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観賞対象から告白されました。  作者: 蜃
続編 「冬の王都で危険な出会い?」
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(43) 現状確認



「なんていうか、そういう格好だと俺たちと同じにしか見えないな。お邸で見た時とは別人みたいだ」

「ああ、あれは何ていうか、特殊メイクみたいなものだと思うよ」


 腑に落ちない様子の彼に、わたしは正直に言った。

 実際、地味で人の中なら埋もれきって見えなくなる自信にはあふれているわたしなのだ。それがあんなに人目を引くだけでなく、称賛されるようになるなんて何かがおかしい。


 そこで、考えてみたところ、ドーラが本気を出し、パオラの優れたセンスで用意されたドレスその他小物類があり、それらにジェレミアの好みを反映させて初めてああなるらしいことがわかった。

 それらがなければ、わたしは変わらず地味な令嬢のままだ。


 ジェレミアのおかげで自分に自信を持てるようになってはきたけれど、それとこれとは別だ。現実はちゃんと見ないといけないと思っている。


 ついこの間だって、デニスの用意してくれた変装用の服装をしたら簡単に下町に溶け込めたくらいだ。そのことからも、わたしの容姿の特徴はやっぱり地味だとわかる。

 ようするに、貴族らしい気品とか威厳とかは持っていないので、服装と振る舞いがなければどの階級にだって簡単に溶け込めるというわけだ。


 そんなことから、わたしはあの状態のことを特殊メイクだと考えるようになったのである。


「と、特殊メイクって……そこまでは行ってないだろ?」

「そうでもないよ。だって何もしなければコレなんだし、とてもじゃないけど貴族のご令嬢には見えないでしょう?」


 と、自分を指して言うと、パオロは黙った。

 それでもどうにも納得できないような顔をしていたが、やがてため息をつくと言った。


「いや、それでもロレーヌは可愛いと思う、……反論は聞かないからな」


 言いかけたわたしの言葉の先を制するように言うパオロ。


「自信がないらしいことはわかってるけど、そう思うんだからしょうがないだろ。それに俺はこうなった以上、諦めないからな」


「……諦めないって、何を?」

「お前を」


 素っ気なく返された言葉に、わたしは固まった。

 向けられる真剣な目が痛い。穴に入りたい心境と、先のことは考えたくない不安が浮かんできて、わたしは急いで言った。


「そ、それよりルチア、ルチアとデニスに会わせて欲しいの。無事な姿を見たいのよ」


「……ちゃんと丁重に扱ってるよ。……まあ、信じられないだろうけどさ。こんなやり方でさらった訳だから」


 ひどく不本意そうに言うパオロに、わたしは言葉を返せなかった。事実その通りだったからだ。これからどれほど誠意を尽くされても、きっとわたしは彼らの――パオロのことを本当には信じられないだろう。


「俺は嫌だったんだ。お前をこんな形でここに連れて来たくなかった。けど、あのルチアって男爵令嬢が店に来て騒いだせいで、警察を呼ばれそうになって、計画を変えなきゃならなくなった。

 それなら、利用しようって話になったんだ」


 なるほど、とわたしは思った。

 ルチアを帰さないことで、まんまとわたしをおびき寄せることに成功したと言うわけか。けれど、それだとまだわからないことがある。わたしは問うた。


「……ねえ、どうしてわたしを仲間に引き入れようと思ったの? わたしにはあの人たちみたいに知識も技術もないし、貴族の出だから、むしろうとましいんじゃないの?」


 ずっと聞きたいと思っていたのだ。

 こんな地味で、大した能力もない田舎貴族令嬢を仲間に迎えようなんて、普通だったら考えるはずはない。

 基本的に、利用価値なんかないんじゃないかと思うのだが。


「そんなの簡単さ。お前が貴族だからだ」


「……はぁ」


 まあ確かに貴族は貴族だ。

 とはいっても、わたしは女性で、しかも位が一番低い男爵家の出だ。貴族だから引き入れるという意味がわからず、首を傾げたわたしに、パオロもあまり良くわかっていないような顔で、それでも説明してくれた。


「なんか、カッシーニさんによると、貴族の記憶持ちがいることで、上流階級の奴らにも話を聞いてもらえるとか、どうすればなめられないで済む振る舞いが出来るか教えて貰うんだとか、そんなこと言ってたよ」


「あぁ、そういうこと」


 それを聞いてようやくわかった。

 カッシーニは、上流階級の人々に自分たちの存在価値を知らしめたいとか言っていたけれど、彼らは自分と同じ階級の人間でないと話をまともに聞かない人もいる。

 

 それだけじゃなく、仲間たちに品のある振る舞いを教えるためにも必要ということだ。

 必要最低限の作法も知らない場合は特に軽んじられる。

 なるほど、それならわたしが必要なのも理解できる。――けれど、もうひとつの理由はピンとこない。


「でも、わたしは女だからあまり政治とかには関われないよ。ちゃんと話を通せるとも思えないし……」


 実際、この国での女性の扱いはそんなに良い方ではないと思うし、こんな小娘の話を誰がまともに聞くと言うのか。

 そう口にすると、パオロはさらに言った。


「でも、お前の名前には結構な影響力があるからなあ」


「影響力? そんなのあるはずないでしょう」


「あるだろ、ほら『応援する会』だよ」


 指摘されてわたしは思わずあっ、と声を上げた。確かに、彼女たちの力には凄いものがあるだろう。しかも集団だ。

 グリマーニ伯爵夫人であるタチアナに会って話を聞くまでは知らなかったのだが、わたしの知らぬ間に彼女たちはかなり増殖しているらしい。

 実際に見たのは遠くからだったりするけれど、もしわたしがその発案者だと名乗りをあげたらどうなるだろう。


 そのことを知る令嬢たちの顔が浮かび、あのパワーなら国も動かせるかもしれないと本気で思った。思ってしまった。


「……納得したか?」 


「しました。もの凄く納得しました」


 答えたわたしを見て、パオロは苦笑した。


「まあ、そんな訳だから、お前は俺たちに必要ってことだよ」


「……わかった。でもやっぱりふたりには会わせて」


 わたしはしつこく食い下がる。

 パオロは少し沈黙してから、盛大にため息をついて、ようやく頷いてくれた。



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