着艦
MAMY襲来前にホルスウィンド隊は戦艦に辿り着くことができた。
戦艦側の通信で、MAMYとの距離がまだまだ離れている事が分かったホルスウィンド隊は、戦艦に一時着艦することになった。
戦艦「常盤山」。
空母以上の規模を持ち、日本の持てる限りの科学技術を結集した「究極の戦艦一号機」。凄まじい火力、大きさからは考えられない移動速度を持つだけでなく様々な新装置が取り付けられていると言う。MAMYとの戦いに向けて作られたのだが、まだ実戦は経験していない。今回、太平洋上に浮かんでいるのも前述の通り軍事演習の為だった。しかし、科学技術の結晶も肝心のところが作動しなくてはただの鉄クズ、海上に浮かぶ棺桶である。
カタパルトは戦闘機が全期着陸するのに十分な広さがあった。
石刀名中尉も愛機から降りる。砲台や良く分からない物体が立ち並んでおり、吹き付ける風は潮の匂いを同時に運んできた。これが戦艦かと、石刀名中尉は好奇心の目をメガネに隠して他の隊員と共に内部に向う。
戦艦を指揮するブリッジまで案内された一向を待っていたのは、壮年の、軍帽の下に髭を生やした貫禄ある男だった。
「迅速なる救援、まことに感謝する」
「いえ、当然の事をしているまでですよ。チュウジョウ中将」
石刀名中尉は、その時思わず吹き出してしまった。
周りの視線が全部彼女に向く。ヒルダはその愚か者の服を引っ張った。
「ちょっと、何笑ってるのよ! 失礼でしょ!?」
「だって、ちゅうじょうちゅうじょう……ぷぷぷいてて」
「バカッ!」
石刀名中尉の耳を思いっきり引き千切らんばかりに引っ張ったヒルダ中佐だったが、そう言えばうまくそうなってるなと思ってしまう自分もいた。うっかり笑ってしまう程では無かったが。
「すいません、中将」カダル大佐は深くお辞儀をする。
「なになに、元気が良くて何よりだよ。……それで、その変なメガネをした君は何と言う名だ?」
「ええ、彼女は我がホルスウィンド隊のメインアタッカー……」
「最強の撃墜王、石刀名 枝子です! 好きなものは美少年! ゲーム! フィギュア! トレーディングカード! その他諸々! よろしくお願いします!」
「ふむ、せきとうな君か。この戦艦の重要さ、わかっているな?」
「はい! 要するに、守れば良いんでしょう? 大丈夫、我々の手にかかればMAMYなんて大したことありませんよ。ちゃっちゃと終わらせます」
「その自信、信じさせてもらいたいところだな」
「信じてくださいな! 日本軍最強戦闘機部隊は伊達じゃないですぜ!? あはは~」
中将は、石刀名中尉の自信ある言葉に、機嫌を良くした。
口先だけにしろ、負ける気のしない雰囲気はトラブルで気を落としていたクルー達にとっても1つの励ましにはなったと言えよう。
「それで、接近するMAMYの数だが……おおよそ4000~5000くらいだろう。進行スピードはそこまで早くないようだ。緩やかに我が艦に向っている。兎に角、エンジンが修復するまでは我が艦に近づき、攻撃を加えられるのを何としても阻止してくれ」
「了解しております。これから直ちに各機に戻り、奴らの進路を阻みに行きます」
「任せたぞ、カダル大佐。そして、ホルスウィンド隊よ」
一同は敬礼をすると、再び元の道を戻り、戦場へ飛び立った。
夜はまだ明けそうに無かった。