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まさかのキス!…わめくな鬱陶しい…

やっと恋愛(エロ)っぽくなりました~!あれ?純愛はどこ?

風呂から雅鬼青年が上がったので金髪青年をなだめて私は風呂に入ろうとした。………入…ろうとしたんだけどな…。


今現在、すっぽんぽんになった大型犬(今は人間)を洗ってます。


いや、一応大事な部分にはタオルかかってますよ!?


何故こんな事になったかというと、こいつがいい歳してぐずってごねたんです…。思い出してもろくなもんじゃないよ。


回想~




「風呂上がったぞ。…何やってんだ?」

「………」

「んな豆鉄砲食らった鳩みたい顔すんなよ。あれか?俺の裸体に惚れちゃったとかか?」

バスタオルを腰に巻いてもう一つのバスタオルで頭拭いてる雅鬼が私らを見て軽口を叩く。


まあでかい大人がべそかきながら慰めてる私にすがりつく様は端から見て異様だろう。


だが青年よ。なんだそのビフォーアフターは!?傷とか青あざとかどこいった!!めちゃくちゃ綺麗な体になってやがる!それと2枚もバスタオル使いやがって! 羨ましいね!これだから高身長は!洗って干すの私だぞ!?いや、違う。これからはこいつを思う存分こきつかえるのだ。家事してくれる人がいるって…いいね。


「ちょっと泣き虫君をあやしてただけだよ~♪」

こきつかえる人材が入ったので心が弾んで上機嫌で返事を返す。

まあ、抱き付いて中々離れないからねえ。慰めといて突き放すってのはさすがに酷いだろうからしないけど出来るなら部屋の隅で泣いてて欲しい。

とりあえず頭を撫でてあやしてみる。


「…泣いて…無いです…」

ズズッ


私の胸に顔を埋めて頭を振る。 涙で服が蒸れて気持ち悪い。

アハハー…、泣いてなかったらマジぶん殴ってる。


「はあ…、それで俺の服はどこにあるんだ?」

「ああ、今持って来るからね。というか綺麗になったもんねえ?飛び出た骨とかどうなったの?後、本当に良い体付きしてるわね~」

良い体とは思いますが別に見ても欲情なんてものは沸かないんだ。きっと疲労が溜まっているからでしょうね。欲情してた方が可愛いげあるかなぁ?

「お、おう!…素直に褒められんのも調子狂うな…。骨は戻すのもいてぇし折ってゴミ箱に捨てといた。壁に着いた血とか洗っといたから安心しろよ」


…雅鬼兄さんパネェっす。


「いや、おたく何してるんですか!?これからお風呂入ろうと思ってるのに風呂場が鉄臭いとか悪夢ですか?ゴミ箱に大人の男の折れた血だらけの骨入ってるってどこぞのシリアルキラーの後処理風景ですか!?」


バスシーンを想像した読者様に謝れ!!ほぼエロスなんざ感じられねぇよ。私が想像しうるのは惨劇チックなバスタイム風景だよ。排水口に血が流れ、風呂場に響く骨を折る音。血を被る壁や浴槽、石鹸とか洗剤にも掛かってたんだろうな…。なんの呪詛(じゅそ)ですか?むしろ殺人事件だよ…。


「怪我はあんたのせいで…「あ、服がまだだったね?緋牙君、ちょっと離してくれる?」この女…」

幻滅した顔を向けるがお互い様じゃあないか。


私の胸に顔埋めている御仁は頭をイヤイヤと振るし。


「嫌でっ、ずう…うっうっ…」


(くう!!…わざとだったら本気でぶん殴ってる)

駄目よ私、泣いてる人を殴るようなことしちゃ!

根気よく、根気よくよ!(でも、でかい大人がくだらない理由で泣いてるって殴りたくない?) いやね。そんなことは無いわよ?


「ごめんね?離してくれないと雅鬼君の服出せないの?」


それでもイヤイヤと頭を振る。

うう…、胸が涙で濡れて気持ち悪い… 。


「いっやぁ!!やだ…やだやだ!」

こいつ子供返りしやがった!しかも回した腕の力強くなったし。会ってまだ1日経ったくらいでよくこんなになつけるな!


「あーもう!!解った!私は勝手にやるから!!」


間髪入れずに服を持って来るため立った。

無理やり引き剥がすつもりだったのだが、

スクッ、

こいつもそれに合わせて器用に胸に顔埋めながら立つ。

(くっ、こいつ……)


構わないことに決めた。

こういう手合いは無視だ!無視!

服を置いてある部屋に行く。

スタスタ、

スタスタ、


その間にも金髪青年は器用に腰をかがめながら後ろ歩きで体制をキープしている。時折一歩後ろに下がったりしてフェイントかましたが引っ掛かりゃしねぇ。


私が屈めば、膝を折って地面に付く。

服を取り立ち上がれば、折っていた膝を伸ばし立ち上がる。腰に手を回してるからバランスをとりやすいんだろう。ちっ、忌々しい。


その間ずっと、「やだやだっ!やだー!」、「うう…ぐすっ…」、「ずっ、ずびー…」、「うわあああん!…うえっ…」

駄々こねるわ、人の服で鼻かむわ、泣いてえずくわで、疲れるわ…。

「はい、これが服ね」

渡してる間もずっと泣いている。

「…おう、すまねえな…。気にならないのか、えー、それ…」

ついにそれ扱い。

「いいのよ、放っといてるから」

「びゃあああ!びゃあああ!!びゃああああ!!!…うえっ…びゃあああ!!」

放っとく発言でさらに泣き出す始末…。

「あの旦那が…、なんか見てられないな…」

「…しょうがない」

はぁ、とため息を吐く。

「へっ?」

「ねえ、君?大の大人がギャン泣きってすごく幻滅するから黙ってくれる?」

冷たい言葉を浴びせるとピタリと泣き声が止まり、代わりにしゃっくりみたいにヒック、ヒックとこらえている。

「ヒデェ…」

「夜遅いんだからお隣に迷惑かけたくないし…。気にしないでいいのよ。あ、野菜ジュースあるけど飲む?」

「嫌でも気になるだろ…。桃と大豆以外ならいけるぞ」

「んー、ちょっと待ってて、確認するわ。あ、テレビゲームあるからやってていいよ」


「ごじゅ…じんん…むじっ、ヒック、じ…ないでえ…!!」

「適当に選ぶぞ。…音楽系ばっかだな…後はアト●エ系だな…」

「あれ、アト●エ系やったことあんの?」

「むじ、しないでえぇぇ!!うわああん!!」

「ああ、マ●ーからヴィ●ラートまでやったな」

「へぇ、じゃあ、アーラ●ドシリーズやりなよ、面白いよ。はい、桃と大豆入ってない野菜ジュース」

「うー…、ふ、ううぅ~…」

やっと理解したか。構ってちゃんアピールをやってるだけじゃそのうち愛想尽かされたらなんにも残んないよ。さてと、涙や鼻水付きまくった服を着続ける趣味はないし、青年はお風呂に入ったし私の番だな。

「私風呂入ってくるから」

「おう、わかった」


我が家の風呂はまあ一般的な足がある程度伸ばせる浴槽だが所詮ある程度、つまり中途半端な体育座りできる程度である。

「お風呂入るから離してくれる?」


コクンと頷いて顔を上げる。泣いて顔が真っ赤になっている。 泣き過ぎたのだろうかぼーっとしている。


「よし、向こうで待っててね」


ガシッ、


ん?何故腕を掴むのかな?やめろ、離せ。

ブンブンと腕を降るがガッチリ掴んでやがる。

ほどく法方はあるにはあるけど、また泣かれるのも面倒だし…。

「えっとこの手は何かな?」

困惑しながら聞いてみると、

「…しょ…は…て…さい」

小さい声で何か言っている。

ん~ナニカナー?何かやばげな事を呟いたのは解る。

「ごめん、もう一回言っ「一緒に入らせてください!!」


子供返りもここまできたか…。 ママンのおち…この表現はだめか。2つのメロンの果汁でも飲んでなさいよ。この表現でどうだ!あ駄目っぽい?

「はあ、わかった。一緒に入りましょうか」

抵抗するのも程々にしないと見苦しいですし、仕方ありません。

「ほんとうに!!!」

うわ、キラキラと輝くイケメンの笑顔を見てもさっきの行動見てたから全然ときめかない!むしろ殺意が沸くって悲しいわ。

「ウンウン、ホント、ホント、ダカラモウナクナ」

私、今すっげー棒読みだろうなあ。実際、やだっ!私処女なのに男の人と裸のお付き合い!?ドキドキ★なんて感情なんてものはない。あるとすれば、こいつまじウゼェ…めんどくせえ…くらいだろうし。

「わかりました!!」

ひまわりみたいな笑顔を浮かべてるからたち悪い。なんだこれ。親子か?どこまでも手のかかる事をしてくれるわね。



そんで今現在~


わしゃわしゃ、

シャンプー中です。男相手にフローラルな香りがする洗剤を使っていますが別に良いじゃない。弟だって泊まりに来たときに使ってるし。


むっす~。

ご機嫌斜めとはいかずとも腑に落ちないと表情である緋牙青年。

「一緒に入るって言ったじゃないですか…」

「だから一緒に入ってるじゃない」

「服脱いで下さいよ~!ずるい~」

「何がずるいのか…。はいはい、シャンプー流すから目を閉じて」

「そりゃあご主人は俺の裸見てるのに俺は見られないとかずるいでしょうに」

あぁこいつ脱いだらすごかったですよ?負の意味で。着ぶくれするタイプなのか脱いだ時に背中からあばら見えるってどんだけ痩せてんのよ。欲情以前に心配になる体つきだっつーの。

「あんなガリガリな体つきな癖に見せたらお釣りが来るなんて思い上がるんじゃありません」

「しょうがないんですよ~。俺だって好きでこんな貧相な体つきになったわけじゃありませんし。人で言う栄養不足ってやつなんですよ」

「今度からあんたの食事カロリー高めなのにするから。健康的に太らせます!」

「本当ですか!?じゃあ俺肉食いたいです!」

私の今の格好は合羽かっぱ来てプラスチックのお風呂掃除にはく靴をはいて洗っています。濡れ場を期待したお方はごめんなさい。滑稽だが笑うな。18禁なんだよ。処女相手に求めんな。

金髪青年は私にされるまま、座り台に座って私に背中を見せている。これで良いのか?お前死にかけたのに何無防備に背中向けてるんですか。何?信用されたの私?いやしかしこいつ、髪サラサラだよ。私のヘアケア代いくらしてると思ってんだよ! 痛んでないし枝毛すらない。めっちゃツヤツヤしてるの!ツヤツヤ!女が嫉妬する髪ってどんだけなんだよ。


シャワワー、


シャワーを当ててやると泡がみるみる流れ落ちる。青年はというと目を閉じてじっと流し終わるのを待っている。なんでだろうな~…友人曰く、こういうイベントは萌えたぎるとのことだけど、私は何故か自分の老後とか介護とかがよぎって切なくなってくる。心がしょっぺぇ…。

「はい。目開けてもいいよ」

「あの、ご主人…その、良いですか?」

流し終わり、目を開けて後ろを振り返って私を見る。さっきまでは子供っぽかったが今の表情は真面目だった。

「ん、何?身体洗うからねー」

私と言えばボディーソープを選びつつ、雅鬼青年同様に風呂場においてある私のボディタオルは使わせない。 (ナイロンのタオルとポリエステルの輪っかのやつ。気分によって使い分けてます) 引き出物で貰った普通の綿製の細長いタオルをお湯で濡らしてボディーソープを泡立ててます。

「俺はあなたに拾われて、良かったと思ってます」

「アハハ、照れちゃうわねー。1日でそこまで言われるなんて恥ずかしいじゃない。次背中ね」

ゴシゴシ、

ふむ。こういう時に、「シャッチョサンカユイトコナイ?」とか、「お客さん、こういうとこ、初めて?」とか言ったら和むのかな?いやー、なんか、その、シチュエーション的に?


「ちなみにご主人、俺はね」

「んー?はい、次肩と腕ね」

ゴシャゴシャ、

「ご主人の事が好き、ですよ…」

「あー、私もよー」

適当にあしらうに限る。ふと、肩を洗っていたためか緋牙青年の耳と頬が赤くなっている気がした。

ゴシゴシ、


「俺に本来の姿に怯えずに対等に話してくれて嬉しかった…」

「いやいや、結構びびってたわよ?あのとき悟られないように必死に取り繕ってたけど心臓バックンバックンで胸が痛かったし、かなり迫力あったよ?」


ゴシゴシと体をタオルで拭く音と話し声が風呂場に響く。

「ハハハ…、正直ですね、ご主人は」

「んなもんで嘘ついてどうすんのよ。まあ、飼うって事は向き合わなきゃいけないこと事だって私は思うからね」

命と向き合うことですからね。最期まで面倒見る気がないなら飼うな…、とかお決まりの言葉を言うほど私は博愛主義者でもないですが、一度、情が湧いて愛したのを簡単に否定したくない。やっぱりいらない、は傲慢よ。

「そうですか…」

先ほどのあの怒鳴り声からは想像出来ないほどしおらしくしている。


「私さ、昔動物飼いたいって駄々こねて、買ってもらって大切にしてたインコがいたんだけどね?籠を洗うために陶器のおわんを被せて外に出してたんだけどその間に近所の野良猫に殺されちゃった事があってね…。初めてだったから結構ショックうけてね~。それ以来、私は動物を飼う資格なんてないんだと思ってたし…」

戻って来たときに首と胴体がサヨナラしてたのを見て悪夢だと思った。今でこそ思い出話として出せるけど、当時は動物全般が苦手になりかけた。


「………」

「だからさ、昨日の今日でそこまで好きって言ってくれるんだからわりと嬉しいわよ。うん、大体終わったよ。前は自分で出来るわよね?」

ほいと緋牙青年の手に泡だらけのタオルを渡す。

「そうですか、良かった…。本当に嬉しいです!ご主人、俺と付き合ってくれるんですね!」

んん?

こちらを振り向き、はにかみながらそう元気に言われ、硬直する。そして疑問符で頭がいっぱいになってくる。


「ちょっと待て。いつそんな話になった!?」

「え?だってご主人、俺の事好きだって言ってくれたじゃないですか!」

あれれ?あっれー?

驚いた顔をされてもちょっと…、いやだいぶ困りますよ。適当に相づち打ってたのがあだになった。

「ごめん。私の好きは親愛(ペットとして)なんだけど?」

「そんなっ…!ご主人酷い!俺の好きは愛なのに!俺の純情もてあそんで楽しいんですか!?男泣かせの悪女ですか!」

食い気味に寄ってきてかっぱ越しに肩捕まれて揺さぶられて首が揺れるけど下に目を向けたくない。男のすっぽんなんざもう腹一杯なんだよ。

「なにが酷いっ!!だよ!この馬鹿!あんたの純情もてあそんでないから!後、放せ離れろ背中向けろ!泡が付く!」

(こいつの思考回路はどうなってんだ!!イライラして頭痛いし疲れた体にムチ打ってくるしおまけにガンガン攻めて来るしめんどくせぇ!!)

あー、表情筋がひきつってきた感覚がある。


「ううー…、俺の初恋奪っておいてその言いぐさ……もう、怒りました。強硬手段です!覚悟!!」

ガバッ!

ぶすくれた顔して肩に掛けてた手に力を入れて後ろに思いっきり押し倒された。つか1日に、しかも短時間で二回も押し倒されなきゃいけないの!


「うわっ!!痛った…ちょっとなにすん「その口もらったー!!」

チュッ

「ふぐ!?んんっ!?」

(こいつ、舌入れやがった!これがディープキスか…。くそ!舌絡めてくるから噛めない!)

噛みつくようなディープキスでこっちが舌を引っ込めようとしても強引に絡んでくる。


元彼氏のあいつとはプラトニックでフレンチキスくらいしかしていない。つーか、迫ってきてもタイミングとか覚悟してなかったので嫌がってた。元カレ、ごめんね。


チュ…クチュ…

「プハッ!」

「ごほっ!はぁ…はぁ。んぐっ、おえぇ…」

いやね?ほぼ知らない男にディープなキッシングされたら誰でも生理的な嫌悪感で吐きたくなるでしょうよ。元から肉食系とは相性が悪いのか性急なのは好かないどころか本気で嫌なのだが。


「あーもう!!ご主人は俺を見て!!見てくれないなら……」

「もっと激しくして俺だけしか見れないほどにしてやるから…」


そんな恥ずかしい台詞セリフを耳元で囁かれる。歯が浮くようなクサイ言葉を吐かれても本気でイラッとくる。マジでぶん殴りたい。


「ちょっと!待っ「待たない~。それ!もう一回突撃~」



チュウウッ


「ん…ふう…ひうう…」


レロ…クチュ…クチュ…


うわーうわー、私今急激に大人の階段のぼってるう~!

いや、もう大人だけどそっち方面にはてんで縁がなくて~…、てあれ?そっちってどっち!? アハハ、もうわかんない!普通こうゆうのって、「やだっ…!!なにも考えられない…」っていうのじゃない!? 確かにこいつ上手いよ!? ねっとりしてます。でも、私考えまくってますよ!?


極度の緊張 (主に恥ずかしさとか気持ち悪さとか)によるパニックを起こす。

明日香は混乱状態だ!



あ、金髪青年ってまつげ長いな。へぇ、まつげまでクリーム色なんだ。目が真っ赤でルビーとかそうゆうのみたいね? 髪の毛がちょっと掛かってくすぐったいな。 ダメだ…。私、初ディープなのにアホな感想しかでないな!パニックも一周回ると正常な思考に戻るんだな。つーかいい加減しつけえ!文句位言わなきゃ腹に据えかねるわ!タイミングを見計らって、よし今だ!

「あっ…ふっ…!」

少し口が離れた瞬間を狙ったものの声を出したとたんにぐっと食らい付くようにキッシングされる。

ふってなんだ私~!!


ちなみに今のは『あんたいい加減離れろ!しんどいから上に乗るな!』って言いたかったんです!


…チュ…レロッ…クチュ…


響くいやらしい水音、漏れる吐息、心音が速くなり欲情に駆られた男の目…。


ああ、でも私はちょっとしか疼いてないんだよ!今日は鬼の青年とバトったんです!

疲れが勝ってるんです!性欲より睡眠欲が勝ってるんです!ほら、言うじゃない?食事と睡眠が充分に取れてないと性欲ってわかないの!それと似たようなものなんです!



クチュ…


ツウとよだれが私と緋牙の口に伸びている。

「はあ、はあっはあぁ…ふー、ふうぅぅ…」

息苦しさや羞恥、押し倒されされるがままにされた情けなさに涙がにじむ。そしてその感情の奥底から沸き上がる猛烈までの怒り!


「…ご主人。もっと、していいですか?」

元凶は欲情した顔で人の心情なんて察することなくぬけぬけと言ったのが私が必死に押さえ付けていた最後の引き金を引いた。ぷちんと何か切れたような弾けたような音がした。


私は迷わず 【こう】した。


「ふんっ!!」


ブン!


「はうっ!!!」

「きっっっっしょくわるいんじゃああああ!!!!こんっのボケがああああああっ!!!!」

バタン!


私は『迷わず』股関に蹴りを放った。


ピクッ…ピクピク


ありったけ、思いっきり力の限り蹴ったからか、痙攣して気絶している。怒りで抉るように蹴ったので当たり前か。

ちっ、気絶してなかったらもっと殴ってやったのに。

まあ、プラスチックの靴履いてたしね。 ナマ足だったら爪が刺さって悶えただろうし。いやどっちにしても気絶か。


「ハア、ハア~…あー…、鬼の青年よりましだけど重い。よっこらせ!」

ドサッ


ずるずる…


私に被さっている緋牙をのけて洗面所の方へと引きずる。我が家の風呂は洗面所とくっ付いているので少し移動するだけなのでわざわざ抱えない。体力の無駄無駄。

あー、気絶させたから重い! つか口が気持ち悪い。早く洗いたい!今回ばかりはいつもなら思わず吐くくらいの思いっきり刺激のある液体歯磨き使いたい!というか今なら消毒液で口をゆすげる気がする!お母さん。あなたの娘はほぼ見ず知らずの男にいきなり口を奪われました。…返り討ちにしたけど。



引きずってる途中でタオル取れて生まれたまんまの姿だけど、いろいろ見えてるけど!!

きゃー恥ずかしいとかんな生やさしい感情なんかじゃねえ!殺意しか湧かねえ!!なんでこいつあの時雅鬼青年に渡さなかっただろう!!!前言撤回する!!義理人情で助けて損した!!!!

もう一発腹に蹴り入れたかったけどすんでの所で抑えましたよ!玄関の靴箱から一番ヒールの高い靴持ってきて殴り付けたい衝動を抑えましたよ!


そんな事より私はさっさと風呂入りたいんだよ! さっきの押し倒された時、服がビチョ濡れになったんだよ!いい加減胸も気持ち悪いし!



私は通常よりもでかいバスタオルを三枚出して寝転がっている緋牙青年を三重に巻きにする。

これでよし。布をギッチリ固く巻いて軽く縛っただけになったけどもうやだ。私ゃ疲れた。ほっとく。


その後、さっさと風呂を済ませた私はかなりへとへとになりながらリビングに戻った。

ああ、切られた首筋の傷に大きめの絆創膏貼らなきゃ。

ああ、雅鬼の布団敷かなきゃ…。

よし、敷いた。後は寝かすだけ…。

ああ、今日からこんな辛い日々を過ごすのか…。 小じわが増えそうね…ふふ。



さらばとは言わない…いつの日か…、お前達と戯れるよ。だからその日まで少しお休み、音ゲー(マイスイートユートピア)よ…。



「雅鬼青年。布団敷いたからもう寝なさい」

「え~、今メ●ルのアト●エ半年目に突入したんだから、あともう一時間だけやらしてくれよ」

リビングに入ってすぐに言うと、上は半袖のシャツ。下はジャージな雅鬼青年があぐらをかき、首だけこちらを向いて文句を垂れる。

なに子持ち家庭に有りがちなやり取りしてんだよ!

「いいから寝なさい!」


「はあ…、わかった。だからセーブだけさせてくれ」


順応しまくりだなこいつ…。


「よし、できた」


パチンとゲームの電源を落とす。

おっと。うっかり忘れる所だったがこいつ晩御飯食べているのだろうか?一応聞いとくか。

「冷蔵庫にご飯あるけど。お腹減ってる?」

「んにゃ。俺は今のところ腹へってないぜ。あんたの血飲ませてもらったし」

あんな少量で腹の足しになるのだろうか?深くは聞きたくないので追求しないでおこう。

「あー…、そう、じゃあ私だけで食べるわ、寝室はあっちだから、お休み」

「サンキュ。んじゃお休み」

たしたしと裸足で廊下を歩いていく。

「そういや、緋牙の旦那はどうした?」

ふとこちらを振り返って尋ねてきた。

「アレのこと?洗面所に簀巻きで放置だけど何か?」

吐き捨てるように言ってしまい、雅鬼青年の顔が一瞬固まったが触れてはいけないと察したのか、

「……分かった…」

と一言だけ言って指定した部屋へと入っていく。


その一時間後に私は就寝。


さらにその三時間後に簀巻きされた緋牙青年が起きて魚のように跳ねて暴れ、ついには尺取り虫のように這いながら私の布団に入って来たらしいと、朝起きて驚いていた私は雅鬼青年にそう教えられた。

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