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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
続編 「冬の王都で危険な出会い?」
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(51) わたしにできること



「病気よ。色々酷使していたから仕方ないけれど、何しろ毎日忙しすぎてね……ふふ」


 そんな彼女の前世は女社長だったそうだ。

 この世界、というか国は女性に対しての扱いが遅れ過ぎていると不満をこぼしているだけなのに、妙な迫力がある。


「そうですよねぇ、女性にはほとんど働く場所がないですし、わたしは貴族ですけど、結婚しないと生活できません」


「ああ、もう、女性ってだけで不公平よね。だからわたしはね、この国のそんなところを変えたくてあの人に協力しているの。間違っていることはわかっているけど、ここで何かしないと何も変わらない気がして」


「そんなことないです。わたしの知り合いにはこのままじゃだめだと思って行動している議員さんもいます」


「それは凄いわね、……でも、それじゃあ遅いのよ」


 女性はそう言って、さらに話をつづけた。色々と言いたいことがあったらしい。わたしはなるべく聞く方に回って、ここに集まっているひとたちがどういう状況に置かれて、こういう行動をとったのか、聞くことに専念した。


 少しして、交代の時間になると話は終わり、今日はルチアたちと食事を取ると言った。パオロはだめとは言わなかったものの、呆れたような顔をした。


「よく疲れないな。それにあいつらがあんなに話すところを初めて見たよ……意外と聞き上手なんだな」


「そうなのかも。でも、やっぱり記憶持ち同士だから、興味も湧くし、楽しいからだと思うな。もしこれが貴族の女性と話すんだったら、つまらない話でも我慢しなくちゃならなくて疲れただろうし」


 ルチアのところへ向かいながら答える。


「まあ、それもわかるよ。本当に楽しそうだもんな。突然話をしたいって言われたときは驚いたけど」


「だって、こんなに沢山の記憶持ちのひとと話せる機会が来るなんて思いもしなかったんだもの」


 そう言いつつ、わたしは当初の目的からややズレてきているような気がしていた。

 情報を引き出すつもりが、何だかただの雑談になってしまっている。何より、本当に彼らと話すのは楽しいのだ。貴族の回りくどさがないことも理由の一つだろう。

 それに、まとめていくと面白い共通点が浮かび上がったりするのが興味深い。


 例えば、亡くなった時の様子を聞くと、大半が志半ばで倒れているのである。わたしもそうだが、若いうちに亡くなったひとや、不慮の事故、本人が死を受け入れにくい状態だったりする。

 それに、ここに集まっているのは流石と言うかなんというか、前世では一角の人物だった場合が多いので、どんなささいな話にも中身があるのである。


「まあ、みんなと知り合っておくのは悪くないことだと思うよ。これからのことを考えれば、特にね」


「そうかもね」


「楽しそうだね」


 唐突に割り込んだ声に、わたしは応えるべきか迷ったものの、一応返事くらいはすることにした。


「そちらこそ、日増しに薄汚れて来てるわね」


 事実、最初に会った頃より大分汚れてきている。輝くばかりだった色男が、だらしない色男になっている。それでも、今度は別の色香が垂れ流されているのだから、それはそれで凄いと思う。


「仕方ないでしょう。身づくろいが出来ないんですから。せめて鏡くらい貸してくれればいいんですけどね」


「無理だな」


 パオロがにべもなく言うと、エミーリオは肩をすくめた。


「わかってますよ。言ってみただけですから」


 それでも残念そうなエミーリオを見て、わたしは問うた。


「どうして貸せないの? 見ていればいいんじゃないの?」


「こいつが俺たちの仲間をたぶらかしても困る。さっきのひとは躱せるけど、中には免疫がないのもいるからな」


「ああ、なるほど」


 パオロがうんざりした様子で告げた内容に、わたしはとことん納得した。確かに。それはマズいだろう。とはいえ、もう少し清潔にすればいいのになあ、と思いつつ、なんとなくエミーリオを眺める。すると、理由はわからないが、目が離せなくなった。

 彼を眺めていると、わずかだけれど、何かが埋められるように思えたからだ。


 わたしはしばらくじっ……っと見つめてしまった。

 それはほとんど無意識といっても良くて、自分では気がつかなかったけれど、やっぱり心のどこかで元いた場所を求めているのだとわかった。


「……あの、ロレーヌ嬢。俺の顔に何か?」


 問われて、わたしはようやく我に返った。

 おかしなことをしてしまった。わたしの内心など知る由もないエミーリオからすれば、さぞかし奇妙に映ったことだろう。

 気まずい思いをさせてしまったと思い、わたしは慌てて謝った。


「……あ、いえ、ごめんなさい、大丈夫です。何もついてません、ちょっとワイルドになったくらいですから」


 やばい、あまりにもジェレミアを見ていないせいなのと、不安なせいでエミーリオに面影を探してしまったらしい。あるハズないのに。それでも、ここにいる貴族出身の男性は彼だけなので、仕方ないとも言えるけれど。


 ――禁断症状かな。気を付けないと……。


「そうですか、それは残念だな。俺はてっきり、ようやくこの魅力に気づいてくれたんじゃないかと思ったんですけどね」


「それならもう気づいてます」


 なにをいまさら、と思いながら返せば、エミーリオは珍品でも見たような顔をした。そんな顔をされるいわれはないので、わたしは眉根を寄せて問う。


「わたし、何か変なこと言いました?」


「……気づいてる? 本当に?」


 すると、エミーリオは質問に質問をぶつけてきた。わたしはもちろんと言って強く頷いた。

 大体、わからないはずもない。彼の魅力はほとんど垂れ流し状態なのである。ジェレミアの次の次くらいにはずっと眺めていたいと思えるくらいには。


 それに、彼はかつて王都で兄の名を騙り、放蕩三昧していたという。多くの女性と浮名を流せるということは、魅力的だということだ。それが何よりの証明ではないのだろうか。


「そんなバカな……気づいてるはずがない……」


「……お前は何が聞きたいんだ?」


 中々質問に答えないエミーリオに苛立ったのか、パオロが尖った声で問うた。エミーリオはその質問にようやく顔を上げた。


  

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