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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
続編 「冬の王都で危険な出会い?」
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(48) 城に眠るもの



 ジェレミアしか見えていなかったから、全くわからなかった。わたしにとって、パオロは同じ国、同じ時代に生きたひとで、仲間のような感覚だったのだ。


 けれど、こうして彼ばかり見ることになると良くわかる。


 ――パオロ、すごく格好いいんだ。


 姿かたちだけではない。

 何と言うか、女性から見て言って欲しいことを言ってくれたり、やってくれるようなところがある。それもどうやら自然にやっているようなのだ。

 そんな滅多にお目にかかれないような魅力あふれる男性に、わたしは告白されたという訳だ。


 もちろん、パオロにとってわたしが特別であるからこそ、そうなったんだということはわかる。わかるのだが、完璧に運を使い果たしている気がする。

 しかも、状況が状況だけに、気遣われると心に沁みるのだ。


「……ジェレミアに会いたい」


 気持ちがぐらつきかけ、わたしは思わずそう零したのだった。



  ◆



 昼食が済むと、パオロが部屋を訪れて城の中を案内すると言った。わたしはもしかしたらカッシーニに会うのだろうかと思ったのだが、パオロは首を横に振った。


「違う、どうしても見て欲しいものがあるんだ。俺たち記憶持ちに関係のあることらしいからさ」


「関係のあること?」


「そう。ロレーヌはどうしてこの世界に俺たちみたいな人間が生まれるのか考えたことは?」


「あるに決まってるじゃない」


 こんなことは、日本にいるときはまずなかったし、きっと信じなかったと思う。前世占いとかは好きだったけど、その程度だ。けれど、ここでは自分自身がそれを証明してしまっている。

 疑問に感じない訳はなく、本などを読んでみたりはした。したのだが、なにしろ脳みそが理解できませんと言ってくれたのである。それ以来、いつか誰かが調べてくれるさ、と投げていた。 


「だろ、と言っても、俺らじゃ調べようがないし。でも、ここにいるんだよ、そういう人が。前世では考古学者だった人なんだ。彼によると、この城には資料が色々眠っているらしくて、ずっと書庫に入り浸ってる。その資料が面白いんだ。だから見せたいと思って」


「そうなんだ、それならわたしも見てみたい」


「よし、決まりだな」


 行こう、と手を出してくれるパオロの手をわたしは自然に取って、我に返る。すっかり気を許しかけていることに気づいたからだ。先ほどあんなに気を抜くなと呪文よろしく唱えたのに。

 わたしは自分に再度、しっかりしろ、と言い聞かせた。

 なんていうか、ここしばらくの間に、わたしは一体何度自分にそう言ったことか。

 何だか段々限界が来ているように思える。摩耗した神経を休める時間を下さい。


 などと思いつつ、パオロについて学者とやらのいる書庫へ向かう。何でも、彼は研究に夢中で名乗りもしないので、みんなに学者先生と呼ばれているらしい。


「ちなみに、いないところでは変人先生って呼ばれてるけどな」


「なにそれ」


 思わず吹き出してしまう。そんな下らない事を話しつつ、書庫にたどり着くと、その学者先生に紹介された。

 パオロによると、彼は生活のことなど気にせず研究に打ち込みたいと願っているらしいが、労働者階級だとまともに学校にも行くことができず、仕事をしつつやるしかないことを嘆いているとか。


「人間の能力は階級に関係なく個人の才能と努力によって培われるものだということは私たちの時代では当たり前だというのに、本当にここは遅れていると思わないか」


 紹介されるや否や、本当に名乗りもせず、彼は出し抜けにそう言った。語り口が淡々としているので、恨み言には聞こえないが、内容には怒りが見える。


「そ、そうですね」


 確かにそうだとしか言いようのないわたしは、素直に頷いた。


「上流階級の人々が私たちと違うのは教育の機会があるかないかだけだ。教育を受けていない人間は彼らの言っている意味すらわからないままだからな。その方が都合が良い面はあるのだろう、まあしかし、嘆いても仕方ない。そういうことはカッシーニさんに任せて、私は私で成果を上げないとね」


 なにやら小難しい言葉で口上を並べられたわたしは目をしばたたかせた。とりあえず、パオロの言うように頭のいいひとらしいことはわかった。けれども、言っていることが理解できたかは怪しい。

 わたしはわかる範囲で問うてみた。


「えーと、成果って、何ですか?」


 やたらとみすぼらしいうえ、距離をとってもかなり臭うので、なんとなく離れて立つ。パオロまでわたしの近くにいるので、やっぱり臭うことは臭うようだ。

 しかし、そんなことには全く頓着していないらしい学者先生は、鳥の巣みたいなもじゃもじゃした頭を掻きつつ、石板を手に言った。


「これを見たまえ、いわゆる神話なんだが、かつてこの地を支配していたのは我々ではないという。しかし、我々よりも力のある人間だったというのだ」


「それって、違う人種とかそういうのじゃないんですか?」


「恐らくそうだと思うが、私たちの感覚とは違うらしい。人として、本質的に能力が違うようなのだ。例えば、とんでもない怪力だったり、中には動物じみた能力を持つ種族もいたようだ。しかし、あくまでも人間だというのが面白い」


「でも、それじゃあ、どうやって今みたいな世界になったんでしょうか?」


 素朴な疑問だった。

 そんなにすごい人たちがいたのに、どうして今はいないのだろうか。いないとしたら、何かあったとしか思えないのだけど。


 すると、学者先生はわたしの質問ににやりと笑った。


「いい質問だ。答えはすでに出ている、私たちだよ」


「わたしたち?」


「そうだ。私たち記憶持ちは、すでにその時代にもいたんだ。彼らは知識を使って、その種族を撃退して、この世界の支配者となった訳だ。そんな頃から、私たちはこの世界の人間に貢献してきた、ということだね」


 わたしは思わず、おー、と声を上げていた。確かに、考え見れば自然なことだが、考えたことがなかったことだった。



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