発進
いよいよ、石刀名中尉は戦闘機に乗り込む。
格納庫には、最新鋭の戦闘機「オーラングIDS」がずらりと並んでいる。
一機あたり億単位の費用がかけられた優秀な機体が20機近くあるのだから。航空機マニアが見たならばならば腰を抜かして涎を垂らすことだろう。
石刀名中尉とヒルダ中佐の愛機も、そこにあった。2人とカダル隊長の機体は他の「オーラングゼーブIDS」をより改修したもので、他よりも機動性、火力共に優れている。非常に操作がナイーブなのでエースパイロットである彼らだからこそ扱える機体なのだ。
「うんうん、確かに両翼にエアリアルトーピードが付けられてるね。これ多少重量あるから飛行スピードが多少落ちるけど、まあ大丈夫かな」
「無駄遣いしないでよ? 装弾数はあんまり無いから、確実に命中させていかないと」
「わかってるよそんなこと。エアピーは制作費用高いしね」
「こら、略さない! それじゃあ、柿ピーみたいじゃないの!」
「エアピーって良いネーミングだと思うんだけどなー? 下手すれば流行語大賞とか狙えると思うけど? もし大賞とったらこの私がTV出るかんね!」
「よくもまあ、この臨戦態勢の時に呑気に脳内妄想なんてしていられるわね……」
「こういう時だから妄想してるんだよ」
「嘘つけ! あんたは、いつも妄想ばっかりでしょうが!」
「そだね」
「もう、ちゃんと仕事しなさいよ? 皆の生死がかかってるんだから」
「はいはい」
ヒルダ中尉が、自分の機体の方に去っていくのを見届けると、石刀名中尉は落ち着いた態度で、戦闘機のコクピットに乗り込む。機体からは独特の科学薬品的な匂いがした、メンテナンス時に内部正装した関係からだろう。石刀名中尉はこの匂いが好きだった。極度に身を引き締めてくれるこの刺激臭が。
ゴオオオオ
ハッチが開き、一機、また一機と轟音鳴らして空に向う。
石刀名中尉も、席に座っていつでも行ける感じになっていた。暫くすると、フッと右側についている交信用のモ二ターの画面上に女性オペレーターが映った。
「メーデー、こちら管制局。発進準備OKですか? 」
「こちら、石刀名。進路、問題なし。只今、発進します!」
「了解しました。ご武運を!」
左手でレバーをぐっと引くと、エンジンは大きく躍動し加速、体に流れる時間をスリップ状態にして
夜の空へと向かって一気に飛び上がる。アッと言う間に、地上は美しい光の海に姿を変えた。