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決着とこれからについて

「大体はそんなところさ」

「だが、海にいるはずのお前がどうしてここにいるんだ?」

「一時停戦になったんだよ。それで、領地に兄さんを訪ねたらここだって言うから、暇つぶしにいつ気がつくかと遊んでいたんだ。そうしたら、どこぞの令嬢に賭けゲームを持ちかけられたという訳さ」


 縛られていなければ肩をすくめていたらしき動きをしたエミーリオを見て、アウレリオはもう何度目になるかわからないほど疲れたようなため息をついた。


「そんなことをしたら僕にも迷惑がかかるし、レディにそんなことをしたらどうなるか、わかっていなかった訳じゃないだろう?」

「当然さ。相手は由緒正しい男爵家の令嬢……俺が結婚したいと願ったって、余程の無知か馬鹿じゃなきゃまずなびかない相手だ。だから、相手が気に入らなければ兄さんに金をたかればいいかなと思っていたんだ。けど、見てみたら、結構俺の好みでね、そのご令嬢の言う通りにすることに決めたんだ」

「エミーリオ、遊ぶのがだめだとはいわない。だが、お前は遊びとそうではない事の境目がわかっていない……それほどまでに、爵位が欲しかったか?」


 アウレリオは剣呑な眼差しで弟を見た。その眼差しを受け止めたエミーリオは歪んだ笑みを浮かべて、口端を上げると笑った。


「そんなに欲しければとっくの昔に兄さんを殺しているよ。俺が気に入らないのは、兄さんばかりが認められることだ……だから軍に入った。そこで活躍すれば、ただの貴族より余程栄誉に満ちた名前が残るだろうからね。

 それに、俺には責任をとるつもりがあったんでね」

「貴様……彼女が私の婚約者と知っていてこんなことをしたのか?」


 低い声に、わたしは驚いてジェレミアを見た。彼は殺してやりたいと言いたげなほど凶悪な目つきでエミーリオを睨んでいる。だが、言われたエミーリオは涼しげな表情のままだ。


「いや、それは知らなかった。頼んできた令嬢が婚約してしまう前にジェレミア卿の目を覚ましてやるといった趣旨のことを言っていたから、まだなのだと思っていたが、そうか、もう婚約済みだったのか。

 それは悪いことをしたかな……もし決闘したいというなら受けて立つよ。ただし、俺は軍でもかなり射撃がうまい方だから、痛い目を見るのは恐らくそっちになるだろうけど」


「エミーリオ! もういい、今まで僕が甘かったんだろう。お前とカルデラーラ一族は関係ない。これから先、どんなことがあっても僕がお前を援助したり、口添えすることはない。

 お前にこんなことを頼んだ令嬢との話は僕がつける。金は気にしなくていい。それと、王都の家からも出て行け……もし戻っていたら、わかるな?」


 アウレリオは冷たく、突き放すように言った。しかし、エミーリオは怯えるでもなく、困惑するでもなく楽しそうに笑った。


「わかったよ、けど、顔は変えられないからね、完全に縁が切れるとは思わない方がいい。じゃあ、まず縄をほどいてくれ。言われたとおり、すぐにここを出て行くから。それにしても、惜しかったな」


 わたしは、エミーリオの目が自分に向けられていることに気づくと、きっ、と睨み返した。だと言うのに、彼はにやりと笑ったのだ。

 アウレリオはソファから立ち上がると、彼の縄をほどいてやった。ほどなくして自由となったエミーリオは、手首をさすりながら、わたしを見て言った。


「それじゃあね、レディ・ロレーヌ。またどこかで会おう……君が彼に飽きた頃にね、良ければ愛人になってもいいよ」


 エミーリオは、とびきり魅力的な笑顔で――ただし、顔には青あざが出来、唇は切れて血が出ていた――言った。わたしは隣のジェレミアが殺気だったのを感じ、先手を打って先に口を開いた。


「残念ね、それは絶対にないし、愛人も必要ないわ」

「そう? でも、気が変わるってこともあるからね。覚えておいて」

「お断りよ」


 わたしの言葉に、彼は背を向けて手をひらひらと振ると、やや歩きにくそうに立ち去った。外で、誰かが悲鳴を上げる声がした。恐らく、ドロテアやわたしの悲鳴に驚いて来てしまった滞在客のひとりだろうと思われた。やがて扉が閉まる音がすると、ドロテアが待っていたように口を開く。


「それで、その令嬢をどうするつもりなの?」

「あまりに常軌を逸していれば警察沙汰にしても構わないと思っているが……ジェレミア、君はどうしたい。それにレディ・ロレーヌもだ、一番被害を受けたのは君だから」


 アウレリオが言うと、全員の視線がこちらに向く。

 わたしは「ええと」と呻いて、どうたいのか自分に問いかけた。

 確かに、ひどいことをされたのだ。一瞬、全てが終わったかと思ったほどに。だが、その令嬢の気持もわかるのだ。わたしだとて、もしもジェレミアがあまりぱっとしない地味ーな令嬢と仲良くしていたら、はらわたが煮えくりかえる思いを味わったと思う。


 何より、もう全てが終わったのだ。


 エミーリオとアウレリオの会話から推察するに、放蕩していたのはエミーリオの方だということもわかった。アウレリオは濡れ衣を着せられていたに過ぎないのだ。

 それでドロテアの悩みも解消したし、最悪の事態は起こらずに済んだ。

 だから、もういいと思った。


「わたしは、あまり大事にはしたくありません。そのひとを怒る必要はあるでしょうけど」

「だが、私はそれでは腹の虫がおさまらない。婚約者を失いかけたんだぞ? 何より、また似たようなことをしない保証などどこにある」

「それはそうですけど」


 どうしたら良いのかと考えあぐねていると、ドロテアがあっけらかんと言った。


「別に、何もする必要はないと思いますわ」


 皆がドロテアを見た。彼女は、唇に人差し指を当てて、楽しそうに言った。


「だってそうでしょう? きっとそのご令嬢、明日の舞踏会でロレーヌを見たら卒倒するわ。あの姿の貴女とジェレミア様が並んでいて不平を言えるほど器量のある令嬢なんて、わたしはレディ・タチアナしか知らないわよ。そうでしょう?」

「ああ、確かにそうかもしれないが」


 まだ納得のいかない様子のジェレミア。アウレリオはと言えば、アレを見ていないためにドロテアの言っていることがわからない風だった。


「そうですよ、それでもまだ何か言ってくるのなら、その時点で警察沙汰にしちゃえばいいんです。それからわたし、ジェレミア様の応援する会の会長と知り合いなの。彼女にこのことを伝えて、ジェレミア様が傷心だと教えておくわ。彼女たちの凄まじさはご存知でしょ?」

「それは……そうだな」


 流石のジェレミアもこれには頷かざるを得なかったようだ。わたしはドロテアにありがとうと声に出さずに口の動きだけで伝えた。すると、茶目っけに満ちた笑顔が返ってくる。

 その時だった、廊下から雄叫びが響いてきたのだ。

 聞き覚えのあるその声は、フィオレンザおばのものに間違いなかった。



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