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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
短編 未来への約束
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(6)



 私が姿を現すと、女性陣からの視線が痛いほど降り注いだ。もちろん、良く見知った仲なので不快ではないが、何か言ってくれないと困る。


 とりあえず、部屋を出て全身が見えるようにすると問うた。


「どうだ? 間違いはないか?」


「ない、ないです……ああああ、どうしてこの世界にはビデオもカメラもないの! あんなに素敵な姿を残せないなんてっ!」


 ロレーヌは言われた通り、私と似たような淡い桃色の地に煌びやかな模様が織られた、彼女のかつての故郷の民族衣装だという服に身を包んで叫ぶように言った。しかし困ったことに、言っていることがよくわからない。


「落ち着きなさいロレーヌ。確かに、中々素敵だと思うけれど、そこまで言うのならパーティに知り合いの画家を呼べばいいじゃないの」


 パオラが落ち着いて諭している。

 ロレーヌは「そうですね」と悔しそうに言い、それから少し落ち着いて私の姿を眺める。わずかな後、今度はふにゃりと笑う。


「後は、刀というか剣があれば完璧ですね。こんなに素敵なことになるなんて思いませんでした。ジェレミア、ありがとう」


「いいや、そんなに喜ばれたらこちらも嬉しいよ。なら、仮装パーティにはふたりともこの格好で出ようか?」


「えっ、いいんですか?」


「ああ、もちろん」


 私は大きく頷いて見せた。いつもは仮装パーティというと、少し派手めの服装に仮面をつける程度で済ませてきたが、ロレーヌが喜ぶのならこれもいいだろう。何より、彼女が考えてくれたことが嬉しいのだ。

 それも私を思って。


「良かったですねお姉様! ずっとこれを着て欲しいって仰ってましたものね。それにしても、ジェレミア様は本当に何でもお似合いになりますね」


「そうか? 色々な格好をしたことがないからわからないが」


 ルチアの言葉に、私は自身を見てみる。季節や行事によって多少着るものは変えるが、基本的には似たようなものを選んできた。だから、本当にわからない。


「それなら、これから色々試して見ればいいんじゃないですか? ロレーヌお姉様と一緒に」


 ね、とルチアがロレーヌに声を掛ける。


「そうね、そうして貰えたらわたしは凄く楽し……嬉しいけど」


 楽しいと言いかけて止めるロレーヌ。私は彼女と会ったばかりの頃を思い出した。そして、ふと可笑しくなって来た。

 これもまた、ロレーヌと出会わなければ知らなかった世界だ。


 きっと、これからもこういうことがあるのだろう。それはとても楽しい想像だ。私は笑いながら言った。


「それなら、またこういうパーティを開こう。今度はカスタルディ邸で」


「そうね。それがいいわ、楽しみね」


 パオラが言うと、ロレーヌは少し頬を染めて嬉しそうに笑って「はい」と返事をした。この笑顔が見られるなら、出来ることは何でもしよう。私は笑いあう女性陣を見ながらそう思った。



  ◆



 その翌日は穏やかに晴れた日で、もう春が来ていると知らせる香しい風が吹いている。私はそんな陽気の中、宝石商を訪れていた。


 王都での事件があってから、いつかロレーヌに贈りたいと考えていたものが入ったと連絡があったからである。


 大通りに面したその店には、紳士たちがまばらに訪れるばかりで、賑わいとは無縁だ。王室にも宝石を納めている、格のある店であるため、安物は一切置いていないから、必然的に上流の者のみが訪れることになる。


 私が店内に入ると、早速案内の者が現れて二階の部屋へと向かう。そこでしばし待つと、店主が自ら注文の品を持って現れた。

 布張りの箱に入れられたそれを恭しくテーブルに置くと、店主は蓋を取って中身を見せてくれた。


「昨日入った極上品です。どうです? 見事な赤でしょう?」


「確かに、綺麗だな」


 私はじっくりと箱の中身を見る。


 そこに納められていたのは、紅玉ルビーよりはまろやかな色味の石があしらわれたペンダントだった。この石は、色味が安定していないのが特徴だ。だが、目の前のそれは赤一色で、表面に黄色の光沢があり、光の加減で金色に煌めく。滅多にないらしいが、ある理由から人気があり、簡単には手に入らない。


 それでも、私はどうしてもこれをロレーヌに贈りたかった。


「ご満足いただけましたでしょうか?」


「ああ、よく見つけてくれた。この店ならばと思って来てみたが正解だったよ」


「ありがとうございます。今後ともご贔屓に……それでは、こちらにサインを」


 私は言われた通り書面にサインをし、用意して来た金を払うとその宝石を手にした。触れると、どこか暖かみがある気がした。


 それから店主に挨拶をして店を出る。


 公爵邸へと歩いて戻りながら、これを見せた時のロレーヌを想像してみた。最初は、少し困ったような顔をするだろう。それでも、喜んでくれたら、あの太陽のような瞳が潤んでくる。


 あの瞳を、曇らせたくない。


 この石には、そんな願いを掛けた。ようするに、護符のようなものだ。効果などないかもしれないが、願いを、思いを形にしておきたかった。


 ここしばらくの贈り物は、ロレーヌを美しく見せるためのものであったり、魅力を殺さないためのものだった。

 全ては、彼女のためだ。


 しかしこれは違う。


 私のためのものだ。


 我がままなのかもしれない。だからなのか、少し渡すのが怖くもあった。それでも、これを見せた時の顔を見たい。

 私は苦笑して、足を速めた。



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