終わり良ければ…良くは、ないよね?
今年最初の一発目と言うにはあまりにも遅いですがお楽しみいただければ幸いです!それではどうぞ!!
「で、時間がないって言ってたけど、あれってどういう意味なの?後、白いもや?みたいなのが体に入ってたように見えたんだけど…」
一通り言いたいことを言い終えたので、さっきから気になった事を聞くと、
「え…。もしかして先輩知らなかったんですか?」
「何が?」
驚いた顔で聞き返されても知らないものは知らないのですが。
「えっと、どこから話したらいいものか…。簡単に言えば二重人格…みたいな感じ、だったんですかね?」
私の困った様子に気付いたのかなんとか説明しようとするも答えは要領を得なくて余計に分からない。
「いや、私に尋ねられても困るんだけど…と、ごめん。流石に玉ちゃん疲れてたね。気が利かなくてごめんなさいね?少し休んでおきなさいな」
「あ、はい…」
私の都合を優先しすぎたのに気づいて恥ずかしくなる。時間を置いてないから気持ちの整理が着いてないだろう玉ちゃんは自分の事で手一杯だろうしなにより、
「それと、今週時間空いてる日とかある?そこであのバカ交えてゆっくり話を着けない?」
どうせ、後日引きずり出して強制的に聞くんだ。それまで私が納得できる言い訳でも練って貰わないと。
「はいっ…!」
力強い返事が帰ってきて安心する。嫌がってないようでなによりだ。まぁ、嫌がっても遥人が連れてきてくれるだろうし来なかったらその時点で二人の関係に少しぐらいはヒビは入るだろうしで私的にはどっちに転んでもオーライなんですがね?
「良かった。ありがとね」
礼を述べて踵を回し、今回の功労者達を労いに行く。
最初は胡座をかきながらだるそうにこちらを見ている見た目が大分変貌した男へと近づく。
「やっほ。大丈夫…じゃないか。とりあえず、お疲れさま」
「おー、明日香もお疲れさん。いやー、つっかれたー!」
額に2本の角が出来て、短髪だった髪がボサボサに伸び、赤い刺青が身体中に入っていて若干怖くなってる雅鬼に尋ねると気だるそうながらも笑い返して手を振ってくれた。
「いやー、痴話喧嘩?に巻き込んでごめんねー?お礼に後で酒屋さんで好きなお酒買ったげる」
なるべく好きなものでご機嫌を取ろうとすると、
「マジか!?いっぺん飲んでみてえ大吟醸があるんだけどさー。あ、何本か他にも選んで良いか?」
「なるべくお手柔らかにお願いシマス…」
爽やかな笑顔で凄くお金が吹っ飛びそうな予感しかしない事を言ってくれた。そういやこいつはすごい酒飲みだったな…やなこと思い出した。
「ははっ、うそうそ。ま、今度の飯ん時にでもお酌でもしてくれよ。安酒でも美女が注いでくれるなら美味くなるもんだしさ」
顔に出てたのかすぐに笑い飛ばしてくれた。さらっとおだても出た。
「まー、お世辞がお上手ですねー…、何も出ないけど?」
世辞でお酒のランクアップとか狙ってるんですかね?
「いやいや、マジマジ。実際お前、顔がキツく見えるだけで美人だぞ?」
「それ誉めてんの?けなしてんの?」
「誉めてる」
「…………あ…そう…?」
性格がさっぱりしてるせいかこう、直球でこられるとびっくりする。
「で、えらく見た目変わったわね?ウィッグと体の模様はヘナアートかなんか?ハロウィンの衣装合わせでもしてたの?ものすっごく似合ってるけど」
「そりゃどーも。なんならもっと凄い姿になってやろうか?我ながら特殊メイクレベルだぜ?今ならその過程も見せてやるぞ」
「あー、そういうことかー…、無理しなくていいよ?今、疲れてるだろうしまた今度で良いよ。うん」
一瞬意味が分からなかったがそうだった、こいつ鬼だ。普段の振舞いからか普通にそこら辺にいる気の良いにーちゃんっぽいから完全に頭からすっぽ抜けてた。
私だってもうボロボロでこれ以上こいつのメタモルフォーゼとか気を張りたくない。ストレス、体にいくない。
「で、体の方はどう?歩ける?」
「へーきへーき。俺の体、無駄に頑丈だしな。血でベタついて気持ち悪いけど。俺の方はまあ大丈夫だ。それよかお前の方がヤバイんじゃねぇの?頭から血の匂いがするんだけど。というかこの匂い、大量に出ただろ」
「え、やだ、そんなに臭う?」
「俺の血に対する嗅覚が異常なだけだから安心しろ。無理すんなよ、相当きっついだろ」
「あははー、まあ普段血の気の多い分抜けて穏やかになったかもねー」
「ごーまーかーすーなー!人が心配して来てみれば案の定これだ。後で病院に行けよ?必ずだからな?」
「あ、心配してくれてたんだ。サンキューボーイ!」
「あーすーかー?」
あきれ返ったような…実際そうなんでしょうが、咎める声に茶化すのを止めざるをえない。
「ごめんごめん。心配してくれてありがとう。私なんかを助けに…いだだだだだだだ!!」
頬を強めにつねられた。やだ、非道い。
「『私なんか』、じゃねえよ。お前だからこそ助けにきた奴らがいるんだからそいつらのこと考えてやれよ?ほれ、謙遜するくらいなら素直に感謝の言葉でも寄越せ」
「感謝をねだるとか「明日香ー?」…分かりましたよ…」
パッとつねっていた手を離してイラついた面持ちで説教される。言い募ろうとすると今度は流石に怖い笑顔で脅される。
これ以上の抵抗は子供っぽいし止めとかないといけないか。本当に意識しないとこの人が鬼だっていうことを忘れる。それくらいに俗っぽくて人間臭いんだよな…。
「うん。来てくれて、…その、ありがとう。凄く安心したし、嬉しい…。」
改めて言われた通りに感謝を口にする。
(どうしよう…。言葉にすると思ってたより本気で恥ずかしいな。顔真っ赤になってるのが自分で分かる)
「そっか。無事で良かった…。それと、頑張ったな」
思わず、『そう』言ってくれた彼の笑った顔に見惚れた。いつもの、楽しそうな快活な笑顔ではなく、大人の余裕を含んだような怪しい笑い顔でもなく、本当に慈しむような、愛しいものに向けるような微笑んだ顔にほんの少しだけ、泣きたくなって、甘えたくなった。
「あはは…心配お掛けしましたー。あ、ありがとうね?さて、もう一人の方に感謝を伝えに行ってくるとしましょう!んじゃあいくね!?」
これ以上はペースを崩されるような気がしたので早々に離れることにした。…なんか負けた気がする。主に人間的なものに。ええ私よ、覚えていなさい。近い内にあいつに私の器の大きさ的なリベンジを行います。なにがなんでも見せつけてやりますよ。今度は私があいつを手玉に取るんじゃあ!!…あーもう、くっそ恥ずかしい。
「おう!いってこい!」
そんな私の葛藤なんざ知らないであろう彼の快活な声を背中に受けて歩いていく。
「…ほんっとに、格好いいなぁ…ちょっとずるいくらいに」
聞こえないように呟いた。本当に心から思えたことだったから言わずには居られなかった。
「んー?なんか言ったか?」
「いーえー?なんにもー?」
後ろを振り向かずに返答する。地獄耳め。二度も言わせられるなんてたまったもんじゃない。というかさっきの聞かれて、感想言われたら全身が痒くなって叫んでる。
「そーかー、こりゃ良いもん聞いた。ははっ、少し気恥ずかしいが…悪くないね。そう思ってくれてるならこっちも鼻が高いもんだ」
本当は聞こえていて、振り返れば満足げに照れながら笑っていたとは知らない話である。
改めて落ち着いてから周りを見渡すももう一人の彼の姿が見当たらずに困惑する。きれいさっぱりに遮蔽物が無くなった屋上には地面に座って体を休めている玉ちゃんと雅鬼、黒也君は私を降ろした後どこかへと飛び去ってしまったし、後は先ほどはっ倒した遥人が殴られた頬を押さえながらうめいていて、緋牙がここに居ないのが気になった。
もしかしたら終わったから帰ったのだろうか?等という呑気な期待は、周りを見渡した時に見えた、見てしまったーー
床に横たわっている焦げ付いた塊によってすぐに薄っぺらいものに変わってしまう。
近づいて確かめるのがひどく億劫になるのに足はノロノロと自動的に動いていく。
そもそも直視できない。
肉の焼ける匂いが怖い。
その結末に嘘だと言いたくなる。
さっきまで足は軽やかだったのに今はフラフラと歩くのが覚束ない。
速く塊に向かって確認したいのに、
見たくない。
知りたくない。
分かりたくない。
「ーーーー」
息を飲む。たどり着いて間近から見たその塊は水分が飛んだためか小さくなっていて、伸びる枝のような炭は焼き焦げてひきつっている腕だった。
多分違う人だ。他の人がいつの間にかここに来て巻き込まれて…違う。そんな筈はないと解っている。玉ちゃんが他にも男を連れてきたのだろうか?それで邪魔になって…あり得なくもないがそれもないと思いたい。考えれば考えるほどに嫌な想像は止まらない。そもそも人がどうやって死んだのかなんて考えれば嫌な思いをするのは解っているのにどうしても止まらない。コレは誰だったのか?どうしても不安は拭えない。
何の確証もないのに誰かは分かっている。違っていればなお良い。
ーーそれでも人が死んだ。この事実はどうしようもなく重くのしかかる。顔を見た事が無いような人かもしれない。彼なのかも知れない。焼け焦げた体は最早誰かなんて判別できない。
身体中の力が抜けて地面にへたりこむ。
大部分が黒く焼けている。
もう大分流れ、乾いた血液はそれでもまだ幾分か生きていた頃の温もりを残しているだろう。
皮が剥がれて真っ赤な筋肉を覗かせ、死後硬直故か彫像のようだった。
触りたくない筈の黒焦げの手を優しく壊れないように包む。
焦げた皮膚が手にざらつく。べたりと手のひらから血と耐え難い柔らかな肉の感触が広がり、ひどい嫌悪感に襲われるーー、筈なのに胸に去来する罪悪感からか気持ち悪さよりもただただ悲しくて悔しかった。目の奥が熱い。喉が鳴るのを抑えられない。もう泣きたくないのに涙は尽きずに溢れ始める。
「……ごめんなさい…」
それだけしか言えなかった。私がこの人の死の遠因を作ったと思うとそれだけで自分の存在が悪に感じてしまう。
「あのー…?俺が捨てた体の燃えカスの近くに座って何してるんですか?ご主人?」
「ーッ!!な、にが、…え?」
本格的に泣き始めそうな時に聞こえた元カレの声での間抜けな質問に思わず怒りの文句を言おうと振り返り、即座に疑問がよぎった。
(ん?ご主人?それに俺が捨てた体?)
声の主は勿論、いつの間にか近寄ってくれた遥人なのだが何か違和感がある。
「あ、それか。…ああ~!!なるほどそうか!!…そうか…そうなんだ…」
緋牙の遺体を覗いて合点がいったように頷いた後、嬉しそうに呟く。
「え?え?なに…遥人?」
「ご主人、俺ですよー。貴女の従順な性どれ…「なに恥ずかしいこと言ってくれてるですかねこの根腐れ狼は!?」
ああ、そうだった。そうですよ。真面目に考えるのはもうやめよう。あのバカはなにをやらかしても不思議ではないと頭で理解しないと私が恥を見るんだから…。もう手放しで考えなきゃ付き合ってらんないんですよ!?ええ!!前提とか常識をかなぐり捨てよう。
「積もる話はあるけれど…、とりあえず今は貴方の簡単な説明をお願いします…」
「あー…っと、そうだな。あれだ。俺の体の中にその死体の本体が居る状態。「ご主人の前で人をエイリアン扱いするなゲスが。あ、分かりやすいようにこいつの声帯ちょっと弄りました。「何してくれてんだよ!?」
今度は声が別れてよりハッキリとする。
「あ、そうなんだー。へー」
受けた衝撃が強すぎて棒読みの返事しかできない。
「え、じゃあ二人はずっとそのままなの?」
「「冗談じゃない」」
あ、重なった。
「このゲスと話してるとイライラするんですよ。今すぐご主人に洗いざらいこいつの思ってたこと告げ口してやりたい、というか今言う!」
「こっちこそお断りだね。この躾の行き届いてない、つーか聞く気がない根腐り狼は!?人の体をしっちゃっかめっちゃっかに改悪しようとするし!?今すぐに追い出したい」
よっぽど気が合わなかったようで堰を切ったように声が代わる代わる怒鳴りあっているのですが…声を発しているのは一人だけなので面白い一人芝居になってます。
「お望み通りに出てってやるね。さっきお前らがキスしてた間に残留してた妖力を根こそぎ持ってったから蓄えが出来たしな!!」
あ、さっきのチューですか。だから尻尾とか耳が消えたんだー。
「おう、さっさと出てけ…っ!?」
急に遥人が口を抑えて青い顔をする。苦しそうに息が荒くなってる。あ、喉が変に鳴ってるー。やだー、やな予感がするー。見たくないー。
立ち上がって何歩か後ずさる。
「はあ、はあ…おえ…げええ…」
ええ、案の定吐きましたよ。顔を背けて空を見る。綺麗な朝焼けだなー。BGMが最悪ですけど。掛からないように下がっといて良かったー。酸っぱい臭いがするけど。朝っぱらからきったねぇ。
「スッキリした?確か…、あったあった。はい、ポケットティッシュとビニール袋。使っときなさい。」
吐き終わったようなので遥人に渡しに近づくと苦しそうに取っていく。
「はあ、うえ、はあ…ありがと…て、うわ!?」
「ひゃっ!?なによ?……。」
吐瀉物を見て驚いた声を挙げたのでつられて見ると、内容物というか内容液の中に赤ちゃんネズミのような小さな生き物が混じっていて、それがよたよたと動いているのだ。
それはしばらくしてぼこぼこと泡が膨らむように全身が急激に成長し、仔犬くらいの大きさまで成長した後、とことこと焼死体の所まで歩いていってそれを、パクリと小さな口で食べ始めた。
一口目は毛が生えた。五口目は体が少し大きくなった。何口目にはさらに体を食べるために口が大きく、何口目には骨を砕くための牙が大きく、何口目に地面にこぼれた血を残さず平らげるための舌が長く、と一心不乱に食べ続ける。
一口づつ食べるごとにそれだけ成長していく。
鼠は子犬へと、仔犬は成犬へと、やがて成犬は狼へとその姿を変えていき、その度に口から赤く染まっていく。
やがて全て食べ終えた狼はこちらへと振り返って、
「やー、お見苦しい所をお見せしてすみません!ご主人。これでも一番手っ取り早くてマシな手段だったんですけどねー?」
そんなお見苦しい所見せてくださった張本人の明るい声が響いて、狼の姿は薄れて消えて、代わりに高校生くらいの甚平を着た青年が出てくる。
「やっぱりこれが限度だったかー。んーまあ、急ごしらえとはいえこれだけ作れれば上出来の方かな?あ、特徴はやっぱりあった方が確認とりやすいですよね?はい♪耳と尻尾を生やして~…完成です!」
じゃじゃーん!とお茶目に頭と尻尾を指差して自慢気に笑っている緋牙君 (推定肉体年齢16~8)は大変明るくてキラッキラに眩しいのですがそこまでに至る過程がエグすぎて真面目に取り合いたくないというか、もう驚きのオンパレードというか、インパクト強すぎた恐怖のお食事に触れたくないというか。むしろそれを気にして明るくしようとしてくれてるのが心苦しいというか。
「あー…、あー…別に気にしなくて良いよー?戻れて?良かったね?」
正直、妖怪というよりエイリアンにしか見えなくなってきたな。まあ、いいや。こいつはこいつなんだし。
ちらりとさっきから無言の遥人を見ると青い顔をして絶句している。
そりゃ自分の体内からショッキングなモノが出てきたからな。私なら気絶しかねない。
「遥人、心中察するわ…。とりあえず玉ちゃんと今後について話し合ってちょうだい?私も犬持君と喋らないといけないことがあるから」
「そう、だな…。そうするよ…」
意気消沈したままよろめきながら玉藻の所へと歩いていく。肉体的疲労の他にあれだし精神的にも相当参っただろうな…。
「はっ、ざまーみろ…」
こっちはこっちでなんか私には見せたことの無い嫌そうな顔で黒い言葉を吐いているがいったい二人の間に何があったのか。聞いたらめんどい事になりそうだし聞かなくていいか。
「さて、助けに来てくれてありがとうね?」
「おっと、嫌な所見せちゃいましたね?それはそれとして…ちょーっと失礼しますね?」
親を見つけたアヒルのようにてくてくとこちらに来てほぼ向かい合うような至近距離でこちらの目を覗き、
「うん?あの、けっこう近いんだ…けど?」
抱き締められた。全体重で寄りかかるような重さと結構な腕力だけど、なんというか安心感というより腕の細さや体の軽さに心配になった。私より高かった身長は同じくらいか少し小さいくらいになっていて、そのか細さに、
「…良かった。良かった良かった…!!心臓が、動いてるし、あったかい…!生きてて良かった!」
その震えている喜びの声に、涙を溜めた目に、嬉しそうな顔に、抱かなくていいはずの罪悪感を感じて悲しくなった。
「あ、れ…?ごしゅ…じん?」
いつの間にか無意識に緋牙の背中を抱き締めていたらしく、緋牙には珍しく困惑した顔で顔を見られる。
泣きそうな顔になるな。痛い思いをして私の為にここまで来てくれた。ボロボロになってでも私の為にここまで頑張ってくれた。ああ、だからか。だから彼は『自分なんかの為に、なんて言うな』と言ったのか。ならちゃんとしないと。体を張って助けに来てくれた人達に感謝を伝えないと。だから、精一杯の笑顔で出迎えなきゃ。
「…緋牙。わ…。…私を助けに来てくれてありがとう。すごく、凄く嬉しいよ…」
泣きそうになってないかな?涙は出てないかな?ちゃんと満面の笑顔が出来てるかな?じゃないと、助けに来てくれて、助かった私の為に泣いてくれるこの人に何もあげられない。何も報いてあげられない。
「…ああ。…ふへへ~♪えへへへ~♪無事で何よりです!!ご主人♪」
私の顔を見て安心したような声の後にだらしのない笑い声とにへらにへらと笑う顔を見てようやく安堵を覚えた。ああ、自分は今の今まで怖かったんだと気づいて、ようやく、鬱陶しいくらいのこの抱きつきが何よりの救いだったのだ。こうやって抱き締めてもらうだけで落ち着く。自分が知らずに張っていた虚勢が無くなる。が、
「………うぐっ」
あれ?おかしいな…?なんか苦しくなってきてる!?
「うへへー!良かったー!もー!!滅茶苦茶心配したんですよー!?」
「あの、足が…浮いて…いっ!」
ギチギチと嫌な音が回されてる腕からなってきて息が苦しくなる。
「あー、安心したらものすっごくご主人に甘えたくなってきた。つーか既にその発露の先が居る!あー、もう!!我慢した分存分に甘え倒す!さあ、めいっぱい俺を構ってください!!」
今度はグリグリと胸に頭を押し付けてくるが肺に残ってる酸素が押し出されて頭に血が上るのが分かる。最早セクハラとかの次元ではなく物理的に死が見える。
「いっ…き、が、出来な…。やめ…っ!…こじ、おれ、る…いだ…いっ!」
たどたどしい言葉を発するも、
「うははー!!うりうりー♪うりうりうりー♪」
聞こえてないようです。
ようやく全てが終わって危険が無くなったと安堵した矢先に死が迫るって人生何が起こるか分かりませんね。後、いい加減何度目だ。死にかけるの。いや、そろそろ本当に折れそうで死にそうだけど。
【そして彼らは帰る】
「あーあー、終わったね?おっかしいなー?期待してたより爆発がちっちゃかったなー。もっと都市壊滅って感じの焼け野原になるかと思ってたんだけど…。しかもとっておきの【種】だったのに芽吹かずに無くなっちゃうし」
首に刃の付いたチェーンを巻き付けられた青年が残念そうに呟く。
「そーかい、それは残念だねー?芽吹けばさぞかし大きな戦力になっただろうにね?たく…、結局夜通しまで掛かったかー…。30越えると夜更かしとかきっついのに…しかもこれからデスクワークとか考えるだけでしんどい…」
巻き付けているチェーンの持ち主である男性はため息混じりに愚痴をこぼす。
「しんどいなら先に帰れば良かったのに律儀だねー?疲れない?」
「帰りたくても目を離すと下手に介入されそうだったからねー。それに今、お前からこの手を離すと僕も危ないからねー。まったく…時間を取りすぎたな~…これ、仕事どころか家に帰れるかな…」
男性の声に、男性を取り囲みながら隠れている三名が少し動揺するのが解った。
ふと、気付けば一人がこちらの隙を窺っていた。そこからは二人、三人と殺意が増えてゆくのをただ黙って、こちらが気づいていないように振る舞うしかなかった。
「あはは、それだけ隙を見せないようにしてたらそろそろ限界だろ?うん、もういいよ。存分に、殺せ」
その言葉により、待っていたとばかりに三つの影が男性を襲うが、
「ははっ、大分間違った気遣いどうもっ!!」
空中を旋回していた丸ノコ刃が影を迎え撃つ。
そしてこちらの手札を使わなければ凌ぎきれないと判断したのだろう。青年の首に回したチェーン少し動かして喉を切りながら更に刃を身に食らい付かせる。
「ガッ!!~っ!…はあ、はっ…さ、すがに、ちょっと…痛い、なあ?口の中が、んぐ…。血の味がするよ…」
喉を真っ赤に染めて苦しげに青年は笑う。迎撃を軽く退け、次は男性に狙いを定めていた三つの影はそれだけで殺意を潜めざるを得ないと感じ二撃目を躊躇する。
だが、
「なっ!?」
ふと気配に気づき、咄嗟に旋回していたノコ刃を盾にある方向へと移動させると、
カンッ!と火花と乾いた金属音を鳴らして形のノコ刃があらぬ方向へと高速で飛んでいく。
「狙撃手かぁ…。これは一杯食わされた。しかも自分と同じ手口とは悔しいな~…」
男性の口からは諦めが見て取れた。
「は、はは、ははは、あははははははははははははははは!!あれー、今日はよく予想が外れるなあ?残念だけどもう一人居るんだよねぇ?流石にあんたもあれだけ離れてたら気付かないかぁ~?じゃあ次はその体無様に撒き散ら…あ、れ…」
口を真っ赤にしながら大笑いする。自分の勝ちを確信したかのような饒舌は、
「なんで、僕の体から、血…が?」
いつの間にか青年の心臓が撃ち抜かれていた事実によって止まる。
そしてそれに続くようにパンパン、と空から乾いた銃声が鳴る度に青年の体が小さく揺れ、両肺に穴がひとつづつ空く。
「ああ、なるほどさっきの弾いた音に紛れて撃ったのか…くそやられた…。というかこれは、天狗の、呪印…!まさか、あいつ生ぎ…っ!?ぎゃああああああああ!!」
青年が胸に空いた穴に手を這わせ、何かに気付くと遅れて青年の体が青い炎に包まれ、あっという間に火達磨へと変わる。
「あの時の借りは確かに返したよ。しっかり覚えておくと良い。後訂正しておくがそれは呪印よりかは数段上の天狗の焔だ。私が解かない限り、焔が消えても傷は癒えないからな?」
その声は彼らの上から響き、灰混じりの暴風が彼らを一瞬包んで男性を拐う。
「今回は他に用事があるからな。顔見せと前の軽いお返し程度で済まないな?また今度、今回のお礼をしに来るよ。それまで息災にな?ああ、掛けておいた術だがいくらか余裕が出来てな?後少しで解除されるよ。その趣味の悪い覗き見癖に感謝するよ。それじゃあな?」
「ああああああああ!!ざっっけんなああああ!!」
悶え苦しみながら悲鳴混じりの怒号が響く。
そうして彼らを取り残して暴風は止み、気配も消えた。
こうして、舞台裏はあっけなく終わった。