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彼女は壊れる…狂った歯車(精神)は未だ戻ることはなく…

はい、玉藻編もそろそろ大詰めです!色々ありましたがここまで来ました!さて、今回は玉藻が主に出てきます。明日香も出ますがチョロッとです。


さて、それではお楽しみ下さい

最初この会社に入った時、私は怖かった。今でこそ慣れているが前に勤めた会社で私はいじめに近い扱いを受けていた。

憧れてやっとの思いで入った会社で私を待っていたのは憂さ晴らしには持って来いのカモという立場だった。

まだ禄に覚えてもいないのにその会社の先輩に仕事を丸投げされ、それに悪戦苦闘しながら出来たと思ったら目の前で書類をシュレッダーに捨てられて口汚く罵られた。「私になんて恥をかかすつもりだったの」と、言われた時は正直無理だと思った。それでもいつかは報われると思っていた矢先に上司に言われたのが「君はこの仕事に向いてないから辞めなよ」これは精神的にきつかった。だから、


だから、泣くのを堪え、笑顔を作った。


ニコニコと営業スマイルを浮かべてれば誰も追及してこない。


さらに生き残ろうと思って外面を作った。


今の私は本当の私じゃない。偽物の私だ。だからこんな事を言われても平気。


上司の言うとおりにしてればいい。


正面からおかしいと意見を言うよりも他人に任せた方が角が立たないし楽になる。


だけど憧れて入社した時はやる気が満ち溢れていた筈なのに気付いた時には自分の意見を言えない程、私は萎縮していた。それに拍車を掛けるように入社3ヶ月目のある日、私は職場で倒れた。原因は貧血。ストレスによってホルモンバランスが崩れ、生理の時にかなりの量が出血してしまい、それによって貧血を起こした。確かにいつも使ってるナプキンでは収まらないほど血が出て恐怖を感じたのは覚えている。

ただ、私が倒れたその時、思った事は今でこそ信じられないが(このまま死んでしまいたい)という死亡願望を真っ先に思い浮かべた。


倒れた翌日、私は思い切ってその会社を辞めた。入社3ヶ月、夢が砕かれ、憧れがくすんで見えるにはあまりに短い期間だったと思う。

お金の問題はあったが仕事の資本である体が悲鳴をあげ、このまま続ければいつか心身共に壊れると判断して辞めた。

勿論、周りの職場の人達は冷めた目やひそひそ声での非難や嘲笑を言いながら私を見ていた。


しかし存外、捨てる神あれば拾う神あり、というのだろうか。次の職場はすぐに見つかった。

本当にすぐだった。


会社から立ち去ろうと廊下を俯きがちに歩いているときに、狸竹庵部長と遥人さんに出逢ったのだ。

とりあえず泣くのを抑えながら挨拶はした。入社時の何もかも希望で溢れていた時とは違う、自分でもまずいと思うほどのか細い挨拶だった。部長は営業に来たらしく私が先程去った部署に用があったのか詳しく聞いてきた。

私は当たり障りの無い事を言ってごまかしたのを覚えている。ただはっきりとは覚えていない。その時の私は自分の気持ちを隠すのに精一杯だったのだ。ちゃんと笑えているだろうか?声は震えていないだろうか?感づかれていないだろうか?


しかし、部長にはお見通しだったようで名刺を2枚渡された。


一つの名刺に書かれていた名前は狸竹庵りちくあん 切哉きりや


もう一つの名刺に書かれていた名前は八雷やついかづち 遥人はると


「君さえ良ければウチに来ないかな?月の給料は若干安くなるけどちゃんとボーナスも出るから一年を通して見積もって見ればここより高いよ?それじゃあ考えといてね?」

部長は言いたい事を言ったらすぐに職場の方へ向かって歩いていった。

その一週間後、私はその会社へ面接に行った。前の職場は服飾系だったがここはデザイン会社だった。前の職場で辛い思いをした所為か緊張で体はカチコチに固まり、顔は真っ赤、言葉は噛む・どもる・呂律が回らない等の数々の失態。受付の人は苦笑いで目を泳がせていた。あわや失敗かと思われ、待ち時間の間呼ばれるまで意気消沈していると目の前に緑茶が入った湯飲みが差し出されていた。


「あー、大変だったねー…。まあ、面接の時なんて大体あんな感じだからそんなしょげること無いよ?まあ、今は面接受けてる人にお茶出ししてるんだけど私はここの社員なの。よろしくね?」気さくで社交的なその女性はとても魅力的に見えた。

「…はい。よろしくお願いします…」

そんな彼女に対し自分はとてもみじめに思えた。

暗くて声も小さい。そのうえ彼女に目も合わせられない。

そんな私に彼女は優しい声で語りかけてきた。

「ほら、お茶を見てごらん?」

「え?」

湯飲みをよく見てみるとちょうど良い温かさになったお茶の中心に茶柱が立っていた。

「あっ…」

「茶柱って縁起が良いらしいからね。きっと面接上手くいくと思うよ?それじゃあ頑張ってね!」

「……………」

彼女はにこやかに微笑むとお盆を抱えながら去っていった。こんな些細な気遣いが出来る彼女と接していてガチガチに緊張していた私の心は嘘みたいに穏やかになった。

その後の面接はまるで魔法が掛かってるみたいに上手くいった。




それなのに、




(嫌っ!!!違う!違う…違う違う違う!!!もうやめてよ!!私はこんな事望んでないっ!!)

「………っ!!戻ろうったってぇそおはさせませんよぉ♪」

(こんな事になるなら私の体を返して!!)

「本物が今更しゃしゃり出てももう遅いんですよう?あなたが憧れてたあの女には消えてもらうはずだぁったんですぅ…でも、想定外な事にゴッキーみたいにしつこい生命力の持ち主みたいで戦力が大幅に持っていかれたのよぉ。まあ、あの女のとどめはあなたの愛した男が行ってくれてるわあ♪ふふふ…」

(まさか……あなた最初から私の事騙すつもりでっ!!)

「あーもう、さっきから私の意識の片隅でごちゃごちゃと思考をぶつけないで下さいよぉ。あなた自身が今の自分の在り方を放棄したから私が貰ってあげたのにぃ~…ウザイなぁ~。もうとっとと沈んで下さいよぉー」

(あの時の話はどうなったの!?)

「えっ?なんでしたっけ?私は確か身勝手な願いを持ったあなたがいたから叶えてあげたんじゃないですかぁ?」

(っ……!!ふざけないでっ!!あんなの私の望んだ事じゃ…)

「だからごちゃごちゃうるせえんだよ。お前の願いの代償が今のこの状態なんだよ」

(あんなの一方的な……っ!!)

「だったらなんでお前はあの時抵抗しなかった?少なからずお前の中にそういう願望が有ったからだろうが。だから言ったろう?今更しゃしゃり出てももう遅いって。…解ったら大人しく自我の消滅を待っといて下さいねぇ?」

(私は…ただ、自分を許せなかっただけなのに…先輩と遥人さんはいつも優しくって…いつも二人はお似合いだなって思ってたのに…それなのに、いつの間にか遥人さんを好きになっていって…諦めきれなくて…告白までして…だから…今まで先輩が優しかったのが…今度会ったら軽蔑されたくなくて…怖くて、怖くて…だから自己中なふりしなきゃ…私が壊れそうで…それに気付くのが怖くて一生懸命やって…先輩やみんなに嫌われようとして…全て自分が招いた事なのにみんなを巻き込んで…私は、何のために存在してるんだろう?)


彼女は闇へと沈む。己を保つため、辛い現実から逃げ出すため、選びとった行動は全てを巻き込み、自分に返ってくるのを恐れた。彼女は自分で自分を狂わせ、破滅の道を選んだ。

彼女は壊れる。

自ら回した歯車は止まることを知らない。自動で動くそれの止め方を彼女は知らない。狂ったように動く歯車に安全装置など付いてはおらず、回した本人が居なくなろうとも動き続ける。ただ芽生えた欲望のままに。





ビルの屋上、


「はあ、やっと沈みましたかぁ。鬱陶しい女でしたねぇ。とりあえず、この青い紐が邪魔だったんですねぇ?いつまで経ってもこの体と私の魂が同化しないと思ったらこういう事でしたかぁ」

シュルリと髪に結んでいた紐を解く。


「魔妖封じの紐ねえ…。いつまで経っても力が戻らないと思ったらこういう事でしたか…。吸精の術を使う前に確認するべきでしたね…」

「まさかあの自我を持たせた人格があんなにも大馬鹿だったなんて詰めが甘々でしたよ…。まあ、夢で煽動して多少目的の修正は出来ましたけど」

さも頭が痛いと言いたげな表情をしている。


「ばれないように直前まで仮初めの人格で本人の代用をさせるつもりでしたけど…まさか正体をバラされるとは計算外でしたね…。それでも結果としては体を乗っ取った訳ですから及第点にしときましょうか。問題は八卦陣の方ですねぇ…」

屋上の床一面に書かれた紋様が淡く発光し、切れかけた電灯のように不規則な点滅を繰り返す。


「明らかにおかしいんですよね。さっき、本当なら精神を一旦破壊・矢継ぎ早に精神を改竄・再構成して私の傀儡にしようと思ってたんですけど…まさか相手が純正の妖怪な上に私の妖力が足りないなんて…。供給者の命まで妖力に変換する禁忌の術を使った筈なのに思ったより供給量と燃費が悪いし術も途中で砕ける、手下の管狐共は私からの供給が切れて一瞬にして消滅、と同時にマリオネット(男性社員)達を繋いでた糸(管狐)も切れてしまって手元の札はとっておきの一人しか居ない…。正直ここで手を打っとかないと形勢不利になるんですよね」


軽い溜め息を吐き、目の前を見る。彼女の目に映るのは風に煽られ、下から昇ってきた何かの残滓。


「結合と自壊を含ませた守りの結界ね…。なる程、供給量が思ったより悪かったのはこれの所為ですか…。なんらかの原因によってどこかの階でこの結界が発動。吸精の術は上から下へと流れる術だから結界がフタをしてそこまでしか効果が発動しない。しかも常時触れ合っている術に結界がそれの一部を取り込み、改竄して私の術に繋がる。後はソリが合わない術同士だと勝手に術が結界にダメージを与え、限界が来たら割れる。それによって初めて術に繋がった効果が発動する。術は結界と同時に消滅。つまり、時限式の無力化結界ですか…。いやはや、こんなものよく思い付いて作りましたね…。もはや感服しますよ…」


忌々しげに見ながら彼女は待つ。やがて来るであろう者達を始末せんと。


さて、妖狐に残っている駒はあと二つだ。


彼女の術を一番注がれ、猛獣すら素手で殺せるまでに至った傀儡、遥人。


恋に狂い、自己嫌悪に狂い、甘美な囁きに堕ち、心身を乗っ取られた、玉藻。


準備は整った。さあ、開幕の時だ。華々しく踊り、猛々しいまでに暴れろ。どちらかが勝つまで。それは僕が望んだのだから。

【舞台裏での攻防】


とあるビルの屋上、


黒いスーツを来た青年が至極楽しそうに焼ける街並みを見ている。その首には刃の付いたチェーンが巻き付いており、青年の周りには円盤形の鋸刃が旋回している。


「やれやれ、部下の後始末に来てみればなんでここまでの惨状になってるのかな?ねえ、兎君?」

青年の後ろには一人の男が立っていた。よく見れば青年の首に巻かれているチェーンは彼の服の袖から伸びている。

「んー?いやー、僕が思った以上の光景だよ。女って凄いねー?ビル街一つ火の海に変えるんだから」

それでも青年は平然としながら喋っている。

「ま、幸か不幸か、一人…いや二人とそれに集まったもう二人の計四人があっちに居るからね。僕が行かなくても女狐がなんとかしてくれるでしょ」

「?女狐が原因でこうなってるはずじゃないの?」

「おや?失言だったかな?まあいいや。君が大人しくしてくれば僕としてはそれでいいんだから」

「ちぇっ。竹切り狸は竹切り狸らしく鋸でギコギコ竹を切ってればいいのに随分近代的な鋸を使うんだから対処しにくいったらありゃしない」

ぶー、と頬を膨らませて文句を言う。

「こっちもだよ。奥さんと過ごす時間を減らして来てるんだから全く…勘弁してよ」

「へぇ?奥さん居るんだ?いいの?僕にそんな事喋って。奥さん人質に取って殺しちゃうかもよ?」

「そん時は、嫌々ながら女狐と組んでお前を惨めに嬲り殺してやるよ」

妖しくぞっとするような笑みを浮かべる。

「おお、怖っ!ま、今回は大人しくしとくから安心しなよ。僕の周りにいた妖怪共全員の首跳ねられてるしね。そんなん相手にするだけ労力の無駄だし」

「そっちも安心しなよ。何も本当に首を跳ねてないよ。僕はただ、化かしただけさ。なんなら本当にちょん切ってもいいけどね?」

「さすが狸…。化かすのは一級品だなー…。参るよ…」


これもまた舞台裏にあった静かな戦い。

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