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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
続編 「冬の王都で危険な出会い?」
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(53) 決意表明



「えーと、盛り上がっているところ悪いんですけど、わたしのこと忘れてません?」


 すると、パオロとエミーリオが同時に言った。


「そんな訳ないだろ」

「そんな訳ないでしょう」


「それならとりあえずやめて下さい。あと、ちゃんとわたしの話を聞いて」


 そう告げれば、ふたりの男性の視線がわたしに向く。

 何はともあれいがみ合いは中断させられたようだ。後は、わたしの考えを伝えるだけだ。

 よし、と心の中で気合を入れる。


 聴衆がたった三人とはいえ、緊張するものはするのだ。わたしは意を決して口を開いた。


「まず言いたいのは、ふたりともわたしがどちらかを選ぶことを前提で話してたみたいですけど、わたしはどちらも選ぶつもりはありません」


「ですが……」


 エミーリオがどこか怪訝そうにわたしを見る。

 それは予想していたことだった。

 彼の言いたいことは恐らく、このまま戻ってはわたしの名誉が傷つくと言いたいのだろう。確かに、体裁の良い話ではないだろうし、エミーリオの言う通りにすれば、色々と嘘がつける。お互いにここに捕らわれていることは事実なのだから、それらしいこともでっち上げられるだろう。


 そうすれば失うものは少なくて済む。


 けれど、わたしにはそれよりも大切なことがあった。


「だけどさ、元通りって訳にはいかないだろ? だったら……」


 パオロの問いかけに、わたしは首を横に振った。

 そういう問題ではないからだ。


「じゃあ、なんでだよ。お前がいくら望んでも、周囲はそうはいかない。大勢に拒絶されるかもしれないのに……」


「それでもいいの。わたしは、わたしからは裏切らないと決めてるから」


 断言すると、パオロもエミーリオも微妙な顔のまま黙り込む。

 傷つけたかもしれないと思いながらも、わたしはちゃんと言えてほっとしていた。


 今まで、何も考えなかった訳ではない。

 最悪の事も考えて、出した結論がそれだった。


 ジェレミアは、わたしに勇気をくれたひとだ。そんなひとを、わたしから裏切るなんてありえない。


「……それでも、俺は諦めない」


 後ろから、搾り出すような声がした。


「パオロ」


「ええ、俺もです。せっかく運が向いて来たんです、ここで諦めたくないですから」


「カルデラーラ中佐」


 ふたりの言葉に、わたしは笑った。なんて面倒なひとたちなのだろう。だけど、必要とされることは嬉しかった。

 いつか、ふたりのどちらかに押し切られてしまう日が来るかもしれない。そう思いつつ、わたしは言った。


「無駄だと思いますけど、頑張ってください」


 すると、少し離れた場所からため息が聞こえた。


「……ロレーヌお姉様、格好いい」


 ルチアだった。

 何やら憧れの存在を見るような目をされている。わたしはびっくりした。何かとんでもない勘違いをされた気がする。

 まるでわたしが華やかな世界の住人のひとりであるような勘違いだ。確かに、社交界の花とか女優とかそういう人種にしか許されないようなことをぬけぬけと言ってしまった気がする。

 ほとんど死にそうな気分で言ったのに。


 何か言わないとマズいと思ったが、ルチアの方が早かった。


「わたし、いつかお姉様みたいになりたい。そんな風に素敵な男性を手玉に取れるように……」


 あああっ。やっぱり。

 わたしは自分の頭の回転ののろさを呪ったが、ああなったルチアが人の話を聞かないことは良く知っていた。

 頭を掻き毟りたいが、パオロがまだ離してくれない。


 どうしたものか、と思っていると、救いの手は思わぬところから現れた。それは、わたしの腹部から奏でられた、空腹だと知らせるマヌケな音だった。


「……食事にしようか」


 パオロが小さく笑いながら言った。


「はい」


 わたしはひたすら羞恥心でいたたまれなくなりながらそう返事したのだった。



  ◆



 ほとんど来世分の恋愛運まで使い果たしたような出来事があってから、三日経った。わたしはほとんど毎日、城にいるひとたちに話を聞いてまわっていた。

 時には自分のことも話したし、全く関係ない話題で盛り上がったり、苦しみを吐露されたりすることもあった。


 ただ、最初は警戒したり、嫌悪していたひとたちも少しずつわたしの存在を受け入れてくれるようになり、来たばかりのころに向けられた険しい目で見られることはほとんどなくなっていた。


「よく飽きないな」


 相変わらず護衛と見張りを兼ねてついてくるパオロにそう言われ、わたしは苦笑した。


「本当にね、でも面白いよ」


 それに、と心の中でつづけた。

 わたしがここにつれて来られて、結構な日数が経っている。心配しているだろうな、早く帰りたい、みんなの顔を見たいと思う反面、どういう反応をされるのか怖くて、そのことについてはあまり考えないようにしていた。


 でも、部屋に戻るとやっぱり考えしまうから、こうして歩き回って疲れて、すぐに眠れるようにしていることもあった。

 それでもだめなときは、聞いた話を書いていく。書いているうちに、やがて眠くなってくるので、それからようやく眠るのだ。


 ちなみに、今は城の中に部屋を与えられている。

 いつまでもあの宿屋に置いておくわけにもいかないらしい。とはいえ、中々に良い部屋だ。それでも、落ち着かないことに変わりはなかった。


「もう少し、休んだ方が良くないか? 痩せたぞ」


「いいの、ダイエットしてるから」


「そんなことしなくても、ちゃんと細いぞ、全体的に」


 パオロが何気なく言った言葉に、わたしは鼻を鳴らした。


「そんなの知ってるわよ。全体的に平べったいですよわたしは」


「そ、そんなこと言ってないだろ」


 慌てたパオロをちらり、と生ぬるい目で見たわたしは、わざとらしくため息をつく。そうすると、パオロはうっ、と呻いた。


「わ、悪かったよ、取り消すから」


「いいの、気にしてないから」


 少し笑いながら返せば、パオロは困った顔になった。本当のことを言ったのに、と思いつつ前方に視線を移すと、あるひげの男性と目が合った。彼はとても愉快そうにくつくつ、と笑いながらわたしたちの近くへやって来る。それを見て、わたしとパオロは立ち止まった。


「仲が良くて結構なことだな。ちょっと羨ましいぜ」


「どこがだよ」


「ははは、まあ、本人はわかんないだろうな。まあいい、呼び出しだ、そこのお嬢様も一緒にな」


 ひげの男性が何気に言った言葉に、パオロの顔が引き締まった。わたしはそれを見て、胸にじわじわと不安が広がるのを感じつつ、訊ねた。



※お知らせ。この作品の書籍化第二巻がアリアンローズ様より2015年1月10日に発売になります。お読みくださった皆様のお陰です。ありがとうございます。もしよろしければ、お手にとって頂けると幸いです。

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