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第12話 水泳! 夏場の避暑活動 後編

 海っ、だ~~~~~~~!!



 ……いえ、言ってみたかっただけです。村の近くの川に着きました。


 そんなに大きい川じゃないけど、水遊びするのに丁度いい浅瀬もあるし、泳ぎを練習できそうな深い淵もある。


 川向こうは林になっていて熊でも出てきそうな雰囲気だけど、仮に出てきてもルリィ先生が居るし、最悪僕が変身すればいいので無問題。


「へぇ、結構遊べそうじゃん。魚とか居るかな? 捕まえて昼飯にしようぜ!!」


 レオンは結構喜んでいるのか、興奮に鼻息を荒くしている。



「いよっしゃああああ!! 狩るわよおおおお!!」



 ……それ以上に鼻息荒くしているリーザさんが視界に入った。既に水着に着替えてるけど、いつの間に。後その手に持った石で何をするつもりだ。



「こらこら、水に入る前に準備体操をしろ! 全く、まだ私が着替えてもいないのに……」



 シュルシュル……



 リーザをたしなめていたルリィ先生は、おもむろに服を脱ぎ出した。



「「おおっ!?」」



 いきなり展開された衝撃映像に、思わず僕と勇の声がハモる。先生! いくら子どもの前だからって大胆過ぎ……。


「ふぅ、着替え完了っと」


 先生は、服の下に水着を着ていました。………小学生かっ!?


 不覚にもドキドキさせられてしまった。しかもビキニ型の水着だったから普通に下着と見間違えた。淡い緑色の薄布が若々しい木々を連想させる。


 ルリィ先生は笑顔を見せながら畳んだ服を袋に入れ、麦わら帽子や絹のケープ(高そう)、日焼け止めの魔法薬(高い)なんかを取り出している。


 いつも忘れそうになるが、ルリィ先生は貴族だった。真っ白なビキニも、絹とか綿じゃなくて、もっと高い魔法の布や、ミスリルとかの魔法金属を繊維化したものじゃないか?


 僕がルリィ先生の持ち物を考察していると、隣に居た勇がルリィ先生に向かって挙手する。



「ルリィ先生、一つ質問が」


「ん? なんだいレオン。何でも聞いてくれ」



 ルリィ先生は僕らに近づくと、前かがみになってレオンと顔を合わせる。

 …WOW! 魅惑の双丘とその谷間が見えそうになり、僕は視線を逸らす。


 横目で勇を見ると、ルリィ先生の顔を真正面から見ている。中々精神的に鍛えられているな………あ、ちょっと視線が下にずれた。


 しかし勇は怯む事無く、無常な事実を口にした。


「その格好で水に入ると、帰る時に服が濡れませんか?」




「………え?」





 ルリィ先生の顔が強張り、間の抜けた声がその口から漏れた。



 ◆◆◆



「……はーい。じゃあ準備運動も終わったし、先生が見える範囲で遊びなさい。三十分程したら授業を始めますからねー……」


 しょぼくれたルリィ先生は、川辺に生えていた一本の木の下で体育座りをして、寂しそうに羨ましそうに僕らを見ている。


 僕は勇のわき腹を肘で軽く突き、こっそり耳打ちする。


「レオン……、何で指摘しちゃったんだよ。夢を見させてあげてればよかったのに……」


「いやまさか、本当に想定していないとは思わなかったんだよ。抱えていた荷物の中にあるんかなーと思ってたけど、それなら着替える時に魅惑の裸体を拝めるかなぁと……」


 助平な事を考えていた勇の頭に一発鉄拳をお見舞いし、僕はそっとルリィ先生を伺う。


 小学生が嵌る罠の一つ、『服の下に水着を着て来たらプール後に着替えが無いことに気付く』、にまんまと陥ってしまったルリィ先生は、地面に指で落書きをして気を紛らわせている。


 時折ちらっとこっちを見ては、慈愛に満ちた表情で『私の事はいいから遊びなさい』的な目線を向けてくるのが、逆に心に痛い。


 しかし折角の心遣いを無碍にするのもまた心苦しいので、後ろ髪引かれる思いで気を失った勇を引き摺りリーザとサラの所まで歩いて行く。


 リーザは既に川の中に入り、獲物を狙う鷹の眼で水中を睨んでいる。眼光だけで魚を射殺せるんじゃないか?


 サラは川の縁で恐る恐る水に足を付けては「きゃっ」…とか言って足を引っ込めてる。乙女か。


「あ! フィアルも漸く来たんだね」


 僕が近づくと、逸早くサラは気付いて振り向く。サラの髪は長いんだけど、普段は後ろに降ろしている髪を今日に限って前に垂らしているせいで、髪ブラ状態になっている。


 サラは男と分かっている。だがその状態だとトップレスの美少女が髪で胸を隠している様にも見えて落ち着かない。


「ぬぅ! 今誰かの煩悩値が跳ね上がった気がするぞ!」


「お前はどんなセンサー付けてんだよ!?」


 ビカッと眼を光らせ(飽くまでイメージです)覚醒する勇を支えていた手を離す。


 ゴンッ


「んんんんんんんんぁぁぁぁあああああああ……!!」


 偶々石にでも当たったのか、勇は後頭部を押さえながら悶え転がりだす。サラは奇妙な生物でも見るようにその様子をしばらく観察していたが、はっと何かを思いついた様に僕の手を取る。


「フィアル、時間も余りないし今の内に川に入ろう? レオン君は調子悪いみたいだし、そっとしておこうよ」


「え、いやあれは単に激痛に身を捩っているだけだと……」


 僕は勇が回復するまで待つつもりだったが、サラは強引に僕の手を引っ張り、水辺へ誘う。


「レオン君もすぐに来るよ。でもそれまでは……僕と一緒に遊ぼ?」


 上目遣いにこっちを見ないで下さい。心拍数が上昇するから。心拍数モニタリングしている朱美さんからメールが来ちゃうから! 「敵か? それとも浮気か?」って!!


「わ、分かったよ。レオン、先に行ってるぞ」


「は、薄情者……」


 息も絶え絶えに僕を見送る勇を残し、サラと一緒に川へ向かう。


 さて、勢い込んで来たものの、サラはまだ川に入ることに抵抗があるみたいだった。


「サラ、川に入らないの?」


 僕は早々に足先を川の水に突っ込んで、涼を取っている。蒸し暑い気温に対して川の冷たさが心地良い。


 サラはモジモジして恥ずかしそうに視線を逸らす。


「えっと、僕川に入るの初めてだから、緊張しちゃって……。フィアルは凄いね、全然怖がらないんだもん」


 ……横で鮭を捕獲する熊みたいな様相のリーザは目に入っていないんだろうか。


「別に怖いものじゃないよ、ほらっ」


「あっ……」


 僕はサラの手を引っ張って水の中に無理矢理入れる。こういう時は多少強引にしないと中々入らないからな、サラは。


「…! う~~~~……、フィアルのイジワル……」


 サラは僕に寄りかかって涙目で僕を見上げる。あかん、またドキドキしてまう。


「ははっ……、でも水には入れたろ?」


「そうだけど……強引だよ、フィアルは。……偶にはいいけどさ……」


 そう言ってサラは少し笑う。思ったより機嫌は悪くないようだ、むしろ少し嬉しそうにも見える。


 このまま少し川の縁に沿って歩こうかと思っていたところ、突如殺気を感じた。



「イチャイチャ…してんじゃねええええええ!!」


 バシャアアア!!



 復活した勇が川の水を思いっきり僕とサラにぶっかけてきた。


「危ないサラ!」


 僕はサラを後ろに隠して水を思いっきり被る。…うひょおおおお!? 冷てええええ!! さ、流石にいきなり全身に被ると寒い!


「フィアル! 僕を庇って……」


「へっ……これ位かすり傷さ」


 言ってみたかった台詞パート2。今までソロで活動してたから、仲間を庇う場面なんて無かったし。むしろ朱美さんことレッドプラズマに庇われたりしてました。



「ヒーローごっこもしてんじゃねえええええ!? 俺も混ぜて下さい、お願いします!」



 あ、このシチュエーションは勇も羨ましいのか、頭を下げてお願いしてきた。仕方ない奴め。ならば存分に悪役として弄ってくれよう……!



「あんたら、うっさい」



 だが僕の目論見は怪獣からの苦情により崩れ去った。僕らの争いで魚が逃げるそうです、はい。



 ◆◆◆



 リーザの怒りを買わぬよう離れた所で遊ぼうと思って移動し始めたら、リーザ本人も何故か付いてきた。


「あんたらのせいで魚が居なくなっちゃったんだから、あたしも遊びに付き合ってあげるわ」



「単に置いてけぼりにされるのが嫌だったんじゃねぇの……?」



 勇が要らんことを口走った直後、重い打撃音が響き渡り、勇は腹を押さえる。


「…!? おまっ、女のパンチ力じゃねえぞ!? 熊かお前は!」


 結構余裕あるな。前世の戦いの経験に寄るものか、ボディブローを食らう瞬間僅かに身を引きダメージを軽減していたな。


 リーザはいつもと違う手応えを感じたのか、不審そうな表情をして拳と勇を見比べている。勇の回避技術に気付くとは、リーザの潜在的な戦闘センスも底が知れない。


「フィアル、あれ何かな?」


 そしてサラのスルー力の上昇っぷりも最近怖くなってきた。昔はもっと周りを気遣う子だったと思うんだが……。


 だけど、サラの指差した先の物体は川辺にあるには妙に目を引いた。


 川辺の小石や砂利は灰色が多い中、何処からか流れ着いたのだろう、その棒みたいなものは雪みたいに白かった。

 形は両端が少し膨れた形をしていて一見すると木の枝にも見えるが、折れた痕が見えない。つるりとしている滑らかさは、石とかが近い気もする。


 サラは興味を引かれたのか、小走りにその棒に向かって近寄っていく。僕は少し嫌な予感を感じて、サラの後を追う。


 僕が到着する前に、サラはその白い棒を引き上げてしまっていた。陽光に透かすと白さが際立つかもと思ったが、何となく周りの光が遮られたように見えてより暗く感じた。


 それだけだが、僕はその棒に禍々しいものを感じた。……あとなんか見覚えがあるような……?


「……変な形だね。木の枝でも無いし、石にしては少し軽いし」


 サラは可愛らしく首を傾げ、しげしげとその棒を眺めている。そして顔を僕に向けて質問してきた。


「フィアルはこれが何か分かる?」


「う~~~ん……どこかで見た気はするんだけど……。ん?」



 ふと、僕はサラの後ろを流れる川の上流から、何か大きな物が水中を通って接近しくるのに気がついた。それも、かなり早い…!


「サラ! 後ろ!!」


「え……?」


 サラが振り向いた時には、水中の何かは既にサラの後ろまで来ていた。



 そして、それは水面を突き破り出現した。





「……私の、骨ええええええええええええ!!!」


 ざっぱあああああああん!!





 水面を突き破って現れたのは、ぼろ布を纏った骸骨だった。骸骨は片腕だけを必死になってサラ目掛けて伸ばす。


 サラは目の前に現れた物が何であるか認識できなかったのか、ピクリとも動かない。だがそれも一瞬のことだった。




「イヤアアアアアア!!??」



 スケンッ



「アウチッ!?」



 サラの反応は意外に早く、持っていた棒を骸骨目掛けて投げつけていた。


 ……いや、もう自分を騙すのは止めよう、あれ二の腕のところの骨だ。どこかで見たことあると思ったら、スーさんの体だったわ。


 おそらく、自分の骨であろう部位を頭に投げつけられた骸骨は、再度川に流されそうになる二の腕の骨を慌てて拾い、逆側の腕に持っていく。


 カチャン


 何かが嵌る音が聞こえ、骸骨の両腕が動き出した。


「は、ははっ!! やったぞ、漸く私の腕が動くようになった!!」


 骸骨は哄笑を上げ、とっても嬉しそうに両腕を高く掲げる。さながら日を戴く司祭のようだ。


 その隙に僕はサラを引っ張って距離を取る。その頃には頼もしい援軍も来てくれていた。



「サラ、フィアルっ! 無事か!?」



 どこに持ってたんだか、抜き身のサーベルを構えたルリィ先生が骸骨と僕らの間に割って入ってくれた。


 本気のルリィ先生は初めて見るけど、隙の無い構えと強烈なプレッシャーだ。前世で戦った、幹部クラスの怪人にも似た威圧感を感じるぜ。


 喜んでいた骸骨はルリィ先生を見ると、白い顔を青くした(どうやってんだ?)。



「げぇっ!? お前は先日のエルフ! 愉快な格好をしているが、その殺気は忘れたくても忘れられん! ……毎夜夢に出ないで下さい、お願いします!!」



 骸骨はいきなり平伏してルリィ先生に懇願する。


「え、えーー……」


 僕らに襲い掛かったり愉快な格好などと暴言を吐かれて怒り心頭に達しかけたルリィ先生だったが、いきなり土下座しだした骸骨をどうすればいいのか僕らと骸骨の間で顔を往復させる。…いや僕も分かりませんから。


 でも、卑怯者への対処なら分かる。



「……ふははっ! 騙されたな、隙ありーーっ……アウチッ!?」



 いきなり立ち上がりルリィ先生に襲い掛かる骸骨だが、先手を打って投げていた小石がもろに頭に命中した。


 頭蓋骨がずれて、大慌てで直す骸骨の眼前に、ルリィ先生のサーベルが突きつけられる。


「……大分虚仮にされたな。今思い出したが、先日追っていた死霊術師の成れの果てじゃないか。今度こそ逃がさないぞ」


「……ふっ、そんな長ったらしい言い方では口が疲れるだろう? 折角だから私の名前を教えてやろう。ハセウム。いつの日か、不死の王と呼ばれる者の名だ」


 サーベルを突きつけられても余裕がある骸骨改めハセウム。ルリィ先生は興味の欠片も無い、つまらなそうな顔をして淡々と返事をする。


「そうか。墓碑銘にはそう刻んでやろう」


「ははっ、我が墳墓は都市丸ごと一つを使う予定でね。君の用意する墓は遠慮しよう。……そうだな、彼らなら気に入るかも知れん」


 ハセウムが指を鳴らすと、川から透き通った腕が何本も現れルリィ先生に向かう。


「ハッ!」


 だがルリィ先生は剣を振るい、その腕の集団をいとも容易くなぎ払う。だがその刹那の瞬間に、ハセウムは川の中ほどまで後退していた。


 川の上に立つ……いやよく見ると下半身が無い。ハセウムは川の真ん中に浮いていた。



「ほう、『溺死霊デプス』では足止めにもならんか」


「随分余裕があるようだが、川の中に入ったくらいで私が止められると思ったか?」



 ルリィ先生は未だ慌てる素振りすら見せないハセウムを注視しつつ、すっと川に足を踏み出す。


 すると水中に没すると思われたルリィ先生の足は、まるで氷の上に足を下ろしたように水面に立った。


「凄い……。あれは魔法かしら?」


 今まで事の成り行きを見守っていたリーザが賞賛の溜息を漏らした。それが聞こえたのか、ルリィ先生の耳がピクピクと得意げに動く。



「ふふっ、折角の機会だ。皆にも見せて上げよう。……『ウンディーネ』」



 先生が一声かけると川の水が盛り上がり、女性のエルフをかたどった水の塊がルリィ先生の横に現れた。さながら主人にかしずく侍従か騎士のように。


「ふむ、水の精霊を現界させるとは……。やはり貴様は『精霊使いエレメンタラー』だったか。エルフならば珍しく無いからな」


 ハセウムは指先で顎を撫でながら興味深くルリィ先生とウンディーネを見下ろす。


 以前ルリィ先生から聞いたが、精霊使いとは自然界に隠れて存在する精霊エレメンタルと対話し、その力を借り受ける事ができる人達の事らしい。



 ちなみに、僕は何回かルリィ先生が精霊に頼みごとをしているのを見たことがある。


 暑い日にシルフ(風の精霊)に風を呼び込んでもらったりとか、料理中に火の調整をサラマンダー(火の精霊)に頼んだりとか。

 シルフは悪戯好きな小さな女の子みたいで、サラマンダーは眠そうな顔したトカゲだった。


 しかし、精霊達は家電扱いで文句は無いんだろうか? 扇風機とキッチンヒーター代わりに呼び出されたら、イラッとしそうなもんだが。



「ああ。これだけ自然が多くある場所で、エレメンタラーに勝てるとは思わないよな?」



 ドヤ顔のルリィ先生はニヒルな笑みを見せているが、いつもの実情を知っている身としては何となく格好良さが薄れて見える。



 さて、川の中に逃げ込む策が破れたハセウムさんの様子は……?



「くくく……」



 笑ってますね。



「はーはっは!! 君は実に愚かだな。これだけ時間を与えたのに、何の対策もしようとせず、己が技を誇るだけとは」



「…っ! 何が可笑しい!」



 ルリィ先生の顔に苛立ちが浮かぶ。そして僕の勘が、凄く嫌な予感を告げている。



 ハセウムはひとしきり笑うと、顔を覆っていた手をサラ・・に向けた。



「こういう事さ。『死呪刻フェイタル・カース』!!」



 ハセウムの口が呪いの言葉を吐く直前、さっきと同じように僕の体は動いてくれた。


 ドクンッ!


 サラの前に立って庇うことが出来たのは良かったが、これはまずいかも知れない……!



「「「フィアル!?」」」



 サラ、リーザ、ルリィ先生の悲鳴が重なった。だがその声に応えることも出来ず、僕は胸を抑えて蹲る。


 心臓が、痛い。骨が軋み、内臓が暴れ回っている気がする。そして徐々に動きが鈍くなって行き、最後には止まるところまで想像できた。


 何度か彷徨った生死の淵とまたご対面だよ。今度ばかりは神様は来ないよなぁ。



「ははっ! 予定とは違ったが、まあ良い。エルフよ、貴様が犯したミスは、その子ども達をこの場から逃がさなかったことだ!」


「き、貴様……っ!」



 ルリィ先生が怒りと後悔に唇を噛み締めている。白い肌に、一本の赤い線が流れ落ちる。


 今にも駆け出さんとするルリィ先生を、ハセウムは可笑しくて堪らないと両手を拡げて見下す。


「おや、その少年の事はいいのかね? 言っておくが私の呪いは、私が死んだくらいで消え去るような生半可な呪いでは無いぞ? もたもたしていると一時間も経たずに私の仲間入りだ」



 え、アンデット化すんのこれ!? 



「あ、失礼。死体の仲間入りだ」



 ああ良かった………良くねぇよ!?



「貴様自身には我が呪いは通じないだろう。この前もそうだったし…。だが、まだ幼い子ども達ならば何という事は無い! さあエルフの娘よ! 私と戦って時間を浪費していていいのかな? 年端もいかない子どもを見殺しに出来るのかな? さあ、さあ、さあ…!」


「ぐうぅ……!」


 ルリィ先生は迷っている。そらそうだ。このままハセウムを放置すると、他の皆にも呪いを掛けるかも知れない。


 だから後ろは見せれない。奴が少しでも不穏な動きをしたら一気に倒せるように。でも待っている間に時間切れになって僕が死ぬ可能性もある。


 ルリィ先生は完全にジレンマに陥っている。



「フィアル! フィアル! しっかりして!!」


「ちょっと! こんな、こんな事で死なないでよ!?」


 サラの涙声が聞こえる。リーザの声はいつのも罵るような声じゃなく、悲痛な叫びだ。



 霞む視界の中で、涙を浮かべる二人が見えた気がした。



 ……この二人に、万が一にも呪いなんか掛けさせない。相打ちになってでも、ハセウムを倒してやる!


 僕は残った力を振り絞って右手の刻印に想いを込める。


「『開け、次元の……』」





「怨念退散、活気招来!」





 最後まで言い終わる前に、僕の体を覆う痛みが消え去った。ついでに体の底から活力が溢れ出てきた。




「「え?」」




 気の抜けた声は、僕とハセウムから出た。他の皆は声も出せない。


 だって、さっきまで死に掛けて土気色の顔をしていた僕が、全く問題無く立ち上がったんだから。


 呆然とする僕の体を、調子を確かめるように勇が叩き撫でまわす。


「うん、邪気はちゃんと祓えたみたいだな。結構強力な呪詛だったから、久しぶりに本気出したぜ。どうだフィアル、痛いところとかあるか?」


「いや。すこぶる快調だね」


 正直、旨いもの食べて九時間ばかりしっかり寝た後みたいに体の調子がいい。すげえや勇。受験生相手に儲けられるぞ。


 そんな下らない事を考えている間にハセウムが再起動した。


「な、何をした!? 私の呪いを打ち破るなど……小僧、貴様何者だ!?」


「俺かい? 俺はな……」



 勇は芝居がかった動作で髪を掻き上げ、顔の半分を手で隠す独特のポーズを取る。



「戦神『バセム』に仕える司祭であるジョセフ・タイマンの一人息子……レオン・タイマンだ!!」



 あ、そっちを名乗るのね。てっきり『幽・撃・隊ゴーストバスターズ』を名乗るのかと思った。


 ハセウムさんは何か納得したのか、悔しげに後ずさる。



「ぬうう……、戦神の司祭の子であったか。まさか我が呪いを打ち破る程の加護を有するとは、末恐ろしい小童よ……」


「形成逆転だな」



 勇はニヤリと頬を歪め、ハセウムの動揺を笑う。ヒーローしてんなぁ。


 次に勇はルリィ先生に向かって声を張り上げる。


「先生! 奴の呪いは俺が解除します。先生は奴を倒して下さい!」


「…任せろ!」



 ルリィ先生が走り出そうと身を屈める。ウンディーネもルリィ先生の戦意に反応してるのか、川が荒れ始めた。


 命(?)乞いでもするかと思われたハセウムは、しかしまだ切り札を残していた。



「く、仕方ない。今回は退こう。デイボー、頼む!」



 遠くから、あいよー、と声が聞こえた気がする。そして何か機械が駆動するような音と、破裂するような音が響く。



 バシュッ!



 機械音の後、木々の合間を縫ってロープに繋がれた投網が飛び出しハセウムの体に絡みついた。


「何!?」


 ルリィ先生が警戒の為足を止めると、網に絡まれたハセウムが高速で森の中に引き込まれていった。

 ハセウムは遠ざかりながら、最後の置き土産とばかりに高笑いを残していく。




「はっはっはー! また会おう、諸君! ………アウチッ!?」




 森に引き込まれて姿が消える瞬間、最後に見たハセウムは後頭部を木の枝で強打されていた。



 ◆◆◆



「本当に問題は無いんですね?」


「大丈夫です先生。彼の体から邪悪な気配は感じません」


 今、僕は勇の家、タイマン司祭の所に居る。ルリィ先生含め皆一緒だ。


 ルリィ先生はハセウムを追うよりも、僕らを守ることを優先してくれた。まあ水着姿で悪党二人? を追うのはちと厳しいだろうし、仕方無いだろう。今は普通の服に皆着替えている。


 ルリィ先生はタイマン司祭に、僕から本当に呪いが除去されたのか確認して貰い、安心したのか、深く溜息を吐いて胸を撫で下ろす。


「良かった、可愛い生徒に万が一があってはいけないからな。ありがとうタイマンさん。…それにレオンも」


「僕は何もしてません。全て戦神様の御業によるものです」


 嘘吐け。しっかり日本語喋ってたじゃないか。


 タイマン司祭は、若干戸惑いながらも勇を褒める。


「まさかレオンが死霊術師の呪いを退けるとは……。よく頑張ったなレオン。お前の努力を戦神様が認めて下さったのだろう」


「はい、これからも精進します。父さん」



 イイ親子関係ダナー。


 温かい家族劇場を見ていると、ふと手に本当の温かさを感じた。



「大丈夫、フィアル? きつくない?」



 まだ潤んだ目をしているサラが、心配そうに僕の手を握っていた。僕はサラを安心させようと、その手を握り返す。


「大丈夫だよ。サラこそ平気かい? 色々あったけど」


「うん……。フィアルが守ってくれたから。遅くなったけど…ありがとう、フィアル」


 うおっ、眩し! サラが涙を堪えて微笑む顔が美しすぎて直視できない。


 そして気付く。その動作が周りの皆には照れ隠しに見えたのだろう、ニヤニヤ笑いで僕を見てやがる!

 くっ、何か本当に恥ずかしくなってきた。変に顔が赤くなってる気がする。



 ……一つ気になったのは、僕とサラのやり取りを見て、大人しかったリーザの顔に渋面が広がったことだろうか。



 ◆◆◆



 フィアル達の村近くの森の奥深く、小さな洞窟の中で微かな光が揺れ動いていた。


「同志デイボーよ……。網を切るという選択肢は無いのか?」


「無い! ワシが夜鍋して作った木造ゴーレム三号の大事なパーツの一つじゃぞ!? それを切るならお主ごと切るからな」


 ランタンの光の下、か細い声で提案するハセウムに、絡まった網を丁寧に解していたデイボーはドスの効いた声で応じた。



 網に絡まり出れなくなったハセウムは、その後パーツ単位で分解されて再構築される羽目になったとさ。




漸く後編を書き上げれました。


幼年編はそろそろ終わりにして、次は少年時代編に移ろうかと思ってます。


そろそろ村の外に出して、活躍の場を広げてあげたいんだよね。そして妹キャラのネージュがバブバブ以外の台詞を言えるようにしないと。


アウトキャスト~は大体二.五話分くらい書き溜めました。まだまだかかりそうです。

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