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第15話 開幕! 難攻不落の入学試験!! 前編

また長くなりそうなので分割しました。後編は……またしばらくお待ち下さいorz

「お、ようやく見えた」


 長時間バイクに乗ってたせいで若干痛いお尻を擦り、僕は朝日の下、遠目に見える大きな都市の姿を目に納めていた。


 王都『デュスターヴ』。武の国、キルディス王国の首都にして王家の本拠地。そしてこれから僕が生活する街でもある。


 高く堅牢な防壁が街を囲み、その防壁に数箇所開いた門からは引っ切り無しに人や馬車が出入りしている。


 防壁の奥には様々な建物が建ち並ぶ町並みがあり、その最奥には白亜の城が鎮座している。なんと言うか、典型的な城塞都市の様子そのままだな。


 さて、一つ問題がある。


「じゃあ、ここで朱美さんは帰って下さい」


「えーーーーーー!! もうお別れなのーーー!?」


 レッドプラズマから悲鳴が上がる。


「前々から言ってたでしょ。流石に城の中に入る時は一緒に居られないって。職質レベルじゃすまなくなっちゃうよ」


 異世界の異星人が使ってたという倍プッシュなトンデモ機械で都市に乗り入れたら、レッドプラズマは没収、僕は逮捕拘禁は免れないだろうな。


「でもでも、まだ首都まで結構遠いよ?」


 確かに十kmは離れていそうだが、首都の周りは平地だ。赤いレッドプラズマは否が応でも目立つ。


「ここがギリギリのラインだよ朱美さん。これ以上は人に見られる可能性がある」


「……う~~分かった。でもきつくなったら、いつでも呼んでね!」


 渋っていた朱美さんだが、何とか納得して亜空間に戻ってくれた。


 さて、久しぶりにランニングと洒落込みますか。



 ◆



「つ、着いた……」


 結構辛かった。久しぶりに長距離を走ったせいで汗がだくだくだ。横を通り過ぎる馬車や旅人が変な目でこっちを見てくるから、妙に緊張してしまったし。


 兎にも角にも、門前まで辿り着いた。後は街に入るまで、順番通り待つだけだ。


 長蛇の列、とまでは行かないが、結構人の数が多いな。周りはほとんど徒歩の旅人風の人ばかりだ。一部馬車もあるが、小型の物だけしかない。


 離れた所にあるもう一つの門を見ると、あっちは大型の馬車が多いな。入場門も分かれているのかな?


「おいっ、早く進めよ!」


「! ごめんなさい!」


 後ろからガタイの良いお兄さんが苛立ち混じりの声を掛けてきた。余所見をしてたから、前の人が進んだのに気付かなかった。


 意外なほどスムーズに、順番待ちの列は進んでいった。門を守る衛兵さんは、旅人さんが提示する小さな板を確認すると特に何も言わず通している。


 やばい。通行手形とかが必要なのか? 大きな街には寄らなかったから、その手のシステムは知らなかった。


 今からでも列から離れようかと迷っていたが、踏ん切りが着く前に僕の番になってしまった。


 衛兵さんは、突如現れた少年に戸惑って、目を瞬かせながら声をかけて来る。


「えーと……君、『禍祓い』の関係者? ……そんなわけ無いか。何しに来たの?」


 ああ、ここに並んでる人達は『禍祓い』の人達だったのか。さっきの板は、きっと身分証明書かなんかだったんだろう。


 だが今はそんな事を考えてる場合じゃない。事情を説明せねば。


「えっと、王都の学校に入学する為に来ました、フィアル・ノースポールと申します。入る為にどんな手続きが必要でしょうか?」


 衛兵さんは僕の話を聞くと、これは長くなりそうだと思ったのか、後方に居た新人っぽい衛兵さんを振り向く。


「おい、ロッソ! この坊ちゃんの話を聞いてくれ。出身地と、あと学校に入学するそうだから、紹介状なんかも確認しとけ」


「は、はい。分かりました!」


 ロッソさんは慌てて走り寄って来ると、僕を促して列から離す。そのまま門に併設された詰め所の中まで誘導する。中でテーブルに据え付けられた椅子を勧められ、僕が座ると、怯えないよう配慮してか優しく話しかけてくる。


「えっと、フィアル君だっけ? 歩いてきたのかい? 疲れたろう、水を持ってきて上げようか?」


「有難う御座います。ですが、どうぞお構いなく。……これが紹介状と入学願書です」


 そう言って、僕は父さんからの紹介状と願書をバックから取り出して見せる。ロッソさんはそれを受け取ると困ったように左右を見回し、困った時に大抵の人が使う呪文を唱えた。


「しょ、少々お待ち下さい」


 そこまで遜らなくていいんですが、丁寧な人だなぁ。


 ロッソさんはいそいそと詰め所の奥へ姿を消した。詰め所で仕事中だった衛兵さんは、興味深げに僕の方を横目で見てくるが、それもすぐに無くなった。


 手持ち無沙汰になって、やっぱり水をお願いしとけば良かったかなぁと思い始めた頃、詰め所の奥から初老の衛兵さんに連れられて、ロッソさんが戻ってきた。


 初老の衛兵さんは、手に紹介状と願書を持ったまま、僕の対面の椅子に座る。


「坊主、フィアル・ノースポールと言ったか。もしかして、ロイ・ノースポールの息子さんか?」


 あれ、もしかして知り合い?


「はい。ロイ・ノースポールとエレナ・ノースポールの息子です。三年前に妹のネージュも加わりました」


 すると初老の衛兵さんは、ぱっと顔を輝かせ、そして訝しげな顔に急変する。


「そうか……。わしの名前はガンツ、ここの衛兵隊長をしている。ノースポール卿の元部下だったのだが……どうも君には卿の面影が見えないんだが?」


 まあ疑われるよね。顔の造り全然違うし。


「僕は捨て子でして、ロイ父さんに養子として育てられました」


「ああ……それは悪いことを聞いたな。だが、一応幾つか質問してもいいかな? 君の身分を証明する為に必要なんだ」


 ガンツさんは、申し訳無さそうにそう言ってきた。僕が承諾すると、出身地、目的、ロイ父さんの年齢、家族構成、引退時の逸話なんかを聞いてきた。


 まあどれも大した質問でも無く、すらすらと問題無く答えれました。僕に動揺も考え込む様子も無かった事からか、ガンツさんは信用してくれた様だった。


「王立騎士養成幼年学校に入学するのか……。フィアル君、辛いこともあるかも知れんが、頑張って訓練に耐え、故郷に錦を飾るといい!」


 ガンツさんは僕の肩をがっしり掴み、涙ぐみそうな勢いで激励してくれた。


「ありがとうございます。精一杯頑張ります!」


 はきはきとした答えに、ガンツさんは満足そうに微笑んでくれた。



 ◆◆



 その後、ガンツさんに命令されたロッソさんが、学校まで案内してくれることになった。


 どうも僕が入った門は、下町側に近い門だったらしく、学校までは結構距離があって道も複雑なんだそうな。


 確かに雑然とした町並みとごった返す人通り。露店の客引きや喧嘩の怒声が喧しく耳を叩き、混沌とした下町は容易に道に迷いそうだった。


「危ないから、しっかり着いて来るんだよ? 手を繋ごうか?」


「お気遣い有難うございます。手は繋がなくても大丈夫です」


 流石に衛兵の傍ではやんちゃはしないのか、裏路地とかに居る見た目ゴロツキ風の人達も、視線をこっちに投げかけるだけで、絡んできたりはしない。


 ロッソさんの先導によって、何とか大きな通りまで出れた。ロッソさんは、町の中央を指差すと、これからの道順を教えてくれた。


「ここが中央通り。この道を真っ直ぐお城に向けて歩いて行くとまた大きな門があるから、そこの衛兵にこの手紙を渡してね。そうすればそこからの学校までの道順を教えてくれるから」


「分かりました。案内してくれて有難う御座いました」


 手紙を受け取ってぺこりと頭を下げると、ロッソさんは困惑混じりにはにかんだ。


「君は騎士の子どもだけど、礼儀正しいし素直だね。横柄なところが無いなんて珍しいよ」


 まあ中身(外見もだが)日本人ですしおすし。感謝の意を示す為に頭下げる事に抵抗感は無いね。


 ロッソさんは自分の舌が滑ったと思い至ったのか、声を潜めて耳打ちしてくる。


「……今言ったこと、他の人には内緒にしてくれる?」


「はい、分かりました。内緒にします」


 僕の明確な答えにほっとしたのか、ロッソさんは胸を撫で下ろし、頑張ってね、と声を掛けて去って行った。


 ふうむ……学校には、騎士の子どもだけでなく貴族の子どもも居るんだよな。……プライドの高い人達に混じって、やっていけるだろうか。田舎者だからいじめられないかな。


 不安はあるが、まあその時はその時だ。悪の親玉と刺し違える最期を迎えた鬱展開に比べれば、いじめ位乗り切れる気がする。ポジティブに考えよう。



 僕は不安を振り切るように、元気良く足を踏み出した。



 ◆◆◆



 中央通の先、大きな門をくぐった所でまた衛兵さんに道順を聞き、僕は学校への道を歩いていた。


 門は区画分けの為の門であり、ここら辺は学校の他に騎士団の詰め所や役所なんかもある区画らしい。門からまた結構歩く必要があるが、道沿いに進めばいいので、迷うことは無いだろう。


 それよりも、入学試験の事で頭が一杯で緊張してきた。流石に今日、すぐ行われることは無いと思うけど……宿とか取っておいた方が良かったかな? 


 父さんは、とりあえず教官のトリスタンさんと話をすればいい様にしてくれるとは言ってたけど……。


 そんな事を考えていたら、鉄柵に囲まれた大きな建物が見えてきた。古びていながら、些かの脆さも感じさせない重厚な建造物。きっとあれが王立騎士養成幼年学校だろう。



 鉄柵沿いにさらに進むと、古びた門が見えてきた。



 ああ、漸く着いた。門に入る前に、まず水分補給しておこう。


 僕は門まで後数mの所で足を止め、水袋を取り出して口を湿らせる。




 ドドドドドド……!




「ん?」



 何か、校舎の方から土煙がこっちに向かってきてるような……。




 ドバアアアァァァンッ!!




 と思っていたら、門が内側から勢いよく押し開かれ、転げ出すように、服や剣、靴、バック、人なんかが飛び出してきた。



 ………って『人』ぉ!?



「な、何をするか!? 僕をリンド伯爵家の三男としっての狼藉か!?」


 道に飛び出してきた人、もとい少年がふらふらと立ち上がりながらも、よく通る大声で抗議している。



 対するは………爆音だった。




「やかましいっっ!!!!」




 喧しいのはそっちだよと思いつつ、僕は耳を塞いでその爆音に耐える。正面からそれを浴びた貴族の少年は、白眼を剥いて倒れこんでる。



「騎士だろうが貴族だろうが、この学び舎に相応しくない者は全て叩き出す。それがこの学校の掟だ! 文句があるなら、王家に反逆するつもりでかかって来い! 陛下のお耳に入る前に俺が撫で斬りにしてやる!!」



 爆音の元は、門前で仁王立ちする壮年の男性だった。黒い軍服でがっちりした体格を包んだ偉丈夫。年齢的にはロイ父さんと同じくらいだろうか?


 ちょっと嫌な予感を感じつつ、僕は恐る恐るその男性に声を掛けた。


「あ、あの、すいません……」


「ん?」


 ぎろりと音がしそうな勢いで見開かれた目が僕に向けられる。うう、怖い……。


「あの、僕、こちらに入学をさせて頂きたく……」




「気をつけい!!!」




 怒号の如き号令に僕の背は反射的にしゃんと伸びる。



「声が小さい、もっと大きな声ではっきりと喋らんか!! 名前! 所属! 目的! 簡潔に言え!」


「はいっ! フィアル・ノースポールです! ロイ・ノースポールの息子です! 王立騎士養成幼年学校に入学する為に来ました! これが紹介状と入学願書です!!」



 体育祭の宣誓者みたいに、背筋を伸ばして腹の底から声を出す。小学校以来かも知れないなぁ、こんなの。


 目の前の鬼教官? は名前を名乗った辺りで眉をぴくりと動かした後、少し表情を柔らかにしていた。だがまだ不機嫌にも見えてしまうから、普段から相当厳しい顔してそうだ。


「……見せて見ろ」


 鬼教官? の手がずいと出される。僕は両手で紹介状と願書を持って、その手にそっと載せた。


 手紙の印章(うちの家紋)を見てまた表情が揺れ、手紙を読み進めている途中でもまた顔のパーツの何処かが動く。


 その間、僕は気をつけの姿勢を保ったまま微動だにせず居た。せ、せめて休めの号令を……。


 無情にも、読み終わるまで僕の姿勢は変わらなかった。鬼教官(心の中で確定)は手紙を丁寧に戻すと、僕に視線を戻した。


「楽にしろ。そうか、お前がロイの息子か。似てないと思ったが、養子だったとはな」


 やっぱりそこを突っ込まれますか。いいさ、どうせ和顔ですたい。

 拗ねた雰囲気が伝わったのか、鬼教官はにやりと口の端を歪める。


「ははっ、気にするな。お前は若い頃のロイより見込みがある、ロイからいい教育を受けた証拠だろう。……俺はトリスタン。トリスタン・シャオルだ。お前の父親とは同期の騎士で、今はこの学校の教官をしている」


「初めまして、鬼教官トリスタン先生。改めまして、ロイ・ノースポールの息子フィアルです。よろしくお願いします」


「……妙に馬鹿丁寧だな。過ぎた挨拶は慇懃無礼に繋がるぞ。あと、何か腹立つ物言いだ」


 すげぇ。ルビはちゃんと名前にしてたのに、その奥に書かれた文字すら気配で読み取られた。トリスタンさんから送られて来る疑いの眼差しが僕に突き刺さる。

 だがそれも数秒で終わり、ほっと息を吐く間も無く、トリスタン先生は踵を返して校舎の方に戻っていく。


「どうした? 早く付いて来い。入学願書の手続きをしてやる」


「はい!」


 また注意されるのが怖いので、しっかり気合を込めた返事をして、トリスタン先生の後に続く。僕の行動をトリスタン先生は面白そうな目で見ていたが、再度前を向くと無言で歩き始める。


 僕は校舎に入り際、ちらりと後ろを振り向き、未だ路上で伸びている少年の様子を見る。


「放っておけ。自分で立てた訳でも無いのに、家柄の格だけ誇り学友を貶める阿呆だ。その内家の方に回収の連絡をしてやる」


 それ、回収されるまで何日か放置されるんじゃ……。


「一つ言っておく。この学校でいじめやそれに類する行動を取り、クラス内での結束を乱すような輩は、例え王侯貴族であっても叩き出す。俺がロイの同期だからと思って調子に乗るなよ? 遠慮なく叩き出してやる」


「はい! 分かりました!」


 トリスタン先生の殺気すら感じる注意に誠心誠意応える。何か早くも不安に成ってきた。大丈夫、僕は元日本人。空気を読むのは得意なはず……。


 難点を言うならば、中学以降はほぼボッチだった点だが。


 これから先の未来に不安を覚えつつ校舎の中に入る。校舎内は授業中なのか、静まり返っている……と思いきや、奥の方から掛け声と共に多数の人間が走る音が聞こえる。

 トリスタン先生の後について廊下を進んでいると、校庭かあるいは訓練場らしき場所の横を通りかかった。


 そこでは、僕くらいの年齢の少年少女達が威勢良く掛け声を上げながら、整列して走っていた。


 ……結構汗だくで、ふらついてる人もいたが。


「もう授業の内容に関心があるのか? 熱心なのはいい事だが、まずは入学試験を通らんと無意味だからな」


 僕の気配を察したトリスタン先生が、後ろを振り返りもせずに言ってくる。そうだった。まずは入学試験だ。

 と、ここで少し疑問が沸いた。


「トリスタン先生、質問があります」


「何だ、言ってみろ」


「僕は時期から考えて途中編入になるんですよね? その、定員超過で入学不能とかは無いんですか?」


「無い。お前一人の融通くらい十分できる。それに、さっき一人脱落したばかりだしな」


 ……あいつも同学年だったのか。安らかに眠れ、名前も知らぬ少年よ。


 そうこうしている内に、校舎の奥にある小部屋に通された。簡素な机と椅子がある他は、小さな黒板と本棚があるだけだ。


「ここで待ってろ。書類の手続きをしてきてやる。俺が戻ってきたらすぐ入学試験を始めるから、せいぜい復習でもしてろ」


「早っ!? ……いえ、分かりました」


 思わず口を出た驚きの叫びは、トリスタン先生の眼光で一気に消沈された。トリスタン先生は僕に日と睨み効かせると、黙って部屋から出て行かれた。


 あー、緊張した。ロイ父さんの友人とは聞いてたけど、あそこまで厳つい人だとは思わなかった。うちの父さんはどっちかと言うと緩い方だからな……、などと思いつつ椅子を引いて座ろうとする。


 そして違和感に気付く。何か、椅子が変だ。


 良く観察してみると、小さな針が一本出っ張ってる。いわゆる押しピントラップみたいな感じに、気付かず座ってたらちょっと痛かっただろう。


 とりあえず針を抜いて椅子に座ろうとして……嫌な予感がしたので、一応机もチェックしておく。


 ……机の板があるじゃん? その下に物を入れるスペースがあるじゃん?


 その中に、少しの振動で中身がこぼれそうなインク壷が入ってる……。気付かずに座ったらズボンが汚れていたかも知れない。



 この時点で僕は俄かに緊張してきた。



 もしかして、この部屋に入った時点で入学試験が始まってるとか? 考え過ぎかも知れないが、ここは慎重に行こう。


 とりあえず、部屋においてある物品を調べていく。そうすると、出るわ出るわトラップがてんこ盛りだった。


 まず本棚。参考書や教科書、更には過去問集なんかも入ってて、復習には丁度良さそうだ。

 だが、それらは結構ギチギチに詰まってて、無理に引き抜こうとすると、わざとバランスを崩してある本棚が倒れる仕組みになってた。


 次に黒板。机の真正面に設置してあるが、少し高い位置にあるのが気になっていた。よくよく観察すると、チョーク入れの箱がバネで射出されるようになってた。そのトリガーは、正面の机に連動していた。


 恐らく、椅子の針か机のインクに驚いて机が動くと、チョーク箱が飛んできて顔面にヒットする仕組みだろう。



 刻○館か、この部屋は。



 とりあえず座るに座れないので、机のインクとチョーク箱のトリガーは解除しておいた。造りは単純なので無力化は難しく無い。


 何かやたら疲れた気がしたので、椅子に座って休もうとして……ヒーローの勘らしきものが警告を告げた。


 そっと上を見ると、チョーク塗れの黒板消しが釣り下がっている。細い糸に繋がれて危ういバランスを保っている。その糸の先は……出入り口の扉だ。多分、勢い良く開けたりしたら落っこちてくる仕組みなんだろう。


 流石に高くて手が届かないので、机と椅子の位置を後ろに下げて対処する。



 既に、復習する気力は無くなっていた……。



 ◆◆◆◆



 ドバンッ!!


 十数分後、扉が勢い良く開け放たれ、僕の目の前に黒板消しが落下してきた。ちゃんと距離は取っていたので粉を被ることは無い。


 トリスタン先生は部屋の中に入り中の状況を認識すると、ちょっと驚いたように眉を上げた。何となく、その顔は小気味良く感じた。


 僕はインクと針を持ち、転がる黒板消しを拾い上げてトリスタン先生に差し出す。


「……常在戦場の心構え、確かに頂戴しました」


 皮肉の一つでも言わないとやってられない。トリスタン先生は僕の差し出した物品を見て、部屋の他のトラップの様子を見て、そして大声を上げて笑い出した。



「く、くははははははは!! これはいい。ロイはいい息子を得たな! いやいや、これは本当に見込みのある奴が来た!!」



 大変上機嫌なところと申し訳ありませんが、このインクとかどうすればいいんですか。

 トリスタン先生は僕の無言の問いかけを察したのか、部屋の隅において置くように指示する。一応それも罠かも知れないので、僕は慎重にその隅っこに移動する。


「もう罠は仕掛けとらんから、さっさと置け。筆記試験を始めるぞ」


 ……微妙に信用出来ないけど、仕方が無いので急いでインクとかを置くと、席に戻った。先生の言うとおり罠は無かった。


 トリスタン先生は筆記試験の用紙と鉛筆、消しゴム変わりのパンの欠片が机に置かれる。


「これらの罠は、元々は不注意が及ぼす危険性を学生に教え、そしてこの学校が甘く無いことを示す為の教示でもあった。だがお前はそれら全てを回避してしまった。俺の中ではもう入学させても構わんと思うが……、一応形式は必要でな。これに落ちたらもう一年待ってもらうことになる」


 そう言うとトリスタン先生は黒板の前に立ち、期待を込めた目で僕を見下ろす。


「これ位の問題、楽に解けるよな? 時間は三十分。……始めろ!」


 ……どうか、余り難しくありませんように……。



 ◆◆◆◆◆



 結果から言って、試験問題は基礎問題ばかりだったのでかなり楽に解けました。歴史関係が少し難しかったが、歴史話が好きなルリィ先生の授業をみっちり受けてた甲斐あって、かなり高得点を得られそうだ。


 算術や国語も大した内容では無く、採点するトリスタン先生は満足そうだった。


「ははっ、座学も十分か! 誰に教えてもらった?」


「ルリィ・エトランゼという先生に教えて頂きました」


「! テトラ王国の自由騎士か。そう言えば、ロイの奴と懇意にしてると聞いた事があったな」


 納得言ったようにトリスタン先生は何度も頷く。


「お前は運が良かったな。エルフの貴族から教育して貰うなんて、貴族でもまず無いぞ」


 おらが村では更に三名くらい生徒が居ますが。多分妹も世話になるから、計五人かな。


 しかし、そんな事言っても仕方ないので、ただしたり顔で云々頷いておく。そうこうするうち採点が終わり、トリスタン先生は大層嬉しそうに笑ってくれた。


「問題無く合格だ! 点数は主席には劣るが……五本の指に入るくらいは確実にあるな。おめでとう、フィアル・ノースポール。今日から、お前はこの学校の生徒だ!」


「ありがとうございます!!」


 長かった一月の旅の果て、やっと本願成就できたぜ!! 思わずガッツポーズを取る僕をまだ笑い顔で見ていたトリスタン先生は、書類をまとめると顔を真顔に戻して、僕に再度椅子に座るよう促す。


「さて、入学に際しての説明も今の内にやっておく。まず入学金やら手続きの費用だが、お前の父親の功績もあり、大部分は免除されるだろう。今持ってる金は生活資金に取っておけ。次に今後の予定だが、手続きの完了まで数日かかるから、お前が授業に参加するのは週明け、三日後からになる。その間、お前の寄宿舎の部屋も整うから、それまでの間は外部の宿に宿泊することになる。宿は決めているか?」


「いえ、まだ決めてません」


「そうか、なら俺の家に泊まるか? 三日くらいの飯代宿代なら気にするな。俺も何度かロイの家に転がり込んだことがあるからな。それでチャラにしてやる」


 父ちゃん。どんだけ泊めたか知らないけど、この交換レート適正かなぁ? まあ余りお金も使いたく無いので、お願いしますか。


「宜しければお願いします」


「おう。なら夕方、俺の職務が終わり次第連れて行こう。それまでは、そうだな……俺に付いて来て授業の見学でもしてみるか? 嫌ならここで夕方まで待ってもらうが」


 実質一択じゃ無いですかーヤダー。


「見学させて下さい……」


 よし、とトリスタン先生は頷くと、先に立って僕を再度案内し始めた。


 トリスタン先生の授業は午後からで、昼前のこの時間は空いていたらしい。付きっ切りで面倒見てくれたから、仕事の邪魔になったかもと思っていたので、ちょっとほっとした。


 まずは昼飯でも食べようと、二階にある職員室に案内された僕は、室内に居た他の先生がたから視線の集中砲火を浴びた。一番近くに居た、男性の先生がトリスタン先生に声をかけた。


「トリスタン先生、その少年は誰ですか?」


「おう俺の古い友人の息子でな、この学校に入学しに来たのだ。編入試験も先ほど終わった。しかも例の部屋のトラップを全て見抜いていたぞ」


 おおっ、とざわめきが起こる。何か面映い。更にトリスタン先生が僕の解答用紙を皆に見せ、その点数にまたどよめきが起こる。


「ほう、これは優秀だ。しかもトラップを全て見抜くとは!」


「あれは斥候スカウト科の先生が設置した、『洒落で済む心砕きハートブレイカー』と名高い罠だったのにな。これは、期待できそうだ」


「今年は生徒の質が余り高くありませんからな。優秀な生徒が増えるのは何よりです」


 ……本棚のトラップは洒落で済まなそうだったけど……。心砕きっつーか、体壊しますよ、あれ。


 口々に発せられる賞賛を曖昧な笑みで受け流し、さらに奥に進むトリスタン先生に付いて行く。すると職員室に併設された応接室らしき場所に通された。


「ここで待ってろ。食堂から食えそうな物を貰ってくる」


 それだけ言うと、トリスタン先生はまた部屋から出て行った。


 ……一応罠が無いかチェックだけしておこう。



 ………無かった。流石に応接室にまで設置することは無いか。



 一安心した僕は窓の傍に近寄って外の景色をぼんやり眺めていた。そのままご飯の到着まで待とうと思っていたら、不意に僕の右手から着信の信号を感じた。


 着信のナンバーは……、何だ勇か。


 一応職員室の様子を伺い、音漏れに気をつけて、イヤホンと小型マイクを呼び出して通信を開く。



「おう、久しぶりレオン。お前の呪いに負けず、試験に受かっ……」





「にーちゃ!! お話しよーーー!!」





 イヤホンから耳をつんざくような大声が聞こえてきた。仰け反りそうになるのを堪えるのが大変だった。


「ね、ネージュ……。その通信機は、余り大きな声出さなくても通じるって言っただろう……?」


 息も絶え絶えに最愛の妹を注意するが、ネージュはお構い無しに捲くし立てる。


「あのね、あのね! ネージュね、昨日ルリィ先生のテストで丸沢山貰ったの! 偉い?」


 そうか、もうネージュも授業を受けるようになったのか。一緒に机を並べて、妹の勉強を見れない事に一抹の寂しさを覚える。


 ネージュとの会話はほぼ一日か二日に一回はしている。旅の途中でも何回も通信をかけて来た。通信中に野生の熊に襲われた時は、ネージュの話に相槌打ちながら格闘するのが大変だった。


 そんな回想していると、唐突に声が切り替わる。


「久しぶり、フィアル。元気にしてた? お腹壊してない? ちゃんと勉強出来てる? 猫獣人さんとは本当に何も無かったの?」


 優しい口調で質問を並べ立てるのは、我が親友サラだった。


 実は、ネージュが足しげく勇の家に通うのを怪しんだサラはレオンの通信機の存在に逸早く気付いていた。何故自分には持たせてくれなかったのか、とかなりしつこく怒られたが、平謝りして許して貰った。現在、以前会った猫獣人の少女との会合を勇から聞き出したサラは、何だか妙にその事に拘って聞いてくる。


 そして、サラが知っているならば……


「サラ、話は後にして。まずはフィアルの入学試験前に、ロイさんから聞いた忠告を教える約束でしょ」


 苛立ち混じりの懐かしい……って程でも無いリーザの声が聞こえてきた。リーザはサラがレオンの家に行くのを訝しんで通信機の存在に気付いた口である。芋づる式にばれているので、うちの親とかにはばれないようお願いして、友人達の集まりに偽装して貰っている。


 閑話休題。リーザの横槍に、サラが無念そうな「むぅ……」とふくれっ面が想像できそうな可愛らしい声を上げて黙る。それに合わせてリーザの声が聞こえてきた。


「怪我とかしてないでしょうね? ま、アンタなら大丈夫でしょうけど」


「ご心配どーも。リーザに小突かれた時以上の怪我はしてないよ」


「……言うようになったわね。今度会ったらただじゃおかないわ。…その話は置いて、入学試験の話だけど、気をつけた方がいいわよ」


 ……まさか、あの罠以上の何かがあるのか? 戦慄した僕が黙っている間にもリーザの話は続く。


「ロイおじさんに聞いた話では、入学試験は表向き筆記だけだけど、その過程やその後でも入学希望者を密かに試しているそうよ」


「ぐ、具体的には?」


「試験前後に罠を張っていたり、入学直後の授業でかなり厳しい内容を体験させたりして、その生徒の資質や覚悟を測るらしいわ。そこまで含めて入学試験なんでしょうね。あんたそこそこ根性はあるから、入学してしまえば何とかなるでしょうけど……、抜けてるところがあるから、試験前に罠に嵌って落ちないようにしなさい」


 リーザは珍しく、神妙に心配してくれる。やべぇ、あっさり見抜いたとか言い辛い。


「えっと、忠告有難う。気をつけるよ」


「そっ。ところで、あんた今何処に居るの?」



 えーと……。



「王都に着いたところさ! 丁度良かったよ、リーザ」


 僕がそう伝えると、リーザの声がどことなく嬉しそうなものに変化する。


「へぇ……運が良かったわね。私に感謝しなさい。わざわざ入学試験の話をロイおじさんから聞きだして上げたんだから」


「それ、僕もやった……」


 サラの不満そうな声が聞こえるが、リーザは黙殺する。


「じゃ、試験前にお喋りして集中力を無くすといけないから、もう切るわね。……頑張りなさい」


 ピッと音がして通信が切れる。その直前に、サラとネージュの悲鳴に近い抗議の走りが聞こえた気がするが、今から通信し直すのも何だか怖い。



 そう言えば勇の声が聞こえなかったが、あいつどうしたんだろうかと思っていたら、今度はメールが届いた。



 From:勇

 to:翔


 題名:タスケテ


 本文:リーザの野郎に顎砕かれかけた。ちょっと、「通信機を貸して欲しかったら、『お願いします』と言ってみ?」……って言っただけなのに。あいつの体術、最近磨きが掛かり過ぎ。お前が旅立ってから一心不乱に修行してるみたいだ。ルリィ先生も天賦の才があるって言ってるし、その内俺でも勝てなくなるかも……と言うわけで、なんか顎に優しい食べ物とか、次元移動使って送ってくれない? 



 そんな機能無いよ。と簡潔にお断りのメールを送っておく。



 勇の事はさて置き、やはりこの学校は一筋縄ではいかないようだ。

 筆記試験の妨害紛いの罠。学校のルールに沿わない行動すれば即退学の厳しさ。入学試験に通った後も、気を抜けば厳しい授業で試される。


 これは、この後の授業見学も舐めて掛かってはいけないかも知れない。いや確実に警戒すべきだ。


 あのトリスタン先生の事だ、どんなえげつない手を使って僕を試すか分かったもんじゃない。さっきトリスタン先生に吐いた、常在戦場の皮肉が皮肉で無くなるかも知れない。



 僕は気を引き締めるように勢い良く頬を叩く。じんとした痛みが心に活を入れてくれる。



 これ位でへこたれてる場合じゃない。異世界転生してから平和に過ぎた七年間、これからもそれが続くとは限らない。


 転生する時、神様が言ってた。世界を救ってくれと。きっと将来何かが起こる。だから僕や勇みたいなのが集められているんだ。



 その為の準備期間が今。報酬が、今までの七年間。そして上手く危機を撃破すれば、その後の人生も報酬に加わるんじゃないだろうか。



 僕は窓の外、雲一つ無い青空を見上げ、一度しか会った事が無い、神様の意図へ思いを馳せる。




 願わくば、僕の幸福と救世が同一でありますように……。







 く~~、と僕のお腹がエネルギー補給を訴える。………まあ遠い未来の事より、今はご飯だな……。


遠く離れてても友人達と思いは繋がってます。そして情報も繋がってます。今日もサラ君の嫉妬はマシマシだー。


『刻○館』の名前は出さない方が良かったかな~。影○の動画を見たせいで衝動的に書いてしまった。自分ではやらないが、見ていると楽しいから記憶に残ってしまった。


次回は、また来月くらいでしょう。『アウトキャスト』を優先すると決めてるので、どうかご勘弁を。

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