タララ~♪オニガナカマニナッタ!…ふざけてみたけどどうしよう…
更新遅れてすいません!東京行ってたんです!
フードが脱げた(つーか、釘バットが引っかかって裂けた)少年はよく見ると綺麗な顔立ちでした。 後、元の毛色知らないけどバットで殴り過ぎたのか髪全体まんべんなく血がべっとり着いて赤毛の短髪になってます。額と生え際辺りに二本の尖った角がついてる。正直、ヘッドバットされたら超痛そうだな、位の残念な感想しか出てこないです。
さて話を逸らしてきましたが、やっべぇ…。児童虐待とか過剰防衛とかで訴えられたらまず負ける。
だって血だらけで顔に血しぶきを付けて、フード付きのパーカーはズタズタの血みどろになっていて、露になった素肌は痛々しいまでに擦過傷や裂傷、火傷で爛れた肌、ジュースが引っ掛かってなくて無事な所でも青あざや赤黒いアザ、べろりと剥げた皮膚、深々と抉れた身、所々でちらちら見えてる骨は砕けて髄液っぽいのが流れ出たり、腕の骨が折れて皮膚を突き破って飛びたしたりと、ほとんど裸の少年ですが…、逆にそれが最大限に痛々しさを引き出してぶっちゃけ壮絶にグロすぎる。
顔は殴らなかったとは言え、(だって頭蓋骨割ったり目玉に釘刺さったり、歯が砕けたりと確実に死んじゃうしメタな話、R15指定飛び出さんばかりの勢いでシリアルキラーばりの惨殺現場に変わってしまうので…)必死になりすぎた。いえさすがにやりすぎたとは只今猛烈に反省してますよ。自己嫌悪ハンパないし…。でも少年が本当に人間じゃないことは嫌でも理解しました。だって普通、ここまでやったら死んでるだろうし…。でも今はぼんやりとしながら地べたに座ってるだけで上記の凄まじい大怪我なのにまるで痛がりやしない。
「……怪我、大…丈夫…じゃないよね。救急車呼ぼうか?それが嫌なら病院まで運ぶけど…」
「んあ?ああ、気にすんな。人間の病院だと騒ぎが起こるし。それにほれ、見てみ」
心配して声を掛けると放心状態だった表情に意志が戻り、割りと平気な顔をして私の目の前に血みどろの右腕を近づける。
かりかり、べりっ…。
(うわ、かさぶたはがしてる。痛そう…つかまた血が出る…よ?え?え?)
「何、これ…」
かさぶたをはがした所は怪我なんてまったく無くなっていて、水とか弾きそうなぐらい綺麗な肌になっていた。
「これが俺の能力なんだよ。とはいっても、あんたに桃を引っ掛けられたからもう一つの能力は使えなかったけどさ…」
(おめぇ、とかげかよ…?いや、とかげだってしっぽ再生すんのにけっこう時間掛かるか…)
まあ、それは置いといて、さて、どうしましょうか? この惨状……。
血しぶきが飛び散った床、ひしゃげた屋上のドア、そして和希君の名前入りの血だらけになった釘バット……、和希君ごめんね…。そして酒井さん…潤滑油ばらまいてすいません…。釘使ってすいません…。本当にすみません…。あー…、頭ん中で童謡のクラリネットがぐるぐる再生されてるや。
(どうしよう、この後… 。潤滑油と釘はまだお店開いてるだろうしいけるとして今の時間スポーツショップは開いてるかな?弁償して済まなかったらどう責任取ろう…)
「なあ…」
自分より強いとは言え年下の少年を殺しかけて自己嫌悪が津波のように押し寄せ、悲惨な事件現場(ないし殺人現場)と数々の暴挙で意気消沈していると少年が呼ぶ。
「…何?今これの片付けについて考えてるんだけど…」
思わず大怪我の少年に愚痴をこぼしてしまう。
(ほんとどうしよう…)
「いや、あのさ、もし良かったらでいいんだけど…居候させてくんない?」
「…………………は?」
「いやだから居候にさせて」
…what?(ネイティブ風に)
おやいけない。他人の目の前でこめかみを押さえてしまったよ。お姉さん、異文化交流についてけないよ。思わず少年が何を仰りやがってるのか理解できなかったよ。いや、なにかの聞き間違えだよね?さあ、もう一度少年の言葉を聞かなければ。ワンスモアと尋ねて相手の意思を汲み取らなければ!
「ごめん、もう一度言ってくれないかな?」
「養ってくんない?」
随分直球にしたな!おい!
もう一度、what?(ネイティブ風に)
もう一回、what?(ネイティブ風に)
「何でよ…!!」
どう言葉を受け取ってもかみ砕いても理解できん!少年は何を考えてこんな殺しかけた女の所に居座ろうなんざとち狂った事言えるんだ!?もしかして私、さっきボコ殴りにした時に間違えて頭を殴っちゃったの?で頭のネジ数本外れたの!?
「いやー、今回あんたを始末するはずだったのにヘマしちまった訳じゃん?俺。…いや、本来の俺ならもっと平和的に解決したと思うんだけど、えっとボス?に暗示を掛けられてて襲っちゃったし、何よりボスに散々大口叩いてこの有り様でして示しがつかないと言いますかそのぉ…」
傷だらけの手でちょんちょんと人差し指同士を合わせ、目を泳がせながらの弁明はとても憐れでした。後、後ろになるにつれて声が小さく、弱々しくなっていくのがなお悲壮感を煽ります。が、
「知るかよ!」
軽く怒鳴っちゃったけど仕方ないね。
おかげでこっちは殺されそうになったんですよ?おたくらの事情なんか知ったこっちゃないんですよ?むしろいい迷惑だ。子供だから割かし融通効かすつもりだったけどなにそのくだらない理由!?大口叩いていざやって来てみれば女一人にやり込められて引っ込みつかなくなったから始末するはずの女にすがるてなんじゃそりゃ!?
「帰れっ!!!」
「頼む!!ヘマした奴はボスに消されるんだよ!本当に、後生だから助けてくれ!!」
怒鳴る私に向かって少年が手を合わせて頼み込む。
「勝手に消されてろよ…」
ごめんなさいね。読者様方。私、慈愛なんて崇高な精神は持ち合わせてはいないんですよ。はい。少年相手に釘バットで瀕死まで追いやる悪魔のようなヒス女です。
「おねがいじまずがらだずげでぐだざい゛ぃ…」
遂には私の足にすがり付いてきた。濁点つけまくんなよ…。そして泣くな。涙は女の武器なんだよ。ただでさえ子供に暴力ふるって自己嫌悪で居心地悪いのに、今見捨てたら一生夢に出る。
「ッ~~~…、はあ、わかったわよ…。好きなだけ居候でもヒモにでもなんなりとなってなさい。かわりにこの惨状どうにか出来たら考えてあげるから」
「マジ!やるやる!!」
涙がぴたりと止まり、恐怖で震えていたはずの少年の表情はけろっと、や、ころっと変わりました。
「………は?」
…態度変わりすぎだぞ?少年…。後、嘘泣きだったのね?次やったら屋上から突き落とすから。うん、殺意湧いたの。
「さって、言質取ったからにはさっさと終わらせるかっと♪」
パン!!と少年が手を叩くと何かが戻った感じがした。不思議に思い、屋上から周りの景色を覗くと車道には普通に車が通っていて、歩道を歩く人たちが見えてさっきまで何かがおかしかった帰り道が終わったのだと思い至りほっとすると同時に床に気付く。
(あれ?床の血しぶき消えてるや)
ちらりと少年を見てみるが少年は相変わらず大怪我で血がついたまんまだけど。
おお、和希君のバットが傷ひとつ…いや、釘一つとしてない。さっきまで血が釘に付着して殺意の波動もとい禍々しさをバリバリ放っていたのが綺麗に戻っているではないか。
酒井さんの釘も潤滑油も元通り。
さらになんと言うことでしょう!ひしゃげたドアも元通り…っておい!
「お掃除完了っと。これで養ってくれるんでしょ?ラッキー♪楽な条件で助かったー!」
うーん、と背伸びをして血みどろの右腕をバリバリ引っ掻いてかさぶたを落としている。傍目に見て超痛そう。いやそんなことより…、
「なによそれ!卑怯過ぎるじゃない!」
(化かすにもほどがありません!?)
「ああ、これはうちの旦那の能力なんだよ。えーと、あったあった。ほれ、これがあんたが日常から隔離される原因になった道具」
破れたパーカーのポケットから小さな腕時計を出す。見てみると10の以外の数字盤と秒針は金色で10の数字と時針分針が赤に染まっている。
「裏仕事に使われてるモンなんだけどあらかじめかけておくと、そこでなにがあろうと解くと元通りになるんだよ。証拠隠滅に打ってつけで後片付けが楽々な便利品。まあ、欠点は使った奴が掛けた術の中で怪我しても治らないこと位か?」
「…そんな便利機能知ってたらもっと別の事頼んだわ…」
「まあまあ、約束したんだしお願いしますよ」
「笑顔で揉み手すんな。むかつくから…」
嗚呼、私はなんのために必死こいて他の人たちから資材を拝借したことを悩んでたのだろう?良かったはずなのになんだろう。凄くモヤっとする。居心地の悪さは無くなったものの今度はどうしようもない虚しさが胸にくるんです。…仕方ないよね。私もあんなことしたし…。だから私が殺されそうになったり不必要なまでに怯えたり少年に暴行したり暴行してる内に罪悪感で泣き出しあまつさえ被害者に許してもらおうとすがったり人様ん家から勝手に物漁った挙げ句掻っ払ったりしてどん引くくらい汚れ役になったのも全て、無駄だったんですね…。
「今さら無理だって言われても無駄だかんな?言ったもんに責任とれよ。大人なんだからよ」
(ガキャァ…。子供だからって早速調子こいてんじゃねぇよ!てめえ養い始めたら覚悟しろよ。家事とかマッサージとか重労働押し付けた上に家賃搾り取ってやる。そんでもってネチネチと料理に文句言ったり、窓のサッシに指をスッとやって『こんな所でさえ掃除できないの?使えない子ねぇ?』とかいってやろうか?それとも極め付きのたわしをコロッケと称してお前のおかずとして食卓に出してやろうかぁ?)
と思いつつも、声に出さない態度に出さないとっても腹黒…もとい天使のような心の広さを持つ私で~っす♪うふふのふ♪(怒)
「はぁ…、分かってるわよ。でも、最後に一つだけ聞かせて?あんたその子犬をどうするつもりだったの?正直に話しなさい」
疲れた目を潜めて代わりに冷えた目を少年に向け、脅しを含めて問う。
「…ウチの旦那の命令で殺しに来た。…その子犬が俺の探してるやつならそいつは元は犬神だ。実力は単純な力比べならウチの旦那が競り負ける程の大妖怪なんだけど、不意をつかれて子犬の姿になってるんだと思う。ちなみに本来の姿はでかい狼の首なんだ。名は通称、緋牙っつうんだけどよ…」
パンパン!!
思いの外つらつらと喋ってくれたのは良いけどさっぱりわけ解んないので手を叩いて話を中断させる。
いやなんか壮大というかややこしくて正直つまんな…こほん。よそ様の事情なんかどうでもい…ごほんごほん。簡単にチンピラの仲間割れみたいなもんだと思っとけばいいんですね。うんそうしよう。
つかフラれたばっかの女にファンタジーな説明すんな。いつ暴言吐き出すかわかんねぇぞ?ただでさえ自分の事で手一杯なのに。
「はいはい、わかったわかった。とりあえずうちにきなよ。………ハァ、なんでこんな事になったんだろ……」
「よっしゃ!宿確保!あ、ついでにあんたの名前は?世話になるにあたって知っときたいし」
少年は明らかに喜び、ふと思い付いたように私の名前を聞いてくる。ついでかよ。
「なん?人に名前を聞くときはまず自分からでしょ?まあいいわ…明日香よ…葛之葉 明日香。名字、変わってるでしょ?一つ目は葛で二つ目は之、最後のは普通に葉っぱの葉。…分かるかな?」
一応少年に分かりにくい私の名字について説明する。ぶっちゃけ自分でもかなり珍しい名字だと思う。…というか…、疲れる。何か疲れる。 人生諦めも肝心だし、ぶっちゃけ断ったら殺されるんじゃ?っていうのがあったからほいほい引き受けちゃったけど…。ん?怯えてる割には扱いが雑?精神がキャパシティオーバーなんですよ。雑にやってないと鬱になりそうなので。
「ごめんだけどわかんねぇや。そんでもって俺の名前は雅鬼って言うから!字は雅な鬼って書く。これからよろしく!」
……私の名字を説明した意味ねぇ…。後、当て字なんだな。
つか順応早いな!何度も言うようだけど自分を殺しかけた女に笑顔で自己紹介って怖いよ。なに?私寝首かかれるの?それか少年が図太いの?私ら、さっきまで殺し合いまで行ってたよね?でも怖くて聞けない。でもチャンスだし、ここで聞いても…、
「…………」
「?どうした?もしかして俺の事、気持ち悪いとか?」
少年をじっと見つめるも、…声が出ませんでした。チキンです。しかも、相手を不安にさせるとか、不甲斐なくて遂に目頭が熱くなってくる。
「ううん!全然違うのよ!?これからよろしくね!!ちょうど、使ったやつの片付け終わったし、とりあえず行こうか!ああそれと、ちょっとこっちにおいで」
「おう!なんだ?」
(意外とチョロいな~…、この女。まあ、さっき俺のトドメをためらったりあまつさえ泣き出して得体の知れない俺を抱きしめるとか、根っからの善人だったみたいだし、その善意に付け入らせて貰ったけど…、こりゃあ随分と好都合な女だなぁ)
相手の心を傷付けまいと焦っていた明日香には雅鬼の思惑に全く気づいていなかった。
「いや、動かないでよ?」
「うわっ!?なっ!なにやってんの?」
「どっこいしょ!…いや、ご近所の方に見つかったら大騒ぎだし、何より傷に響きそうだから少しでも楽な状態にしたいし…」
うなだれながらもバックにバットや工具箱を入れ、少年を呼び、近寄って来たほぼすっぽんぽんな少年に上着を掛けてお姫様だっこをする。
焦って顔を真っ赤にした少年が肩を結構な力で押したり足をバタバタ動かして暴れるが身体が多少揺れる程度だ。だって私、人より力ある方だし。
「離せって!重いし!」
「ガキが遠慮してんじゃないわよ。あんた鍛えてるみたいで見た目より体重あるけどなんとかいけるって」
「女に姫抱きされるとか恥ずかしいんだよ!しかもほぼ真っ裸だし!」
「怪我人に恥ずかしいもへったくれもあんの?ん~…。じゃあこう考えろ。あんたは被害者で私は加害者。私はあんたに大怪我負わせて負い目があるから介抱してる。どうよ?それに誰も見ないように運ぶから安心しなさい」
「でもよ…!」
「ああもう。ピーピーとしつこい!子供だったら素直に人の善意に甘えとけ!じゃあ譲歩しておんぶでどう!?ちなみに貴様に歩くという選択肢は無い!!」
ぎゃあぎゃあと往生際悪く騒ぐ少年の目を見てきつめに言いつける。
「うっ…。ジャアコノママデイイデス…」
「それでよし。拝借したもん返すからバッグを持っててちょうだい。泥棒したら殺すかんね?一応先にあんたを玄関前まで連れてってから返しに行くから問題ないでしょ?」
「いや、無理いってごめんなんだけど一緒に連れてってくんない?」
「なんで?」
重いから疲れるんだけどな。
「……笑うなよ?その…、…心細くて、さ…」
真っ赤な顔でキョドりながら小さな声で言う。
「あーはいはい。へいへい」
(ぷっ。なんだかんだ言いつつも子供だねぇ)
内心微笑ましくなるも笑うなと言われたので適当に返事する。
「…なんか釈然としねぇ…」
顔は未だに赤いが今度は苦虫を噛み潰したような表情に変わっていた。
場面変わって(緋牙side)
(早く帰ってこないかな…ご主人…)
俺の名前、というか通称は確か緋牙、だったと思う。何分自分の名前にはとんと興味が無くて好きに呼ばせていたらいつの間にかこの通称になった。
今はご主人に拾われたしがない野良犬程度の妖怪だ。 さてそのご主人なんだが俺なんかをよく知らないのにほいほい拾ってしまった運の悪い人なんだが、俺は心配である。 黒兎が俺を探して来てご主人に危害を加えるかもしれないからだ。 先ほど鬼が俺を殺しに来たついでにご主人を始末しようとしたが逆に鬼が返り討ちに会って死んだ。
まあ、本当にご主人が殺されそうになったら逆に殺すつもりだったからご主人に俺の元の姿が見られなくて良かった良かった。
そもそもなぜ1日でこんなになついていると疑問であろうがその理由なんて案外汚い打算まみれの理由だ。あの人は俺にとって色々と『都合』が良いから、である。だから死なれたり、追い出されたり、正体を知られたら困る。簡単に言うならあの人は俺にとっての水や餌や宿に当たるライフラインだ。しかもペットという理由で基本なにもせず、帰ってきた時に顔色窺って媚びれば良いだけと、中々の厚待遇。
俺もこれから好きな時に好きなだけ喰えるのを想像すると気分が高揚してくるというもの。養生するには打ってつけだったのだ、が…、その、なんというか、初めて会ったときに手厚く保護されて情が湧いたというかなんというか…、無意識の内に『もしかしたらこの人なら俺を守ってくれるのか?俺が従うに足る人物か?』という甘えが出てきたのだ。人間相手に何を無茶な希望を見いだしているのか自分でも甚だ理解に苦しんだのだが、先ほどの鬼相手の立ち回りは見ていて中々に有意義だった。
漠然と感じていた安心感が偽物では無いと分かっただけでも御の字としておこう。うん、決めた…。これから俺はご主人に憑いていくことにした。…気になることがあるし。そんでもっていつかは嫁に貰うことも決めた。だって性格とか匂いとか立ち振舞いとか魂とか全部引っくるめて俺好みだし!一目惚れってやつだろう。ご主人の全部が欲しいし。
ガチャ…
お、帰ってきたようだ。
「…ただいま。やっとこさ帰ってこれた」
さて、労いにでも行こうか。
そんでもって明日香side
「ただいま」
少年を抱っこしてから十分後、ようやく返し終えて我が家の玄関に入る。子犬に向けてただいまと言ってみた。やはり家に誰かいるのが嬉しい。つか癒されたい。
ダダダダダッ!
子犬が廊下を走る。 (わー。あんなに一生懸命走るなんて可愛い~!)
ダダダッ!タンッ!!
走りからのジャンプ。(へっ!!!?)
ガッ!!ヨジヨジ…
服に捕まって器用によじ登る。(な…、お、おおお!!凄っ!?)
チュッ。ペロペロ… 鼻でキスしたのち唇を舌で舐める。 (っ!…まさか、多分これって、アタリなんじゃ?)
「お邪魔しま~す。……って何やってんですか…犬神の旦那…」
ビクッ!!(はあ!!?ご主人殺してなかったのか?はっ!しまった!!逃げないと!)ササッ!
不意に視界に入った少年を見て驚き、慌てて降りようとするが、
ガシッ!!
呆気なく頭を捕まえられる。
「ねえ~、雅鬼君」(猫なで声)
後ろにいる雅鬼少年を振り向くことなく優しい声色で喋りかけるも何故か周りの空気が重い。
「は、はい!!」
「これって元に戻せる?遂にボロを出したみたいだし」
器用なことに振り返らずに頭を掴んだ子犬を雅鬼の眼前に持ってくる。
(あわわわ!しまった。反応するんじゃなかった。断らなかったら殺すぞ!)
子犬なのに一人前に少年を睨み付ける。
「…いや、あの、…むり……」
「戻せる?」
未だに優しい筈なのに言外に次はないと言っているのが分かる。
「できます!!」
つい反射的に返事を返してしまった。
「ジャア、オネガイ♪」
優しい声色が怒気を含んだ低い声に変わり、未だ振り返らないのに後ろに目があるのではと思わせるくらい自然な動作でヒョイ、と雅鬼少年の腕に子犬を渡す。
「だ、旦那すみません!!」
得体の知れない恐怖に支配された雅鬼は迷うことなく子犬の背中を軽く叩いた。
その瞬間、ボンッ!!と煙があがる。
「いったた…てめぇ、俺の正体ばらしやがったな!?」
煙の中で雅鬼以外の声が聞こえてきた。
「すいません!すいません!俺はまだ命が惜しいんです!!」
パキリ♪ポキリ♪
「「ヒィッ!!」」
煙が晴れる。
そこから出てきたのは、クリーム色の髪と赤い目、少し痩せた身体で甚平を着た20歳くらいの美青年が目の前に居るが。煙の向こうで待っていたのは青年の方を向いていた般若でした。「楽しい会話中に失礼します。さて、言い残す事は?(獣畜生の分際で私の唇を軽々しく奪った不届きものの貴様にくれてやる慈悲等ない)」
「ひぃ!あわわわ!ままま、待って下さい!ご主人!!本音が見えてます!」
どうやら弁明の余地がまだあると思っているようだ。それに私が主人だぁ?どういう距離感なんだか分からないけどそんなことはどうだってよいのだ。
「そう、残念。私は待つという選択肢は与えていないのにね…。」
どうせきっっちりと上下関係を着けるんだから。
本来ならケンカ拳なるのが嫌なのでメリケンサックを使うのだが、この青年が私に与えたのは害ではなく好意ではないか。せめてもの褒美に私の素手に貴様という存在を『暴力』で葬ってくれようではないか。
「お願いです!!まっ、待って…」
そんな青年の言葉を無視して拳を降り下ろした。
ヒュン!
※あまりに凄惨な虐待現場なため音声のみでお送りいたします。
ドゴッ! バキッ! ごきり、ごき…
「ぐほぉう!お、重た…」
「うわぁ…。旦那が手も足も出てねぇ…。やっぱ、下手に足掻かないで降参しといてよかったわ…」
シュッ、
パァッン!ガンガン!
「ほぁ、ぎぃ、ぎっ、ぎぎゃあああ!!」
それは、残酷すら当てはまらない、慈悲なく、憐れみなく、惨たらしい有り様だった…と少年・雅鬼は言う。
「黒兎の旦那…あんた、敵に回しちゃいけない奴を引き当てたよ…。多分」
「何か言った?」
ニコリ♪と擬音が付きそうなくらい返り血が着いた顔で薄ら寒い微笑みを向けられた。
「何もないです!!」
「そう…なら黙れ。気が散る」
グチャア、グチャン!
ヒュン!
ビシャアアッ!!
「ゆるしてくださいぃぃっ!!!!ご主じっ!!!!ヒギャアアア!!」
ゴシャア!!!!