、はいっ! ルリィ先生!!」
剣を取り落とし地に膝を付いていた少女、リーザは悔しげに唸りながらも、剣を拾い上げてエルフの女騎士ルリィに頭を下げる。頭を上げたリーザの顔は高い目標に向かって邁進する剣士のそれであり、ひたむきに努力するその姿勢はある種の魅力があった。
「よしっ、次はサラ、来い!」
「はい!」
リーザと入れ替わるようにサラが前に出る。髪を後ろに束ね、リーザに負けぬ強い意志の感じられる瞳でルリィを見上げる。その姿はまさに美少女剣士、されど男だ。
傍から見れば少女剣士達の修行なのだが、中身は男女一名ずつの剣の修行である。
昔のサラであれば、か弱く儚げで、剣など持つ印象は無かっただろう。フィアルが見たら白昼の幻覚と思うはずだ。
しかし今の姿には弱さは無い。親友の隣に立つ為に、その背中に追いつく為に真剣に努力する姿は、騎士学校の生徒達以上のやる気を感じさせる。
それはリーザも同じ事。胸に秘めた想いを糧にひたすら剣の腕を磨く。二人の思いは同じであった。
フィアルの傍に………その思いだけで彼と彼女は、厳しい修行に耐えていた。
「おーおー……。今日も頑張ってるなぁ」
ルリィへ鋭い打ち込みを仕掛けるサラの姿を、広場の隅に座って教会の経典を読んでいた勇は、面白そうに眼の端で見ていた。
「罪作りな男だねぇ、翔。あんなに二人に愛されて……。これも常日頃からヒーローとして頑張ってきたおかげかな」
勇はこの世界に来て初めて出来た同郷の友人の顔を思い出す。悪態を交わしてはいるが、彼なりに翔の事は気に入っていた。
彼を見ていると、理想に燃えていた青臭い頃の自分を思い出す。斜に構えている自分が馬鹿らしくなる清純さ。
「ヒーロー稼業か……。実を言うとそこまで未練があったわけじゃ無いし、こっちの世界で気楽にファンタジーを楽しめれば良かったんだけど……」
勇は経典を閉じて、立ち上がる。目の前ではサラがルリィの剣によって倒され、未熟な点を指摘されていた。
勇は経典を置いてルリィの元へ歩いて行く。
「ヒーローギルドも立ち上げる事になったし、副ギルド長が弱いと思われるのも腹が立つしな。もっかい
もう一回、修行し直しますか」
勇の胸を、前世のでの戦いの日々、それによって得た平和と幸せそうな人々の顔が過ぎ去っていく。その時に感じた充実感と満足感を、今思い出していた。
「ルリィ先生! 俺にも稽古を付けて下さい!」
「お、レオンが剣の修行に参加するのは珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
ルリィが積極的になった生徒に向ける嬉しそうな表情を浮かべる。勇はにやりと笑い、冗談めかして言葉を紡ぐ。
「ええ、ちょっとヒーローに成ってみたくなりましてね」
もう一回な、と心の中で勇は付け足した。
ふう、漸く書き上げた。いやぁ翔の学生時代をそれなりに描写できて満足だ。
さてちょっと読み返すか………あれ、変身してないな?
てかここ数話で変身してるのって、ルナティクスと出会ったシーンだけじゃん。これじゃ変身ヒーローものとしていけないじゃん!?
じ、次回こそは翔が変身してヒーローとして活躍するシーンを入れます!!
でも、多分また一ヶ月先くらいになるでしょうけど……。
グダグダ進んでて御免なさいm(_ _)m




