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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
続編 「冬の王都で危険な出会い?」
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(24) 甘過ぎて死ぬ



 ようやく休憩の時間が訪れ、わたしは着替えたままの姿でお茶の時間を楽しんでいた。


 髪もドーラが軽く整えてくれたので、このままでいても別に編ではない。と言うのも、後で気づいたのだが、ジェレミアが贈ってくれたドレスは夜会用のものではなく、昼用のものだったのだ。清楚で品の良いデザインで、いつもの地味で古びたものほどは落ち着かないが、違和感は感じない。


「気に入ってくれたかい?」


「それはもちろん! こう、着ていても落ち着かない気分にならないですし、とにかく綺麗で、本当にありがとうございます」


「いや、君があまり姉にボロクソに言われるのも嫌だったから。これで少しは気が楽になるだろう?」


 ジェレミアの問いに、わたしは「そうですね」と笑んでみせる。

 もちろん、彼がここまで気を使ってくれる背景には、パオラとの最初の出会いが関係している。


 あの頃はまだふたりきりになるのははばかられたので、行きはパオラと馬車に乗ったのだが、わたしはそこで精神が疲弊しまくり、魂が抜けた状態になったことがあった。彼は、そのときのことを覚えていて気を使ってくれているのだろう。

 とてもありがたいことだった。


「いや、気に入ってもらえたならそれで十分だ」


 言って、目を細めてジェレミアはわたしを見た。

 じっと見つめられ、とてつもなく落ち着かない気持ちになる。以前だったら、見られたとしてもこんな風にはならなかった。その時は視線が合っても偶然だと片付けていたからだ。

 わたしはお茶のカップをテーブルに戻し、何だか今、凄く幸せだと思った。


 こんな風に贈り物をされ、側にいて、心配してもらって、この先もうこんな幸福はないんじゃないかと考えてしまうほど、幸せだと思う。


「……だが、君はいつも私が贈ったものをあまり着ないように思うんだが?」


 思わぬ問いかけに、わたしは驚いてジェレミアの顔を眺めてしまう。彼はやや不満そうな様子でさらに続けた。


「まあ、以前贈ったのは夜会服が主だったから仕方ないが、そうではないものもあったろう? どうしてだか、教えて欲しいんだが。もし私に気を使っているのならはっきり言って欲しい」


 ――よ、よく見てるっ!


 以前はわたしがじろじろと眺める方だったので、彼のことについてはわたしの方が知っていた。今もそれはさほど変わらない。

 だからわかる。眺めていると、色々とわかることがあるのだ。つまり、彼はわたしをじろじろと見ていたということなのだ。


 脳が理解した瞬間、熱が出たような感じになった。

 顔から火が出るとはこのことか!


 中々返事が出来ずにいたわたしは、まともにジェレミアの目を見てしまった。すると、彼は少し悲しそうな目をしている。これは誤解を解かないと、と思い、わたしはつっかえつつも声を発した。


「……だ、だって」


「だって?」


「な、何だか着るのが惜しくなってしまって、それに、ジェレミアがいないところで、綺麗にしていても意味がないです、から」


 終いの方は蚊の鳴くような声になってしまった。

 とはいえ、それが事実なのだ。せっかく贈ってもらったのだし、彼のいる前で着たいし、身に着けたい。ただ、彼の言うように以前の贈り物は主に夜会などに使うものなので、機会がなかったのだ。


「なるほど、そういうことか。確かに、その方がいいかもしれない」


「え?」


「少し前にも言っただろう? 君が他の男性と親しくしているのは見たくないと、その格好なら目立たないから男が寄ってくる確率が低くなる。私にはその方がいい……君を独占できるから」


 言われた。くっきりはっきり覚えている。デニスをつけることになった理由を問うたときのことだ。

 あの時もそうだったが、今も心臓が大変かわいそうなことになっている。と言うより、頭がまともにものを考えられないんですけど、どうしたらいいんだ、これ。


「教えてくれてありがとう。さて、そろそろ行かないと姉さんに怒られてしまうかな」


「は、はい」


 言われるままに立ち上がるものの、ジェレミアから受けた衝撃で足がもつれた。


「あっ」


 そのまま転びそうになるのを、ジェレミアが抱き留めてくれたが、今は至近距離が辛い。


「大丈夫か、疲れたのならこのまま休むよう姉さんに言うが?」


「へっ、平気です!」


 そんなことをしたら玩具にされる時間が増えてしまう。わたしは必死に足をふんばり、床に足跡を刻むくらいの力で行くんだと言い聞かせる。

 ジェレミアは心配そうに言った。


「それならいいが、疲れたのならちゃんと言ってくれ」


「は、はい。いえ、大丈夫ですから!」


 しっかりしろわたし、立つんだわたし、でなければ死ぬ、主に精神が死ぬんだ。

 そう自分を鼓舞し、歩こうと足を踏み出す。すると、ジェレミアはそっと横に回って腕を貸してくれた。その気遣いが嬉しくて、幸せで、わたしの思考にはまたしても霧がかかっていく。


 それから何とか公爵邸内の簡易帽子店と仕立て屋に戻ったものの、気もそぞろだったわたしは、パオラの言われるままに動いて、何とか全ての採寸やらなんやかやを乗り切ったのだった。



  ◇



 翌日、昨日の疲れをやや引きずりながらもわたしは起きて活動していた。

 と言うのも、ようやく手紙の返事が届いたので読みたかったからだ。わたしは公爵邸の図書室に向かう。そこには書き物机もあるし、手紙を読んで返事を書き終えたら何か本を読もうと思ったのだ。


 なぜかと言うと、今日はジェレミアが出掛けているから、暇なのである。ルチアの監視もしなくていいようになったし、すり減りまくった精神を少し回復したいと考えていた。


 やがて図書室に着くと、デニスが暖炉を用意してくれており、部屋は暖かい。わたしはありがたいなあと思いつつ、早速手紙を開くことにした。



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