ちょっと前の話…鴉を拾いましたその②
動物病院にて、
「あらー?なかなかいい毛並みと毛ヅヤじゃなーい。怪我がなかったら存分に弄り倒したくなるほどにね☆」
「■△◇◎●*※★~!!」
(私の知り合いの獣医がそんなに嫌か…。 確かに手付きが若干やらしいような気もするが…)
腕は確かだがオカマな獣医、源氏名 朱雀条ペティ
本名 玄武堂 剛太
更に言えば男は捨ててないらしく『男女カモーン!!美味しくいただくわ~!勿論動物も許容範囲内よ~』と動物までと言う驚異の恋愛射程圏内を誇る。まあ、最後に関しては冗談だろうが所謂バイなセクシャルの持ち主なのだ。ちなみに容姿についてだが、かなりの美形でさわやか系の男なのだがプライベートだとかつらだり化粧したりと完全にオカマさんである。
「いやん!そんなに暴れちゃやだ♪…きっついお注射しちゃうぜ?」
ビクリ!
ペティが男に戻ったので鴉が怯える。本当に言葉を理解してんのかな?
「男か女かどっちかに絞りなさいよ。ペティ。後、ここ職場でしょ?そんな素を出して良いの?」
「あらやだ!失礼♪友人の前でくらい崩しても良いでしょー?…それはそうと怪我だけど、この傷跡から鋭い刃物…、切り口から見てどうやら鎌状の物に斬られたみたいね」
「みたいって…、あんたにしてはえらくはっきりしないじゃない。」
「いや、鎌にしては切り口の幅が少し大きいし、えらく傷の深さが浅いわ。鎌だったらもっと身体の深い部分まで斬れるし。…まるで猫にやられたみたいなのよ…。でも傷跡を見るにこんな爪の大きさの猫なんていない。少なくともライオン、虎、チーターとか見てきたけどどれも当てはまらない。しかも首に紐が絡まってあったのも気になるわ…」
「獣医なのは解ってたんだけどあんたライオンとか見てんの!?」
「健康診断で動物園と関わりあるしね~♪まあ、健康管理と1ヶ月の食事の献立とかの相談とかでしょ?後は栄養のバランス配分と処方薬の投薬をやったりするから色々見るのよ」
「ワニに噛みつかれたとは聞いてたけどまさか…!?」
「そうなのよ~。口内チェックしてたら頭からガブリといかれたのよ~」
「確か軽く歯形付いただけですんだって言ってたけど…。どうやって助かったの?」
「流石にオイタが過ぎたから喉に腕突っ込んで窒息状態にしたわよ。それで吐かれてなんとか軽く血が出る程度で助かったけどね♪」
「…なんというか、その、手広くやってるわね~…」
「まあねー♪あ、この前ね、アフリカのサバンナで一週間キャンプ体験してきたの~☆けれど私一人しか来てなかったから出会いが無いのよ~」
「あんたそれ…、キャンプじゃなくてサバイバル生活の間違えじゃない?」
「えーっ!違うわよ~!だって3日目には人食いゾウとの触れ合いに行ったわよ」
「人食いって入ってんじゃん!!そのゾウ!!」
「そっちも踏み潰そうとしたからお仕置きしちゃったわ~♪テヘ☆」
もう何も言うまい…。
「とりあえず、鴉だけど治っても飛べる位の傷で済んだわ。発見時の対応と処置が良かったわ。とりあえず、傷口に薬を塗った時の顔は人間だったら襲いかかりたくなる程だったわ~。……はあ、いいもん見たわ……」
この発言はスルーしとこう。下手につついて変な話とか聞きたくないし。
「そう、ありがとうね、ペティ。後、龍剣のじっちゃん元気にしてた?」
「ああ、この町仕切ってる龍剣会長なら元気にしてたわよ。奥さんに頼まれて、鯉の住んでる池の水質管理も任されてるからお屋敷のほうにもよく行くし」
「相変わらずのカカア天下だね~」
ブスッ、
手に軽い痛みが走り、手元を見てみるとカラスがくちばしでつついてじゃれてきていた。
「イテッ!くちばしでつつくな!」
「ア゛ーー!!!」
「無視すんな!!って怒ってるみたいね~。大丈夫よ~、私はこのお姉さんに恋愛感情は一切合切これっぽっちも持ち合わせてないわ」
「むかつく事言わないでよ。私だってあんたみたいなオカマお断りです~!!」
「ふーんだ!未だに彼氏とプラトニックな関係続けてるくせに~。早くヴァージン捧げちゃいなさいよ~」
ドシュ!
「グアーー!!」
「イタタタタ!痛い痛い!やめなさい~」
「まあ、その子、明日香にご執心みたいよ~。ヤキモチ妬いてるわ♪」
「こんな痛いヤキモチ要らない!!」
「グアアーー!」
ドスゥ!!ドスゥ!!
「いっだぁぁー!」
「まあまあ、鴉君にいい話があるからこっちに来なさいよ~」
チョンチョンと跳ねてペティの肩に乗る。
明日香に聞こえない声で、「実はね、あの子の彼氏…、浮気してんの」
「アー!?」
「多分寝取られたんだと思うけど気づいて無いのよ。むしろ気づいてるけど見てないふりしてるのよ…。傷つきたくなくて自分で傷を増やしてる」
「……アー……」
「あれだともう持たないし修復不可能よ。後数カ月行かないであの子の恋が終わるわ……」
「アー…」
「それで鴉君には新たな恋のキューピットを任せたいの!!もしくは失恋の傷を残さないための相談役!!」
「アーー!(むしろありがたく嫁に貰うぞ!私には朗報なその情報をありがとう!)」
「おう、頼もしい返事だな~」
本音に気付いてない上、剛太に戻ってるペティ。
そして………。
ゾクゥ!!
「えっ!なんで!?なんで寒気がすんの!?風邪ひいたの!!」
ペティと鴉が話している間暇だったのでPS●のポップンやってた明日香。
「大丈夫よ。あんたみたいなのが風邪ひくわけないんだから」
「へぇ~、なんで?」
「この前あんたん家のほぼ完成してた懸賞金貰えるクロスワード雑誌をぺチクって、おんなじ雑誌買って答え写してこっそり元に戻しておいた事に気付いてないほどに馬鹿だから」
※ぺチクった(盗んだ)って言いません?
「ふーん…。あんただったんだ…。私がコツコツやってて後もうちょっとって時に無くしたと思って部屋中目を皿にして探して諦めたあの雑誌…あんたが持ってたんだ?」
「締め切り日当日の夜にやっと見つかって泣く泣く応募諦めたのにあんたはちゃっかり答え写して期限内に出したんだ?」
「あ、いやほんの出来心でですねー?一応やってなかった所は自分で全部解いて葉書だしたら見事に賞金当たってさー?俺も流石に悪いと思ったからさー、この前に皆で有名レストランに行って全額奢ったじゃん?あれ、実は賞金です☆許してちょ?」
15分後、
「やめっ…止めて!…そこ大事なとこ…、き、切らないで~!!イヤー!メス持たないで~!!」
ドタンバタン!
「おらあ!去勢手術を今ここでやってやんよお!!あしゅらだ○しゃくみたいに体真っ二つにしたるでほんまあああっ!!」
診察室にて片方の手でペティの白衣の端を持ち、もう片方の手には手術用のメスを握りしめて振り上げていた。
「そこの君!傍観してないで助けてーん!?殺人が起こっちゃうのよ!君を助けたお姉さん、冷たい牢屋にぶちこまれるのよ!」
「アーホー、アーホー」
「あーん無情!いい加減に手を離しなさい…、よっ!!」
白衣を掴んでいた手を振り払い出口に向かうが、
「逃がすか喰らえええ!」
「なんのおおお!」
ガッ!ビイイィン!
すかさず何かを投擲するがあっさり回避され、柱に刺さって細かく揺れていた。
「うおおっ!?これ…、動物用麻酔!てめえマジで殺すきかよ!つーか後で壁の損傷代金払えよ」
「レストランに行った後に残った金で直せや!」
「もうねーよ!つかいつまでも根に持つなよ!そんなんだから彼氏に愛想尽かされるんだろうが!!」
「言ったなああ!?このオカマ獣医!!」
作・人に対して注射器を投げたり動物用麻酔を使用してはいけません。
「とりあえず、にっ、逃げないと…。…っ!」
ヒュン!ヒュン!
カカッ!!
手をドアノブに伸ばすとメスが飛んできて退路を阻む。
「うふふふ。逃がすわけないでしょう?」
その手に何本ものメスを握りながら黒い笑顔を浮かべてペティににじり寄る。
「くっ!!しょうがないけどこちらも応戦するしかないようね!!いくぞおらぁああ!」
「掛かって来いやあぁぁ!!!!」
5分後、
床に這いつくばりながら海老固めを受けているペティがいた。
「はよギブアップせいやあああ!!」
「ぐっ…ぎ…するかよっ!早よ解けボケえええっ!!お叱りは仕事終わった後で幾らでも聞いてやるからさっさと次の患畜見ねぇといけねぇんだよ!!」
※病院で暴れてはいけません。
「分かった…。今後ネタにしてちょくちょくアンタの財布揺すってやるから覚えてなさい!」
「わーったから離せ!」
「そこで固まってないでこっちおいでカア坊」
「アー?」
「あんたよ、あんた」
チョンチョンと跳ねてこちらに来る。
「まあ、成り行きで助けちゃったけどね~。傷が治るまでなら私の家に泊めとくわ。だけど怪我が治ったら出てって貰うから」
きつい言い方だがあまりに似ていて思い出すのだ。
「昔、小鳥を飼ってたんだけど似てるのよ。カア坊」
あの時、つくづく自分の不注意を呪った。
自分で自分を嫌悪した。
嫌だった。自分の不注意で命が消えることが。
浅はかでどうしようもなく馬鹿だと自分を鏡に映し罵った。
親や弟、隣の幼なじみに止めさせられたが余計に辛かった。
もっと大切にすればよかった。後悔が心の中を占めていた。
それから動物に対して酷く怯えた。
いつかまたあの子の二の舞になるのではと臆病になった。
だけどいつかまたあの頃のように笑える日を望んでいたのも事実だ。…結局手に入らなかったが。
とはいえ最初のリハビリが苦手になった鳥類とはきつい所があるし……。
「フウ~。やっと楽になったわ~♪酷いわよ~」
「うるっさい!正直に言って使い道と金額もまあ許してやろうと思えるレベルだったから良かったものの友情壊れてもおかしくないかんね?」
金の恨みは恐ろしいのだ。
まあ、その時までよろしくね、カア坊。
その3ヶ月後、
黒也は明日香を嫁に貰おうとするのだが一足と言うか1日遅かったのだ。
変化が後何日か早く、そして入社すれば恋人とは行かずとも後一歩位にはなっただろう。明日香だって女の子である。失恋につけ込んで籠絡位できるのだ。
まあ、黒也はそれぐらいで諦めるような奴ではないのだが……。
これで明日香と黒也の出逢いはおしまい。
カア坊…いや、黒也との同居はまたいつか…。