健在たる感情の残りカス…
どもです。2カ月も経ってるんですよねー…。いや、長いようで短いもんだね…。2カ月…!さて、グロいの、流血、が嫌いな方注意だよ!!後思ったより、バトル表現ナイよ!?中途半端ダヨ!?それでもいいならお楽しみ下さい。
『ねえ。人って凄いのね。言葉を作り、物を作って、挙げ句の果てには恐怖と畏敬から異形なる私達をこの世に放ち、信仰心という依存心から神まで生んだわ』
『私はね、知りたいの。彼らが何を思って私達を生み、何故、私達よりずっと早く前へと進み、跳躍していくのか。』
『彼らが夢見た力が具現し、私達になったけど、その力は手に余った。…結果、私達は暇を持て余し怠惰になり果てたのに彼らはまだ力を望んだ…。別にそれ自体になんの不満もないわ…。弱肉強食の世界だもの』
『でも、だからこそ私は全てが平和になる世界なんて嫌なの…。だって、悪役のいない御伽噺なんて誰が輝くの?そんな物語、登場人物の誰もが、その世界観の全てが腐るだけよ。悪が在るからこそ魅力的な物語になり、悪が有るからこそ全てを惹きつける登場人物が出来上がるの…』
『だから私は平和なんて嫌。つまらないわ。だから望むわ。不和を、悪を、苛烈なまでの喜怒哀楽を、人の可能性を。だから私は悪役を買って出る。それじゃあ、さようなら。いままで夢を見させてくれてありがとう。貴方を巻き込んじゃったのは誤算だったけど大丈夫よ…。私一人が全部背負うから…』
--気が遠くなるような昔の事--。
屋上にて、月を仰ぐ狐の姿があった。
(月はあの時からずっと変わらないのに人の世は随分変わったものね。…今、思えば価値観が違いすぎてたのよね…。敵を作るのなんて当たり前のことでしたね。でも、一度知ってしまったらもう駄目ね。人間の恋は--、癖になる甘い蜜だもの…。さて、そろそろ来客が来るみたいだからもてなす用意をしなくてはねえ。私と同じように人間の蜜を知った同胞を…)
「まあ、吸い取った妖力をほとんど結界作成に当ててガス欠の今、『存在の残りカス』である私にどこまで出来るかしら?」
「…そんなこと別段気にすることでもないか…。どうせもうすぐ時間ですし…せいぜい足掻きますか…」
狙われているというのにえらく落ち着いた様子で月を見るのを止め、もうすぐ誰か来るはずの階段を見やる。
「さて、鬼と犬は…」
その時、後ろの月明かりが『何か』に遮られ、その影が玉藻の影を覆い隠した。
「なっ!?上からっ!?」
「さっきはよくも騙してくれたなぁ?女狐よぉ?覚悟しろよっ!!」
月を背に、一匹のどでかい狼と、その背に乗った鬼一人が現れた。
しかし、雅鬼の激昂した顔を見てから驚きの顔は含みを帯びた微笑に変わった。
「なぁ~んちゃって。あなた達って、ほんっとに考え無しの馬鹿なんですねえ~…。此処まで来るとき、後ろを見なかったんですか?」
言われるがままに下を覗いた雅鬼の表情が焦りに変わった。
「なっ…!!旦那っ!今すぐ人の形になってくれ!!」
『今お前を乗せ…』
ヴォン!!!バゴンッ!!
直後、焼け後が残った2本の角材が巨狼を貫こうと下から飛来し、お互いにぶつかり合って木屑の煙を上げ、重力に従い下に落ちていった。
「ちっ、人型になって避けたか…。的が大きい方が当たりやすくて良いんですがねぇ。…いいや。小さくなった分、細切れにし易いですし…」
(それにしてもあの鬼…、とっさの行動が早いわね。爆発の時もそうだし、今のも人型に戻った犬を抱え、飛んできた角材を足の踏み場にしてそれを蹴って屋上に移ったとか…策士にとってはこの上なく厄介な相手ね…)
理詰めが基本である彼女にとっては相手がどう動くかを想定して手を打たなければならない。
その点雅鬼は頑強な肉体ととっさの行動力が彼女の想定を外れた。
二人は屋上に着地し、玉藻に向かって迫る。
「さてこう近づかれちゃあんたの負けだろ!!!」
「二人掛かりでこちら側に来ましたか…。くす…、私だってその気になれば接近戦でも渡り合えると自負してますよ?大昔に、遠距離だけだと苦労した思い出がありますんでねっ!!」
微笑がひどくあくどい笑みに変わった瞬間、彼女の九つの尾が驚くほど伸びた。毛むくじゃらの大蛇と勘違いするほどに伸びた一つが、雅鬼に襲いかかった。
「引きちぎられてぇなら最初から言えっつーのっ!!」
尻尾が伸びただけで殺傷能力が低そうなそれを難なく左手で掴むが掴まれてなお笑っている。
いや…、正確には【掴ませている】のだった。
「あっはは♪釣り糸垂らした瞬間、入れ食いなんて、ほんと馬鹿!!」
「ほざけ…いっ!!?」
尾を掴んでいる左手からざくりと嫌な音と強烈な痛みと、ぬるりと濡れた感覚が広がる。
「操るだけが能じゃないんですよ~?【そうやって】自分の身体をいじることだって出来るんですよ?」
尾を掴んでいる左手は血でボタボタに濡れ、堅く、曲がった無数の毛がまるで釣り針のように手の肉をえぐって食い込み、骨ごと貫いて離すことが出来ない。
「まずは片手一本封じときます。下手に切り落としても再生されたら邪魔なんで…心臓をメッタ刺しにします♪」
4つの尾が迫るが尾の先端は刃に変わっていた。
「一人…違うか…、一匹忘れてないか?女狐」
いつの間にか後ろに回り込んでいた緋牙が首に爪を立てようとしたが…、
「本当に、馬鹿ですねー…」
まだ玉藻が使っていなかった4つのうち3つが彼女を守るように取り巻き、1つが先端を刃に変え、緋牙の胴を薙ぐように切り裂いた。
「ぐあっ!!」
「手応えがありましたから多分臓物まで斬れちゃったと思いますよー?」
血に濡れた腹を抑えながら飛び退く緋牙に向かって余裕綽々の発言をかます。
「ま、最もあなたはこの鬼が居るから本来の力を使えないんでしょうけど…、甘いですね」
「いえ、躾が行き届いている…と言ったところでしょうか?」
「下手に動いたり、手を外したりしたら切れ目から内蔵とかが、どばっ!て、出ちゃいま…あら?」確かに手応えが有った。皮を、肉を、骨を斬った感触も確かに有った。
が、
「なんで…腹を手で抑えてないんですか」
緋牙は確かに飛び退く際に腹を抑えていたが着地すると同時にその手を傷口から離した。
ぱっくりと切れた甚平の中から見えるのは多量の血で濡れたお腹とうっすらとした軽傷としか言えない切り傷が見えるだけである。
「お前とは勝手が違うんだよ。痛覚と血が邪魔だけどな」
「一つ教えてやろう。お前は他人の身体に憑依するタイプだ。もっと言えばこの世に存在するために必要な条件である肉体が無く、精神の核となる魂が何処かに行ったあやふやな感情だけの存在だ。俺は肉体を創ってるんだよ。肉体は既に朽ちたが死ぬときに捕らわれてた感情が鎖になって動けなくなった魂だ。核となる魂があるから後は術で肉体を創るだけだ」
「そんなこと…、ただ妖力を空費しているだけじゃない!」
「確かに始めの内は消耗するだけだが、長期的に肉体を顕現させたいなら食いもん喰らって、分解して肉体を創る素材として当てればいい。造り終えたら術を解いても顕現出来る」
「つまり俺は肉体は生物のそれだから実質生きていると同義なんだよ。排泄行為とかは出来ないけどな。定期的に素材を補填しないと腐るし。ま、素材は身体の中に溜め込んでるから傷が出来たらそこにつぎ込むだけで傷が治る」
自分の手の甲の皮を引っ張って見せつける。
「なるほど…、魂縛りのバッテリー式の顕現方法ですか。ですけど、ただ一つにして、最大の欠点が有るでしょうに…。確かにその顕現方法は昔私も考えましたけど、【失敗した時のリスクが高すぎる】事から候補から外しました」
「二度目の死…魂の消滅だろ?俺は好きでこうなった訳じゃないからな。一応、保険は掛けてあるが安心なんてしたことないさ。元の霊体に戻ればリスクは完全に無くなるしな」
しょうがないといった顔で溜め息混じりの苦笑をする。
「後、こんな話を長々としてて良いのか?」
「っ!?」
気づけば後ろで血溜まりが出来ていてその上にベチャリと音を立てて何かが落ちてきた。それは、尾に繋がれていた雅鬼の腕だった。
「なっ…自分で腕切り落とすとか、正気ですか?あの鬼さん」
「ああ、あいつは自分で切り落としてないぞ?俺がお前の首に爪を立てようとして気を逸らした時、あいつは動いて避けようとしててな?避けきれない分だけ左腕で受けてたよ。で、何度も刺されてさっき、やっとこさ腕が切れた」
「っ!?何回も同じ所刺されて叫び声一つ挙げないとかマジでクレイジーですね!!」
「生憎、釘バットで何十回も殴打されるよりかはましだったよっ!!」「っ!?チイィィィっ!!!(こいつ、いつの間に懐に!!!!つか切り落としたはずの左腕がもう治ってるですって!?)」
ガキンッ!!!
すぐさま三つの尾を身体に巻くが少し間に合わず蹴りを入れられ、軽く吹っ飛ばされた。
「きゃあああっ!!!」
悲鳴を上げて数メートル先まで転がる。
「悪いけどさっさと終わらせるぜ!!」
転んだ玉藻に詰め寄るが、
「くっ!!嘗めないでっ!!」
ザクッ!!
「だぁっ!!?」
足の腱が縫われたように急に動けなくなり、転ぶと同時に激痛が走る。
「確かに操るだけが能じゃないと言いましたが、組み合わせないと誰が言いましたか?」
雅鬼の足には細長いパイプ状の鉄の破片が刺さり地面に縫い付けていた。
そして、屋上の周りを囲むように空にガラスの破片。燃え盛る角材。煤だらけでボロボロな椅子やソファ。ねじ曲がった鉄骨が浮かんでいた。
「悪いですけどこれ以上、形勢逆転なんかさせませんよ?」
にたりと下品に笑っていたがその笑みには少なからず焦燥が入っていた。
【小ネタ劇場・弟との会話。今は亡き妹の話その④】
り「ん?ああ、沙希ネエ久しぶり。父ちゃんと母ちゃん元気にしてた?」
さ「うん。相変わらず元気だよ。お父さんは白髪増えて嘆いてたけどね~♪」
り「ははっ!父ちゃんらしいな。で、姉ちゃんは?」
さ「ん~。ペットというか居候というか…、二人位お姉ちゃん家に住み着いてたよ?」
り「沙希ネエがそういうなら安心だな。ま、最も住み着いてる奴らが姉ちゃんに翻弄されると俺は思うけどなー」
さ「後、二人とも男で妖怪なんだよねー…。しかもお姉ちゃんにベタ惚れだし…」
り「そいつら趣味悪いな」
さ「りっ君酷い…」
り「だってあんな暴力女に惚れるってぜってー見る目ないって!!」
さ「嘘吐かないでよ…。りっ君だってフミちゃんとつき合えるように取り持ったのお姉ちゃんだって知ってるし感謝してるじゃない」
り「感謝してるからこそ憎まれ口を叩くんだよ。姉ちゃんだって知ってるはずだろ」
さ「素直になれない年頃なのね…。で、本音は?」
り「いつかそいつらをお義兄さんとか呼ぶ日が来るのかと思うと複雑だな…」
さ「そうね…」
り「しゃーねーなー!!愛する家族の為に今度姉ちゃん家に行っていっちょ見定めてみるわ!嫌がらせも込めてフミと二人でな…。くくく…」
さ「りっ君たら意地が悪い…」
続く。