犬・鬼VS白面金毛九尾の悪狐!!…第一ラウンド開始!?
さて、結構遅れましたが許してくれますかね?それではどうぞお楽しみ下さい!
場所は変わって緋牙・雅鬼side
ゴン!!
「~~~っ!!んだよ!これ!?もろに顔面強打したじゃねえか!!」
歩行者も車も居ない、障害物など何もない道路で急いで走っていた雅鬼が何かにぶつかる。
「…何一人でパントマイムやってるんだ、雅鬼」
半眼で雅鬼を見る緋牙。
「や、違います!なんか結界が張られてるんですよ。こっから先に行けねーし…」
何もない空をノックするとごんごんと音が響く。
「そうなのか?どれどれ…。確かに結界が張られてるが…、簡単に破れそうにないな…これは」
じっくり見て溜め息を吐く。
「ぶん殴りゃあ壊れますかね?」
「止めておけ。疲れるだけだぞ」
腕を捲って軽く殴る素振りをするのを制止する。
「ご丁寧に九つも張ってある。しかも結界一枚の厚さと硬さはかなりのもんだ。強度もお前が殴った程度じゃ多分一枚目にヒビが入るかどうか…だな。…くそ、ご主人がこの先に居るのに…!」
忌々しげに明日香の居るであろうビルを見る。
「つか黒兎の旦那も粋な趣向してるっつーか…悪趣味な性格してるっつーか…。空間操作を使って人払いする辺り、今回は観戦ですか…」
ビル街に入ってからパッタリと、誰一人としてすれ違わず、近くの建物には生き物の気配すらなかった。近くのコンビニですら電気はついていたのに客も従業員も居なかった。
「ああ、やっぱりあいつの術か…。自ら堕ちたとはいえ、神の遣いとしての実力は健在だな。…だが、おかしいな?」
首を傾げて周りを見る。
「何がです?」
「ここまで御大層な結界を九つも張るなんて途方もなく莫大な妖力が必要になるし、ただでさえ一枚作るのに複雑で精密な術式が求められるのに九つも張るなんてとっくに妖力が切れてもいい筈だが…?とりあえず解除出来るかどうか、いじってみるか…」
結界にぺたぺたと触って何か書いている。
「黒兎の旦那が妖力を供給して術式のバックアップとかしてるんじゃないですか?」
やることがなくて暇なのか雅鬼は行儀悪く地べたに座り込んでいる。
「徹底的な人間嫌いのあいつがわざわざこんな七面倒な真似してまで殺し尽くそうとしている人間に手を貸すと思うか?」
緋牙と雅鬼の脳裏ににこやかな笑顔を浮かべる黒いスーツの少年が浮かぶ。
「あ~~…………。ないですね。はっきり断言出来ますね」
「…だろう。…一応あいつとはそれなりに付き合いがあったし、人となりを見て来たが…、あれは『人間を一人見たら十人はいる』っていうスタンスだったからな…」
「ゴッキー扱いですか…。そういや、俺もあの人の元で働いて性格を見てましたが、畜生残害を見て楽しんでましたね」
二人しかいない交差点のど真ん中で結界を見ながら解除しようとしていると結界の中から何かが近づいてくる。
「来たか…。外からちょっかいを出した甲斐がある。たが…随分と獣臭さが鼻に付く…」
「あー…、見つかったじゃないですか…。ま…、久しぶりにやり合いますか!」
二人の目の前に炎が現れる。
段々と人の形になり、それに合わせて炎の勢いが小さくなる。
炎が完全に消えた頃には『ある人物』がいた。
九つの金色に輝く尾を揺らめかして佇む彼女は綺麗だった。
『人間離れ』した美しさだった。
例えば、市松人形・ビスクドールやマネキン等、子供の頃は酷く怖いと感じると思う。大人になればマシになるがやはり怖いと思う。
人間に『似せている』のに『違う』から怖い。
それとは違い、彼女には血が通っており、意志を宿した瞳を持ち、足で地を踏みしめ、言葉も話せる。何より、生きている。
だけど『違う』
人は、九つもある尾を持たないし、頭に獣の耳を持たない。
「こんばんは♪珍しいですねぇ?お二人が揃ってるなんて」
彼女は別段その姿に触れるような話はせず、白々しい挨拶をする。
「御託はいい。さっさと結界を解け、女狐!!」
緋牙が噛みつくと玉藻は心底愉快そうにクスクスと笑う。
「一体なぁんの事でしょうかねぇ?フフフ…」
その笑いは知っているから出せる笑いである。
「しらを切るならつもりなら食い殺すぞ…!!」
「出来るのならどうぞぉ。もっとも、あなたに破れるならの話ですけどねぇ?アッハハハハハハ♪」
「っ!!」
今にも飛びかからんとしている緋牙を挑発して遊んでいる。
「旦那ストップ。俺が話を着けますから旦那は大人しく黙ってて下さい」
雅鬼が緋牙を制止して玉藻の前に出る。
「ご主人の挑発に引っ掛かったお前が出来るか?」
緋牙の何気ない一言に雅鬼の凛とした姿勢がずっこける。
「出鼻を挫かないで下さいよ…。あれは明日香が特殊だったし、何より後で解りましたけど、黒兎の旦那…俺に暗示を掛けてたんですよ。つーか…、旦那は知ってるっしょ?俺の鬼としての役職と郭育ちなのを。あんな目に毒な女にゃ慣れてますって!」
「…まあ、知ってるが…」
何故かそこで顔をほんのり赤くする。
「ちょっとぉ!!私を無視して二人で話さないで下さいよぉ!」
待たされて機嫌が悪い玉藻が二人をつつく。
「待たせたな!つー訳で俺の正式な役職を名乗ってやる。よく聞いとけよ?狐嬢さんよぉ?生まれは地獄、育ちは吉原の郭。今は欲界の六欲天の夜摩天で一角を担ってる。遊女の園、吉原では密かその名を轟かし、浮き世の郭を蹂躙し、雅みだりに遊んだ鬼にして魑魅魍魎の花魁道中の世界を闊歩した鬼…、雅鬼だ!てめぇの性格、気に入らね-んだよ。男に媚び売るんならもっと上手くやれよ。そこら辺のキャバ嬢の方がてめぇより上なんだよ!」
(あー、ヤバい。滅茶苦茶恥ずい…)
玉藻に指さしてきっぱりと啖呵を切る。
「なあっ!?私をキャバ嬢なんかと比べんなよ!!変な口上並べて…、アンタの頭わいてんじゃないの!?」
いきなりけなされて玉藻が顔を赤くして激昂する。
「はっ!わいてんのはテメェの方じゃねぇのか?テメェのその耳や尻尾みたいなのはどうせ男に頼んで貢いで貰ったんだろ?可愛い顔して大概な趣味してんなぁ?コスプレ女!!」
「コスプレ呼ばわりすんじゃねぇ!!てか、これはコスプレじゃないし!生えてますし!会社の男の精気や寿命を吸い取っ……ッ!?」
玉藻が口を唐突に閉ざすが既に遅く、雅鬼がニヤリと笑う。
「お、引っ掛かったな?つまりお前の莫大な妖力の供給はお前が落とした男共の生命力で術式は九尾の狐の知識か…。とりあえず禁術を使ってるのは解った。まるでサキュバスみたいだな?」
皮肉げに玉藻を嘲る。
「…ふう、うっかりバラしちゃったか…。乗せるのが上手いですね?鬼田さん…」
ばつが悪そうに爪を噛みながら雅鬼を見る。
「これでも昔は女の扱いは慣らしたもんだったんだぜ?狐嬢さん?」
「まあ、ほとんど正解ですが…、エッチ(情事)はしてませんよ?『吸精淫狐』っていうの使っただけですよ。お肌とか綺麗になるし、何よりすっごく力みたいなのが溢れるんですよ!!なんか気持ちいいし」
嬉しそうに自分の手の甲を見てウットリとしている。
「…誰に教わったんだ?」
緋牙が毒気を抜かれたように聞く。
「え?ああ…、愛の神様ですよ!私はイケメン達に愛される為に生まれてるんだっーて、こうこうこうすれば男の人達から寵愛を受けれるし、お金も増えるって!!夢の中で愛の神様に言われたんですよ!その通りにしたら本当にモテモテになって…、もう人生がバラ色に変わったんです!!」
((簡単に悪徳商法とかに引っ掛かりそうな典型的な馬鹿だな…))
「どうしたんですか?お二人とも?そんな可哀想なものを見る目つきで…」
「はあ…、なるほど。あれは取り憑かれてたわけか…」
「旦那…、俺、長いこと生きてきましたけどこんな簡単に狐の霊に騙される奴って初めて見ました…」
「普通は『私は神様です。貴方は特別な存在だから私が見えるんです』ってやって騙すのが常套手段なんだが…、随分簡単に事が進んだみたいだな。身体を乗っ取られてるな…」
「耳と尻尾が顕現してますからねー…。結構ヤバいですよね?あんだけの結界張れる奴が表に出て来たら俺ら潰されますよね?しかも結界に阻まれてこっから先行けませんし…」
雅鬼が玉藻を見やると玉藻は妖艶に微笑む。
「うふふ…。取引をしませんかぁ?」
「取引だと?」
緋牙が訝しむ。
「そう。私の恋人になってくれたら、結界を解いてあげま「却下」「パス」す…。え、え?ええええ……?ちょっとおおお!!!!?」
条件を言い切る前に断られ困惑している玉藻。
「俺はご主人以外に恋人いらないし、何より俺の方がご主人にぞっこんベタボレだからお前のその条件なんて飲む気なんてサラサラ無いな。頼まれたって御免だ」
はっきりとしていてバッサリと玉藻の恋人発言を切り捨てる。
グサッ!!
ピシィィィッ!!バキィッ!!
玉藻のハートとプライドに言葉の刃が刺さり大きなヒビが入った音。
「そもそも条件が割に合わねぇんだよなぁ…」
雅鬼が疲れたように口をこぼす。
「鬼田さぁん!なんなら私を性的な意味で抱いていいんですよ!?」
バッサリと緋牙に振られて必死な態度で雅鬼に縋る。
「いや、それで俺になんのメリットがあるんだよ…」
頭をぽりぽりと掻きながら呆れた目で玉藻を見る。
「私って可愛いし魅力的だからモテまくるから彼氏になったら自慢になるでしょ!!?」
「うわ…、自惚れってマジで聞くとイラッとくるな。捨てられる男の心情とか考えたことあんのかよ?つーか昔、吉原で人気の高級遊女侍らして遊んでた事あるから全っ然魅力的じゃねえし、第一誰彼構わず媚びを売りまくる節操ねぇ女なんか誰が相手してやるかよ…。遊女の方がまだ節操があるわ…」
「そんなぁ…雅鬼ぃ…」
目に涙を貯めて雅鬼を弱々しげに見る。
「ウゼ…。ん~…まあ、女を傷つけんのは後味悪りぃから嫌だけど、はっきり言うわ。俺のタイプじゃねえ」
ドスドスドスッ!!
バリィィンッ!!ガラガラガラッ!!
雅鬼の怒涛の言葉に最早ハートとプライドがズタズタにされて完全に打ちのめされた玉藻のハートが割れた音。
「……す」
顔を伏せ、肩を震わせながら蚊の鳴くような声が響く。
「あ、ヤバそうな空気にしちまったな~…」
「一応、構えとけ」
「…ろす。殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!ぶっ殺してやる!!!!」
頭を抱えて、頭に爪を立てて狂ったようにガリガリと引っ掻く。
「私の思い通りにならねぇ男なんて生きてる価値ねえ!!0だ!無価値だ!!!燃してやる…。全身炭に変えてやるっ!!塵すら残さず燃やしてやるぅぅ!!!!」
ボオオオ!!
玉藻が叫ぶと同時に玉藻の周りに数え切れない程の火の玉が現れる。
「フフフ…。アハハ♪アッハハハハハハハ!!アーッハハハハハハ!!!燃やせ…、燃やせ燃やせ燃やせぇっ!!燃やし尽くせぇぇっ!!」
その瞳は正気の色を失い、代わりに恋に狂った情念を宿している。
「…っ!!まじかよ!?あいつ、ヒステリー起こしやがった!!」
眼前に迫り来る火の玉を避けながら焦る。
「雅鬼。今から十分間、あいつから逃げろ」
冷静に玉藻の放つ火の玉を避けながら雅鬼に話し掛ける。
「敵前逃亡しろって言うわけですか?」
驚いたように緋牙を見る。
「いや、時間稼ぎをする」
「時間稼いだところでなんとかなりますかっ…てっ、あちッ!?服に火が移った!!」
慌てて火を消すがまだ火の玉は尽きない。
「さっき結界を触った時に中にあいつがいた」
「あいつってまさか鴉天狗ですか!?」
「なんだ。知ってたのか?」
「そりゃ、猿田彦神に仕えてる奴の気配位分かりますよ!」
「あいつとコンタクトをとってみたが、忌々しいが今はご主人と一緒に行動している!で、あいつに『今から十分間は時間を稼いでくれ』と言われてな。あいつでもできるかどうか分からんがアテがあるらしくな。時間があれば結界を解除が出来るだろうから、それまで耐えろ!」
この会話の間、ずっと四方八方から飛び交う火の玉を避け続けています。
「無茶言いますねっ…と、あぶね…。ま、理由が分かれば何も文句は有りませんよ。お先に失礼しますよっと!!」
タンッと地面蹴ってジャンプすればまるで飛んでいるように空高く浮いている。
「っ!!逃がすかぁ!!追いなさい!!」
雅鬼の後に続いて火の玉が雅鬼を追尾し始める。
「よし、俺も行くか…」
緋牙がそう呟くと雅鬼が逃げた逆を向いて駆け出して行く。段々と速くなり、まるで一陣の風のような速さでそこから逃げる。
「~っ!!ちょこまかと鬱陶しいなあぁぁ!!もう!!」
雅鬼・緋牙side終わり。
???side
一時間前、明日香がいた4階のオフィスにて、地面に何か落ちている。
よく見れば杭をかたどって加工されている水晶のストラップだった。それは4階より上の階から迫って来る何かを防いでいた。
4階から上は、ほとんどの花瓶に入っている花が枯れている。
そして人間はただ一人を除いて全員が老人と化している。
『ただ一人』を残して。
「…………………」
再び4階・オフィス。
パキッ!
水晶に小さなヒビが入る。
事態が急転するまで後、5分。
【小ネタ劇場】・この時、巫女業兼マンガ家の彼女は。
へ・先生!早く原稿仕上げて下さい!締め切りまで後3日きってるんですよ!?
す・う~…、病気って事にして休んじゃ駄目?
へ・駄目です!ウチの漫画誌で先生の作品は代表格の一人なんですよ!?
先生の作品が有るか無いかで売上が7%も違ってくるんですよ!!
す・たった7%だけでしょー…。いいじゃん別に休んだって…。
へ・駄目です!僕は先生が原稿書き終えるまで付きっきり世話しますから先生は腕が棒になるまで原稿を書いてください。
す・編集君が苛めるよ~。うわあん!
へ・嘘泣きしたって無駄です。馬車馬のように働いてください。
す・…ちっ。
へ・舌打ちするな!
す・分かったわよ。やります。やるから台所に行って栄養ドリンク取ってきて。あ、目が覚めるヤツね?
へ・やるとなったら人をパシりやがって…!分かりましたよ…。持ってくるから逃げ出さないでくださいね?
す・あはは、逃げない逃げない。だからさっさと持って来い!
へ・はいはい…。
す・行ったわね。(明日香ちゃんに贈ったストラップのブルパ(金剛杭)…発動しちゃったかぁ…。本当は今すぐにでも助けに行きたいけど…、原稿書き終えるまで動けないしなぁ。ま、明日香ちゃんだからなんとかなるかな?)
す・ったく、これだから自営業は辛いのよ…。さっ、原稿書くか!
へ・先生~。栄養ドリンク取ってきましたよ。
す・お、ありがとさん!
終わり。