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第14話 放浪! 王都までの旅路

結構長いです。普段の私の小説二話分はあります。お時間のある時にどうぞ。

 拝啓、お母さんお父さん。ネージュ、サラ、スーさん、ルリィ先生。あと、リーザと勇。


 王都へ向けて旅立ち、近くの町で長距離馬車に乗った僕ですが、今大変困った事態に遭遇してます。



「おらぁ! 止まらんかい!! 金目の物置いてけば逃がしてやるからよーー!!」



 山賊、いや馬に乗ってるから馬賊? どっちでも変わらないけど、今襲撃を受けている最中です。


 御者台のおっちゃんは必死に馬を走らせていますが、さすがに馬車を引いた状態では、周りの山賊達を振り切る事は出来ないでしょう。


 不安と絶望の声が馬車内に木霊してます。

 戦えるような人が僕の他に乗ってなかったしねぇ。まあ僕も見た目子どもだから、周りの人には馬車の戦力はゼロとしか思えないだろう。



 何でこんな事になったんだ……。



 ◆



 誕生日の二週間後、僕は王都への引越し準備に追われていた。と言っても、向こうの寄宿舎に寝泊りする事になるので、最低限の着替えと旅具を用意するだけだが。


 そう、僕は王都の騎士養成幼年学校に入学する事に決めた。


 最初それを皆に伝えた時の反応は様々だった。


 泣いたのはエレナ母さん、ネージュ、サラ。


 激励してくれたのはロイ父さん、スーさん、ルリィ先生。


 無言で僕を蹴倒したのはリーザ。


「まじか。じゃあ妹さんの面倒は、俺が責任もってするぜ!」と、阿呆な宣言を爽やかな笑顔で言い放ったのはレオン。こいつは腹パンの制裁を加えておいた。



 こいつとはこんなやり取りもあった。



 僕が王都行きを勇に伝えたのは、滅多に人の通らない家の裏にある林での事だった。腹パンをお見舞いした後、ポケットから麻紐を通したメダル状の通信機を取り出して勇に向けて投げる。


 勇は腹を押さえつつ器用に片手で通信機を掴み取ると、しげしげと眺め始めた。やっぱり効いてなかったか。


「何だこれ?」


「通信機だよ。今のところ、勇は僕の知る唯一の日本人兼ヒーロー仲間だしね。連絡が取れるようにしときたかったんだ」


 勇は納得がいった様に頷き、掌でメダルを玩ぶ。


「ああ、これは有り難いな。俺も翔との連絡経路は欲しかったんだ。最悪、式神を使った文通にしようかと思ってたんだが……これどうやって使うんだ?」


 文通は嫌だなぁ……、手紙なんてあまり書いたこと無いし。


 僕は通信機の使い方を適当に勇に教える。通信機を起動すると、ホログラムが浮かび上がって通信やメールの項目が並ぶメニュー画面が表示される。


「うおっ、すげええええ!? かっこいいなチクショー、後はスマホ形式でタッチすればいいのか?」


「うん、そんな感じ。使い方分からなければまた聞いてよ」


 勇は通信機のスイッチを切ると、ふと疑問に思ったように質問してきた。


「サンキューな。……ところで、これ何個もあるのか?」


「無いけど、作れるよ」


「ああ……。ボッチだったから沢山必要無かったのか」


「ボッチ言うな。ソロヒーローと言え」


「OK、一人上手ヒーロー」


 鉄拳制裁を加えようとするが、するりと逃げられた。こいつはいつかギャフン言わせたる。


 そんなこんなで、僕と勇は定期的に情報交換を交わし、村の皆の事や王都の話なんかを共有することにした。




 出立の朝、村の入り口まで皆が見送りに来てくれた。


 僕は近くの町へ向かう村人さんの馬車に相乗りさせて貰う事になっており、村人さんの好意で少しだけ皆との別れの挨拶を交わせた。


「元気でね、フィアル………。僕手紙書くから、フィアルも返事忘れちゃ嫌だよ?」


「分かったよサラ。絶対書くから」


 涙ぐむサラに心が痛む。この泣き虫な幼馴染は、この先やっていけるのだろうか……。


 サラは涙をぬぐうと、旅立ちを祝福する女神のように微笑んでくれた。


「約束だよ? (……僕もなるべく早く、王都に向かうからね……)」


「……え、何か言った?」


 後半聞き取り辛い大きさでサラが何事か呟いたみたいだったが、サラははにかむ様に笑って何でも無いと言う。


 僕は釈然としない思いを抱えていたが、僕とサラの間に割り込むようにリーザが入って来た。


 いつも通り我が道を行くなぁ、リーザは。後ろでサラの顔が一瞬般若になった気がしたから、出来れば順番は守って欲しかった。


「……フィアル……」


「な、何だいリーザ?」


 眉根を寄せて、鋭い目線で僕を睨みつけてくるリーザ。心なしかその顔に朱が差している気がするのは、きっと朝の寒い時間だからだろう。


 一言呟いたっきり、リーザは黙り込んでしまう。そのまま時が止まってしまうかと思いきや、リーザが動き出した。


 彼女は横を向いて大きく溜息を吐き、「……やっぱり、まだだめ……」と呟くと、軽く僕の胸を拳で突く。


「向こうで、勝手に誰かの舎弟になったりするんじゃないわよ。あんたは……あ、あたしの子分なんだからね」


 さっきより赤くなった顔でそれだけ言うと、リーザは踵を返して離れて行く。


 普段の彼女から加えられる折檻には到底及ばぬその突きは、彼女なりの激励だったんだろう。でも一言だけ言わせてくれ、いつから子分になったんだ、僕?


 悩む僕の下へ、ルリィ先生とスーさんが寄ってきた。二人は顔を上げた僕の頭を交互に撫でてくれた。


「フィアルは強い子だ、きっと王都の学校でもやっていける。……でも、もし辛くなったらいつでも戻っておいで。先生がまたみっちり鍛えてやろう」


「ふふっ、心配性ですねルリィさん。フィアル君、貴方の優しさと心身の強さは、世界を救う希望です。私は、フィアル君が立派な自由騎士になれる事を信じてます。貴方の未来に栄光のあらん事を神様に願います」


 二人からは、優しい励ましの言葉と祝福の言葉を頂いた。ああ、また鼻の奥がつんとしてきた。


「はい! 次に会う時は、立派な自由騎士になって帰ってきます」



「長期休みは実家に帰れるから、夏には帰って来れるぞ?」



 ……ロイ父さん、格好良く決めたんだから、そこは黙ってて欲しかった……。


 目の前の二人はくすくす笑って再度僕の頭を撫でてくれた。何も言われないのが、せめてもの救いか……。



 最後は家族三人だ。



 勇はどうしたかって? 通信機渡したからか、わざわざ出発の見送りする必要無いじゃん、って言って今家で寝てるはず。ちくせう。



 ロイ父さんとエレナ母さん、そして母さんに抱えられたネージュが目の前に立つ。ネージュは今もエレナ母さんの胸に顔を埋めてこっちを見てくれない。


 ロイ父さんは膝を折って僕に目線を合わせると、数日前から散々聞かされた注意事項を繰り返す。


「フィアル、王都までここから一ヶ月程かかる。まずここから馬車で近くの町ポルトーまで行って、そこから旅行馬車に乗るんだ。途中の街で何回か乗り換えしないといけないから、間違えないように父さんの書いたメモを失くすんじゃないぞ! 王都に着いたら近くの衛兵さんに道を聞いて、学校まで真っ直ぐいくように。学校の門番さんにトリスタン・シャオルという教官に取り次ぎを願いなさい。父さんの古い友人だから、信頼していい。それから……」


「無駄遣いしない、寄り道しない、途中編入になるから編入試験で落ちないように旅先でも勉強はする。歯は毎日磨く、顔も洗う、身だしなみも整える、後……学校では喧嘩はしないこと」


「一部母さんの小言も混じっているが、良し! 後は、困った時は父さんの書いた冊子を読みなさい」


 父さんから言われまくった事を復唱したが、一部混線してたようだ。


 しかし、修学旅行のしおりじゃあるまいし、旅の途中の細かい注意点や対処法なんかを盛り込んだ小冊子なんて必要なんだろうか……。


 だが、この世界の常識に疎いのも事実。微妙にリュックのスペースを圧迫しているが、父さんのお手製冊子は有り難く貰っておこう。



 さて、最後に難題がまだ残っているな……。



 僕はチラリとエレナ母さんの胸元に顔を押し付けているネージュを見る。


 ネージュは困ったように微笑むエレナ母さんの胸に張り付いて離れそうもない。時折うめき声が漏れ聞こえるのは、きっとまだ泣いているんだろう。


 泣かれたまま別れるのは辛いから、せめて笑顔に変えてから別れたい。僕は出来るだけ優しくネージュに声をかける。



「ネージュ……、にーちゃん行ってくるから。大丈夫、夏には一度帰るから」


「………うぅ………。夏って、明日にはなってる?」


「……いやー……その九十倍以上は日にちが必要かなぁ」


「じゃ、やだーーーーー! あーーーーーーーん!!」



 あかん。


 三歳児に堪えることを強いるのは難しい。むう……少々不安は残るが……。


「ネージュ、ちょっとこっちおいで」


「う、ひっく……ん?」


 ネージュにこっちに来るよう促すと、ネージュはエレナ母さんの手から離れ地面に降りると、トコトコと小走りに駆け寄ってくる。


 僕はネージュの顔に耳を寄せると、誰にも聞こえないようにこっそり耳打ちする。


「もし僕に会いたいなら、レオンに頼むといい。何とかしてくれるから。ただし、この事は誰にも言っちゃいけないよ。約束できるかな?」


「…本当?」


 僕が頷くと、ネージュは少し悩んだ後、おずおずと頷いた。


「分かった……。レオンにーちゃに頼む」


「よし、いい子だ」


 僕がネージュの頭を撫でると、ここ数日泣いてばかりだったネージュは漸く笑顔を見せてくれた。


「あらあら、やっぱりフィアルはネージュをあやすのが上手ね」


 エレナ母さんが近寄ってきてネージュを抱っこする。もうネージュは泣くことは無かった。


 母さんは、まだ僅かに曇りの残る表情だったが、それでも笑顔を見せてくれた。



「……いってらっしゃいフィアル。体には気を付けるのよ」



 たったそれだけの言葉に、万感の想いが込められている気がした。


 血は繋がっていなくても、その顔と声音だけで十分です。母の愛、確かに頂きました。



「うん。父さん、母さん、ネージュも……、皆、元気で…!」



 これ以上はまた泣きそうだったので、急いで馬車に乗り込んだ。皆が涙を堪えてくれたのに、僕が流しちゃ見っとも無い。


「もういいのかい?」


 御者台の村人さんが声を掛けてくれる。僕が黙ったまま頷くと、馬車を発進させてくれた。




 村の入り口が僕の視界から消えるまで、皆の見送る姿が見えた。



 ◆◆



 という、感動的な場面があったのが三日前。


 町に無事着いてから長距離馬車に乗り換えて出発したのが昨日。次の町まで後一日というところなんだが。



「うおらあああ!! 金と荷物と食い物置いてけやああああああ!!」



 物騒な妖怪『金置いてけ』、もとい山賊に囲まれたのが五分前。人生ジェットコースターである。


「ひぃ、ひぃっ……! ダメだ、振り切れない!!」


 おっと、そんな感慨に耽っている場合では無かった。馬車馬どころか、御者台のおじさんも死にそうな表情を浮かべている。


 ここはヒーローの見せ場だが、さて、どうやって撃退しよう?



「うらあああ! 止まれやごらああああ!!」



 ドゴォ!



 短気な山賊の一人が、馬車に近づいて車体をぶっ叩き始めた。衝撃で馬車が揺れる揺れる。



 ドゴォ! ドゴォ! バキッ



「きゃあ!?」



 げ、山賊の連打によって壁に穴が開いた! 間の悪いことに、そこは相乗りしていた旅人の少女と母親が!



「んん? おら、そこのガキ! 荷物を寄越しやがれ!!」


「いやあああ!?」



 穴を開けた山賊が、少女を捕まえようと外側から手を突っ込んできた。こりゃ四の五の言ってられない!


 僕は座席から飛び出すと、少女に向かう山賊の手に打ち払う。


「イテッ、このガキが!?」


 山賊は逆上して掴みかかってくるが、その手の指を逆に掴まえ捻り上げる。


「ぎゃああああ!? こ、こいつっ!!」


 痛みに混乱したのか、その山賊は馬の操作を誤って馬車から離れる。



 ……僕と一緒に。



「う、うああああああ!?」


 ヒヒーン!



 馬の嘶きと共に、世界の景色が流転する。僕は必死で体を捻り、落馬する山賊の上に着地した後、地面を数回転がって身を起こす。


「どうした、何があった!?」


「あいつ、ガキと一緒に落馬しやがった!」


 お、仲間の山賊達もうまい事追跡を止めてこっちに来てくれた。その隙に馬車は去って行ったが、まあ仕方ない。

 荷物は背中に担いだままだったから忘れ物は無いし、途中下車する目的もできたから。


「なんだ、このガキ?」


「トマスの野郎、のびてやがる。だらしねぇ」


「ちっ、今から馬車追うのも面倒だな……このガキだけで我慢しとくか」


 五人ばかりの山賊が僕の周りを囲んでくる。すると、遅れてガタイのいい山賊が現れた。


「おう、お前ら。馬車放っといて何してる」


「頭、トマスがこのガキ捕まえた後、落馬しやがりまして。のびてるだけだから、命に別状は無いと思いますが」


 山賊頭は馬の上から僕を見下ろすと、横柄な口調で命令してくる。


「全く、今日は厄日だぜ……。おう、そこの小僧。荷物を渡せば命は助けてやる。さっさと寄越しな」


「やだね」


 平然と拒否したためか、回りの空気が一瞬で殺気だったものになる。


 周りの山賊達が武器を抜くのを山賊頭は手を上げて止める。そのまま、上げた手を腰に下ろすと、じゃらりと音を響かせながら、鎖に繋がれた棘付き鉄球を取り出す。


 いわゆる、モーニングスターというやつだろうか?


「小僧、もう一度だけチャンスをやる。大人しく荷物を渡せ。さもなければ、こいつをお前の頭にぶち込むぞ」


「どうぞ」


 あれくらいの大きさの鉄球を投げてくる怪人とかいたなぁ。なんだか懐かしい。


 感慨に耽っている僕を余所に、堪忍袋の緒が切れた山賊頭は物も言わずモーニングスターを振りかぶる。



 さて、馬車も見えなくなったし……そろそろ変身しますか。




開け、次元の門オープン・ディメンジョン!!』




 カッ!!


 変身時の演出効果、バックライト発動。周囲の敵の視界を一時的に奪う!


「ぐわっ!?」


 モーニングスターを振り下ろす直前だった山賊頭は、光に目を灼かれ、振り下ろす勢いが鈍る。


 貧弱な勢いで落ちてきた鉄球を、真っ赤なヒーロースーツに身を包んだ僕は、強化された腕力で難無く捕まえ、鎖を引きちぎる。



「一体なんだって……へぐっ!!」



 そして、左手の『次元念動ディメンジョン・テレキネシス』の念動力を鎖代わりに、浮かべた鉄球を振り回し、山賊達を攻撃する。


「がっ!?」


「げふっ!」


「ぎゃあ!」


 山賊達の腹、胸、背中に鉄球をぶち当て、次々と落馬させた。



「ひ、ひぃ! 化け物っ!?」



 少し離れていた奴が一人、一目散に逃げ出した。距離があったから光の効果も薄かったのだろう。


 僕は狙いを付けると、左手の念動力を解放した。




次元念動・射出ディメンジョン・テレキネシス・シュート!!』




 ドン! ……ドゴォ!



「ぐはっ!」



 鉄球は結構な速度で飛んで行き、逃げる山賊の背中に命中した。山賊は気絶したのか、馬からずり落ちて大地に伏せる。


「終わった……かな」


 誰とも無しにそう呟くと、僕は周囲の状況を確認する。



 まず馬車は視界の外、はるか向こうまで行ってしまっている。


 山賊達、一応息はあるけど、しばらく動けないだろうな。山賊達が乗っていた馬も全部逃げてしまった。


 荷物は……うん、特に破れたり壊れたりしているものは無いようだ。馬車から落ちた時は結構な衝撃だったからな。



 とりあえず、山賊達の武器なんかを全部回収して叩き壊しておく。後は警察に突き出せば……。



 僕ははたと思考を止め、周りを見渡す。一面草だらけの草原の真ん中。近くの町までは馬車で一日とかの場所。警察なんて居るわけない。



「しゃーない、ここで放置するか。生き延びられるといいね、おっちゃん達」



 ピクピク痙攣している山賊達を尻目に、僕は馬車の向かった先の道へ走り出した。



 山賊達も見えなくなった道の先。わだちの後はあれど、馬車の姿は無し。賢明だ。逃げるなら全力で逃げなきゃね。



 さて、周りの様子をもう一度確認し、虫とか小動物以外に目撃者がいない事を確認後、僕は右手の紋章を操作し、かつての相棒を久しぶりに呼び出すことにした。


『搭乗機レッドプラズマ……スタンバイ。レッドプラズマを現界させます』


 プログラム実行メッセージがヘルメットの中に流れ、目の前の空間が歪む。



 シュオオオオオ……!!



 独特の現界音と共に、空間の歪みから赤いバイクが出現する。



「ヤッホーーー!! 翔君、久しぶりーーー! 会いたかったよー!!」



 そして、レッドプラズマから歓喜に震えるAI、朱美さんの声が聞こえてきた。



「やあ久しぶり朱美さん。ちょっと王都まで移動する馬車から落ちちゃったんで、乗せてください」


「うん! 勿論いいよ。待っててね、その薄情な馬車の位置はすぐに割り出すし、攻撃準備もばっちりだから!!」


「……いえ、それは遠慮します」



 えー、と不満そうな声を上げる朱美さんには悪いが、折角助けた馬車の人達をこの手で殺めてどうするよ。

 第一ヒーローのやる事じゃなくて、怪人とかの所業では? あんまり変わらないかも知れないが。



「まあ、位置の割り出しは別の方面で頼みます。王都への道が分からないから、ナビに設定しておかないとね」


 僕はスキャンモードを起動し、父さんから貰った大雑把な地図をスーツに読み込ませ、バイクの方に転送する。

 朱美さんは僕が頼むと、さっきまでの不満はどこへやら、すぐに作業にかかってくれた。


「オッケー。……地図の転送完了。今までのスーツのログから、村からの移動距離、方角を算定……完了。この前の町がここら辺で……、地図の縮尺から計算すると……大体こんな感じかな?」


 レッドプラズマからホログラムが表示され、地図と移動ルートが表示される。


 レッドプラズマの最高速度でかっ飛ばせば、大よそ二日で着くのか。……いや最高速度で設定しないで下さい。


 僕はナビの設定を変えて、安全運転モードに変える。到着時間が二日から一週間に延びたが、それでも大幅な短縮になったな。



「……この際、ちょっと世界を巡って見るのもいいかな?」


「……! いいねっ、翔君とのドライブ、私も楽しみだよ!!」



 朱美さんも乗り気だ。じゃあ、少しばかり外の世界を堪能してみようか。



「でもご飯どうしようかなぁ……。亜空間にちょっとは保存食溜めてるけど、流石に一か月分は無いし」


「適当に動物を狩るか、さっきの山賊みたいなのをしばいて食糧を貰えばいいんじゃない?」



 追い剥ぎか。


 せめて、その山賊に襲われてる人を助けてその人から……。ある意味自作自演マッチポンプになるのか、これ?


「ま、あとで考えよう。一応お金もあるから、途中の村や町で分けてもらおう」


 僕はスーツを解除し、レッドプラズマに乗り込む。安全の為、ヘルメットだけは残した。



「きゃああああ! 翔君とドライブよおおお! もう、全力でかっ飛ばすわね」


「安全運転で頼みます」


 再度、えー、と不満そうな声が上がったが黙殺した。また死霊術師を轢く羽目になるのは勘弁だ。




 穏やかな日差しの下、僕はレッドプラズマを緩やかに発進させた。




 ◆◆◆



 誰もいない草原の真ん中をドライブするのは意外と楽しかった。整地されていないので、地面の凹凸で若干走り難かったが、レッドプラズマのサスペンションは優秀で、そこまで負担は感じない。


 気の向くままに走っていると、ある丘の頂きに着いた時、その下に小さな村を見つけた。僕の住んでた村より小さな集落だった。



 ただ、様子がおかしい。村の中心に村人らしき人達が固まっており、その周辺を武装した複数の人間が取り囲んでいる。悲鳴や泣き声が微かに聞こえ、それに対して武装した人間が怒鳴る姿も見える。



「……もしかしなくても……山賊に襲撃されてる?」


「そうみたいだねー。集音マイクで声を拾ってみたら、なんちゃら盗賊団の若頭が直々に徴収に来てやった……とかほざいてるね」



 朱美さんが音声ログをこちらに転送してくれる。同時に、望遠モードで撮影した山賊団の様子もヘルメットの内部に表示された。


「さっきの山賊……とは別口みたいだね。なんか変なワッペンを皆付けてるし」


 先ほどの馬に乗った山賊達とは違い、統一された防具を身に着けて、髑髏に剣が突き刺さったようなワッペンを鎧のどこかに付けている。


死の行進デスマーチ』盗賊団と言うらしい。何と言うブラック臭。いややってる事がもろに犯罪だからブラックどころじゃないんだけど。


「まだ本隊が別にあるのか。となると、一人は逃がして後を追って、本隊ごと潰さなきゃな」


「あ、やる気なんだ?」


 朱美さんが確認するように聞いてくる。



 当然でしょう。



「ヒーローの腕の見せ所だからね。……行くよ!」



 僕はレッドプラズマのアクセルを思いっきり吹かし、丘を駆け下り始める。




開け、次元の門オープン・ディメンジョン!!』




 本日二度目の変身は、さながら特撮の一場面のように崖を駆け下りながらの変身でした。



 ◆◆◆◆



 その日、『死の行進デスマーチ』盗賊団に襲撃されたその村に一つの伝説が誕生した。



 曰く、盗賊団に囲まれ絶体絶命の窮地の中、村の裏手にある丘に突如閃光が現れる。


 光の中から現れたのは、見たことの無い赤い馬に跨る、くれないの戦士。


 戦士は巧みに馬を操り、村の家屋の屋根に着地すると、盗賊団に向かってこう言い放つ。



「無辜の民を襲う悪漢共め! このジゲンの戦士が成敗してくれよう!」



 盗賊団が呆気に取られている間に、その赤き戦士は地面に飛び降りると、馬を駆り、環状に並んでいた盗賊達を次々と跳ね飛ばし、あるいは殴り飛ばしていく。


 そして、ついに盗賊の親玉と接触する時、卑怯にも盗賊の頭は村人を人質に取って盾にした。


 だが赤き戦士が静かに左手を掲げると、その手から薄い光の帯が放たれ、人質にされた村人を包む。すると弾かれたように盗賊の頭は村人から手を離し、その隙に距離を詰めた赤き戦士はその拳を盗賊頭の腹にめり込ませる。


 かくして戦いは終わり、たった一人無事だった山賊は、ほうほうの体で逃げ出したのだった。


 その後、赤き戦士は村長がお礼の言葉をかける暇もなく、馬を駆って去って行った。



 村人達は、その赤き戦士を、その小さな体躯からドワーフと推測し、『赤きドワーフの戦士伝説』として代々語り継いだそうな。


 この事実を、当事者のヒーローは知らない。



 ◆◆◆◆◆



 翔の行動は秘密裏、かつ迅速に行われていた。


 逃げ出した盗賊を追いかけ、『死の行進デスマーチ』盗賊団のアジトを発見した後、ステルスモードでアジト内に潜入しては一人ずつ密かに気絶させ、親玉含めて全員を縛り上げた。


 そして荷馬車に全員乗せて近くの町の入り口に、これまた密かに放置し、アジトに残っていた適当な食糧を失敬していた。




 これで食糧問題を解決した翔は今度こそ気の向くまま、旅を始めることが出来たのである。




 ◆◆◆◆◆ ◆



 とある森の中、一人の少女が絶体絶命のピンチに陥っていた。



 グルルル……



 少女は木の枝に必死にしがみ付き、眼下の野犬の群れを恐怖の眼差しで見ている。


「あ、あっち行くニャ、この野良犬ども! うぅ……こんなところで、犬に食べられたくないニャ……」


 語尾が可愛らしい泣き声を発しているのは、猫の耳を頭に生やした獣人。猫人マオレン族の娘だった。


 涙が零れ落ちそうな顔で、それでも泣くまいと必死に耐えるのは、彼女の誇りか気丈さ故か。


 だが一向に立ち去る気配の無い野犬達と、誰も助けに来ない状況。更には、先ほどから徐々にしなってきた木の枝に、彼女の我慢も限界に達しようとしていた。



 メキッ……!



 一際大きく、木の枝から異音が発せられた時、彼女は恐怖に耐えられず、叫んだ。




「誰か助けてニャーーーーー!!」






「おっしゃ任せろやーーー!!」




 ブオンッ!!



 今まで聞いたことの無い音が少女の鋭敏な耳に響き、そして、これまた今まで見たことの無い赤い何かが野犬の群れに突っ込んできた。



 キャインッ!?



 野犬の群れは、突然の侵入者に警戒するどころか思いっきり動揺し、一目散に逃げ出す。



「……なんだ、結構意気地の無いやつらばかりだったな。昔サラを襲った犬達の方が、まだやる気あったぞ」



 赤い兜を被り、ぴったりと体に張り付く不思議な服を着た少年が、拍子抜けしたように頭を掻いていた。


 いきなりの超展開に、猫人族の少女はポカンと呆けてしまい、体の支えを緩めてしまう。



 その拍子に、バランスを崩して変な力が入った枝が、遂に折れてしまった。



 バキッ



「!? ニャーーーーー!?」


「ん? おわっ!!」



 そして少女は、赤い少年の上に落ちてきた。



「『次元念動ディメンジョン・テレキネシス』!!」



 少年がそう叫ぶと、彼の左手から燐光が伸び、少女の体を包む。

 それだけで少女の落下は緩まり、ゆっくりと下に降りていく。


 赤い少年は降りてきた少女を軽々とお姫様抱っこすると、そっと大地に立たせた。


「怪我は無い?」


「あ、ありがとニャ……」


 色んなことがあり過ぎて一杯一杯な少女は、それを言うだけで精一杯だった。


 少年は少女の返事を聞くと、しばらく周りを見回して少女に向き直る。


「えーと、帰り道分かる? ここ結構森の奥で、集落らしき場所から結構離れてるんだけど」


「え……あんた、私の村の場所分かるの?」


 少女は村から少し離れた場所で野犬に遭遇し、それから必死に逃げている内に村の場所が分からなくなっていた。


「分かるよー。なんなら送ろうか? 野犬の群れとか、熊みたいなのも森の中を闊歩してるし」


「ニャ!? ……犬は無理ニャ。熊はもっと無理ニャ。……お礼はするから、連れて行って欲しいニャ」


 藁にも縋る思いで少女は少年に頭を下げる。少年は快く了承し、赤い機械に跨ると、彼の後ろの部分ポンポンと叩く。


「じゃあ、ここに乗って。これで移動するから」


「………ニャ」


 少女は得たいの知れなさをその機械に感じていたものの、恐る恐るその機械に近づく。


 すると、少女が近づいた分だけ、その機械が前に移動した。


「ニャ?」


 少女が小首を傾げると、少年は慌てたように手で少女を制する。


「ごめん! ちょっと待って」



 少年は前のめりになり、なにやらひそひそと小声で何か言い始めた。



「……困るよ朱美さん……。え、タンデムは嫌? いやいやそこを何とか……。猫耳萌えとかは関係無いから……」



 少女には理解出来ない単語が聞こえてくるが、理解できないので少女は黙って待つしかない。ただ独り言を呟く少年を不安げに見つめる。

 自分を助けたのは狂人だったのか? そう疑い始めた少女だったが、自分を抱き留めてくれた両腕には確かに優しさがあった、と少年を信じて我慢強く待つ。


 五分ほどで少年の独り言は終わった。



「……OK! 今度こそ、乗っても大丈夫だよ!」


「わ、分かったニャ」



 少女は緊張しながら、再度その機械に近づく。今度はちゃんと停止していた。


 少女が乗り込むと、少年は少女の腕をちょいちょいと突き、自分の腰を指差す。


「ここら辺をしっかり掴まえていて。移動する時危ないからね」


「りょ、了解ニャ!」


 少女は少年の腰に手を回し、ギュッと体をくっ付ける。すると、少年が少し身を固くしたように感じた。


「どうしたニャ?」


「……む、胸……いや何でも無いよ……」


 少年はどもって何か言おうとしていたが、結局何も告げずに前傾する構えを取る。



「じゃあ……『レッドプラズマ』、発進!」



「『リア充死ねーー!!』」



 少女の耳に、微かに女性の声が聞こえたと思った瞬間、機械が爆発したような勢いで走り出した。




「ギニャーーーーーー!!??」



「ぎゃあああああ!? 朱美さん! 早過ぎ早過ぎ!!」



「『猫耳娘の胸で興奮する翔君なんて、サイテーよおおおお!!』」




 超高速なのに器用に木々を避けて走るものだから、右に左に振れてひどく不安定に感じる。少女は振り落されそうな恐怖から、更に力を込めて少年にしがみ付く。



『圧迫緩和装置、正常作動。損害%・0コンマ以下。スーツへの異常はありません』



「ちょっと!? ダメージレポートが出るくらい後ろの女の子がしがみ付いてるんだけど!? もう少し速度緩めてあげて! あと意外に強いんだね、この子!?」


「ムキイイイイイ! 見せ付けちゃってえええええ! こうなれば、ピリオドの向こう側に行って上げるわああああ!!」


「いやあああああ!! 僕らの人生にピリオドが打たれちゃうううううう!?」



 少年と少女の悲鳴、女性の怨嗟の叫びを振りまきながら、赤い機械は森の中を疾走していった。



 少女は薄れ行く意識の中、それでも少年を離すまいという想いだけは残して、意識を手放した。




 その後、少女が気が付いた時には家のベッドに寝ていた。両親の話では、気絶した少女を背負った真っ赤な少年が、家に届けてくれたそうだ。



 少女は安心感と共に、胸の内に残る仄かなな高鳴りを覚えていた。……それは、自分を助けてくれた赤い少年の事を思い出すことで、より強く感じられた。


 この想いは何なのか、少女にはまだ分からなかった。



 ヒント:吊り橋効果



 ◆◆◆◆◆ ◆◆



 また、とある町と町を繋ぐ街道の脇では、野盗の罠にかかった女騎士が居た。


「くっ……卑怯な!」


 地に膝を着き、荒い息を吐く女騎士。全身を固める板金鎧フルプレートの重みに耐えかねて、今にも倒れそうだ。


「ふっ、卑怯は俺達盗賊の基本だぜ? 正々堂々突っ込んで来る騎士様が馬鹿なだけかも知れねぇがな」


 野盗のリーダーがそう言うと、周りの野盗達も大笑いをする。


 虚仮にされた憤りから、女騎士は顔を真っ赤に染めて、野盗達を罵る。



「おのれ、下衆どもめ!! 私がお前達を討伐に来たと知って、あっさり降伏したかと思えば……降伏の証にと美味しいシチューを振る舞い、あまつさえそれに痺れ薬を入れるとは……。この人非人!!」



「……いや、本音を言えば……まさか本当に引っかかると思わなかったよ……」


「どうせ切り殺されるか処刑だろうから、最後に嫌がらせしてやろうと思っただけなんだけど……」


「お代わりまでしたからな、この騎士。普段碌なもの食べて無いんじゃないか?」



 野盗達は騎士を可哀想な者を見る目で見ながら、口々に困惑の想いを語っていた。


 今度は、女騎士の顔が羞恥で赤く染まった。


 野盗のリーダーは騎士に対して同情的に成りそうだった気分を振り払うよう、何回か咳払いをして顔を上げる。



「ま、まあいい! うまい事策が決まったんだ、この際、やれる事は色々やっとこうぜ!」



 おお! とか よっしゃ! とか いよっ、リーダー男前! などの景気のいい合いの手が野盗達から上がる。


 場の雰囲気を察し、女騎士の顔から血の気が引く。


「な、何をするつもりだ!?」


「ん~~? 分かりそうなもんだがな。もしかして、男を知らないのかな~?」


 下衆の雰囲気を醸し出し始めた野盗のリーダーは、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて女騎士に近づく。



「! 寄るな! こっちに来るな!?」


「ふふふ……まずは、そのお堅い鎧から脱いでもらおうか……」



 野盗リーダーの腕が女騎士に伸びた時、彼方から爆音と共に何かが近づいて来る気配がした。


 野盗達は警戒しながらその方向を向くと、強い光を発する何かが高速で接近していた。



「な、何だあれは!?」


「馬より速いぞ!」


「畜生、騎士の仲間か!?」





「痴漢~~~~~~~、ダメ、ゼッタイ!!」




 ドコォ!



 空気を吹き飛ばす音と共に、球状の淡い光の塊が矢のようなスピードで野盗リーダーに衝突し、その身を吹き飛ばす。



「ぐわあああああ……!?」



 野盗リーダーは何が起こったかも分からず、野太い叫び声を残して星空に消えていった。



「ああっ! お頭ーー!?」


「てめぇ……! 何者だ!?」



「女性に対して多人数で襲い掛かる男共、なんてテンプレな非道している悪党に名乗る名前など無い! ささっと片付けさせて貰う! …とうっ!」


 野盗達の目の前で停止したその何者かは、高く飛び上がり、野盗の集団に踊りこんでいった。



「……凄い……」



 目まぐるしく変わる状況に混乱していた女騎士は、眼前で展開される戦いに心を奪われてしまった。


 集団の力で攻撃し圧殺しようとする野盗達に対して、飛び込んで行った小さな人物は、まるで手馴れた作業でもするかのように、攻撃をかわし、あるいは誘導し、自爆や誤爆を誘発させ効率的に野盗の数を減らしている。


 また彼自身も的確に攻撃して場の支配権を握っている。攻撃を受けた野盗はいずれも一撃で崩れ落ち、起き上がることは無い。



 まるであらゆる敵の攻撃が見えて、その反撃方法まで分かっているかのような戦いぶりは、武神の舞と言っても過言では無かった。



 ものの数分で、野原には倒れ伏す野盗達で一杯になった。



「ふう………、久しぶりの集団戦は緊張したなぁ。やっぱり勘が鈍ってるな。何発か貰いそうになったし」



 首や手足の関節を鳴らし、その小さな人物はうーむと唸りながら腕を組んで考え込む。


 女騎士は自分が呆けていたことを漸く自覚して、悩む小さな人物、いや少年に声を掛ける。



「あ、あの……! 助太刀、感謝する。貴公の名前は……?」


「はい? フィア……いや違う、えっと……」



 少年はふと漏らしかけた言葉を飲み込み、しばらく考えた込んだ後、一度女騎士に背を向け、顔を少し振り向かせニヒルに言葉を吐き出した。


「……通りすがりの、正義の味方ヒーローですよ……」


「正義の……味方……」


 呆然とする女騎士は少年の言葉を反芻する。少年はその間周りの野盗達の荷物を漁り、目的の物を見つけ出すと、女騎士の元にそれを投げ渡す。


「解毒剤です。それがあれば痺れも消えるでしょう。……では僕はこの辺で失礼します」


 そう言うが早いか、少年は先ほど乗っていた光を放つ何かに跨ると、先ほどと同じ超高速で走り去って行った。



「紅の……英雄ヒーロー……」



 女騎士の脳に、真紅の記憶が焼きついた夜だった。







 その頃、現場から大分離れた野原では……


「いやあああああ! 久しぶりだったから名乗り方忘れてたああああ! は、恥ずかしいーー!!」


 絶叫する謎の少年が野原を疾走していた。



 ◆◆◆◆◆ ◆◆◆



 そしてまた、とある町の郊外にある墓地。月すら隠れる曇った夜空の下、そこでは数人の聖職者が危機に瀕していた。


「こ、こんなにアンデットの数が多いなんて……」


「おのれ死霊術師め……死者を弄びおって!」


 聖職者達の周りは、十重二十重とゾンビやスケルトンに囲まれている。松明の光だけでは届かぬ位置にまで、蠢く死者の気配が感じられた。

 彼らのうめき声は生者に対する怨嗟か、これから増える仲間を迎える歓喜の声か。


 それらの大合唱は、確実に聖職者達の精神を削り、恐怖を煽っていた。


 ゾンビ、スケルトンの群れの一番奥には、ほくそ笑んでいるローブを着た初老の男が居た。彼こそ無数のアンデットを操る死霊術師だった。死霊術師は聖職者達を見下し、嫌味ったらしく声を投げかける。


「ふふふ、戦神『バセム』の信徒が聞いて呆れるな。これっぽっちのアンデットに怖気づいたのかい? 神もさぞお嘆きだろな」


「! 私達を侮辱するだけでなく……下賎な死霊術師の分際で神の意を語るとは、天罰が下りますよ!」


 死霊術師の皮肉に反応したのは、聖職者達の最前線に居た修道女シスターだった。戦神の信徒だけあって、シスター服の上から金属鎧を着込み鈍器メイスと盾で武装している勇ましさだ。


 彼女は他の聖職者達とは違い、死を恐れぬ気高さと勇気で死霊術師を睨みつけ、メイスを突きつけて宣誓する。


「そこで待っていなさい! すぐにでも貴方を成敗し、この迷える魂達を神の御許に送って差し上げます!!」


「ふっふっふ、出来るものならやってみるがいい。これだけの数のアンデットを、どうやって乗り越えて来るのかな?」









「裏から回り込めば、乗り越えなくていいよね?」



「ふっふっふ、確かにそうだな………何?」



 ドス


「ふぐっ!?」


 死霊術師の体が九の字に折れ、くたりと体から力が抜ける。いつの間に現れたのか、死霊術師の後ろには真っ赤な服と兜を纏った少年らしき人物が居た。


 彼のパンチが死霊術師の腹に決まったのだろう。真紅の少年は片手を死霊術師の腹部に当てた状態から持ち上げ、近くの墓石に寄りかからせる。



「よし、親玉は倒したし、ゾンビやスケルトンは自然消滅………」




 オオオオオオォォォォ………




 ゾンビもスケルトンも、まだまだ元気一杯?に活動していた。


「あれぇ!? てっきり親玉の意識が解ければ勝手に消えると思ったのに! どないすんべ……」


 腕を組み田舎訛りの呟きを漏らす少年に対して、シスターが声を張り上げる。


「危ない! 襲われるぞ!!」


「え? おわっと!」


 少年はゾンビの大振りのパンチをさっと避けると、距離を取って警戒態勢を取る。


「やべ、今まで大人しかったが無差別になってきた! こうなれば……」


 少年が右手の甲を触っていると、少年の前に光の板が現れた。その中に、また別の少年の顔が浮かんでいる。


「助けてレオンえもん! アンデットの群れに襲われたの!!」


「……今何時だと思ってんだ……。夜更かしはお肌の大敵なんだぞ……」


 真紅の少年の呼びかけに応えたのは、限りなく不機嫌そうな黒髪の少年だった。


「おめーの肌事情なんざ知らんがな。というか、マジで何とかして。この量のアンデットが近くの町に行ったりしたら、確実にパニックだから」


 黒髪の少年は周囲を見回すと、欠伸を噛み殺しながら真紅の少年の腰を指差す。


「誕生日プレゼントにやった御札あるだろ、あれを掲げろ。それで何とかなるから。あ、肩たたき券は使うなよ、肩こり治るだけだから」


「最初から混入させとくなよ、その札。えーと、これか?」


 少年は腰に付いていたポケットから札を取り出すと、一枚取り出し高く掲げた。




 ……パアアアアアァァァ!!




 高く掲げた札から眩い閃光が発せられ、墓地全体を覆いつくしていく。






 オオオオオオォォォォ………!!






 アンデットの群れは自らを包み込む暖かく厳かな光に打ち震え、そして次々とその身を土に、魂を天に返していく。


「な!? なんて……強い浄化の力だ!?」


「凄い……首都の高僧でもこれだけの法力を操る者は少ないぞ!」


「あの少年は一体……!」


 聖職者達は、その凄まじい光景に完全に動揺しきっていた。アンデットの群れすらに怯まなかったシスターも、愕然とした表情でその光景、更には真紅の少年を見ている。



「……すごく強力なお守りだったんだね、これ」


「まあな。四年前に出会った骸骨の死霊術師、あいつの呪いを相殺できる程度の法力を込めてたんだが……。結構強かったんだな、あいつ」



 アンデット達が全て土塊に還った後、のんびりした会話が墓地に響いた。真紅の少年は、光の中の少年に軽く頭を下げて礼を言う。



「あんがと。今回は助かったわ」


「気にすんな。浄化の代理してもらったわけだしな。……あー、俺も旅に出てー。死霊浄化してー、翔が会った猫耳娘にも会いてー」


「ちと煩悩そぎ落としてからにしろ。厄いぞ最近のお前の言動は」



 軽口を叩きあった二人は、離別の言葉を最後に会話を止め、光の板は消え去る。顔を上げた真紅の少年は、聖職者達の注目を浴びている事に漸く気付いた。




「あ、僕はこれで失礼しますー。この死霊術師の処遇はお任せします。……ついでに墓地の掃除もお願いします」




 聖職者達に面倒事を押し付けた少年は、シュタッと顔の前まで手を挙げると、全速力で墓地の外に向けて走り出した。




 あとに残された聖職者達は、それを呆然と見送るしかなかった。



「真紅の……聖者……。あれだけのアンデットを一瞬で……。いつか、いつの日か…………弟子にして貰おう!!」



 一人のシスターは、変な方向に感動し、決意していた。



 ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆



「……まーこの三週間、色々あったよねー」


 今、僕は草原の真ん中でランチタイムと洒落込んでいる。目の前には、勇の顔が映ったスクリーンを投影していて、勇と駄弁りながらサンドイッチを咀嚼している。


「あー羨ましい羨ましい。行く先々でヒーローやれて羨ましいなー妬ましいなー。くっそ、俺にも出し入れ自由なバイクがあれば……」


「無いの? なんか、式神とか言うので乗り物創れないのか?」


 僕を半眼で睨みつけながら延々愚痴をこぼす勇にかねてからの疑問を尋ねる。


「そりゃある事はあるがよー……。一反木綿に跨るか、巨大な雀に掴まえられて飛ぶか、の二択なんだよな」


「キ○ローか。雀ならいいんじゃない?」


 某妖怪バスターがこんなに身近に居たとは。勇は憂いを含んだ溜息を吐き出し、ポツリと呟く。


「ヒーローって言うか、『怪鳥に攫われた少年』だろ。見た目的に」


 ……想像すると、確かにそうだ。


 これ以上今の話題を続けたくないのか、勇は話を変えてきた。


「それより、もうそろそろ王都に向かった方がいいんじゃないのか? 道草食いすぎて、入学試験に遅刻って笑えねえぞ?」


 ごもっとも。僕もそろそろ王都に向かおうと思ってたところだ。


「うん、今日から王都に進路を変更するつもり。しかし、入学試験の勉強を全然やってないんだよなぁ」


「これから一週間くらいあるんだろ? せいぜい頑張れや受験生。そうだ、お前に有り難いお祈りの言葉を贈ろうじゃないか」


「へえ……。じゃあお願いしようかな」



 僕は正座して勇の言葉を待つ。霊験あらたかな言葉、しかも勇から発せられればきっとご利益があるに違いない。そんな思考をする僕は、やっぱり日本人なんだろう。


 画面の向こうの勇は、一つ咳きをすると、大きく息を吸い込んだ。






「落ちる! 滑る! こける! 桜散る! ……じゃ、頑張れよ」






 ピッと音がして、通信が途絶えた。


 頂きものは、祈りでなくて呪詛じゅそでした。……あの野郎、今度あったら絶対〆る。


 はぁ、と溜息を吐いて、『レッドプラズマ』に跨る。何にせよ、勇の嫌がらせに負けないよう勉強するしかあるまい。


「じゃあ、ナビを王都に設定してルート構築するね」


「うん、お願いします朱美さん」




 僕は晴天の下、軽い曇天の気分で『レッドプラズマ』を発進させた。






 目指すは、王都『デュスターヴ』だ。




旅の道中を詳しく書こうかとも思いましたが、またグダグダになる可能性があったのでサクサク書きました。


次話から王都での生活編です。新たな都市、新たなキャラクター、新たな生活。考えることがいっぱいだー。こりゃ中々筆が進まないなー。


ですので、次話投稿はまた大分先になります。ごめんなさい。

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