交戦/中将の過去
MAMYと交戦するために、ホルスウィンド隊は南進する。
「ヒルダ」
「何よ? また、通信で無駄話?」
「あの中将、何かコッチの事気に入ってくれたみたいだね!」
「もう、無駄話の次は自慢話? いい加減にしてよね!」
「えへへ~これで昇進も近づきましたなぁ。次は大尉か、楽しみ楽しみ」
「この、腹黒メガネ。そう言うのじゃないわよ、きっと。だって、ちゅうじょう中将は……」
ヒルダ中佐の顔がすごく真面目になったので、石刀名中尉はアレレ? と眉をひそめて怪訝そうにした。
「どったのよ? そんな顔して」
「知らないんだね……まあ無理は無いか。中将の娘さんが亡くなったのはあんたが軍にはいる前の事だし」
「へー、娘がいたんだ? 死んじゃったんだね、その人。」
「T基地の、私達と同じ戦闘機乗りだった。優秀なパイロットだったんだけど、MAMYにやられてね……一人娘を失って、たいそう辛い思いをしたと思うわ」
「ふーん」
「アンタ、こんな事聞いてよくそんな呑気な声が出せるわね? 血も涙も無いわけ!?」
「そう言うわけじゃないけどね」
「まったく……それでね、そのアリサさんとアンタって顔がちょっと似てるの。だから中将もきっと思う所があったのよ」
「なるほど、面影があるってことか。こりゃ昇進は本当に近いかも」
「こら!」
ヒルダは通信機に映る石刀名中尉のほっぺを、ぎゅーっとつねって引っ張りたい気分だった。しかし、そんな気分も味方の声ですぐに吹き飛ぶ。
「前方に敵影!」
「よし! 全機いよいよ交戦に入るぞ! 気を引き締めて行け!」
「はっ!」
カダル大佐の一声で、ホルスウィンドの隊員達は戦闘態勢に移る。
目の前に怪しく光る数多の赤い点は全てMAMYだ。他の基地からのまだ救援は来ていないので、彼らは数千の敵を僅か十数機で迎え討たねばならなかった。しかし、彼らはそれをこなせる程の精鋭部隊である。全員が怯むことなく敵の懐に切り込んでいくのだった。
「よーっし、いっくぞー! 今回も最多撃墜を狙う!」
石刀名中尉も、まるでゲームをやっているかのような調子で、赤い光の群に飛び込んで行った。
蒼き海での戦いが、いよいよ始まる。