話し合いです…めんどくさい…
「はぁ、私は風呂入って来るから」
ひとしきり話を終わらせて玄関から自室に荷物を置きに向かう。服着替えるのは後でいいや。
ちらりと横目でモザイク掛かってる奴を介抱してる傷だらけの少年を見て自己嫌悪の溜め息を吐く。
(先にやることあるし風呂入るのは後に回すか)
あ、モザイク掛かってる奴はほっといてやって下さい。もうしばらくすれば意識戻るの確認したんでね。大丈夫ですよ。…動くにはもっと時間が必要ですが。
だって、そりゃいきなりキスされたら誰だって怒るでしょう?変態は血祭りにするべし。異論は言わせません。イケメンだろうが血祭りにするべし。折角鬼の少年の返り血が綺麗に取れたのにまた返り血で汚すことになりましたよ。妖怪の血って落ちないのかな?
「ねえ!服を出してあげるから君はちょっとこっちに来てくれるかな?」
隣の部屋に行き、ほとんど裸の雅鬼少年を呼ぶ。裸と言っても下は辛うじて残っているし、結構たくましい体つきをしているが所詮15歳。その程度に欲情するほどじゃないし。さらに言えば17になる高校生の弟が居るから見慣れてる。もっと言えば昔バイトで、生まれたまんまの男の人や女の人を見るのがざらにあったから裸見てもあんま欲情せんし、そのバイトの後遺症なのか激しい内容のグラビアとか平然と見れちゃうのが物悲しい。
因みに私のタイプはエスコートしてくれるような経験豊富な年上派だ。なんだったら二回り上はいけそうな気がする。そんなどうでもいいことよりとりあえず、雅鬼少年の服はとりあえず弟のを使うことにした。金払ってやったのは私なんだ。なんの問題もない。
「おう、分かった」
弟の服で少年のサイズに合うものを見繕って、体に合わせていく。
「ん~、着た方が早いんだけどやっぱり傷と骨がな~…」
「ん?傷が気になるなら風呂入れば綺麗になるけど」
「えっと…、傷口にお湯とか石鹸とかブラシとか、流石に痛くない?」
「慣れてるから大丈夫だって」
(…慣れるほどそんな惨い姿になったんだ。不憫な子だな。した私が言えたことじゃないけど)
「そっか…、じゃああんたから先に風呂にはいりなさいよ。一番風呂どうぞ」
(傷よりも飛び出てる骨がどうやって綺麗になるのかが一番気になってるんだけど、まあ、指摘したくない)
「あ…、ああ…」
「シャワーの使い方分かる?解らなかったらお姉さん…、一緒に入ってあげようか?」
少年に近づいて頭を撫で、おまけに軽く頬を撫であげてみた。
ちょっとからかってみただけです。いや、冗談半分の行動なんですよ?決してショタコンとかの性癖は持ち合わせてないですよ?皆さまお気付きかもしれませんが…もう半分の理由はマジで傷が凄いから心配なんです。
完全に複雑骨折だよね。完全に粉砕骨折だよね。あ、複雑骨折って骨が皮膚を突き破って治すのが難しいのを言うらしいです。普段、複雑骨折って聞いて中の骨がボキボキに折れてるのを思い浮かべる方が粉砕骨折のほうなんですって。
「なっ!?ば、おま、馬鹿か!?それに今はこんなんだけど俺はお前より年上だ!!」
面食らったように狼狽しだす少年は先程私の命を奪おうとしたとはとても思えない。
(うくく、私より年上だぁ~?なに寝ぼけたこと言ってんのこの子?どうみても年下じゃない。いやはや、背伸びした若者はかわいいものだ)
今の私の顔はさぞや悪徳者の笑顔であろう。このくらい元気が残っているなら安心できる。…ちょっとしたいたずら心が出た。
「へぇ、とてもそう見えないんだけどねぇ」
今度は頭に手を乗せてみてぽんぽんと頭を軽く叩き、顎をさすり、あえて挑発してみる。
「笑うんじゃねぇよ!なめた目で見んじゃねぇ!嘘じゃねえぞ!なんなら証拠見せてやっからな!」
べしっと乱暴に私の手を払いのけ、怒り心頭といった表情で私をギロリと睨みつける少年。へん、もう全然怖くないわ。むしろ年上に噛みついてくるのが笑えてくる。危害が無いと分かったらなめてからかうって最低な大人だね?自分がなめられるのは嫌なくせに。でもこれが楽しいんだよ。
(このへんにしとくか…。いやぁ~、この子。いじったら反応が楽しくって笑いが止まんない!)
「あっはは!!いやー、冗談よ!反応がおもしろく…て?ぶっ!」
突然影が差し、呆気に取られてるとドンッと強い衝撃が前から来て倒れてしまった。一応受け身は取りましたよ?ただし、腕掴まれてて不完全な受け身でしたがね。
(え、あれ?なんで少年の片手で両手捕まえられて床に縫い付けられてんの?私)
「馬鹿にしやがって、……どうしてやろうか?」
「いったた…。ちょっと!いくら年上にからかわれたからって突き飛ばすってひど…、え?」
低い声が頭上から聞こえて、目を上に向けると目の前には裸の美形が私を押し倒している。いや血とか骨とか見えてしまって残念ながら興奮しない。少し伸びた赤毛、つり目で目の色は翡翠のような緑、実用的な筋肉質の身体、歳は私と同じくらいですね。
「あれは融通が効きやすい姿だからああなってただけでこっちが本来の…いや、化けたまんまの姿だ。どうだ?これで信憑性が出ただろ?俺の方が年上だっつーの」
にたりと怖い笑顔を見せてるけど…、やっベー。男の人に組伏せられるって超怖い。身長デカイから威圧感も半端ないし、本当、男はケダモノとはよく言ったものだ。冷や汗だらだらものよ。
「いやー…、さっきのは冗談よ、冗談。軽く流してよ~…。怖いなー、怖いなー。ハハハ~…ハハッ…」
15歳から25位になっていらっしゃる。ヤバい…。これは流石に形勢逆転だ。しかも怖いから声が震えてきた。笑って流す筈が笑い声が乾いて悲しくなった。
「ふーん、冗談、ねぇ。まあ、俺もなめられるのいやだからな…これであいこだ」
不意に首に顔を近づけられ、生暖かくて濡れたものが首に這う。
「っ!うわ、きもいきもいきもいきもいきもい気持ち悪いぃぃぃ~…。気持ち悪いよぉぉぉぉ!なんで舐めんのよ~…。あんた殴られ続けておかしくなったの!?」
レロンと舌で首を舐められた。ナマコっぽいし、ツバが首に着いたし、よく知らん男に首なめられるって生理的嫌悪感がある。 顔が良くても気持ち悪いだけだよ!!ゾッとした!つかなんで舐めたし!?
「なっ!?せめてもう少し色気のある声出せよ!」
「何で!!!?てか無理無理無理無理無理だって!!あんたのその怪我と血を見たらよっぽどの血液性愛者じゃない限り欲情なんてしないから!!むしろ萎えるから!!実際私、今ゾンビに補食されてる気分だから!!ていうかなんで舐めたの!?美味しくないよっ!むしろバッチいからやめてっ!!」
「あんなぁ…。一応舐めたのには訳があんだよ」
「どんな訳ありよ!?」
「んあ?ああ、まあちと血が欲しくてお前の首に麻酔を仕掛けたんだよ。ほれ」
空いているもう片方の手の人差し指の爪がぐぐっと鋭利に尖り、青年が舐めた箇所に首筋に立てられて思わず息を飲んで目をつむる。
「っ…!!」
「安心しろって。これからお世話になる家主を殺しゃしねぇよ」
ピッと爪が軽く私の首をスライドする。少ししてだらりと首に生温かい液体が伝う。どうやら血が出ているようだ。
「ちょっ!?あんた何してっ…!!」
「痛くはねぇだろ?」
「…え?あ、ほんとだ…」
(いや、ほんとだ、じゃないでしょ、私)
「さっき舐めたときに付いたツバに麻酔混ぜといたんだよ」
「…………」
(いいね。そのツバ。速効性といい、塗布するだけで掛かるって単純に凄いと思う。だって病院で注射するときに重宝しそうだし。衛生面をクリア出来るなら金の匂いがするね。まあ、怖いからしませんが。想像するだけタダだよね)
「へぇ~…」
「今なんで間が空いた?」
「いや、びっくりしたからよ」(8割嘘ですが)
「桃とか喰らって大火傷した上、ぐちゃぐちゃになるまで殴られ続けてまだダメージ抜けなくて流石にだりぃもんでな。ちっとばかし血ぃ貰えね?栄養補給みたいなもんだよ。あ!傷跡は残さないようにしとくからさ!大丈夫だって!」
流石被害者様。私の抗議なぞ許さぬように私が行った所業を羅列しつつも要求してくれる。しかも事後承諾ですよね?勝手に人の首の皮切って血が出てから言ったよね?
「ぐっ…。わ、分かったわよ。…床が汚れないようにしてよね。後、手。もう離していいよ。理由が分かったから抵抗はもうしないし」
「ありがとさん。それじゃ、いただきますっと」
にっと笑って、拘束していた手を外すと私の首筋にゆっくり舌を這わしてくる。
…レル…、ンクッ…ゴクッ。
ボソッ「……なんか大型の蚊にかまれてる気分…」
「…ちったあ、栄養補給してる奴に気遣えよ。カレー食べながらウ○コの話されてるみたいで食欲失せる…」
「私的にはそれでいいんだけど…」
「アー、キズグチガイタイナー」
あからさまな棒読みである。くそ、イラっとする。
「…じゃあヒルに吸われてる…」
一応これでも気遣った方だ。
どっちかって言うと食人鬼かゾンビに食べられてる気分でぶっちゃけ嫌。
暴れないし逃げないよ?今は相手の方がよっぽど形勢有利だし。それに殺されたくないし。
「……最近、骨付き肉が食いたくてな?」
おおっと!何がカンにさわったのやら?あらあら、傷口に八重歯が当たってますよ? (ここまでの心情は棒読みです)
「なんでもないですよ。後、歯が当たってます」
「ん、それでよし」
背中をぺちぺちとタップしながら言うと、満足したのか再び血を舐める作業に戻った。
「というかなぜに首にしたの?腕とかの方が舐めやすいでしょうに」
そっちの方が絵面的にも優しいだろう。何故に首。いかがわしいですな?んん~?お姉さんに大人の色気…、感じちゃったのかなぁ?
「んあ?まあ、用心だよ。昔、腕一本平気で犠牲にしてまで俺を殺しに来るやつが居たし。あんたもそいつみたいな感じがしてな?あんたが下手に動く気が起きないように首にしたんだ」
あ、なーる。そゆこと。冷酷な回答ありがとう。この警戒ならある意味安心出来るね。だって貴方に降伏します~♪ (要約)とか言ってほいほい家にまで着いてきて、よし、ブツは手に入った。こいつはもう用済みだ。殺そう。ってな感じで手のひら返すかと思ってたのに。警戒はするけど世話になるってのが良いね。まあ、しかし、勘が大変よろしいことで。私だって何の策も無しに連れてきたりしませんよ。
虎穴 (敵陣)に入らずんば 虎児 (ターゲット)を得ずって事ですヨ?
こっちだって裏切るそぶりをされたら打って出ますよ。具体的には水を張った浴槽に沈めてコンセント刺したドライヤーを電源入れたまま浴槽にぶちこむ、とか。……嘘ですよ。安全装置が働くはずですし。
女の私にできることなんて精々もてなすふりして料理に毒を仕込む程度が限界ですよ。
「女性相手にその扱いは引くわ~…」
「ごめんごめん」
「で、後どれくらい飲むの?後、さっきから血が止まってないんだけど…」
「俺の唾液は少し勝手が利いてな?口内で麻酔用のと溶血用の唾液が作れんの。ある程度なら濃度も変えられるぜ?もちろん普段はんな物騒なもん出してねえけど。それと血はあとちょっとだけで良いから飲ませてくれ」
「分かった。でも…、その、さぁ…」
さっきからなんか後方から何か嫌な感じがするんだけどなぁ…。そんな事を続けて言おうとする途中、
「なぁ、鬼…」
ものっすっごい冷たい声が部屋に響いた。
青年はビクリと身体を震わせた後、油の切れたブリキ人形の如く後ろを振り向く私を押し倒した雅鬼青年。
「旦那、いや、これはその…」
「なに俺の主人を押し倒してイチャコラしてるんだ?助かった命をふいにしたくなきゃ、さっさとそのでかい図体を退けろ」
部屋の入り口に甚平を着た金髪(クリーム色だろうが金色だろうがハニーブロンド色だろうが卵色だろうが同じ黄色系統なんだし面倒くさいから金髪で統一する)青年が立っていた。
(バカな!!あいつはこの手でぼろ雑巾みたいにズタズタにしたのに!!)←三下雑魚の言うセリフ。
「なんで!あの状態からどうやって再生したの?」
子犬だった青年は私に視線を合って嬉しそうににっこりと笑い、「子犬に戻ってご主人と一緒にお風呂入ろうと思って!!昨日あんなにじっくりと俺の体をあられもなく一方的に洗ってくれたから今日もして欲しいなーって!!」……へっ!?
「あの、質問に答えてな…、っ!?」
(…ふと昨日の事をよく考えてみれば最悪すぎる!!拾ったあれとか、検査したあれとか、子犬相手に喋りかけたあれとか、一緒に寝たあれとか!!)
走馬灯のように思い出し、冷や汗がどっと出る。
「ままま、ま、まま雅鬼青年んんん?あ、あああれはもともとあんな性格だったのかい!!?」
思い出したら体が震えてきた。うん、主に恐怖で。都市伝説聞いた感じのあの後味悪くてじわっとした恐怖が来た。
「怯えすぎ怯えすぎ。喋りがラップ調になってるから。いやー、旦那は独り身と言うか孤独だったから、たぶん甘えを斜め25度位間違えたんじゃねえか?」
「うわぁ…、なにそのめんどくさい経歴。それと25度程度の歪みかなぁ?95度くらい間違えてない?」
そんなことを話しているとふと、イライラと鋭い視線を感じたんだが、元子犬青年は私の何なんだ?彼の立ち位置が分からない。たぶん味方?だと思いたい。
「いつまでやってるんだ?俺はそんなに気は長く無い方だぞ?」
「ああ!!退きます退きます!」
金髪青年の一声であっさりと退きやがった。私、ナメられてる…。ちくしょう。こきつかうにあたって反抗精神の芽は潰したいのだが仕方あるまい。後日にしてやる。で、やっとこさ恐怖の補食もどきの状態から解放され、覆い被さってた雅鬼青年がさっさと退いてくれた。が、退いた時に…、
バサ…。
何かが落ちた音がして、視界の端にもその何かが落ちたのが見えたので目で追えば、あらまぁ、釘で破けて履けなくなったズボンとトランクスタイプのチェック柄のパンツ(血染め)が落ちていました。いや、結構際どい所まで血が着いてるってまさか釘バットで貴方の息子さんを殴ってしまったとか!?と男性諸君が想像したら大惨事な絵面な予測されるであろう事を考えてたらふと、目の前の大切な事を忘れていた。目線を戻すと、
「「「あ…」」」
ここで皆様に現在の雅鬼青年の服装をお知らせします。まず上はフード付きの藍鼠色のパーカーを魔法のステッキ(物騒な釘バットの事)を何回も振り降りして大胆にリメイク☆
所々に存在を主張する赤の斑点と大胆に背中とか胸板とか腹筋とか『骨』とか見えるセクシー&パンク (の限界値が) ぶっちぎりのハイセンスファッション。(つまりほぼ裸です)
下は迷彩柄のゆとりあるカーゴパンツをこれまた大胆に魔法のステッキ(物騒な以下略)でダメージジーンズなんて目じゃないくらいにボロッボロに負傷してミニスカートもビックリの短さにリメイク☆
ここにも赤の斑点が迷彩柄に彩りを添えてクリスマスツリーのように!しかも際どい切り取りによって歩くとトランクスもチラリと覗いて扇情的だね!
カーゴパンツを止めるボタンはいたずらな釘が引っ掛かってどっかに飛んでっちゃった♪だからゆるゆるなのがリメイク残念ポイント…。…駄目だ。テンションおかしくしないと自分の暴行に及んだ所をじっくり見てしまうから罪悪感で泣きそうになってくる。というか今気づいたけどその服伸びるんだね。だって身長とかおもっくそ伸びたのに全然パッツンパッツンになってない。いいなぁ~…、その能力。着たい服が着れるのって羨ましいなぁ。
いささか脱線しましたが唯一の服である旧カーゴパンツ・現布切れが落ちて雅鬼青年はすっぽんぽんになってしまったわけで……当然アレも見える。
「あ、おっきいね。あ、頭の毛って血で汚れてたんじゃなくて地毛なんだね?へ~、こっちの毛も赤なん「わああああっ!!!?うわあああっ!!馬鹿っ!!じっくり見んな!!」
雅鬼青年、大事な部分を隠して大・慌・て。
(はーい☆お帰りなさーい。私の優勢状況♪再度形勢逆転!気持ちいいね!相手を手玉に取るのって!!溜飲下がって大満足なりぃぃっ!!!!)
人間としてどうかと思うこと考えてますけど私、聖人君子じゃないんで。嫌いなやつの不幸な話とか聞くと表面上では「まぁ、大丈夫?」とか取り繕ってるけど内心、『ざまぁみろ!』とか心の中でガッツポーズするタイプです。
「そうですよ!!そんなのより俺の方が大きいです!!」
「比べんなぁぁ!!!!てか、あんた本当に女かよっ!!!?目の前だぞ!!!?」
「はぁ?私は女よ!しかも処女よ!あんたの目には私が男に見えんの!?」
「じゃあなんでそんなに落ち着いてんだよ!!?」
「昔のバイトで色々あったのよ。それに弟で見慣れてるから。あいつ最近彼女を自慢してくんだよね、あいつ。ストーカーもどきのアタックから私が取り成して付き合うに発展するまで私が各方面に頭下げまくったというのにお気楽な奴だよ」
「知るかぁ゛ぁぁ!!!」
「あ、ちなみに弟の彼女さんはど偉い企業の社長令嬢なんだ。今度女二人で洋服買いに行くんだー♪」
「だから知るか!!」
「ご主人の初めて……、あの、俺が貰っていいですか!!」
割って入ってくる人物の声のする方へ顔を向けるといつの間にか肩の後ろまで来ていてキラキラと輝く顔で聞いてくる。とりあえず、
ガスッ!「ギャンッ!!」
げんこで頭を殴る。いや、あんまりにも馬鹿なことぬかしてたものでイラっときまして。後、あんな残酷劇繰り広げた筈なのに今はハートフルさ溢れるこの現状の落差に無性に腹立って。メンタルケアして欲しい訳よ。私の罪悪感を癒してよ。
「いい訳ねえよ!あ、ごめんね。風呂入ってきなよ。適当に服選んどくから」
助かることに大きくなって服も合わせなくて良くなった。弟も私よりデカイし服もほとんど大きいのしか無かったから少年姿だと服合わせんのに苦労したのよ。なんで弟の服が私の家にあるのかって?たまに泊まりに来るんだよ、あいつ。隣町のアパートに一人暮らししてんのに「一人じゃさびしいー!」とかぬかしてクリスマスやらのイベントごとだとか実家帰りや旅行の時に一日前に来て泊まってくんだよ。友達んとこに泊まれば良いのに、と言えば、
「なんつーか、他人の家ってどうしても気ぃ使うからくつろげねぇし、何より猫被りがバレたくねぇーから。俺は身内とのんびりしたい派だし。後姉ちゃん家、ゲームのハード大体揃ってるし洗濯とか料理とか勝手にやってくれるし」
流石私の弟、利用する気満々の図々しさだな。しかもそん時にソファーで寝そべりながらゲームしてたから尚の事図々しさが引き立って見えた。イラついて足で頭踏みにじってやったけど。ちなみに学校では爽やかスポーツマンでよく気が利く明るい人格者で通ってると弟の彼女さんから聞いた。うん、安心する。私の弟だ。
「わかった。…あんたには敵わねえよ」
頭を掻きながら風呂場に行くが、おい待て。敵わないって何に対してなのかな?小一時間問い詰めてやろうか?おいこら、そそくさと風呂場に逃げるんじゃない。
「次いでにだけど、傷口に布でも当てとけよ?さっきから垂れ流しっぱなしだぜ?」
「うわわ!?そういうのは気づいた時に言って!」
「で、緋牙?君で名前合ってた?地べたでなんだけどまぁ、楽に座って?」
雅鬼が風呂場に入ったのを確認してから金髪青年をリビングに連れて行き、カーペットの上に座らせてから話を聞く。青年はあぐらを、私は正座をして片手でハンカチを首筋に押さえながら向かい合う。ソファーには座んない。それだと説教の図になる。
「はい!通称なんですがそうです!」
にへらぁ、と笑顔で元気よく返事をするがちょっと待て。
「通称?」
「この際、便宜上でそう呼んで頂いて構いません。先に言っておきますが本名なんてありません。大昔に捨てたし、その捨てた名前すら興味なくて忘れたので今は『緋牙』という通称が俺の名前です」
(通称、ねぇ?本名忘れるって相当何かあったんだろうか?まぁ、地雷を踏み抜きそうなので突っ込んだことは聞かんでおこう。)
とりあえず、仕事で邪魔にならないように一つに引っ詰めてたおさげの髪ゴムを外し、頭を軽くかいた。あー、スッとする。
「あー…、そう。で、緋牙君はなんで逃げてきたの?喧嘩か何か?今、風呂に入ってる彼からやたら物騒な話が聞けたんだけど本当の所はどうなの?」
すると緋牙青年はへらへらとおちゃらけた空気をスッと引っ込め、真面目な顔に変えて私を見る。
「そこまで聞いてましたか。……解りました。簡単に言えば昨日、不意打ちされて殺されかかったんです。それでボロボロになるまで逃げて、道端で力尽きた所、貴女に拾われたんです」
えー、まじー?妖怪拾うって宝くじ当たるよりも確率低くない?
「そう。で、悪いけどさっそく本題に入らせてもらうわね。…君、屋上にいたよね?」
金髪青年の目が見開く。
「なっ!?なんで…!?それをっ!!」
「準備してる間 (釘バット制作中) に気付いてたわよ。視線感じてたし。鬼の彼は気付いて無かったようなんだけどね」
「じゃあ、知ってたら何で助けを求めないんですか!?」
そんな事をさらりとぬかしやがって腹立ったので正座やめ、立ち上がってから思いっきりげんこで頭殴った。
「痛っ!!」
「バカ犬が。ちゃんと考えて物言え」
「え?」
吐き捨てるような言葉を不思議に思ったのか頭を両手で押さえつつ涙目でこちらを伺う。
「いい?第一にあの時私は君を知らなかった。第二に鬼の彼と同じ(グル)かどうかわからなかったから。第三に一般人かもしれない人だったら巻き込む訳にいかないから。お分かり?」
「あ~…。考えてなかったです…」
ようやくそこまで考えが至った金髪青年を殴った頭を労るように優しく片手で撫でてやる。
「まあそれはいいのよ。今もう終わったことだし。それと、理不尽に殴ってごめんなさいね」
「いや!俺が悪かったんですから良いですよ!はあ~。それよりもっと頭を撫でてくださいぃ。気持ちいい~♪」
痛みに歪んでいた顔をふにゃりと気持ちよさげに崩す。はて?昨日今日でここまでなついてくれるものなのだろうか?なんか、どうしてもこの人懐っこい青年に裏があるように思えて仕方ないんだが。
「が、なんで自発的に助けようとしなかったの?助ける義理は無かった~、とかなら理由としてはありだからまだ許すけど」
撫でていた片手を止めて代わりに頭皮に軽く爪を立てる。
「いてて!そっ、それは…その…」
急にびくついた反応に変わってしまった。あ、いや、下手に答えたら爪がくい込むんじゃないかと怯えてる可能性もあるか。というかそっちの方が確率高いだろうし、カマをかけてみたいと思います。
「…もしかして、折角ボロボロに怪我した所を保護されたのに、身元がバレて、挙げ句怖がられて見捨てられるとか思って怖かったとか?」
ありえそうな理由の内の一つを出してみるとびくりと金髪青年緋牙の身体が揺れた。初っぱなからビンゴを引き当てたっぽい。
「なんで分かるんですか…?俺が…、それを恐れてたことを…」
不可思議な物に怯えるような表情で私を見てくる。そりゃあこっちとしても一発で当たったのにビックリなんだけどね。
「んー、強いて言うならね。昨日の寝る時かな。急に拾われて戸惑ってたらいつの間にか飼われる事になっててそれに便乗しようとした、というところかな?」
「う…」
「あと、鬼の彼が暗示掛けられてたのが解って、なおかつ私をなめてたから勝てるって踏んだんでしょ?私一人と油断してる所を見計らって不意打ちして殺す腹積もりだったんでしょうが予想外な事に私が勝ってしまったから出張ってこなかった。そうねぇ、「本当に危険になったら助けようと思ったが手玉に取られているな。これなら余り心配は要らないだろう。でもまあ一応見張って置くか」とかかな?」
「降参です…」
「後、いなくなったのは釘バットでメッタ殴りにしてる真最中で、帰って来て雅鬼を見て驚いたのは私が殺したと思ってたからでしょ?」
「…ご主人は覚ですか?」
どんどん縮こまるので子供相手に説教してる感覚がする。でも、どこか、『こんな可哀想にへこんで見せたなら許してくれるかな?』って計算してるような気配?がするんだが。後、サトリって何?
「違うわよ。私の体験と予想に基づいての推論よ。さて本題なんだけど、なんで私が彼を殴殺しようとしたのを止めなかったのは何故かしら?」
まあ、理由なんて一つ位だと踏んでいるが。
所がどっこい。帰ってきた言葉は予想通りのと予想外のが混じっていた。
「何故って…、ご主人は面白いこと言いますね?わざわざ殺しに来た相手を助けるなんてよっぽどの余裕ある奴か危機感がない聖人君子の発言ですよ?それに、人間はそれくらい平気でやるでしょう?俺の時だってそうだったですもん。散々飢えさせられて、殺されて、勝手に奉られて、挙げ句邪神だの言われて、拝み屋やら祈祷師なんかで俺を縛り上げようとして、それを殺したら誰も来なくなったですし。だから平気で俺らみたいな『異常』な存在を殺す位は誰でもやると思って」
前半が予想通りの回答、殺しに来たやつを折角始末できるから。は良いのだ。後半は鬼の青年や自分達を異常と言ってるわりに冷めた目で私を見ている。まるで人間の方がよっぽど異常だと、嫌悪している。
「自分を基準にして人を測るって結構採点基準がおかしいと私は思うけどね?十人十色なんだから全部が全部同じわけないでしょ」
「へぇ?そうなんですか。じゃあ異常って貴女方人間にはどういうのを言うんですか?」
冷めた目に私を映しながらぼそりと問う。
「そりゃあ人それぞれの価値観によるでしょうよ。何がハッピーエンドで何がバッドエンドとかさぁ、ヒーローなんて見方を変えたら殺害者だし、時代と場合によって一般的な善悪がコロコロ変わるしさ、ニューハーフやバイセクシャル、百合族やら薔薇族のような同性愛者が敬遠されたり、受け入れられたりするように、人類皆平等と言いながらも貧富の差が生まれるように一個人の私に異常とは何か?と聞かれてもそれは私個人の所感による感想でしか答えられないし」
「そうですよね…。聞いてすみませんでした…」
「それでも言わせてもらうなら誰もかも歪んでない人なんていないと思うけどね?ま、別にあんたの過去がどーたらとか私にとっちゃどうでもいいんだよ。何?急に重い話を切り出したりなんかして。同情でも引こうと思ったの?」
「………」
冷たく接してみるとうつむき、縮こまってだんまりを決め込んでくれた。黙秘ですか。ですが残念でしたね。私の耳は生憎な事に地獄耳だったようで君の口元から微かに歯ぎしりが聴こえたんだよ。さて、畳み込むか。
ほどいた髪の毛先を手に取り、枝毛がないかチェックするふりをしつつ目の前の彼を見る。
「でもねえ?そんなこと急に言われても現実味が無くて同情のしようがないのよ。飢えさせられて殺された?じゃあ今目の前にいるあなたはなんなの?幽霊かなんか?そんなんじゃないでしょ?現に私は触れたわけだし」
「それはちょっと体を弄って触れるようにしたんです」
「そ、その設定って妄想と現実が区別付かなくなったいい歳した、あんたが 【求めてない】方の可哀想な人?それとも私が寂しくなって見せた妄想の友達?一番最後のは鬼の彼が証明したからないとして、そんなんじゃない証拠でもあるの?」
まあ、初対面の人には疑ってかからないとね。ボロ出してくれるなら速い方が良いし、こそこそと相手に内緒で経歴を調べる真似は面倒だし後ろめたいからしたくないのよ。後、青ね…、この呼び方もういいや、ボロでたし。こいつが求めてたのは同情とか憐憫なんですよ。で私が言ったのは頭、大丈夫?の蔑みの方。
緋牙青年はハァ、とため息を吐いてから自分の首筋に指を当ててトントンと叩いた。
「…分かりました。証拠なら見せますが…、怯えないでくれませんか?人間の姿でやるとご主人には結構えげつないのですが…」
「普段なら絶対に頷けないけど今回は我慢するわよ。で具体的には何する気?」
「簡単です。今から【人間には】出来ないことをするんです」
指で首筋をなぞっていくと、なぞられた後に赤黒くじっとりと濡れた粗い縫い目が浮かぶ。フランケンシュタインみたいな感じ縫い目は首を一周していた。
「さてと…」
一息吐き、両手で頭をしっかり掴むと頭を上へと引っ張り始めた。
「………」
その様子を見て最初は唖然として言葉を失った。次に沸き上がったのは恐怖で視線を逸らそうとしたのを噛み殺した。
だって、今こいつがやろうとしているのは一つしか予想できない。
ブチッ!
首から引き千切れる音が鳴る。嫌な予感が現実になる恐怖と、ゾワゾワとした不快感が全身を駆ける。目の前には軽く斜めに会釈したような頭が徐々に上がっていた。首は…見たくなかった。引き千切れる様子が見たくなくて穴が空きそうなくらい青年のつむじを見ていた。
ブチブチブチィ!!
一気に引いたせいかガクガクと揺れながら上がった。心なしか鼻に鉄の匂いが微かにしたような気がした。喉の奥から来るムカつきを我慢した。売り言葉に買い言葉であった自分の迂闊さを後悔した。
ブチィ…。
最後の糸が切れたらしく引っ張っていた両手に頭を抱え、胡座をかいた膝の上に下ろす。
「さて、終わりました。…ああ、やっぱり無理でしたか。怯えますよね。普通」
生首が悲しそうな顔でこちらを見ながら喋っている。
「…っ、驚かない方が恐いわよ…。これでも目をつぶらないであんたの方見てたことを誉めてもらいたいもん よ。後、分かったから戻して。目の毒なのよ。それ」
「あはは、結構キツいこと言いますね…」
「そりゃ言うよ。だっていかにも構ってちゃんアピールじゃない」
「っ!?」
「だってさ?他にも方法あったはずなのにわざわざ首引きちぎったのって例えばリストカット経験した人が同情してもらおうと昔の傷痕を他人に見せるようなものじゃない」
さあて暴言に食いつけ。お前の本音を見せろ。
「……せぇ…」
「正直、見せられた方は気持ち悪くて嫌なの「うるっせぇぇ!!!!!あんたになにが解る!!あんたに俺のなにがあ゛っ!!」
青年の身体がぼやけて消えたかと思うと私の目の前に現れたのはでかい金色の毛皮と赤い目をした狼だった。でかいのって本当にすごいね。威圧感がビシビシ来るのよ。
「……少なくとも昨日今日拾った捨て犬の事なんて解るわけ無いわよ。それにしても…へえ~、さっきまでは飼い犬みたいなふりして、自分を否定されたら噛みつこうとするなんて。いやはや、妖怪っていうのは訳分からんね」
こんなこといけしゃあしゃあと言ってますが私のチキンハートがバックンバックン鳴っておりますよ。…胃が痛い。
「黙れ!!」
その一言だけで部屋の空気がビリビリ震える。右のお隣さんから苦情来ないといいなぁ…。左の同棲してるバカップルは知らん。仲良し音掻き消えろ。
「うるさいよ。それに黙るとかないかんね。あ、ひとつあるよ?馬鹿らしくて呆れて閉口する、なんてのはあるけれど?」
(うわー…。言っちゃったよ…。もう、取り返しつかないな)
「なんでっ!!あなたは!俺みたいな化け物を分かってくれると思ってたのに!!!」
「うわーお…、一方的かつ熱烈な告白ありがとう。でも、自己完結はすんな。もう一度言うけど、おめーの考えなんざ私には一辺たりともわかんねぇよ」
「じゃあなんで今の俺に怖がらないんですか!?考えが分からない化け物相手になんでそんな暴言吐けるんですかねぇ!!」
「危険なヒモなんざ養いたくないからじゃん。質問を返すようで悪いけど、じゃあなんで人を殺すの断ったの?鬼の青年から聞いたわよ。あんたを不意打ちした相手、人間を滅ぼすんでしょ。いいじゃん今まで溜まりに溜まったストレスとかリビドー発散出来るんじゃないの?」
「それはっ!」
狼の言葉が詰まる。
「本当に憎かったらそっちに付くでしょ?本当は分かってるんじゃない?人間そうゆう奴ばっかじゃないって」
「………違う…」
弱々しく呟く。
「違わないと思うよ?さっきの質問の回答だけど、少なくとも人間が嫌いなら私が暴言吐いた時点で殺せてたんじゃない?それくらい出来そうな状態でしょ。今だってさ。私が暴言吐きまくったのは最初の…あんたを殴った時点であんたの出方を窺ってたんだよ」
狼の緋牙が元に、人型に戻っていく。 うつむいて顔は見えないけど人に戻ってくれたからなんとか死の危険は回避できたっぽい。
「まあせめて…、辛かったのなら辛いって、助けて欲しいなら助けてって、変な打算入れずに言えば良かったってわけで…?…いっ!?」
落ち込んでるようなのでフォロー入れとかないと思って青年に近寄って行くとやけに青年の肩震えてるなー、と気づいて床見たら涙がちらほら落ちていたのでびっくりしたんです。
(やっべー…。大人の男泣かした~…。気まずいわー…。)
「なんでっ!俺は殺されなけりゃならなかったんだ?どうして俺は見捨てられたんだ?ずっとわからなかった……」
苦しげに顔を歪め、ポロポロと涙がこぼれている。
「ねぇ、私の好きなヒーリングホラー漫画書いてる人が、こう書いたんだ」
青年を抱き寄せて耳元で囁く。
変わらぬものが あるというなら 大きな 力の勝手に ふりまわされるもの 今も 昔にも 弱く 小さい いのち ばかり…
【著作・池田さとみ作・辻占売5巻29話カワボタルより抜粋。 】
「今の世の中にも動物とか平気で捨てる人もいるよ?捨てられて運が悪かったら保健所で殺処分されたりさ…」
「だからあんたを拾ったのもなにがあっても責任を取る覚悟で拾ったの。それこそあんたの人生背負う覚悟でね」
「後、気まぐれで拾ったわけじゃないから。あんたの命狙ってる?だったら私がなんとかしてあげるからあんたも私を信用しなさい」
背中にまわしてる腕の力を強めしっかりと抱きしめる。
どんな表情してるかわからないが、泣いて私の胸が濡れるのと、嗚咽、そしていつの間にか腰に回された手が強く私の服を握っていた。
いや、池田さとみ大先生はヒーリングホラーの巨匠なんだ!だから著作権問題に発展しようがいいんだ!私は池田さとみ先生を尊敬しています!
さて、反省。
明日香、姉御と言うか漢です。
雅鬼、性格がぶれぶれです。
緋牙、雅鬼と同じくぶれぶれ。