第18話 遭遇! 王都を騒がす魔法使い!!
前回投稿が大分前なので前回のあらすじ。
王都の騎士養成学校に入学した主人公のフィアルこと翔。厳しい学校生活を送りながらも、友人に恵まれフィアルは頑張っていた。そんな中、王都で謎の魔法少女の噂を耳にする。この世界にそぐわないその姿から、自分と同じヒーローの一員では無いかとフィアルは推測した。そして恩師の娘ネミッサと共に街中に出かけたフィアルは、件の魔法少女を探している最中に豚人の戦士に襲撃されてしまう。
そこに、探していた魔法少女が降臨した。
「ルナたんキターーーーー!!」
突然嬌声を上げたのは、ネミッサさんを捕まえていた当のボーグダインだった。ボーグダインはネミッサさんをその場に下ろすと、素早く懐に手を入れ、ほんのり光る宝石が埋め込まれた小さな箱を取り出す。
ピカッ! ピカッ! ピカッ!
そして箱の上に付いてる覗き窓に顔をくっつけると、宝石が鋭い閃光を何度も発する。
もしかして、目晦ましか!?
「……ぬぅ!? やはり……どんなにきわどい角度でもルナたんの魅惑のお宝が写ってないブヒ……」
思いっきりずっこけてしまう。こいつ……単なる際どさの探求者だ。
どうもボーグダインの手に持っている箱はデジカメのような魔法の道具らしく、箱の裏面に浮かぶ魔方陣に『マジカル★ルナティクス』のスカート写真が表示されている。
『マジカル★ルナティクス』……長いからルナティクスでいいや、は呆れかえった表情で魔法道具に向かって唸るボーグダインを見下ろしている。
「……それ古代のレアアイテムでしょう? どこの遺跡から発掘してきたか知らないけど、売れば一生遊んで暮らせる品よ?」
「ふんっ、このボーグダイン様はそんな金に興味は無いブヒ。そんな物より、ルナたんの超絶鉄壁スカートの中身の確認が大事ブヒ!」
……なんて上級者なんだ……。『オーク族一の大戦士』の名が息して無いぞ。これが萌え豚ってやつか(違う)。
「ネミッサさん、こっちに……!」
「…うん、分かった…」
ボーグダインの注意がそれたところで、ネミッサさんに近づいてこっそり声をかけ、道の端へ誘導する。当のボーグダインはルナティクスに集中していて、全くこっちに気付いていない。
ネミッサさんと一緒に離れる時、ルナティクスの顔がちらりとこっちを向き、そして驚きに目が見開かれた。
「ブヒッ?」
その驚きの表情に釣られたのか、ボーグダインの顔がこっちを向く。
「あっ」
目がばっちりと合ってしまった。くそっ、こうなったらネミッサさんだけでも……!
僕は急いでボーグダインとネミッサさんの間に割り込むが、ボーグダインは興味無さそうにルナティクスに向き直る。
「あ、もう帰ってもいいブヒよ。ルナたん来たからもう用は無いブヒ。危ないから下がってるブヒよ」
「……はぁ……」
折角のお許しが出たので遠慮なく離れさせて貰う。どこかで見たようなキャラしてんな、ボーグダイン。
しかしどうしたものか。ルナティクスと接触したいが、この状況では如何ともし難い。ここはどうにかして彼女に発信機でも取り付けて……。
そう思っていたら、ルナティクスが杖をボーグダインに突きつけた。
「ボーグダイン、ちょっと用事が出来たから今日は急ぎめで貴方を片付けてあげるわ」
「えぇっ!? 今日はオープニングの主題歌は無しブヒか!?」
オープニングとかあるんかい!
「ええ、いきなり必殺技で決めさせてもらうわ……『マジカル★ルナティクス・パワーチャージ』!!」
ルナティクスに降り注いでいた月光がその光量を増していき、それに比例してルナティクスを中心に目視出来るほどの魔力の渦が発生する。
ボーグダインは血相を変えて右往左往しだす。
「そ、そんなーー!? まだ前座の軽い格闘戦も、窮地に陥った俺様が人質取るシーンも、それに「くっ、卑怯な!」って悔しがるルナたんも見てないブヒーー!?」
何で台本取り出してるんだよ!? てかそんなシナリオ考えてたのかよ!?
「毎度毎度……そんな茶番に付き合わせないで!! ……『マジカル・ムーンライト・レイ』!!」
ルナティクスの体に渦巻いていた魔力が彼女の杖に収束し、その先端から極大の光線が雷撃を纏って迸る。
「ブヒイイイイイイイィィィィ!!??」
哀れボーグダインは台本ごと光線に飲み込まれる。光線は地面をも焼き、ボーグダインを中心に爆発と熱風を巻き起こす。
「うおっあっちゃあああああ!?」
「熱っ! フィアル君、こっちに!」
熱風をもろに受けてた僕は、ネミッサさんに引っ張られて近くにあった樽の陰に滑り込む。多少はマシになったが、まだ熱い! そして砂埃で目も開けられない!!
三十秒ほど風と砂埃の洗礼を浴びていたが、徐々にその勢いは減っていき、一分もかからない内に路地は静寂を取り戻した。
恐る恐る道の真ん中を見ると、こんがり焼けてパンツ一丁になったボーグダインがクレーターの真ん中に倒れていた。台本は炭化してるのに、何で本人は日焼け程度で済んでるんだ?
「ブ、ブヒ……ご褒美頂きましたブヒ……。今日は、これで満足するブヒ……」
息も絶え絶えに気持ち悪いことを言い出したボーグダインは、そのままガクッと全身の力を抜き気絶する。息はしているみたいだから、死んではいないだろう。
「もうっ、これっきりにしてもらいたいわね。さて……後始末っと」
ルナティクスは溜息一つ吐くと、くるくると不思議な踊りを踊り始める。杖をバトンに見立て、バレエを踊るように動き回る。
杖を回転させながら放り投げ、落ちてきた杖を受け止めた後、地面に向かって杖を向ける。
「『マジカル・ルナヒーリング』!!」
ウィンクしながら杖を持っていない方の手でピースサインを額に当てるポーズを取るルナティクス。
すると、杖の向けられた地点を中心に月光が降り注ぎ、広がっていく。
月光の当たった場所から、破壊された跡が修復され元の状態に戻っていく。
………いいな、アレ!! あの力が有れば、パトロン探しなんてせずにヒーロー稼業が出来そうだ!
是非とも仲間になって欲しいな。今なら少しくらい話ができるか?
そう思ってルナティクスを見上げていたら、こちらを見下ろすルナティクスと目が合った。ルナティクスはこっちをじっと見ると、僕に向かって一つ指を鳴らす。
僕の懐の中からカサリと何かが擦れる音が聞こえ、重みが増すのを感じた。
ルナティクスは路地の向こうを一瞥すると、マントを翻して振り返る。
「漸く衛兵達も来たようね。じゃあね、ボーグダイン。願わくば、今度は改心した貴方に会いたいわ」
「……くっくっく、ボーグダイン死すとも第二第三のボーグダインが必ず現れれれれ……ブヒ」
ルナティクスの別れの挨拶に答えるべく身を起こしたボーグダインだったが、HP1でしかもステータスが毒状態だったように、1ターンも持たずに再度大地と抱擁した。
ルナティクスは溜息一つ吐いて屋根を蹴って飛び上がる。その姿はどんどん上昇して、天に浮かぶ満月に吸い込まれて行き、姿が見えなくなると同時に月も消え、元の昼下がりの光景が戻ってくる。
「うおおおお! 今日も『マジカル★ルナティクス』かっこよかったぜーー!!」
「ちえっ、今日はボーグダインとのコントとバトルは短めだったなー。次回に期待!」
「ああ……ルナティクス様……。今日も素敵でしたわ……」
「くうっ、やはり見えん……。斜めに飛び上がってるはずなのに、何故スカートの中が見えないんだ…?」
路地に居た人達(主に男)は様々にルナティクスの活躍を楽しんでいたようだ。何か下町の人達にとって娯楽になってるようだ。
「……初めて見たけど、想像以上に凄かったわ……」
ネミッサさんも呆然と呟いている。その横から衛兵さん達がどやどやと路地に押し寄せてきた。ガンツさん達の姿は無いので、パトロール中だった衛兵さん達だろう。
「くそっ! いつも夜中に騒動起こすから油断してた!!」
「全く懲りないな、この豚も……。おい、中央区の特別地下牢の使用許可は取ってあるか?」
「ばっちりだ。これでこいつも逃げられないぜ。何せあそこの警備は大門留置所の三倍の警備人数だからな」
フラグが立った気がするが……。それを指摘する間も無く、ボーグダインは衛兵さんに縛り上げられて連れて行かれた。そう言えば、あのカメラ型の魔法道具が見当たらないけど、どこに行ったんだろう?
興味を引かれてそこらを見回す僕だったが、急に手を引かれて連れて行かれる。
「行こう、フィアル君。やっぱりここら辺は物騒だから、早く家に帰ってお茶しよう。あ、今日は泊まって行くよね?」
「ネミッサさん……明日からまた授業ですから、夕方には寮に帰りますよ?」
えーー!? と悲痛な声を上げるネミッサさんを宥めながら、街路まで早足で向かう僕ら。
その途中でこっそり懐を検めた僕は、
『今宵、月が頂点に差し掛かる頃、貴方の元に参上する。 マジカル★ルナティクス』
そう日本語で書かれた綺麗な手紙を発見していた。
丸文字で書かれていたせいで、数秒ほど解読に時間が掛かったのは内緒だ。久しぶりに丸文字見たせいで、日本語と認識出来なかったんです、はい。
◆
その日の夜、僕は寮の部屋を抜け出して屋上の屋根の上に居た。何故かって? 見回りの人の目と耳が届かないのってここ位しか思い付かなかったんです。
「眠いよーー。翔、明日にしようぜ、明日ーー……」
「今日来るって言ってんだろうが。もうちょっと気合入れてよ、明日やばいのは僕の方なんだから」
僕は横に浮かぶ画面上の勇に叱咤しながら、風吹き荒ぶ中を震えながら立っていた。
お肌を気にしてる勇と違って、僕は睡眠不足がガチで生死に直結するんだから。頼むから早く来てくれルナティクス。
祈りながら待っていると、月が丁度真上に差し掛かった時、ふと目の前の月光がその光を強めた気がした。
それは気のせいなどで無く、一部だけ光の強さが増して光の柱が出来上がる。
その上を目で追うと、そこには、ゆっくりと舞い降りる『マジカル★ルナティクス』の姿があった。
「やべっ、この幻想的な演出……。魔法少女系ヒーローも侮れねぇな」
勇も唸りつつ感嘆の呟きを漏らして上を見ている。昼間も思ったけど、演出力に関しては僕らの中でも結構上手な気がする。
……で、でもヒーロースーツの演出能力だって凄いんだからねっ! 背景の爆発シーンも実は十種類くらい違いが……。
そんな事を考えている間に、ルナティクスは屋上に降り立った。
同時に光の柱も消える。助かった、あれがずっと続いていたら流石に見回りの人に気付かれるところだった。
「初めまして……って挨拶も変ね、昼に会ったんだから。こんばんわ。私今王都で噂の『マジカル★ルナティクス』。ルナルナって呼んでもいいよっ☆ミ」
右目の前に横にしたVサイン状の指二本をかざし、ルナティクスは僕に向かってウィンクをしてくる。
しらーっとした雰囲気が僕とルナティクスの間に流れる。勇もぽかんとした顔でルナティクスを見返している。……反応に困るねん、そのフリ。
「あはは、ちょっと挨拶が古かったかなぁ……。 っ!? その横の人は……?」
ルナティクスは驚愕に目を見開きながら、僕の横に浮かぶ勇の画像を指差している。
「えーと、一応初めまして。僕の名前は『的場 翔』。変身スーツ系ヒーローです」
「同じく初めまして、俺は『幽谷 勇』。妖怪バスター系ヒーローだ」
僕ら二人が名乗り口上を述べた瞬間、僕ら二人の姿が変わる。
僕はいつもの赤いヒーロースーツ姿に、勇は阿修羅モードの長大な布を纏った姿に変身している。
決まった、タイミングもばっちりだ。勇と示し合わせて、ルナティクスが現れたらこの演出をする仕込みをしてたんだよね。爆発演出を使えなかったのが心残りだ。
ルナティクスは混乱の極みにあるようで、百面相でもするようにその表情をころころと変えている。
「え? 変身スーツ系……ヒーロー? 単なる日本人じゃないの? わざわざこんな場所まで来たってことは日本語が読めたって事だろうけど……。る、ルナルナ分かんなーーい!?」
ルナティクスさんが頭を抱えてへたり込んでしまったので、話し易いようとりあえず変身を解いてみる。勇も一緒に変身を解くと、ルナティクスさんはちょっと落ち着いた様子になった。
「あーびっくりした-……。えっと、まだ事情がよく分からないんだけど……その、よろしく、的場君に幽谷君」
「名前呼び捨てでいいよ。この世界に恐らく殆どいないはずの日本人仲間だし」
「そうそう。俺も勇でいいぜー。何ならキゃピキャピボイスで『勇君(はあと)』とか言ってくれてもよし!」
「んな阿呆なことばかり喋ってる限り、妹との交際は絶対に認めんぞ」
「はっはっは。お義兄様、最近ネージュが俺の言動スルーしてくるんです。寂しいっす……」
僕が何か言うまでも無く妹に相手されてないのか。何か可哀想になってきた。
「………随分仲いいんだね……。あ、やば! 気が抜けてテンション下がったから……!?」
ピコーン! ピコーン! と某宇宙の超人のカ○ータイマーよろしく、ルナティクスの胸元に付いていたブローチが赤く点滅する。
ルナティクスは僕らが駆け寄る間も無く膝を付き、その体がブレ始める。
「ルナティクス!!」
「おい、大丈夫か!?」
遅れて駆け寄って行くが、ルナティクスはテレビの映像が乱れるようにその姿を変えていき、僕らが目の前に着いた時には、おかっぱ黒髪にローブを羽織った姿に変わっていた。
…どこかで見たような?
「うう……最悪の気分だ……。まさか覚悟を決める暇も無く正体がばれるなんて……」
陰鬱、かつか細い声でそのおかっぱ頭に姿を変えたルナティクスは呟いている。なんか、口調が男っぽくなってる?
「お、おい……。まさかお前……」
横の勇は何か勘付いたのか、口元をひくつかせながら変化したルナティクスを見下ろしている。
ルナティクスは、一度大きく息を吸い込み、そして長ーーーいため息を吐くと、立ち上がって僕達に顔を見せる。
「……今度こそ本当に初めまして。月輪乱。乱、って呼び捨てでいいです……」
そう言って、ルナティクス改め、乱さんは日本人らしくぺこりとお辞儀した。
「……あと言っておくけど、僕は男です……」
「ええっ!?」
「やっぱりか」
僕と勇の異なる二つの反応が月夜に木霊した。
◆◆
顎を落とさんばかりに口を開けてる僕を見ながら、乱は憂鬱そうにまた溜息を漏らす。
「はぁ……。絶対勘違いされてるだろうから、ルナティクス状態で説明したかったのに……。はぁ……」
「えっと、もし良ければ事情を聞いてもいいかな? あと前世のことと、この世界に来る原因についても……」
「まあ待て翔。乱の気分も落ち込んでる様だし、まずはこっちの事情から話そうじゃないか」
勇にしては珍しく乱を気遣う発言が出た。男には結構ぞんざいな扱いをしそうだが、勇の表情は居た堪れない、悩んでいるような表情だった。
「それもそうか。じゃあ……」
そうして僕と勇はそれぞれ、今までの経緯を説明する。前世の事、この世界での事、そして転生の時に出会った『神様』のこと。
全てを聞き終えた頃には、乱の様子も大分落ち着いたが、代わりに難しい顔で考え込んでいた。
「……以上が僕らの経歴なんだけど、何か質問はある?」
「……一ついいかな? 『ヒーロー』って何?」
そう問われて僕と勇は顔を見合わせる。
「いや、その……自称してるだけで別に学問的な分類があるわけでは……」
「そういや、『ヒーロー』云々言い出したのて翔の方だったな。俺も別にヒーローって自覚があったわけじゃないんだが、翔の変身後はまんま戦隊モノのヒーローって感じだったから普通に受け入れてたわ」
僕らの説明に乱はまた少し考えていたが、どうやら納得したようだった。
「そう……。じゃあ僕は、さしずめ『魔法使い系ヒーロー』かな」
「いや、『TS魔法少女系ヒーロー』だろ」
さっきまでの労わりは何処行った、勇。
乱は凄まじく不本意だ、とばかりに顔を歪めて勇を睨みつける。
「TSとか言うな……!!」
「いやこれは譲れん。漸く思い付いた分類名なんだからな。こんなレアなヒーローあんまり居ないぞ、何でそんな事になったんだ?」
勇は先ほどまでの居たたまれ無い表情は欠片も見せず、好奇心に満ち溢れたわくわくした表情をしていた。さっきまで悩んでいたのはそれかっ!?
乱はまたもテンションを一気にダウンさせて、長い溜息を吐く。
「は~~~~~~~………。初めて見つけた仲間がコレか……。最悪だ……」
「ま、ま、そこはこれからに期待ってことで。早う早う、乱君のお話聞かせて下さいな」
へらへら笑う勇を乱はまた睨みつけていたが、観念して話し出す。どうでもいいが、声も表情も中性的なせいで、今一迫力が無い。女の子がぷんすか怒ってるようにも見える。
「僕は君達と同じ、日本出身だ。君達の活躍や敵対組織の事は聞いた事も無いけど……日本語は通じるし、多分一緒でいいだろう」
ふう、と溜息一つ。
「僕がこの能力を手に入れた経緯だが……。僕は元々一般人で、君達が敵対していた組織のように、僕の住んでいた町で暗躍していた悪の組織に囚われたんだ……」
はぁ、ともう一つ溜息。
「そして………は~~~~~~~………」
「溜息多過ぎじゃね?」
少々苛立った様子で勇がつっこむが、乱は勇を無視して下を向いた状態でぶつぶつ呟いている。。
「あーー……欝だ。誰にも話したく無かったのに、何で話さなきゃいけないんだ……。ああ、もういっそ死にたい……」
「ら、乱。落ち着いて、ゆっくりでいいから、まずは落ち着こう?」
ネガティブ一直線の乱を宥め透かし、少しずつ聞いた話をまとめると、こんな感じだった。
乱が悪の組織に誘拐されたのが小学生の頃。その悪の組織は魔法結社『千年天国』と名乗る集団で、その名の通り、魔法を使って悪事を働く集団だった。
その目的は、魔法の力を以って既存社会を破壊し、自らの理想郷を創るというある意味王道的なものだった。
そのメンバーのほぼ全員が、『オタク』に分類される点を除けば。
理想郷とは言うものの、掲げる政策目標が『結婚可能年齢の引き下げ(5歳から可)』とか、『一つの街に十個以上の同人ショップの設置』とか、『東○ビッグサイトの大規模拡張工事|(○京ドーム三個分)』とか、そんなものばっかりだったそうだ。
ちなみに、三十歳以上の男性で清い体なのが入団資格の一つらしい。他にもあるそうだが蛇足なので割愛する。
乱が攫われた理由は、『千年天国』の戦闘兵器として改造する為だった。
おぞましい儀式の末、乱の体は変わり果てた姿に改造されてしまう。そう、ピッチピチでキャッピキャピな魔法少女の姿に……。
「『見た目が可愛いから、女の子と思ってたよ~~』って…!! この童○魔法使いだけは絶対に殺すと誓ったね……」
フフフ、と暗い笑みを溢す乱君を、僕と勇は寒々しい思いで見つめていた。
「そんな辛い過去があったんだね……。で、でも変身後は結構ノリノリで戦ってたよね!」
明るい話題に変えようとした無駄な試み。その結果を知っていれば、決して言わなかったであろうに。
「……僕の変身条件知ってる?」
「え、いや分からないけど」
能面のようになった乱の顔が迫ってくる。こうなると中性的な顔立ちが逆に怖い。人形に迫られてる気分だ。
「……ハイテンションで魔法少女に成り切らないと変身出来ないんだ。ちなみに変身キーワードは、『月の光よ、今宵も私を狂わせて!!』……だ。意味分からないよ、なんで僕がこんな目に合わなければいけないの?」
「乱!? 近い近い!! ってか首を絞めないで……!」
「おお、流れるようにチョークスリーパーホールドを極めたな。格闘戦の素質もあるんじゃないか?」
いつの間にか僕の背に回りこみ首を絞め始めた乱、首を極められて青い顔をしている僕、それを鑑賞して感心している勇。
三人の珍劇場はしばらく続いた。
…五分後、ようやく解放された僕は正座させられて、余計な事を言わないよう口を押さえながら、話の続きを聞いていた。
「……魔法少女に改造された後、僕は制御装置を取り付けられる前になんとか奴らの隙を突いて脱出した。でもこの姿から元の姿に戻る為には、奴らの研究資料がどうしても必要だったから、仕方なく戦う事にしたんだ」
乱を改造した魔法使いは幹部級だったらしく、戦いは困難を極めた。偶に街に出てくる下っ端魔法使いを叩きのめしたり、そいつから情報を聞き出してアジトを襲撃したり、語り尽くせない程の苦労があったらしい。
しかし幹部である目的の魔法使いにそうそう会えるはずも無く、乱は否が応にも戦い続ける羽目になった。何年も戦いは続き、乱が高校生になってからやっと核心に近づいた。
「結局そいつと出会ったのは敵の総本山の中でだった。いつの間にかそいつは首領にまで上り詰めていてね……。激しい戦いの末、何とかやつに地獄を見せる事に成功した」
「どんなえげつない拷問かけたん?」
勇が茶々を入れると、乱はまたも暗い笑みを浮かべて、自らの偉業を語る。
「目の前で、そいつの大事にしていたプレミア物の同人誌やアニメのDVDを散々に叩き割り、燃やし尽くしてやった。フィギュアは丁寧に砕いた後、溶かして筋肉ムキムキの男の形に再成型してやった」
ああ、そいつは最高にきつい復讐だろうな。
「でも、復讐に酔っていたせいで自分に隙が出来た事に気付かなかったのは失敗だった……。奴はアジトの自爆装置を起動させ、僕諸共果てようとしたんだ」
「んで……その時に『神様』に出会った?」
勇の確認の言葉に、乱は頷いた。
「うん。爆発の衝撃を受け、瓦礫に押し潰されて瀕死の僕の前に、光り輝く『なにか』が現れた。その後の問答はよく覚えていない。でも、これで人生をやり直せる、と思ったのは覚えてる」
話を終えた乱は、何となくすっきりした表情で僕らを見返す。
「そして、この世界に転生した僕は義理の親の伝手もあって、今は魔術師ギルドで学んでいる。これで僕の話は終わり。……何か質問は?」
僕も一つだけ質問があったので、手を上げる。
「なに?」
「もう魔法少女になる必要は無いと思うんだけど、神様に言われたからヒーロー稼業を続けてるの?」
あんなに苦しんでいるのに、それでもまだヒーローを続けるのは、何故なのか。
乱は僕の質問を聞くと、そっと月を見上げて黙り込む。どれだけの時間が過ぎただろうか、ふと、ふっきれたように乱の顔に苦笑が浮かぶ。
「あえて言うなら、性分かな。今の僕の実力じゃ何も出来ない子どもそのままだけど……。『マジカル★ルナティクス』になれば救える人も居る。それなら、成るしかないかな、って思うね」
…OK、十分だ。乱のヒーローとしての志は、天に輝く月よりも眩しく光っている。それだけ分かれば、十分だ。
僕は居住まいを正すと、乱に向かって手を差し出した。乱は不思議そうにその手を見つめてくる。
「改めて宜しく。ヒーロー『マジカル★ルナティクス』。同じヒーローとして、僕は貴方に敬意を表する。これから友人として、同志として仲良くして欲しい」
乱はきょとんとしていたが、やがて顔を赤らめるとおずおずと手を差し出し、僕の手を握り返す。
「よろしく、ヒーロー『ディメンジョンマン』。……と、友達としても仲良くできるよう頑張るよ……」
消え入りそうな声で、それでもしっかりと握り返してくる乱に、僕の心は新しい仲間を得た嬉しさに満たされていった。
「ところでよ~、躁鬱が激しい人間ほど自殺率が高いって聞くが、やっぱり変身解ける直前とか解けた後とかが一番精神的にきついのか?」
勇のいらん疑問がその場の雰囲気を台無しにしてしまった。
不貞腐れて屋上の隅で丸くなってしまった乱を慰めている間に、月が隠れて太陽が顔を出しそうに成っていた。
誰か助けて! 僕の睡眠時間が息してないの!?
◆◆◆
そんな彼らの出会いがあっている間、中央区の特別地下牢で事件が起こっていた。
「大変だ! ボーグダインの牢が破られている!!」
「何ぃ!? あの牢は魔法装置によって檻に触ると電撃が流れる仕様になっているんだぞ? どうやって抜け出たんだ!?」
「床をぶち抜かれた! あの牢の下に昔の地下水道があったみたいで、壁より薄かったんだ!」
「設計者出て来-----い!!」
地下牢の衛兵詰め所は蜂の巣を突いた様な大騒ぎになっていた。
そして件のボーグダインは、今地下水道を一人疾走していた。
「ブヒッ、ブヒッ。ふう、俺様のパンツが検められなくて助かったブヒ」
ボーグダインは自らの下穿きを漁ると、そこからカメラ型魔法道具を取り出し、走りながら悦に入ったようにそれを見つめる。
「これさえあれば何もいらんブヒ。ルナたんの姿を収めた千枚近い映像……。億金詰まれても譲るつもりは無いブヒ」
そう言いながらボーグダインは魔法道具に頬ずりする。だが、ちょっと匂いが気になったのか顔を離して眉を寄せる。
「……後で消臭ハーブでも刷り込んでおくブヒ……。んっ?」
胸騒ぎを感じたボーグダインは足を止め、前方の闇を睨みつける。夜目の効くボーグダインだったが、完全な闇は見通せない。しかしその奥に居る者の存在は、戦士の勘が知らせていた。
「何者ブヒ? 息を潜めていても分かるブヒよ」
「くっくっく……噂に違わぬ実力よの……」
「全くじゃのう。これなら、ワシ等の仲間として相応しい」
返ってきたのは二つの声。乾いた生気を感じさせぬ声と、低く野太い濁声。
突然闇の中に光りが浮かび上がる。ボーグダインは薄目を開けてその光の下に居る者達を見てとる。
松明を掲げるはドワーフ。その後ろには、人間より一回り大きいサイズの木製ゴーレムが立っている。
その横に浮かぶは、死霊の類。擦り切れたローブを身に纏った骸骨だった。
「我は死霊術師ハセウム。いずれ人々はこう呼ぶだろう『不死者達の王』ハセウム、と」
「ワシはデイボー。『狂気のゴーレムマスター』とはワシの事よ」
骸骨は手招くように手を掲げ、ボーグダインに差し出す。
「私達は君を勧誘に来たのだ。『オーク族一の大戦士』ボーグダインよ。我らと共に、互いの目的のために協力し合わないかね?」
「協力? なんで俺様を勧誘するブヒ? あと目的って……」
ボーグダインが疑問を口にしかけた時、遠くでカランカランと乾いた音が聞こえた。
「げぇっ!? 見張りのスケルトンがやられた! 奴が……奴が来た!!」
「本当か!? こうしちゃおれん! ボーグダイン、とりあえず今は逃げるぞ。付いて来い!!」
大慌てで走り出す二人に釣られ、ボーグダインもつい一緒に併走してしまう。
「な、何を焦ってるブヒ? 何かがこの地下水道にいるブヒか?」
「居る、というか追いかけて来たと言うか……」
会話している間にも、カランカランと乾いた音が断続的に聞こえてくる。その音が聞こえる度にハセウムとデイボーは顔を青く染めていく。
「ち、近づいて来る……!」
「ええい、木人七号! この場で足止めせい。最悪自爆して構わん!!」
ギッっと軋みながら敬礼する木製ゴーレム。木人七号は後方を振り返り、迫り来る何かを待つ。その背中を見送ったボーグダインは、もう一度二人に問いかける。
「一体全体、何が後ろから来ているブヒ!?」
「同志デイボーの借金を取り立てに来た、金融ギルドの暗殺者だ!!」
「このパーティーは前衛職が足りんから、是非ワシらの前衛に成ってくれい!! 報酬は出世払いで!」
「お、お前ら……俺様を巻き込んだブヒねーー!?」
後方から聞こえてくる爆発音と尋常では無い殺気を背中に感じ、ボーグダインは最悪な厄介事に巻き込まれたと絶望していた。
こうして、地下深くでダメな悪役三人が一同に介したのだった。……本当にこのまま生き残れるかは定かでは無いが。
屋根の上で一同に会すヒーロー達と、地下深くで出会う悪役達。文章量の差も酷ければ、その扱い方もヒーローびいきが出ていましたね。まあ、この小説のキーワードの一つは「駄目な悪役達」ですから。
え、乱の扱いも酷過ぎる? 作者がアイデアを思い付いちゃったのが運の付きですね。
次回はまた一月後くらいかな、と思います。そろそろ主人公をまともに活躍させないと……(主に戦闘的な面で)。
2015年5月20日 文章修正
乱の義理の親の職業 『魔術師』の部分を削除しました。乱の義理の親の本当の職業は……第19.5話にて明かされます。




