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第13話 出発! 新たな門出

*注意:長いので、途中にある◆を目印に適度に読み進められると良いかもしれません。区切り毎に、◆の数を増やしてます、セーブポイント代わりにお使い下さい。

 季節は巡る、夏から秋、冬から春。幼き少年達の日々は加速していく。留まることの無い時の流れは少しずつ、だが確実に幼いヒーロー達を成長させていく。


 森に潜んだ悪党達も今は雌伏の時と、人々の前から姿を消した。


 平和な時間が過ぎていく。かけがえの無い幸福な時間が過ぎていく。



 そして今日、成長した少年ヒーローに転機が訪れようとしていた。



 いずれ立ち向かう巨悪に対して、神が与えた猶予期間は………もうちょっとだけ続く。

 ただし、準備はしてもらうとばかりに試練は与える模様であった。



 ◆



「フィアル………フィアル………。起きなさい、もう朝よ」


 うーん、お母様……この僕に今しばらくの朝寝の時間を下さいませ……。


「今日は貴方の七歳の誕生日でしょう? 早く起きて準備をしないと、夕方の誕生日パーティーが開けないわよ」


 大丈夫ですお母さん、僕はやれば出来る子だから、それ位の準備はあっという間にできます。だから後五分……。




「にーちゃ、起きないの? ………じゃあネージュが起こすーーーーー!!!」



 ヒュン




 その時、僕のヒーローとして培った勘が全力で起きろと叫んだ!


 僕は毛布を跳ね除けると両腕を前に突き出し、腹筋に力を、腰に覚悟を入れる。



 ボスッ



 僕の体は跳躍した我が妹ネージュを受け止め、伸ばした腕で彼女を支える。覚悟を決めていた腰は、今回は悲鳴を上げなかった。


 以前、妹専用技『飛び込み兄起こしの術』を食らった時は、覚悟を決めてなかったせいであやうくぎっくり腰になるところだった。


「ネージュ……。お兄ちゃんを起こす時にフライングボディプレスは止めなさいと言っただろう……」


「あははははは!! にーちゃ起きたーー!!」


 長く伸ばした金髪を振り乱し、かんらかんらと笑うネージュは今日も元気だった。すりすりと体や頭をこすり付けて来るので、色々むず痒い。特に髪の毛が色んな所に触れるので、こしょぐり地獄に落とされた気分だ。


「あらあら、ネージュが起こすとすぐに起きるわね。これからは毎朝ネージュに頼もうかしら」


「お母さん、これからはしっかり起きますので妹の面倒をお願いします」


 ネージュをベッドの上に置いて、その横で僕はエレナ母さんに土下座する。ネージュはまだ笑ったまま、体を丸めた僕の背にし掛かってくる。


「にーちゃ、お馬さんごっこしてー」


「くおおおお、朝の寝起きからお兄ちゃんにお馬さんごっこのおねだりは止めなさい!!」


 全力で圧し掛かってくる妹と、それからどうにか逃れようと奮闘する僕を、エレナ母さんはくすくす笑いながら見ていた。


「もうしっかり目は覚めたでしょうから、適当なところで切り上げて降りてきなさい。朝ご飯、もうできるから」


 おおお……母上、我が息子を可愛らしい小悪魔に襲わせたまま、捨て置かれるか……。いやほんと助けて。



「あ、そうそう」



 エレナ母さんは、部屋の入り口で立ち止まるとこっちを振り返った。た、助かった?




「……お誕生日おめでとう、フィアル」




 にっこり笑ったエレナ母さんは、それだけ言うと部屋から出て行った。


「おめでとー、にーちゃ! あははははははは!!」


 分かっているのか分かっていないのか、ネージュも僕の背で大笑いしながら祝福してくれた。


 ネージュ、お兄ちゃん誕生日プレゼントは『お兄ちゃんをいたわる券』とかがいいなぁ……。



 ◆◆



 ネージュが離れてくれないので、彼女をおんぶした状態で階段を下りる羽目になった。ネージュはご機嫌な様子で僕の首に腕を回してくる。何かの間違いで締め上げられそうで怖い。



「にーちゃ、今日パーティーするの?」


「そうだよー。結構前にネージュが三歳になった誕生日パーティーしたでしょ。あれと同じ」


「じゃあ、スーさんのケーキ食べれる!?」



 ネージュが目をキラキラさせながら陶酔した表情でそう聞いてきた。


「うんうん食べれる食べれる。ついでに多分ルリィ先生の特製ケーキも食べれるぞー」


「……それはいい……」


 途端にネージュのテンションが下がった。

 ルリィ先生は、実はあまり料理、特にお菓子作りが得意でない。貴族の出だから出来なくて当然と言えば当然なんだが、それでも一般的な料理はまあまあ出来た。


 壊滅的なのはお菓子類だ。どういう訳か、ケーキだのクッキーだの作る時だけ、どんぶり勘定、アレンジ志向、味覚オンチが入るんだよなぁ。


 しかも、味見はせず、もっぱら僕やネージュにさせてくる。本人は僕らを喜ばせたいんだろうが、ならばせめて甘味の何たるかを勉強してから来て欲しい。


 それに対して驚くべきはスーさんだ。基本的に味見が出来ない体にも関わらず、作る料理が悉く絶品である。最早、神業ゴッドハンドとしか言いようが無い。



 そんな取りとめも無い事を考えつつ一階に降り立ち、食堂のドアを開けた。



「よう、お兄様。妹さんくれない?」



 食堂入ってすぐの所に居たレオンの顔に無言でパンチを叩き込み、テーブルへ向かう。


「フィアル! 俺とネージュは愛し合ってるんだ! 是非結婚を認めて、一緒に親父さんを説得……!」



 次は腹だ。



「あははははは!! レオンにーちゃ、お腹押さえてゴロゴロしてるー!!」


 妄言断つべし。朝も早よから人の家に飯を集りに来た挙句、妹を嫁にくれなど抜かす愚者に制裁を。


 こいつはネージュが三歳になった位からやたらとアプローチを掛けてきやがる。


「……光源氏って憧れね?」とか遠い目をしながら言っていたから、自分好みにネージュを染め上げるつもりなんだろうか。誰が許すかそんな事。


 なお、ネージュは勇の事は近所の愉快な兄ちゃんとしか認識していない模様。まだ恋心とか理解できる年じゃないだろうしな。


 腹を押さえてはいるが、顔は苦痛から解放された勇がようやく立ち上がってきた。


「今日はここら辺で退くぜ……。最近ツッコミに容赦が無くなってきたな、兄弟。痛いぞ?」


「軽く殴っても鼻血一つ流さないからな。本気でやらないと制裁にならないと判断したんだよ」


 元ヒーローは伊達じゃない。勇は殴られる瞬間にダメージを減少させる体捌きを無意識にやっているのだ。僕も多少出来るが、勇ほどじゃない。


 本人曰く、「物理ダメージは術で減少させ難かったから、体術はしっかり訓練した」だそうだ。最近勇とこっそり組み手練習をしてるが、確かに学ぶべき所が多かった。



「フィアル、レオン君をぶつのは止めなさい。お父さんから許可が出ていると言っても、命の恩人を叩くのは良くないわよ」



 テーブルに朝ごはんを並べているエレナ母さんから、お叱りの言葉が飛んできた。もう四年も前の事だし時効という事で。


 ちなみに、このアホはうちのロイ父さんに向かって、冗談交じりに「ネージュさんを僕に下さいよー」とか言った事がある。


 その夜、ロイ父さんから勇が必要以上にネージュに近づいた場合は制裁を加えろと指令が出た。


「なあに、子ども同士の喧嘩なんて良くある事だ……」


 暗い笑みを湛えた父さんの顔は、しばらく忘れられなかった。まあ多分、その時全く同じ顔を僕もしてたと思う。


「こらこら、キッチンにもお前達の騒ぎが聞こえてきたぞ。全く、お前達はいつまでたっても落ち着かないな」


 今度は鍋を抱えたルリィ先生が現れて小言を授けて下さる。


「……おはよう二人とも。朝から元気だね。でも怪我しないように遊ぼうね?」


 パン籠を抱えた聖女……の遺骨スーさんがルリィ先生の後に続いて現れた。その気遣いの言葉が逆に痛い。



「お、朝飯の用意が整ったようだぜフィアル。お互い遺恨はあるが、まずは仲良くテーブルを囲もうじゃないか」


「あはははははは! レオンにーちゃ、偉そー」



 馴れ馴れしく肩に手を掛けてくる勇にもう一度パンチを叩き込んでやりたいが、これ以上続けて母さん達の顰蹙ひんしゅくを買うのはまずい。飯抜き的な意味で。


 僕はその手を払う事はせず、その手がネージュに伸びないようにしっかりと掴んでテーブルに向かった。



「お兄様!? 痛い! 痛い! ゆ、指が食い込んでりゅううううう!?」



 おっと力が強すぎたか。



 その後、また騒ぎを起こした事で母さんから飯抜きが言い渡されそうになり、スーさんに取り持ってなして貰う羽目になった。



 こうして僕の七歳の誕生日の朝は騒がしく明けた。



 ◆◆◆



 その日の夕方、僕の誕生日パーティー開催時刻が迫っていた。僕は自分の部屋で、すこしおめかしした格好で待機している。


 料理なんかはスーさんを中心に母さん達が作ってくれている。招待状なんかは何日も前に出している。食堂の飾り付けなんかは、ただ飯食わせた勇も動員して二人で終わらせた。


 後は開始を待つだけだ。そろそろ誰か来るだろうから、玄関付近で待ってようかな。


 そうやって腰を上げたところ、右手の紋章にメール受信のサインが現れた。


 僕にメールを送ってくる人なんて一人しかいない。人工知能の朱美さんだろう。僕は手早くメールを開いた。


 from 朱美

 to 翔


 題名:現七歳の誕生日おめでとう!


 本文:誕生日おめでとう、翔君! こっちの世界に来てもう七年。早いものだね~。あんなに小さかった翔君も、大人びてきて朱美ドキドキ☆ 後七年で、初めて私達が出会った時の年齢に戻るね。あの頃の翔君も格好良かったけど、それまでの翔君が見れなかったのがちょっと残念だった。でもその成長の軌跡が見れたのは、素直に嬉しいな。



 思えば朱美さんとの付き合いも随分長いな。最近は意識してなかったけど、あっちの世界に居た頃は相棒として、また姉みたいな存在として支えてくれていた……。


 昔の思い出にちょっとしんみりしていたが、本文の続きを見て徐々にしんみり感が減少していく。



(本文続き)

 ところで最近、あの泥棒猫……じゃなかったネージュちゃんとのスキンシップが目に余ると思うの。以前サラのあん畜生……失礼、サラ君とのボディタッチが多いって注意はしたと思うけど、翔君はサラ君以外ならOKと思っちゃった? あのね、ここは異世界なんだから現地民との接触は最小限に抑えないと、いつ疫病とかを移されるか分かったものじゃ……(中略)……これは嫉妬なんかじゃなくて、飽くまで翔君が心配で……(後略)。



 僕は「誕生日メールありがとうございました。朱美さんの助言は前向きに善処させて頂き、ケースバイケースで対処します」とメールの返信を打ち込み、メールの受信を『後で閲覧』モードに切り替えた。


 今日も今日とて、重いよ、朱美さん。


 右手に何となく負荷を感じながら、僕は階段を下りていく。階段を降りきった丁度の時、玄関のドアがノックされた。


「はーい、今開けまーす」


 母さん達がこっち来なくていいように大きな声で返事を返し、僕は玄関のドアを開けた。



 目の前に、美の女神ビーナスが居た。



「……お誕生日おめでとう、フィアル。今日はパーティーにお招き頂きありがとうございます」



 玄関先で胸に手を当て、可愛らしくも優雅にお辞儀をしたのは、幼き頃からの親友サラレット・テイラーだった。


 サラはパリッと糊の効いたシャツの上からレースのケープを肩にかけ、革のズボンを穿いている。


 パーティーに呼ばれたという事でサラもおめかしして来たのだろう。レース地の衣装は、この国では男女関係無く使っている様なので変なことでは無いが、サラが着ていると上は女性、下は男性といった感じで何だか頭が混乱してくる。


 未だ髪を伸ばしたままのサラの髪は、肩口を少し超えた辺りで切り揃えられたプラチナブロンドで、極上のたてがみのようにサラサラフワフワだ。思わず指を滑り込ませたくなる。


 やっても笑って許してくれるが、何だかイケナイ事をしている気分になるし、何よりくすぐったそうにしていたサラの目が何だか怪しい色を帯びてくるので一回しかやっていない。



「フィアル……?」



 過去の記憶と妄想から覚醒したのは、怪訝な表情をしていたサラに名前を呼ばれてからだった。僕は慌てて醜態を取り繕う。


「いやあごめんごめん。サラのその格好が似合ってたから、つい見惚れていたんだよ」


「もーー、何言ってるんだよフィアル、恥ずかしいなぁ……。でもありがとう、フィアルも似合ってるよ」


 にへらっと相好を崩して照れていたサラは上目遣いにこちらを見て、僕の服装を褒めてくれた。


 僕の服装は揃いの麻のシャツとズボンだ。

 どちらもこの日の為にルリィ先生が用意してくれた上質な代物である。お値段は……プレゼントなのでプライスレスだが、正直聞きたく無い。


 ともかくお客様をそのまま待たせるわけにはいかないので、家の中に入って頂く。そのまま食堂の方に案内した。


 食堂のテーブルにはたくさんの料理が並べられていた。料理を並べていたエレナ母さんが、入ってきたサラを見つけて黄色い声を上げる。


「あらーーーー! サラちゃん綺麗におめかししてるわね! 今日も可愛いわよ」


「えへへ……エレナさん、ありがとうございます」


 可愛いと言われて嬉しそうにするサラに違和感を感じなくなったら、やばい兆候です。貴方は男性が女性に見えてます。


 自分は……ギリセーフですかね。


「サラは寛いでいてくれ。暖炉の前あたりがお勧めだぞ」


「早く着いちゃったから、僕もお手伝いするよ。エレナさん、お皿並べるのを手伝います」


「まあ、いいのよサラちゃん。本当はうちのフィアルがしなきゃいけない仕事なんだから、気にしないで座ってなさい」


 ああ、視線と言葉が僕の胸に突き刺さる。すいません、手伝いサボってすいません!


「……お皿並べます、お母さん」


「今更殊勝になっても遅いわよ。……まあいいわ、サラちゃんの相手してなさい。ついでにネージュも」


 そう言うと母さんは台所に一度引っ込み、帰って来た時には、頬を丸く膨らませたネージュを抱えてきた。


「もぐもぐもぐ……、にーちゃ! 今日のご飯おいし!!」


「……今からつまみ食いしてたら、後で食べれなくなるぞ」


 越冬前のリス状態から高速咀嚼で元の状態に戻ったネージュは、エレナ母さんの手から離れるとトコトコとこちらに寄ってきた。


「サラにーちゃ、こんばんわ!」


「うん、こんばんわ。ネージュは今日も元気だね」


 サラがネージュの頭を撫でると、ネージュは気持ち良さそうに目を細めた。傍から見るとまるで姉妹だ。本当は兄弟みたいと言うべきだが。


 そんな光景を見てると、また玄関から誰かの気配を感じた。


「皆早いな……」


「それだけ皆フィアルの事が好きなんだろうね」


 ネージュをあやしながら、サラが微笑を向けてきた。どっちかと言うと、パーティーを楽しみにしてただけじゃないかな。


 僕はサラに一言断り、玄関に向かう。


 玄関を開けたその先に居たのは……



「ようフィアル。朝も会ったけど、夕方も来てやったぜ! 誕生日おめでとう。お礼に妹さんを下さい」


「(ドスッ)………誕生日おめでとう。パーティーに招待してくれて、ありがと」



 侍祭服を着たレオンと、ワンピースにケープを羽織った出で立ちのリーザが居た。

 なお今現在、勇はリーザから横腹に痛打を貰って脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべている。


 リーザはこの頃ダブル三つ編みを止めて、伸ばした髪をオールバックに纏めている。『視界が邪魔』だから前髪をどうにかしたかったのと、三つ編みが面倒になったので、折衷案でこうなったらしい。


 ちと仏頂面だが、これはいつも通りなので機嫌は悪く無さそうだ。


「良く来てくれたね、リーザ。歓迎するよ。レオン、お前はまず、なんかこー聖水みたいなもので顔を洗って出直して来い」


「おいおい聖水なんて家にしかねぇよ。まあいいや、俺が触ればどんな水も聖水だからな。井戸借りるぞ」


 本当に洗ってくるつもりなのか、家に入らず庭の方へ行きよった。実際、あいつが本気出せばただの水も本当に聖なる水になるから、ヒーロー能力も性質タチが悪い。


「……アホは放っておいて、家に入れてくれない?」


「ああ、ごめん。どうぞリーザ」


 以前なら許可を得なくてもどかどか家に入ってきたリーザだが、最近は随分礼儀作法を身につけてきている。

 尤も、先ほどの勇へのツッコミのように言葉より先に手が出る癖は完治していない。


 リーザを連れて食堂に入ると、もう準備はほぼ終わっていた。


 エレナ母さん、ルリィ先生、スーさんの三人はもうエプロンを外して皿やコップを並べている。


 リーザは食堂を見渡し、少し首を捻った。


「ロイおじさんは?」


「父さんなら村長さんとこに行ってるよ。村共有の炭焼き窯の補修についての会合だって。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」


 ふーん、と興味があるのか無いのか判別し難い無表情のリーザ。


「あ! リーザねーちゃだーーー!!」


 目聡くリーザの来訪を感知したネージュが今度はリーザに突撃する。リーザはネージュを受け止めると、無言かつ無表情で、ぐわしぐわしとネージュの頭を力一杯撫でる。


「あははははは! ちょっと痛いけど、気持ちいいよー、リーザねーちゃ!!」


 それでもネージュはご機嫌である。リーザの無表情に満更でもない感情が微かに浮かんだのを、僕は見逃さなかった。


 切りのいい所でネージュをリーザから引き剥がし、ぼさぼさになった髪を手櫛で整えてやる。


「ちょっとは手加減して撫でてやってくれ。ネージュの髪がたてがみみたいになるから」


「……フン」


 あ、拗ねた。昔だったら拳が飛んで来るところだが、自制心が増したなぁ。




「おーい、今帰ったぞーー。ところで、外の井戸でレオン君が顔を洗っているんだが、何かあったのか?」




 ロイ父さんもお帰りになった。さて、気恥ずかしいが、僕の七歳の誕生日パーティーが幕を開けようとしている。



 ……その前に、勇の洗顔の事をどう弁明しよう……。



 ◆◆◆◆



「本日は我が息子、フィアルの七歳になる誕生日パーティーに出席して頂きありがとうございます」


 ロイ父さんがワインの入ったコップを片手に、サラ、リーザ、レオンの三人に向かって開会の挨拶をしている。


 無論、父さんだけでなくその場の皆もそれぞれワインや果実水などの入ったコップを手に乾杯の合図を待っている。スーさんだけは空っぽだけど。


「三人共、フィアルといつも仲良くしてくれて本当にありがとう。それにネージュにも良くして貰って、大変助かっている。これからも二人をよろしくお願いします。……ああ、レオン君はほどほどにね?」


 口元に笑みを浮かべ、目だけを猛禽類の眼光にしたロイ父さんの視線。それは百戦錬磨のレオンをして、視線を逸らさざるを得ない程の威圧感だった。いいぞ父さん、もっとやれ。


「さて、長々と挨拶しては折角の料理が冷めてしまう。ここらで乾杯としましょう。……では、フィアルの七歳の誕生日を祝って、乾杯!」




「「「乾杯!!」」」




 威勢のいい掛け声と共に、各所でコップの打ち鳴らされる音がする。僕も集まってくれた皆とコップを打ち合わせ、祝福の言葉を次々貰う。



「早いものだな、フィアルがもう七歳か……。自分も随分歳を取ったが、人の成長速度にはいつも驚くな」



 ルリィ先生にとっては、僕らが犬猫の成長を見ているような気分なんだろうなぁ。微妙に複雑な気分だ。



「おめでとう……。フィアル君にあってからもうすぐ四年になるんだね……。あの時受け入れてくれて有難う……」



 スーさん、頭を上げて下さい。お礼を言いたいのはこっちです。日常生活的な部分で大分助かってるんですから。


 余談だが、スーさんは我が家に住み着いてから、ベビーシッターとハウスメイドの役割を一人でこなしていた。エレナ母さんが、自身の堕落を心配する程にその手際は見事なものだった。聖女が住み着いて家主が堕落したらいかんでしょ、とエレナ母さんも懸命に働いた結果、我が家はゴキブリ一匹見かけない程の綺麗さと清潔さを保っている。


 一通り乾杯と挨拶をした後、友人達がプレゼントを持って集まってきた。



「フィアル、誕生日おめでとう。……これ、僕からのプレゼント」



 まず最初にサラが渡して来たのは、小さな麻袋だった。皮ひもで締められているが、中からふんわりと芳しい香気が漂ってくる。


「あのね、いい匂いのするハーブとか、木の皮とかを乾燥させて入れてあるの。お祖母ちゃんから魔除けの効果があるって言われている草木を教えて貰ったから、それを集めて入れてあるの」


 さしずめ魔除けのポプリか。どっかで聞いたことがある気がするが、いわゆる線香みたいな感じなんだろうか? さすがに違うか。


「ありがとう、サラ。これなら持ち歩くのも簡単そうだね」


 皮ひもは結構長めなので、首に掛けることも出来そうだ。手の平に収まる程度の袋だから、胸元にも普通に入れられそう。


「うん。できれば、いつも持っていて欲しいなぁ。……フィアルがまたお化けに襲われないように」


 そう言って少し顔を曇らせるサラ。四年前の死霊術師の呪いのことがまだトラウマになっているのか。


 しかしサラが微妙に顔を赤らめてもじもじしている事と、袋からほんのちょっと顔を出している銀糸……これもしかして髪の毛? の二つが何となく僕を妙な気分にさせる。


 本当にお守りだけだよね? 自分の髪の毛入れたおまじないとかじゃないよね? 聞きたいけど何だか怖くて聞けない。


 とりあえず、顔が引きつらないよう注意しながら再度礼を言って、ポプリを胸に仕舞った。


 次に前に出たのは、リーザだった。


 リーザは布に包まれた細長い何かをずいっと無言で差し出す。



「えと、これ、プレゼント?」


「………」



 リーザはやはり無言で首を縦に振る。さっきとは別の緊張感の中、恭しくその細長い物を受け取る。


 その場で布を剥がすと、中から小ぶりの短剣が出てきた。



「父さんが、男の子はこう言うの好きだろうからって……。その、銀で出来た短剣だから、お守りにもなると……思う……」



 気恥ずかしいのか、いつもより小さい声で説明してくれるリーザ。僕が鞘からほんの少し刃を覗かせると確かに美しい銀色が垣間見えた。

 銀は魔を祓うと言うし、これはありがたく頂戴しよう。



「ありがとう、リーザ。こんな高価な物をくれるなんて……。無理してない?」


「大丈夫、父さんがもう使わないからってくれた剣だから」



 そうなのか。言われて見ると、ちょっと古めかしい感じもするが、良く手入れされていたから意識しなかった。


 しかし、リーザも四年前の一件を未だに心配してくれているんだなぁ。ちょっと感動だ。そう思いながら僕はもう一度短剣をじっくり眺めた。


 ……ん? 今気付いたが、短剣の鞘と刃の間に何か紙切れがある。


 こっそり紙を引き出してみると、そこには



「リーザをよろしく頼む。リーザのパパより」



 の文字が。………どういう意味でだろう。まさかとは思うが、『嫁』になんて意味じゃないよな……。


 心の中で、『友人』として大切にします、とリーザパパさんに宣言して、僕は紙をそっと鞘に隠した。


 友人達の最後トリは勇が飾った。


「よっしゃ、次は俺だな! 喜べフィアル。このレオンさんが有り難~~い御札を作ってきてやったぞ!!」


「それはどうも。でも御札って……部屋に張れとでも?」



 御札塗れの部屋とかどこの心霊スポットだよ。偉そうに胸を張っていた勇は、僕の疑問には答えず紙の束を強引に押し付けてきた。



「俺と父さん、主に俺だけどな、二人がかりで念を込めた霊験あらたかな札だ。そんじょそこらのゾンビとかスケルトンだったら、近づいただけでゲロ吐いて逃げ出すぞ。勿論、呪い耐性もばっちり上がるぜ!」



 汚いな。てかスケルトンは戻すものが無いだろ。


 だがそれだけ強力なら、もうあんな苦しみを味わう事も無くなるだろう。プレゼントの中では一番効果が高そうな品に、ちょっと浮かれた僕は御札を良く見てみた。



 複雑な文様が描かれた御札の中央には、日本語で『肩たたき券』と書いてあった。




「孫のプレゼントかバカヤローーー!!?」




 思わず、勇の顔面に向けて思いっきりパンチを打ち込んでしまった。しかし勇はそれを予測していたのか、難なくパンチを回避する。



「ふ、いいツッコミだ。頑張って作った甲斐があったもんだぜ」


「お前……、これ本当に効果あるのか?」



 猜疑心に満ち溢れた眼で睨みつけると、勇は僕の持つ御札の束に手を伸ばし、ぺろっと一番上の札を捲る。


 二枚目はまともな祝別の言葉がこの世界の言葉で書かれていた。



「二枚目以降はちゃんと作ってるから安心しろ。……まあ一番霊力込めて作ったのは一枚目だけどな」


「何の意味が!?」


「肩こりに効く!!」


「死ね!!」



 またも勇の顔に向かって拳を打ち込み、回避される。しかし今度はフェイントだ。避けて体勢が崩れた隙に、すねに蹴りをお見舞いしてやる。


 脛を押さえながら涙目で蹲る勇を、ネージュはケタケタ笑いながら見ていた。



 ◆◆◆◆◆



 プレゼントを持ってきてくれた勇に蹴りを入れるとは何事か、と、父さん母さんルリィ先生に叱られた。でもスーさんから「仲良くねしようね?」と悲しそうに言われたのが一番堪えた。はい、仲良くします。


 お小言が終わったら、食事に移った。大テーブルを一杯にするほどの料理が僕らを出迎えてくれた。


 グラタン、シチュー、鶏の丸焼き、野菜サラダに沢山のパン。そしてスーさん特製のフルーツケーキ。


 何故か『パン田楽』もあるんだが、これは祭りの時に食べるから良いのであって、決して日常的に食べるものじゃ………まあ食べるけど。



 数々の料理に舌鼓を打つ僕ら。スーさんは食べないので、専ら配膳作業をするか、ネージュの口元を拭いて下さっている。


 僕はパン田楽をもふもふと食べながら、次はグラタンでも食べようかとテーブルの上に視線を巡らせていた。

 すると、ほろ酔い加減のロイ父さんが僕に話しかけてきた。



「ところでフィアル、お前ももう七歳だ。将来の事について何か考えている事はないか?」



 唐突な質問に僕は虚を突かれてしばし固まる。我に返ると大急ぎで口の中のものを飲み込んで、ロイ父さんに顔を向ける。


「しょ、将来の事?」


「そうだ。国の決まりで、我が家はいずれ騎士を輩出させなければいけない。お前は騎士にならなくてもいいが、そうするとお前の子どもが騎士に成らなければいけない。フィアル、お前は農場を継ぎたいか? それとも騎士になりたいか? どちらにするか考えた事は無いか」



 そうだった。今までの平穏な生活で忘れていたが、僕は将来的に農家か騎士になる必要があるんだった。


 でも………いくら平和ボケしてたからって、自分が別の世界からこの世界に来たことは忘れていない。そして、その原点である『神様』との約束も。



 神様との約束、それは『ヒーローの力を使って、世界を救うこと』だ。なら、やる事は一つだ。


 僕は息を吐き出し、迷いの無い眼でロイ父さんを見つめる。それだけで僕の心情を読み取ったのか、ロイ父さんは誇らしい者を見る眼で僕を見返した。



「父さん、僕は………騎士になるよ」



 その宣言を聞くと、父さんは一つ満足げに大きく頷いた。エレナ母さんは、誇らしさと、そして一抹の悲しみを込めて、僕を見ていた。


 ネージュがキョトンとしている以外は、皆僕のことを敬意を込めた眼で見ている。大人になろうと決意した子ども、それを祝福するように。


 僕は皆の視線に面映いものを感じながら、再度力を込めて宣言した。






「そう……世界を救う為に、『自由騎士』に僕は成る!!」






 ……空気が凍った。




 拳を握り締め、立ち上がりながら高らかに将来の目標を宣言したのだから、拍手があってもいいのではと思ったのだが、呆然とした視線と驚愕の視線しか来ない。


 僕は困惑のまま顔を動かし、皆を見返す。周りの状況に対し、僕と同様に困惑しているのは勇だけだった。ネージュは変わらずキョトンとしている。



 だが、そんなのんびりした事態は急展開の様相を見せる。ロイ父さんが徐に立ち上がると、握りこんだ拳を振りかぶった。



「この………親不孝者があああああああ!!!」



 そしてその鉄拳は僕の顔面に吸い込まれた。



 バカンッ!!



「ぐあっ!?」



「あなた!?」「にーちゃ!!」「「「フィアル!?」」」



 咄嗟に腕で庇ったが、僕の体は宙を飛び後ろに放り出される。上手い事体を捻って着地出来たが、受け止めた腕が物凄く痺れて痛い!

 突如凶行に及んだロイ父さんに周りの皆が騒然となる。


「な、何をするんだ父ちゃん!?」


 思わず昔の呼び方に戻ってしまったが、それを咎める事もせず、ロイ父さんははらはらと涙を流し、鬼の形相でこっちを睨む。



「よ、よりにもよって自由騎士だと……!? 国に仕える事もせず、ただ無為に日々を過ごすだけの無駄飯食らいになると……!? 無職の無頼漢になる位なら、畑を耕さんか馬鹿もん!!」



 ………忘れてた! 自由騎士には二つの意味があるんだった!!



 ・この世界の自由騎士の定義


 1.自らを鍛える為に諸国を放浪し、弱きを助け強きを挫き、あらゆる難事と事件を解決し、人々を救う英雄ヒーローたらんとする騎士。


 2.金無し、コネ無し、実力無し。拾ってくれる主君が見つからないから、とりあえず日銭を稼いでその日をしのぐ。でも体面は保ちたいのでとりあえず自由騎士を名乗る素浪人フリーター


 *本来の意味は1であるが、一般的なのは2である。



 やっちまった……。1のつもりで言ったんだけど、普通は2を連想するよな。


 息子が、「将来はフリーターになる!」って力強く宣言したら、そら殴りたくもなるわ。


 ここは急いで訂正せねば。


「違うんだ父さん! 僕は、ルリィ先生みたいな自由騎士になりたくて……」


「ルリィさんみたいな……?」


 椅子から立ち上がり、こっちに近づいてきていたロイ父さんがピタリと止まる。

 わ、分かってくれましたか!?





「……何夢みたいなこと言っとるか馬鹿息子があああああ!!」


「お父様ーーー!?」





 雄叫びと共に拳骨が降ってきたのを寸でのところでかわす。びっくりして甲高い声が出ちゃったよ。



「お前は……ルリィさんはな、四百年も生きていらして数々の武勲を立てられている、真の騎士様なんだぞ!? そして出自は伯爵家のご令嬢だ。武名と放浪の旅を支援して下さる後援者パトロン、その二つが在って初めて自由騎士として活動できるのだ! うちにそんな余裕は無い!!」



 あああぁぁぁ……そんな世知辛い事で、僕の自由騎士ヒーローとしての目標が頓挫しかけるとは……。



「えっと……ロイ? 私も決して家の仕送りだけで生活しているわけじゃないんだぞ? ここの家庭教師代で生活費は賄えてるし……」


「ならば、この前行商人から買った『夜中に眼が光る石像』の請求書、どこに送ったか言ってくれ」



 ルリィ先生が耳まで真っ赤になって完全に沈黙した。……うん、先生の趣味の収集品代は実家から出てるんだった。それさえ無ければ確かにやっていけそうだけど。


「じゃ、じゃあ無駄遣いしなければいける……」


「それだけでは無い! 例えば、魔獣に襲われた街があったとしよう。そこにたまたまお前が居合わせた。お前が様々な手段で魔獣を倒したら、人家に損害が出てしまった。そういう損失を補填するのは誰だと思う?」



 ……ウルト○マンだったら好き勝手壊して放置して帰れるのに……。



「後援者だ。お前の行動次第で誰かが損害・損失を被った時、お前はそれを補えるのか? あるいは一切の損失を出さずに事件を解決出来るのか?」



 耳に痛い。前世でヒーローやってた頃は覆面である事をいい事に、怪人を倒したり事件を解決したら、後処理は警察とかに任せていた。

 ルリィ先生も、身に覚えがあるのか、沈痛な表情をしている。


 怪人を倒す過程、あるいは事件を解決する過程で、他人の建造物や所有物を壊したりした事は何度もある。


 大事に育てていた盆栽を壊された爺さんは、例え命が助かったとしてもやっぱり落胆したのでは無かろうか。工事現場で戦闘した時に、もうちょっと注意しておけば、工事のおっちゃん達も一から建て直ししなくて済んだのでは無かろうか。


 事件を解決したらそれでいい、と思っていた自分が情けない……。



 俯く僕を見て、自由騎士の難しさを理解したとロイ父さんは思ったのか、怒りの顔を悲しそうな顔に変えて、僕の肩に手を置く。



「お前はきっと、自由騎士になって色んな人を助けたいと思ったんだろう。フィアルは優しいからな……。だが、自由騎士に成らなくても、普通の騎士でも人々を助ける事はできる」



 優しく諭すような声は、確かな説得力を持って僕の心に響く。確かに、一騎士だった父さんは、強大な魔獣の討伐に貢献していた。その魔獣が倒されなければ、一体どれ程の人々が不幸になっていたか……。


 そうだ、自由騎士にならなくても、普通の騎士として人々を守る事も出来る………。



『ソレデイイノカ?』



 何かが僕の心に語りかけた。


『フツウノ騎士デイイノカ?』


『誰カニ仕エテイル身デ、人々ヲ助ケラレルノカ?』


 その声は父さんの言葉を塗りつぶしていく。耐え難い魅力で僕の意識を引き寄せ、世界が僕とその声だけに成っていく……。



『オ前ハ、『ヒーロー』ニナルンダロウ?』



 いつの間にか、僕の決心が固まっていた。



「いや……、父さん。僕は……僕は『自由騎士』になる!!」



 ロイ父さんの手を振り払い、僕は宣言した。皆を助けるヒーローとして、宮仕えの騎士にはならない。何者にも縛られない『自由騎士ヒーロー』に、僕は成る!!


「この……馬鹿息子……!!」


 駄々をこねているのは分かっている。でも諦めたくは無いんだ!


 ロイ父さんは深い溜息を吐くと、僕を強い眼差しで見つめ、指差す。


「いいだろう……、ならばせめて、フィアルが武名を上げられるかどうか試験する。フィアルよ……、この父に勝てたら、お前の夢を認めてやろう!!」




「にーちゃいじめちゃダメーーーー!!」



 キンッ



「ぬふぉ!?」



 いつの間にか近寄っていたネージュのアッパーカットが、ロイ父さんの股間にHITした。ロイ父さんは目を剥き出して崩れ落ちる。



 第一ラウンド、ネージュの勝ち。



 ◆◆◆◆◆ ◆



 仕切りなおしてお外に出されました。今、玄関前の空き地でロイ父さんと対峙していて、他の皆も外に出て心配そうにこっちを見ています。


「あなた、フィアルと戦うなんて止めて! 今日はあの子の七歳の誕生日なのよ!?」


「止めるなエレナ。ここで矯正しておかねば、フィアルはもっとダメになってしまう。これは、父親の責任だ」


 エレナ母さんが必死にロイ父さんを止めているが、木剣を持った父さんの決意を揺るがす事はできない。それに関しては僕も一緒だ。……胸は痛いが。


「とーたん、にーちゃと喧嘩しないで……?」


 ネージュも涙目でロイ父さんに訴えかける。ロイ父さんは一瞬だけとても悲しそうな眼をして、エレナ母さんに頑として命じる。


「エレナ……、ネージュを連れて下がってなさい」


「あなた……」


 悲しみに顔を歪ませるエレナ母さん。ネージュはロイ父さんの静かな拒絶に嗚咽を上げ始める。


 そんな彼女達を下がらせたのは、意外な人物だった。


「エレナさん、ネージュさん、ここは下がりましょう」


 ネージュを優しく抱き上げ、エレナ母さんの肩を労わるように支えたのは、スーさんだった。


「スーさん………」


「お二人は、互いに譲れぬところで相対しています。どちらも退けぬなら、戦って優劣を付け、相手に認めさせるしかありません」


 スーさんは僕とロイ父さんの間で視線を往復させ、エレナ母さんを正面から見つめる。


「私は感じるのです。神々がこの戦いを見守っている事を。きっと、この二人の戦いは何か重要な意味があるのです」


 そうなんだろうか? 僕には何も感じないけど……。


 でも、心の内から静かに湧き上がってくる闘志は、何だか普段の戦いの時と違う感覚がある。


 僕がそんな事を考えていると、勇が横に立っていた。彼はスーさんの説得にエレナ母さんとロイ父さんが集中しているのを確認して、こっちに耳打ちしてくる。


「翔、意地張って『自由騎士』を目指さなくてもいいんじゃないか? 俺達をこの世界に呼び込んだ神様が、俺達に何かさせようってなら、俺達が何しててもいずれ厄介事に関わらせるようにしてくるんじゃね?」


 勇の言う事は尤もだ。今はまだ何の接触も無いが、わざわざ勧誘した人材を放置したままにして置くことは考え難い。いずれ何らかの形で向こうからアクションを起こすだろう。


 でも僕は曲げるつもりは無い。自由騎士になるべきだと、僕の心が確信している。


「ごめん勇。折角止めてくれて悪いけど、僕はどうしても自由騎士になりたいんだ」


「何故?」


「……そうするべきだ、と思うから……」


 ……何だろう? 根拠も無いのに、何でこんなに確信めいた気持ちがあるんだろうか。少し、頭がボーっとして言いたい事が言えない。


 普通の騎士は束縛が多いからとか、突発的な事件に対応し難いからとか、色々理由はあるのに……。


 ふと見返すと、勇も何だか呆とした顔でこっちを見ていた。


「そうか……。お前がそこまで言うんなら、俺が言う事は何も無いな。頑張れよ」


 ちょっと平坦だが、心の籠もった応援を投げかけた勇は、踵を返してサラとリーザのところに帰っていった。


 二人の下に戻った勇は、何やら二人から文句を言われているようだが、僕の意思が固いことを説いて切々と説得を行ってくれている。…ありがとう、勇。



 そうこうする内に母さんとネージュの説得も終わったようだ。不安気な顔のまま、エレナ母さんはネージュを抱っこして皆と一緒に玄関の前に立っている。



 相対する僕とロイ父さんの間に、ルリィ先生が立った。ルリィ先生は微かに苦い表情を表しながら、朗々とした声で宣言する。



「……では、ここに騎士ルリィの立会いの下、ロイ・ノースポールとフィアル・ノースポールの決闘を行う。ロイが勝った場合、フィアルは騎士になるかまたは農家を継ぐことを約束する。フィアルが勝てば、ロイはフィアルが自由騎士になる事に協力すること。勝敗は、片方の戦意喪失か戦闘続行不可能になるまで。……殺すなよ、ロイ?」


「ひどい言いようだな。息子を殺したりするものか!」


 ルリィ先生が釘を刺し、ロイ父さんは心外だとばかりに憤懣を表す。強引なロイ父さんに対する、ルリィ先生なりの仕返しなんだろうが、そこまでは僕も心配していない。


 そして、ルリィ先生の中ではロイ父さんの勝ちが既に決まっているようである事が分かった。それこそ心外である。




 くぐった修羅場なら、僕だってロイ父さんにも負けないつもりだ……!




「双方、今言った条件で良いな?」


「ああ」「はい」



 短い返答が返され、ルリィ先生が数歩下がる。それに合わせてロイ父さんが木剣を構える。

 僕も木剣を正眼に構えて、切っ先をロイ父さんに向ける。


 静かに構えるロイ父さんからは闘気が徐々に膨れ上がっている。その威圧感は陽炎のように周囲の夜気を揺れ動かせ、獅子を思わせる眼光は本能的な恐怖を沸き上がらせる。


 一般人やチンピラ程度なら、ただ正面に立たれるだけで足が震えて来るだろう。実際、玄関に居る母さんやサラ達の体が強張り、固唾を飲み込む音が聞こえる。



 ああ、な。この感じ。でも少し違う。




「では……始め!」


「おおおおおおおおおお!!」




 ロイ父さんの裂帛の気合が響く。ああ懐かしい、でも違う。



 ゴウッ!



 戦場から離れて久しいはずなのに、父さんの剣筋は恐ろしく鋭く、夜風に揺れる木々の音を掻き消すほどの風切り音を響かせる。



 でも足りない。



 大上段から迫り来る木剣の切っ先を見つめながら、妙な感慨に耽ってしまう。



 殺気・・が無いと、ここまで冷静になれるんだなぁ。



 僕は紙一重のところで体をずらし、体を掠める剣風の衝撃に耐えながら、木剣をロイ父さんの腹に向けて突き出す。



「むっ!?」



 だが寸での所でロイ父さんは剣先を戻し後方に飛び退った。距離を開けたロイ父さんは、先ほどまで闘気に満ちていた顔に驚きの色が充満していた。


 横からルリィ先生の息を呑む音も聞こえてきた。まさかここまで僕が動けるとは思ってなかったんだろう。


 勇との組み手や密かにしていたトレーニングよって、前世程では無いけどそれなりに動けるようにはなっていたんだが……しくじったな。


 ロイ父さんの顔から驚きの色が抜けると、その下からは先ほどの威圧する気配は無く、より冷静な、無風の湖面みたいな静謐な気配が漂ってきた。



 戦いが始まる前から、僕の筋力ではロイ父さんに痛打を与えるのは難しいと考えていた。

 そこで僕の考えた戦術は、ロイ父さんの力を利用して攻撃しようというものだった。


 ロイ父さんは僕をびびらせる為に最初は猛烈な勢いで攻撃してくると考えていたし、実際そうだった。その勢いを利用して、父さん突撃に合わせて剣を打ち込むカウンターによって、自分の非力さを補おうとしたんだが……、実は組み手はお互い素手だったし、トレーニングにも剣の練習は全く取り入れてなかった。


 だから突き出す速度が遅くなり、勢いに乗った父さんが直前で回避できるくらいの速さでしか攻撃できなかったんだ。渡された木剣が仇になってしまった。



 しかも僕のスペックが予想以上である事を、父さんに知られてしまった。このままではさっきみたいな大振りの攻撃は無くなるだろう。



 じゃあ次のプランだ。



「やあああああ!!」


「ぬ!?」



 僕は掛け声と共に踏み込んで、ロイ父さんに攻撃を仕掛ける。木剣を横薙ぎに振るい、逆袈裟に振るい、唐竹割りに振るい、ひたすら振り回す。


 だがロイ父さんはそれに一切反撃せず、ほんの少しの体捌きだけでそれをかわし、距離を詰めるで無くむしろ開ける。

 僕を見下ろす目は、僕の動きをつぶさに観察しているようだ。


 思った通り。初手の動きを見てこちらをかなり警戒している。最初は反撃してこないか、しても軽い牽制程度だと思った。


 だけど、一切の反撃をしないとは……、大分警戒されているなぁ、自分。



 三十秒ほど攻撃を続けていると転機が訪れた。僕の大振りの攻撃を受け続け、僕の剣の技術の低さを確信したのか、ロイ父さんの眼に再度火が灯る。


 来た。それを待っていたよ、父さん!



 僕は一瞬攻撃の手を止め、息を大きく吸い込む。



「……やあっ!!」



 そして気合を込めて上から木剣を打ち込む。



「…セイッ!!」



 だがロイ父さんは下から掬い上げるように木剣を打ち上げる。そして空に飛翔していく僕の木剣。



 それに構わず、僕は右足に力を込めてロイ父さんの鳩尾に向けて突進する。緩んだ父さんの腹に上手く決まれば、これで気絶させられる、と思う。



「ぐぅっ…!?」



 僕の頭突きは虚を突かれた父さんの腹に食い込み……そこで僕の作戦は終わってしまった。


 僕の全力の頭突きは、確かにある程度のダメージを父さんに与え、一瞬父さんの体が弛緩したの感覚もあった。


 誤算は、戦いから離れたとはいえ、日々農業に精を出している父の体は緩んでなどいなかった事。それと、まだまだ自分の鍛え方が足りてなかった事だ。


 頭の上で硬くなる腹筋の感触と、何かが振り下ろされる音を耳にして、僕は作戦の失敗を悟った。



 ◆◆◆◆◆ ◆◆



 ドスッ!



「がっ!?」


「「「フィアル!?」」」



 僕の苦悶の声と皆の悲鳴が重なる。大地に叩きつけられた僕は、息を整える間も無く押さえ付けられた。

 多分、木剣の柄頭の部分で背中を突かれたんだろう。痛みはともかく、呼吸が上手く行かないのはまずい。

 しかし容赦の無さといい追撃の早さといい、鈍ってないな父さん。



「ごほっ、ごほっ!! ……フィアル、強くなったな。父さんは騎士を引退してからも、常在戦場のつもりで居たが……、そんな父さんをお前は確かに追い詰めていたぞ。フィアルが剣をしっかり教わっていたら、負けていたのは父さんの方だったろう」


 最大級の賛辞とは裏腹に、僕の背中にかかる圧力は増していく。


「だが、やはりお前に自由騎士として、たった一人で巨悪に立ち向かう力は今は無い。圧倒的なまでに『力』が足りない。このまま成長して自由騎士として旅立っても、骸を野に晒すだけだ」


 静かな、だが厳然と僕の才能を否定する言葉が響く。


 ……僕は右手に意識を集中させる。


「フィアル、それでももし悪を討ちたいと思うならば、騎士になれ。皆と、仲間と互いに協力して戦えば、お前はきっと父さんより多くの勲功を詰め、大きな悪を討てるだろう。自由騎士なんて、目指す必要は無いんだ」


 父さんの説得は優しい響きとなって僕に降り注ぐ。


 ……設定変更……『スーツ・迷彩モード』『不可視状態(スーツ限定)』


 *このモードでは他者からスーツが見えません。よろしいですか? はい/いいえ


『はい』を選択。



「……さあ、フィアル。『参った』と言いなさい。そして、母さん達が用意してくれた料理を食べよう」



 ロイ父さんに腕の関節を決められ、体重をけられている僕は何も答えられないだろうと考えたのか、ちょっとだけ力が緩む。


 そこで、スーさんがロイ父さんに声をかけた。


「ロイさん……」


「…? 何ですか、スーさん」


 父さんは首を巡らせてスーさんの方を向いた様だ。好機到来!



「先ほどからフィアル君を負かした様な物言いですが……、フィアル君はまだ諦めていないみたいですよ?」


「え?」



 スーさん、僕への援護ならベストタイミングだけど……父さんへの援護なら、遅過ぎた。






「『開け、次元の門オープン・ディメンジョン』……!」






 口の中だけで呟いたにも関わらず、スーツの認識機能はしっかり働いた。


 僕の体に何かが纏わり付く感触が走る。見た目は変わらないが、今の僕は外宇宙から来たヒーローに託された、最強のスーツに身を包んでいる!


 事前に、スーツの設定変更機能を手の甲に触れなくても出来るようにしていて良かった……。


 出来るならヒーロースーツは使いたくなかったが……、こうなりゃ形振りなんて構わない。不可視状態なら見えないし、僕の全部でロイ父さんに認めさせてやる!!



『倍力機構…ON。自動筋力補正開始』



 ズッ……



「何ぃ!?」



 ロイ父さんが驚愕の声を上げる。それはそうだろう。何しろ、自分の半分にも満たない背丈の僕が、ロイ父さんを抱えて立ち上がったんだから。



「どっ……こいしょお!!」



 僕はロイ父さんを抱えたまま起き上がり、極められた腕の関節を振りほどく。ロイ父さんは地に投げ出されるも、受身をとって素早く立ち上がった。


 振り返ったロイ父さんは、愕然とした顔をこちらに向けていたが、ふと僕の右手の甲を見て、更に驚きの声を上げる。



「フィ、フィアル! その手の紋様は……!!?」



 ……げっ、設定変更ミスってた!? 右手のヒーロースーツ管理装置が発光してる!? 


 チラッと見ると、スーツのダメージレポートや僕のバイタルレポートが表示されてる。僕は急いで意識を集中して発光を治める。


 焦る心を抑えつつ、慌ててロイ父さんに向かって構えをとるが、ロイ父さんは呆然としたまま一切の闘気を霧散させていた。


 僕の右手の光は皆にも見えていたのか、玄関近くの皆はひどくざわめいていた。皆の表情には驚きと困惑がある。ただし勇だけは片手で顔を覆って渋い表情をしていた。


「あの紋様は……、あの時と同じ……」


「かーたん、にーちゃの手が光ったよ? どうして?」


「フィアル……まさかあの時みたいに……? でも着ているのが……」


「おかしいわ、どうして……?」


 ざわめいている集団の中、勇と、その他にもう一人静かな人物が居た。静かにこちらを見ているのは、聖女の遺骨、スーさんだった。


 彼女はまだ騒がしい皆の間をすり抜け、僕の方に近づいて来る。父さんと同じく呆然としていたルリィ先生が、スーさんの接近に気付き彼女を止める。


「スーさん、今は、一応決闘中です。どうかお下がり下さい」


「……分かっています。ですが、私は使命を果たさなければいけません。どうか、通して下さい」


 いつもと違う確固たる意志を持ったスーさんの強い言葉に、ルリィ先生は迷い、気圧される。


 僕は霊感とか無いから分からないが、雰囲気の変化は分かる。今スーさんからは、聖女のオーラが溢れ出ている気がする。あだおろそかに扱えない気持ちになる。


 ルリィ先生が迷っている間に、その横をスーさんはすり抜けてしまう。ルリィ先生はそれを止めようとするが、その前にスーさんが僕のところまで来てしまった。


 スーさんは僕の前に立つと、膝を折って屈み、僕と目線を合わせる。


「フィアル君……、君の右手、見せてもらってもいい?」


「えと………はい……」


 僕も普段と異なるスーさんの雰囲気に呑まれて、碌に考えることも出来ず素直に右手を差し出してしまう。


 スーさんは僕の右手の甲をしげしげと眺める。そこには薄くなってはいるが、螺旋を描く紋様が走っている。


 スーさんはしばらく僕の右手を眺めていたが、徐に立ち上がると、ロイ父さんに向けて宣言した。



「先ほど、私に神託が下されました。『フィアル・ノースポールはいずれ来る暗黒の時代において、人々を守護し、万難を排する者になるであろう』と。そして、この右手の印がその証明であると!」



 皆のざわめきが最高潮に達した。僕の心の動揺も荒れ狂う大海のようだ。ここでまさか、スーさんから神のお告げを聞くとは!?


 ロイ父さんはスーさんの預言を聞いてポカーンと口を開けていたが、頭を振り乱して意識を戻す。


「やはり、やはりそうでしたか……! あのお告げの夢は、真実だったのですね……!!」


 感極まったように涙を流し始めるロイ父さん。父さんは木剣をかなぐり捨てると、僕の方に走り寄って来て、僕を抱きしめる。


「フィアル、フィアル……! 我が息子よ……。お前は、神に選ばれた御子だったのだな。私の使命は、間違っていなかったのだな……!!」



 お父様、一人納得されていないで、詳しい説明をお願いします。



「どういう事なのです?」



 あ、勇も近付いて来ていたみたいだ。もう決闘どころでは無いと分かったのか、他の皆も近付いてきている。


 ロイ父さんは少し迷った末、僕から身を離し、皆にも聞こえるように僕に語りかける。


「フィアル、良く聞きなさい。これから話す事は、フィアルにとっては、悲しい部分があるかも知れない。それでも、落ち着いて聞いてくれ?」


 僕は黙って頷く。ロイ父さんは、安心したように頬を緩め、話し始めた。


「七年前、私とエレナに夢でお告げがあったのだ。夢枕に立った御方、おそらく神様だろうと思うが、その御方曰く、『私達の元にいずれ不思議な印を持った子が現れる。その子を助け、育みなさい。その子は、全ての災厄を打ち払う救世主となる』と私達に預言された。その時に、この手の印の事も教えられた」


 ロイ父さんはそう言って僕の右手の印を撫でる。何となく覚えている。この世界に初めて来た時に、父さん母さんが言っていた気がする。


「その数日後、家の玄関に、赤子が捨てられていた。当時子どもの居なかった私達はその赤子を育てる事にした。そして赤子を拾った次の日、その子の右手に、お告げにあった印を見つけた」



「待って下さい、それって、もしかして……!」



 ロイ父さんの話にサラが割り込んだ。僕と一緒で、話の流れから何となく次の展開が読めたんだろう。僕にとっては最初から知っていた事だけど。


 ロイ父さんはサラに顔を向けた後、僕の目を真っ直ぐ見つめて、苦しげに言葉を吐き出した。


「その子どもが、お前だフィアル。私達は……私達はお前の本当の両親じゃないんだ……」



 知ってます。……嘘でも驚いた方がいいのかなぁ。でもそこら辺の演技あまり得意じゃないし……。



 思考に埋没しかけた僕の行動は、周りの皆には真実を知った後の呆然自失に見えたらしい。痛ましげな視線がこちらに降り注ぐ。


 ネージュだけが首を捻っていた。


「にーちゃは、にーちゃじゃないの?」


 にーちゃはにーちゃです! 心はにーちゃです! そう言いたいけど、下手に言えない。


 何故なら、涙を溢したロイ父さんの顔が目の前にあるから。


「だがな! ……だがな、父さんと母さんは、ずっとお前のことを本当の息子だと思っていたぞ。ずっとお前が健やかに育ってくれる事を、神託の御子であろうと無かろうと、今でも思っているぞ!!」


 大きな声で、訴えかけるように、必死で、懸命に、そう言ってくれた。



 その時、冷静で平静だった僕の心に小波が起こった。その波は繰り返し僕の心に去来し、その度毎に強くなっていった。



 気付いたら、僕も泣いていた。



 泣かないと思っていたのに。知っていた事だから。負い目があったから。この人達は前世で失った家族の代用。


 ……結局、僕とこの人達は他人だと、心の隅で思っていたから。



 でも、本当の息子だと言ってくれた。それが、嬉しい。ただの言葉なのに、嬉しい。



 今、本当の家族になれた。そんな気がして、嬉しすぎて涙が零れた。



「父さん……」


「フィアル……」


 目の前の父さんの顔が滲んで、良く見えない。でも、微笑んでいるのは分かる。


「母さん……」


「うん……」


 見上げたエレナ母さんの顔に、光るものがあるのが分かる。そしてやっぱり微笑んでいる事も。


「にーちゃ、何で泣いてるの?」


 ネージュが不思議そうな顔をしている事までは、辛うじて分かった。後は、もう歪んで分からない。




「……嬉しいからだよ……」




 そこまで言って、後は見っとも無く大泣きに泣いた。



 ◆◆◆◆◆ ◆◆◆



 その後、何やかんやで後始末をして、パーティーはお開きになった。


 料理の残りをサラ、リーザ、レオンの三人に持たせて、今日は帰ってもらう事になった。サラは最後まで僕の傍に居ようとしてくれたが、勇が説得して連れて帰ってくれた。僕には考える時間が必要だと言って。


 リーザは何も言わなかったけど、帰り際に僕の胸に拳を一つお見舞いしてくれた。何となく、彼女なりに活を入れてくれたんだと思う。


 勇とは最後に少しだけ話をした。


 玄関口で勇を見送る時、勇から声をかけて来た。


「劇的な展開だったな。しかし七歳で実の親子じゃない宣言を貰うとは……。早いんだか遅いんだか」


「そうだねぇ。勇はいつになるんだろうね」


 勇は肩を竦めて、いつでもいいとうそぶく。だが、何となく羨ましそうな表情をしていた気もする。彼も、僕と同じように悩んでいるのだろうか。


 それを確認する事も無く、僕らは別れた。



 その夜、僕はリビングで父さんと母さんに見守られたまま、ネージュと共に眠りに付いた。今までに無く安心し、張り詰めた気を緩められた、最高の眠りを享受できました。



 翌朝、自室のベッドで起きた時、枕元にロイ父さんからの誕生日プレゼントとして、王都にある騎士養成幼年学校への入学願書と推薦状が置かれていた。




 的場 翔ことフィアル・ノースポールの幼き日々は終わりを告げようとしている。徐々に周り始める運命の輪。


 未だ見ぬ王都の学校ではどんな出会いがあるのか? 離れ離れになった友人達は一体どうするのか?


 そして、その姿の片鱗を見せた神は、一体フィアルにどのような試練を与えるのか? 



 全てはまだ未来と言う無明の中。それでも、フィアルは迷わず進むだろう。



 自らの意志という灯火が、見えている限り。



長く書き過ぎました。最終的に二万文字を超えてまして、大体いつもの話を三話分くらい一気に詰めた感じです。それに応じて滅茶苦茶時間が掛かりました。


更に、作中の時間を四年分、一気に飛ばしました。キング・クリ○ゾンも真っ青です。これ以上三歳時点で話を引っ張るのも限界を感じ、かつ村以外に出させるにはある程度の年齢が必要なので、かなり苦渋の決断でした。


次は王都、要は首都です、での学校生活編に突入させる予定です。既存のキャラが一旦出現しなくなります。何話かしたら出てきますけどね。


その前に、『アウトキャスト~』を書かねば……。


2014年11月9日


サブタイトルを一部変更 『開幕!』 → 『出発!』

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