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ようやく終わって…この後仕事が…

皆様お久しぶりです。今回も楽しんで頂けたら幸いです!それではどうぞ!

さて、どうしたものか。グッモーニン皆さま現在私は最寄りの総合病院に来ております!え、何故かって?

怪我してるに決まってんでしょ。頭から血を滴らせてるのに会社にそのまま出勤とか度胸がありませんよ。

あ、あの後あの悪魔超人的なベアハッグで死にかけた私の頭のかさぶたから血が再噴出しまして再度血塗れになりまして折角の着替えも無駄に終わりました。

仕掛けた当の本人は、「あれ?なんでご主人血が…顔が青い…もしかしてやり過ぎた…?」と顔を青くしながらおろおろしていたが、


もしかしなくてもやりすぎだよ。ぎゅうぎゅうと絞めすぎなんですよ。ぬいぐるみじゃねえんだぞ。


その後、黒也君がご同胞をぞろぞろ連れてきて事後処理はしておくとの事で緋牙に抱き抱えられながら今へと至る訳でございます。あの細腕でよう抱き抱えられたなと思う、現在朝6時でございます。あ、行きしなに鞄はとってきてもらいましたよ。財布とか保険証とか必要ですしね?

普通に頭をタオルで押さえながら入り口に入って受付しましたよ。横でここまで連れてきてくれた顔を覆いながらさめざめと泣いている緋牙付きで。


お前が居たら邪魔だからそこの病院付属のコンビニで適当に時間潰しといてとか言ったら嫌だと駄々をこね、仕方ないので千円札渡して好きなものを買ってきなさいと言ったら最初はすごすごと向かい、途中から金メダリスト張りのダッシュで唖然としている内におにぎり数種類とお茶二本抱えながら行きよりも早い猛ダッシュで帰ってきてぴったりとくっついてくるので諦めました。こいつ居ると事情説明しにくいのに…。

昨日お酒飲んでべろんべろんで帰って途中電柱にぶつかってそのまま寝てて起きたら血が出てました。って説明しようとしたのに…。例え後頭部に傷があったとしても酔っぱらいだったから~、とか言っといたら大体OKなんですよ。

それなのに、頭血だらけにしながら横に延々と泣き続けている甚平姿のコンビニ袋抱えた男子高校生引き連れてるOLとか犯罪の匂いしかしませんよ…。どうしよう。このまま放置しても損しかしなさそうなのでどうにも厄介である。受付の待ち合いホールで待つことで折れてもらったがまだ泣いている。


私は流石に血だらけの服で座る訳にもいかず立って待っているのですが、

「ご、めん…なざ、いぃ!俺の…ぜい、で!ごんなっごとにぃ!!」

「ごめんお願い喋んないで…別にあんたは悪くないでしょう?私の不注意だから気にしなくても良いよ」

「でっ、もおおお"お"…」

「せめて黙って泣いて…。こっちが泣きたい…」

泣きながら謝られても看護師さんたちの視線が刺さるばかりです。

誰か助けてくださいよ。なんて思っていると、


「26番でお待ちの葛之葉さーん。こちらの中待合室までお越しくださーい」

看護師さんが処置室から扉を開けて呼んでくれました。

「はい、それじゃあ行くから大人しく待っときなさい。おにぎり食べてていいからね?」

目を真っ赤に腫らしながらこくりと頷いたのを見て処置室へと行く。


「おはようございます。葛之葉(くずのは) 明日香(あすか)さんですね。今回はお酒を飲んで電柱に頭をぶつけたそうですが…ええと、明日香ちゃん何したの?」

「………」

ええ、盛大に顔が引きつっておりますよ。目の前には見知った顔の男性が居て、ネームプレートには猩々寺 (しょうじょうでら)と書いています。ええ、私の友人の猩々寺 美由梨のお兄さんです。

困った顔で私を見ているがどこか怪しんでいるような気もします。


「あのですね~…、実はその付き合っていた男性にフラれましてそれでやけ酒をした帰りにでして~…」

「え!?ああ、ごめんね!?うん、色々聞きたいことはあるけれどまずは処置しないとね」

こっちもバラすには手痛いけど仕方ない。大事の前の小事というやつである。上手いこと流れてくれて良かった。


そこからの処置は速いものであっという間に頭がメロンのようになり、二針縫いました。


「今日は大事を取って休んだ方が良いからね?抜糸は今日から二週間後になりますからその間、頭を洗っても良いけどなるべく日は少な目で傷口に触れないように軽めでしといてください。さて、フラれたってどういう事かなー?」

てきぱきと治療が終わり、諸注意を済ますとにこにこと優しい笑みで問いただされる。


「あははー、文字通りですが…あんまり、突っ込んだ事を聞かれると私も困るんですが…」

「だからって、やけ酒煽ってこんな怪我するとか馬鹿以外の何者でもないよ?」


やんわり触れて来ないでと言うと刺さる一言がカウンターのように出される。真実は違うといえどキッツいなー。


「それで、あの男の子はどう説明するの?すっごく目立ってたよ?」

「海外の友達からの預かり子ですよー?ちょっとの期間アラスカに行くから預かってーとの事で」

「あの子高校生位の大きさだよね?それくらいの人なら普通に家を任すと思うんだけど?」


一つ一つ丁寧に嘘を潰されていく。あれー、おかしいな?笑顔が怖いデスネ?


「いやぁ、彼らあの子に対して過保護なんですよー?」

「ふーん、そんな子が甚平着て泣きながら君の付き添い、かあ?それを言ったら親御さんたちが卒倒しそうだね?で、そろそろ吐こうか?」

「………あ!そろそろ会社に間に合っ…「休めって言ったでしょう?」

ハイ、ソーデスネ。


「…実は、彼エスパニョギールーラ公国の王族の隠し子で…「壮大な嘘を吐かない」

「彼、ある重大な情報を握っていてそれを狙われ追われてて…「だから壮大な嘘を吐かない」

「彼、実は魔法使いマハリ・クマハリ・ダ・ジャンバラヤの秘宝の在処を「だからなんで安っぽい嘘吐くの?」

「本当は彼、とある陰陽師から逃げてきたなんか妖怪みたいだそうで「はい、ストップ」

嘘を吐けばバッサリと斬られ、また嘘を吐くといういたちごっこになりかけになる。まあ、最後のは四割真実混ぜましたが…。それくらいにあいつらなんて非現実的なんですよ。言っても無駄無駄。

「あはは~…秘密って言ったら駄目、ですかね?」

早々に観念するも流石に信じて貰えなさそうなので言うのを拒むと、

「最初からそう言えば良いのに…というか途中から更々嘘つく気無かっただろう?」

「まあ、呆れてつつくのやめてくれるかと思いまして…」

「はあ~…そのズボラさは何とかした方がいいよ?後、危ないことに首突っ込んでないよねー?その怪我見て心配したんだよ!?」

深いため息を吐かれ、お叱りの言葉が飛んでくる。


「はい、それに関しては返す言葉もありません…」


「さて、医者として管轄外の質問が過ぎましたが、お大事に。辛い時は美由梨を使ってくれて良いからね?頼りないかもしれないけど僕も相談に乗るからね?変に抱え込まないように!」

「…ありがとうございます。もう少しで落ち着きますのでそれまでは他言無用で、もちろん美由梨にも秘密でお願いできますか?」

「いいよ。それくらいお安い御用だし…けどなー、やっぱりその怪我は髪で隠れるとはいえ傷痕が残る可能性があるからなー。嫁入り前の女子としてはかなり痛いと思う。医者だからこそ言えるけどくだらない理由で傷が残るなんて損でしかないからね?」


「そう、ですね。でも今はもう、恋愛とかからは遠ざかりたいなというのが本音ですかね…。ちょっと、疲れちゃいまして…すぐに次の恋に移ったとしても私自身、割り切れないでしょうし…」

「そっか…。明日香ちゃんは変に強い人だけど溜めるタイプだからなー…。君みたいなタイプの人はもっと他人に甘えても良いと思うよ?」

「美由梨にはかなりお世話になっていると思いますけど…」

「うちのは末っ子だからね?こっちとしては君の方にこそお世話になってると思うからなー。あいつ、酒飲むとかなり我が儘放題になるからストレス溜まんない?」

「とんでもない奇行なら時たまやらかすくらいですしそんなにたまりませんよ?」

「よし、あいつ後で説教だ。これは医者としてじゃなく友人としての忠告だけど、何も言わずに一人で押し潰されないでね?僕たちに迷惑だろうと思って黙ってるんだろうけど君みたいなのはもっと不満を吐き出しても良いんだよ?」

「…ご忠告ありがとうございます。もう少し時間が欲しくて。自分の感情に整理を着けないと相談も出来なくて…。処置ありがとうございました!もう出ますね?」

「変に深入り過ぎたね。…お大事に」

優しい気遣いに苦しくなって堪らずに処置室から立ち去ってしまった。目の前が暗い。苦々しい気分でいっぱいでため息を吐けば自分の張りつめた何が崩れていくような錯覚に陥る。


どうすれば良かったんだろう。(その思考は何度も繰り返した)

私の馬鹿。(いつだってそうだ、と自嘲している)

もう遠い。(臆病者だったからと頭を抱えて)

もう届かない。(自分が嫌だと体を掻き毟りたくなる)

どうしたって戻らない。(ねじ切れそうな心がただ痛い)

ーそれなのに、どうして私は素直に彼らの前で泣けないのだろう?



「ごじゅじ…ずっ‼おわっ、り、まじだが?」

汚い声にはっとして声の主へと振り替えると顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃなった緋牙がこちらへと近づいてきていた。ビニール袋の中身は手付かずだったので食べてない事が分かった。とりあえず、その顔で近づかないでほしいのだが。とりあえず鞄からポケットティッシュを取り出して差し出す。


「うん、終わったよ。流石に顔、気持ち悪いでしょ?はい、ティッシュ。それじゃあ行こっか」

「ありが、とうございまず…は、い」

涙を拭いたり鼻をかんだりと次々と使いながら、病院を出る。

「んーと、お腹減ったでしょう?今から朝ごはん食べに行かない?」

「はい…」

良い返事が貰えたところで朝食決定なのだがやっぱりこの頭は流石に目を引くだろうしなー?流石に帽子位は欲しいなー。ここら辺の近くに知り合いはいるけど流石に今借りに行ったら迷惑だろうし尋問不可避だろうしなー。これ以上傷えぐりたくないなー。

「その前にちょっと頭のガーゼを隠せるものないか見繕ってくるね?」

先程のコンビニでタオル位は売っているだろうし、それを頭に巻けば一風変わったファッションには見えるだろうし。…同伴者抜きならだけどネ♪


「俺が買って来ます。ご主人はそこに居ててください…」

ポツリと呟いたと思ったらあっという間に彼方へと走り出す。

「ええー…。アイツなに買ってくるつもりだろ?今朝なのに…」

時刻は七時半。この時間帯は流石に服屋はやってないだろうしなー。後、一応会社には遅れそうになるって連絡入れといた方が良いかな。そういえばあの騒ぎニュースになってそうだけどネットはどうだったかな?

携帯を取り出して画面を見ると部長からのメールが昨日の時点で入っていた。


「そういや昨日文面は確認してなかったな」

仕事の内容だといけないので急いでメールの文面を確認すると、


fromタヌキ親父


今日はもう上がって良いってさー♪会社に戻ったら人居ないと思うから君も荷物取ったらさっさと帰りなよー?


このメールが来たのが昨日の午後四時あたり…。

思わず体の力が抜ける。なるほどこれを確認しておけば私はあんな目に会わずに済んだんですね。…後悔しても遅いか。

さて、確認も済んだことですし、会社の名と場所を検索に掛けてー、と。

特にこれと言って何のニュースもトップを飾って無く、念には念を入れてワンセグで確認するもいつもと変わらぬ朝の情報番組が放送されていた。


「まあ、大丈夫でしょ」

今日も通常出勤確定で何より何より。

会社なら別に隠さなくても問題ないし、営業に関しては他の人に甘えさせてもらうとするか。


「お、グッドタイミング♪」

一段落着いた所で目線を上げると目の前にバッサバッサと忙しないビニール音を響かせながら緋牙青年が走ってくる。

「お帰り。なに買って来たの?」

「えっと…膿出し用の河童の軟膏と傷治し用に変若水(おちみず)、後は自家製ですが仙丹の霊薬です…」

おずおずとビニール袋から取り出したのは凄い色をした液体の入っている瓶だった。金色って…。

よく分からないけど、どえらいものを持ってきたのだけは分かった。

「えーと…、今は遠慮するわ。抜糸が残ってるしね?というか結構お金掛かってそうだけどいくらしたの?」

「そんなにかかりませんでしたよ?さっきのお握り全部とお茶二つで交換してくれました。なんでも『常世(とこよ)じゃ食い物作ってもに黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)しかならないから現世(うつしよ)の食い物は持ってこれたら超高級品になる』との事で喜んでましたね」


こいつ何処行っていたんだろう…。

「あ、ちょっと冥界にまで行って来ました」


けろっと言われたけど、もうスケールが分からない。千円でヤバげなもの買えるわ、コンビニ感覚で死後の世界に行くわで、どうこいつ向き合えば良いのか分からない。非常識のトップスピードで常識が突き放されている。


「ああ、そうなんだ…。買っといて良かったね?」

「結局無駄に持たせてすみません…」

シュンと落ち込む。

「別に良いよー?わざわざありがとうね?もう、別に無くても良いか…。それじゃあ行きましょ」


その後、私のタオル用にと着ている衣服を破ろうとし始めたり、一瞬目を離した隙に帽子を買いに行ったりと、大変疲れました。変に負い目を感じているんだろうけど、その行動が逆にしんどい。


で、ようやく到着したのはハンバーガーを扱っているファーストフード店である。本当は喫茶店にでもと思っていたのだが無駄な行動力を押さえるのにわりかし時間をくったりしたので時間に余裕が無くなったためです。帽子はありがたいけど。


「ご主人、なんか凄いお肉と油の匂いがしますね?良いんですか?頼んじゃって」

「お願いだから人前では名前で呼んで…。良いよー。なんならナゲットやらシェイクやら頼んでも構わないよー?助けてもらったから細やかなお礼よ」


「やった!じゃあこれやこれとかも良いですか!?」 小さな子供のように興奮した様子で色々とメニューを選ぶがもうちょっと落ち着いてもらえないかな。恥ずかしいし。


「えーと、シェイクにナゲットにパイにセットね。良いよ、頼んでくるね?席を確保しといて」


「やった!分かりました!」

早足で席を探し行った緋牙を見送って、注文を頼んでお金を払ってから数分もしないうちに出来上がったものを渡された。そろそろ時間に余裕が無くなって来たので有り難いです。


まあ、安請け合いし過ぎて懐が痛いのと頼んだものが多くてトレーが一つじゃ足りなくなって結局席確保しといてくれた緋牙に取りに行かせてしまったので少し反省である。


午前8時、何時もより遅めの朝食である。後一時間で就業時間なのだがまあ、職場との距離は家よりはずっと近いので良しとする。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます!」

ハキハキとした声と共に食事は始まり、はぐはぐと勢いよく食べ物を口へとかきこんでいく。


(ブルドーザーみたい…)

味わって食べてるんだろうか?早食いは体には良くないと言うが人様が美味しそうに食べているので言うだけ野暮というものか。

……本当は食べているときに彼に少し本音を語ろうと思っていたのだがご飯が不味くなるだろうし、閉ざしておくことにした。


「美味しいです!」

「そう。口に合って何より」

「ねぇ、ご主人?」

「なぁに?」

「なんでそんなに暗くて沈んだ顔してるんですか?あんまり考えたくはないですが…、俺との飯は嫌でしたか?」

「え?私、そんな顔してたかな?」

思わず顔を触ってしまう。いきなりドキッとするとこを言われたので取り繕うの忘れてしまう。

「なんか悲しい顔をしてましたよ」

「そっか、顔に出てたかー…。別にあんたとの食事が嫌だって訳じゃないからね?はあ、言わないでおこうと思ってたけど流石に顔に出てるなら相談しようかな…」

「えーと俺との生活が危なくて嫌気が差したとか…、じゃありませんよね?」

「へ?」

動揺していた筈の心は的外れな事を言われて気分をすり替えられ馬鹿みたいな顔になってしまう。

「あ、なーんだ!違うみたいですね。なら大丈夫です!俺にどーんと相談してください♪」


ああ、そっか。そういや昨日の事件は元々こいつら拾った事から始まってたんだなー。

なんというか今はそんなの気にしてないというかまずそんなの問題じゃないというか。


「うん、違う違う。私さ、フラれちゃったんだなーって思っててさ。それでちょっと悩んでたのよ。詰まんない話だけど聞いてくれる?」

「はい、どんとこいです!」

「ありがとう。正直、前から分かってて何度も泣いたしアイツには呆れてもうちゃんと別れの言葉も済ませた…はずなのに、どうしてかなー?今日のあいつらのキスシーンとか見たらさ…、どうしようもなく悲しくなったんだ。それに気付いたら自分の未練がましい所が凄く嫌になって…。そこからずっと自問自答しててさ。どうすれば良かったんだろうって何回も繰り返して、そんで今、ふてくされてるんですよ」

はあ、とため息を吐いて飲み物を口に含む。とうとう言ってしまった。

「で、今の自分の気持ちが分からなくてそれがしんどくてね」


「そういえば、ご主人。あの男に未練は伝えましたか?」

シェイクを揉みながら問いかけてくる。

「一応は…」

「あの男の中に入った時に、ご主人は淡々としててまるで俺のことなんてあっさ割りきってそうって思ってましたよ?どういう風に言ったんですか?」

わー、こいつそんな事も出来るんだ。強制嘘発見器じゃない。

「私も愛してた…、かな?」

「あー、そりゃそう思いますね。それにご主人がどんなのかなんとなく分かりました。今、ご主人は自分で解ってないかもですけど強がっててそれで悲しいのにプライドが邪魔して変な感じなんでしょうねー…」

モグモグとナゲットを頬張りながら答えてくれるが相談しときながらちょっとムッとしてしまう。私、そこまでプライドとかないと思うんですけどね?


「プライドかぁ…。私にそんなのある?」

「ご主人の場合は自分で気づきにくいんじゃないですか?だって、ご主人自分の弱点だと思ったところを必要以上に隠してますもん」

「言い切られた。そりゃ弱いところなんて見られたくないですし…」

「そりゃそうですけどご主人の場合それが過剰なんですよねー…。だってあいつらの不満や会社のゴタゴタの不満なんて俺、ご主人と一緒にいて一切聞いたことありませんし?」

「愚痴っぽくなってやでしょ…」

「俺からつついても『あ、そう?』みたいにかるーく流してましたけど自分の嫌だと思ったところをあんまりしゃべらないというか、デリケートな部分な問題だけにあいつらに格好悪い所見せたくなくて見て呉れを繕った代償でしょうね。結果的にご主人が要らない苦労して清算したい筈の不満だけが残ってるんじゃないですかー?」

もっしもっしと食べているポテトの一つをつまんで私をそれで指差す。


「うーん、でも済んだことだし…」

「はぁ…、自己犠牲もほどほどにしたらどうですー?どんとこいと言った手前あんまり言っちゃいけないことなんでしょうけどぶっちゃけてご主人うじうじし過ぎですよー?ご主人捨てられた側なんでしょう?二人の仲を取り持とうと老婆心を持つのは結構、むしろそれもご主人!って感じで俺は好ましいですけど本人がそれが原因で腐ってるならあいつら人生ぶち壊したくなりますし」

盛大なため息を吐かれた。こいつにとっちゃ私の悩みなんてすっごいちっぽけな事だろうなー…。うんざりしながらも付き合ってくれてる。


「うわぁ…」

「ひっどい事言ってるなー…、とか思ってるんでしょうけどご主人も自覚した方が良いんじゃないですか?妬む怨むのは至極当然な立場なんですよ貴女は?それで他人事ですみたいな態度取られたらあいつらも困惑するでしょうし、むしろそれ相応の制裁くらいはくれてやれば良かったんですよ」


「そう、ね…」


そうだった。 本当は彼女を妬んでいた。なんで彼女が選ばれたんだと。私には無いものがあったからだと諦めた。

本当は彼を恨んでいた。あの言葉は嘘だったのかと。私に非があったのだと自分を嫌った。

彼らの仲を引き裂く事も考えなかったと言えば嘘になる。


「でも、そんな勇気が持てなかったなー…。臆病で、弱いだけよ…」


「ふーん…?そーですか。そんなどろどろ状態のご主人に俺からのちょっとした言葉です」

ほとんど食べ終えた緋牙はこちらをきちんと見据える。


「ご主人は弱くなんかないですよ?むしろ強いですよ?」

うーん、先ほども言われたような聞き覚えのある発言ですねぇ?

「…それ、さっき他の人にも言われたけど、なにそれ?あんたが思うほど私は強くないんだよ…。現にこうして不貞腐れてるし…」


「まあ、腕っぷしも強いですけど俺が言ってるのは性格の事ですよー?だって本当に弱いだけやつならその弱さのカバーの仕方なんてとっくに知ってるしやってると思いますよ?でも、ご主人はあいつらの事大事そうにしてましたし。それに上手くくっつくように動いたのはあいつらに笑って欲しいって思ってたんでしょう?自分が傷つくって知っててそれをやってる時点で強いんですよ」

食べた後のゴミの片付けをしながら最後にデザートのアップルパイとシェイクに舌鼓を打っている。


「あはは、慰めありがとね…。でもやっぱり自分では解んないなぁ…そういうの…。んー、でもありがと!もう時間も無いしそろそろ行きましょうか!」


「む、なんかはぐらかされた気分ですが分かりました。あ、ご主人ご馳走さまでした!」

全部食べ終え、ゴミを捨ててから感謝を述べられる。


「私こそ、ご馳走さま。あ、でもその身長と服どうするの?」

本人曰く体を作る材料が足りなかったらしくこれが限界だったらしいがどう見ても若返ってます。こいつの弟とか言ったら皆あっさり信じると思う。


「あ、そういやそうでしたね。ちょっと作り直すのでトイレ行ってきますね?」

化粧直ししてくるみたいに言われても。


「えっとどれくらい掛かりそう?」

現在8時20分。もうそろそろ急がないときつい。


「三分も掛かりませんけど先に行っといてください。すぐに追い付きますんで」

「私は電車で行くけど待とうか?」

「余裕です!」

「うん分かった。それじゃあね?」

「はーい!」


お言葉に甘えて先に行くとする。笑顔のままトイレに入っていくのを見送ってから鞄を持ってお店を出ていき、駅へと続く道を歩いていく。


「ひゃいいー!速く行かないと皆に怒られちゃうよ~‼」

目の前を弓袋を抱えた女子高生位の女の子がバタバタと慌てながらこちらに向かってくる。この時刻なら遅刻だろうなーとほのぼのした気分になり、歩道の横に寄って通りやすいようにする。私もそろそろ急がないと遅刻しそうだな、と嫌な共感がよぎるが今は待っておく。

「あ!ありがとうございますー!」

私が横に退けたのを見て女の子が更に走るスピードを上げて早く通りすぎようとする。ありがとうと言える礼儀正しい子だな~。

「あ!?」

もうすぐ通りすぎる手前で蹴つまづいて前のめりにスキップし始め、弓袋を手放してしまう。

「おっと!あんまり急いだら怪我しちゃうよ?」

空中で一回転した弓袋を片手で掴み、一旦抱え直して今度は転びそうな女の子の体を抱き止める。


「きゃん!?あ‼ごご、ごめんなさっ…‼」

「私は大丈夫大丈夫‼貴女は足を(くじ)いてない?大丈夫?」

「はい!私は全然大丈夫です‼あのっ、本当にごめんなさいっ‼」

「良いよこれくらい。歩道でも人に当たったりすると危ないからね?はい、貴女のでしょう?」

慌てる女の子をなだめて弓袋を返す。


「あ、ありがとうございました!そうでしたね…危なかったですよね。もっと注意します。あの、私はこれで失礼します!ありがとうございました!お姉さん」

ペコリと頭を下げてお礼を言うと今度は小走りで去っていく。


「さて、私も行かないとね。お姉さん、か…」

私も歩くのを再開する。

子供にお姉さんと言われるとちょっと嬉しい気分になる。沈んだ気分だったのが少し楽になる。

それにしても、

「弓袋重かったな…。何入れてたんだろ?」

片手で掴んだ時に鉄棒でも入れているのかと思うくらいにかなり重くてびっくりした。弓ってあんなに重いものだったっけ?アーチェリーかな?


そんな事を考えながら歩いていたら、


「そりゃあ‼」

「っ!?え?え?えっ!?」

いつの間にか後ろから追い付いてきた緋牙にスリみたいな軽やかさで攫われ、私を抱えた状態で走っている。


「この距離ならこっちの方が速いですよ!まっかせてください!10分もしない内に着いてみせます!」

「え、い"っ!?」

いきなりの事で豆鉄砲食らった鳩みたいになり、質問しようとしたのだが結構なスピードな上に急に道を曲がったので舌を噛む。ちょっと血の味がする。

「あ、喋ったら舌噛んじゃいますからあんまり喋ったら駄目ですよ?」

「まっ、まっへ(待って)!ひにょめが(人目が)!」

遅い忠告である。舌が痛くて意図せず舌っ足らずになる。


「うっわあ!赤ちゃんみたいな言葉のご主人も可愛いなあ!そこら辺は大丈夫です!うっかりしくじった時の為に姿を隠せる道具を持ってきたのでご主人と俺は今は誰にも見えませんよ!まあ、効果は一時間位なんですけどね~…。それじゃあ、もっと飛ばしますよ!しっかり抱えておきますんで暴れないでくださいね♪」

アホな感想であるが少々思考が色ボケ気味に傾き過ぎていると思われるがそれよりも不穏な事が呟かれる。

「へっ?」

絶え間なく一定の感覚で地面を蹴り続ける足が一瞬深く沈み、跳んだ。


「~っ‼!?」

「よっと」

次に出した足は電柱を蹴って次の足場へと跳んで行く。

「ほらご主人いつもと違う風景はどうですか~?」

にへらと笑いながら建物を縫うように跳んでいるが次第に飛ぶ距離が伸び始め、高さもどんどん上がってゆきしまいには絶叫もののジェットコースターを十倍増しにしたような滅茶苦茶なルート、体に掛かるGや浮遊や落下の繰り返しになる。正直酔い始めてきている。


「ほら!会社が見えて来ましたよ!」

そんな声に顔を上げるといつもと変わらない、会社が見えた。

「…綺麗に、片付いたんだね」

「まあ、あいつも色々細工はしてるでしょうけどね」

「そっか…、終わったんだ…」

「…はい。終わりましたよ…」

その返事は優しい声だった。悪夢みたいな夜の出来事は夢から覚めたように跡形も残ってはいなかったけど、あの随分とロマンチックな結末で二人は前に進めたようだった。共通の悩みだっただろうに話せずに一人で抱え込んで、一人でその重さに耐えきれずに潰れてしまった二人。彼らはもう過ぎた事として、終わった事として乗り越えて行ったのだ。今度こそ二人で手を取り合うと。それで私は置き去りにされたように感じたのだ。


「じゃあ、私も終わらせないとね…」

名残は尽きないけどそろそろみっともないし復縁の芽は自分で摘み取った。なら、今度は彼らと他人にならないと。私は彼とは別れたいつもの日常を過ごすだけだ。ただーーー


「ねぇ、泣くことはみっともないと思う?」

「なんですかご主人?藪から棒にどうしたんですか?」

「んーとね?ようやく自分の気持ちに気づいたみたいで、今は泣き寝入りしたい気分なんだよー。分かってみれば呆気ないというかこれが分からなかったって我ながら頭悪いなー…」


それはとても寂しくてしばらく慣れないだろうけど。

「そうですか。泣きそうな時は遠慮なく言ってくださいね♪俺が全身全霊で慰めますので!」

相変わらずふざけたような提案だが、


「うん、その時はよろしく頼むわ。だから、私はもうちょっとだけ頑張ってくるね?」

もう少しだけ傷ついてくるとしよう。


「……はは、やっぱりご主人は強いですね?」

「つまんない見栄よ?こんなの」

「様になってますけどね?じゃあその見栄っ張りが疲れた時は精一杯お相手しますね!」

「うん。アニマルセラピーとか興味あったし傷心で疲れた私を癒してねー?」

「はい!喜んで!」

そんな他愛ない、けれど会話に付き合ってくれた彼に感謝しつつすぐそこまで会社が見えてくる。


「さて、そろそろ着きますよ。何処で降りたいですか」

「駐車場でお願い。大丈夫。頭の怪我を理由にしとけば大体OKだから」

怪我人の利点は最大限に活かしていかないとね。



その後、駐車場に降りてもらって一旦別行動を取ることにして地面に足を着けると先ほどの滅茶苦茶な移動のせいで平行感覚がおかしくなって足元が覚束なくてフラフラとよろめきながら歩いていたら、案の定会社の警備員さんに大丈夫かと訪ねられたり、同僚にその頭どうしただのの質問攻めに会ったり等があったものの無事始業に間に合った。


但し、遥人や玉ちゃん、黒也君は休んでおり、(多分両者共に病院である。玉ちゃんは爪が剥がれ掛けるまで自分の頭かきむしってたし、何より私がしばきまわしてしまったし。遥人は私が骨折ったし…。後で謝罪とお見舞いに行くか…)


残る雅鬼は心なしか疲れているように見え、何故か部長はグロッキー状態で机に突っ伏していた。私はちょくちょく気絶していたせいか眠気はあまりないのだが地味に筋肉痛になりかけている。

後、一部の男性社員は病院に行っているそうです。


「うわあ、ほんとに直ってる」

あの世紀末顔負けに荒れていたオフィスはいつもと寸分違わずそこにあった。

「あ、葛之葉先輩お早う御座います!」

「犬持君おはよう」

少し遅れてスーツ姿の緋牙が顔を出す。

こいつだけは昨日と変わらず元気そうである。


何はともあれ今日も無事に仕事は始まった。お昼頃に美由梨から電話が掛かってきて、「兄さんがあーちゃんが今何してるかって聞いてほしいって」と聞かれ、家に居ると言っておいたものの仕事後、美由梨のお兄さんから電話越しに滅茶苦茶怒られた。

なんでも部長に問い合わせて居るかどうかを確かめたそうです。

【小ネタ劇場・登場人物紹介サブ】


猩々寺 颯汰(そうた) (31) 男性 職業・医者 (臨床医)


美由梨のお兄さんのその1人。次男坊。ちなみに猩々寺家は四人兄妹で、彼は兄妹間の仲を取り持つことが多い苦労人ながら長男よりも人望がある。性格は誠実で人当たりが良く基本的には好かれやすいものの欠点は心配な事にはよく苦言を呈してしまい、心配している本人から煙たがれることがしばしばあること。ちなみに恋人が居るも中々プロポーズに踏み出せないヘタレでもある。



(かえで) 女性


本文中でこけそうになった女の子。礼儀正しくも焦るとドジを連発する。ちなみにあのあと上司に当たる人物?の救護を行ったそうです。弓袋の中に入っているのは狙撃銃だったりする。

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