番外編・愛のお返しを贈る獣とそれを拒む女ぱーとワン①
長くなるから小分けにしました!
それではどうぞ!
さて、やってきてしまいました…。
白き愛の祝福日という名の自制心を無くした獣が惜しみなくチョコのお返しを計画し、それを実行する日が…。
その名も、獣は白き愛の祝祭をひたすら狂喜する日。
え?ルビおかしくないかって?
あいつの様子を察すれば当然と思うけど…。
回想、
バレンタインデーの夜、
ダダダダダダッ!!
廊下をけたたましく走る奴が居る。
「ご主人~!!好きです!!大好きです!!大大大だいっ好きです!!」
そんなことをのたまわって私に突進して来て渾身のタックル(抱きつき)をしてきて抱き潰そうとして来た。(シモネタじゃなく物理的にだ。…骨がメシメシ音を立ててましたよ…)
「ノガァッ!!?」
HPごっそり持って行かれました。
そんな死の淵に片足突っ込んだ私とは正反対に喜色満面でハレルヤをBGMに私を抱き潰してる緋牙。
(ああ…、死んだはずの父方のおじいちゃんが私を迎えに来てる…。おじいちゃん、天使と知り合いになったんだね…。え?私を迎えに来てくれたのね…。大丈夫、すぐに逝ける…ヨ…)
幻聴だろうか…、
女の人が歌う賛美歌が聞こえる。
「あれ?ご主人?ご主人!?返事して下さい!!ご主人!」
緋牙の言葉が聞こえない明日香はおじいちゃんと共に天国に登る。
(うわぁ!ここ綺麗だね!おじいちゃん。え?お前が来たら悲しむ人がいるのに気づいたからまだ連れていけなくなった?なんで!?おじいちゃん私の事嫌いなの!?)
(違う。お前を愛しているからこそだ。それにまだお前は男を知らない。それは余りに可哀想だ…、て、おい!!おじいちゃんなんで知ってんのよ!?)
(え?ちょっ、ちょっとぉぉ!?え?大丈夫。お前をいつも見守っているよ。おじいちゃん…。でも、あんな奈落の底に落とそうとしてるじゃない!って、なんか引きずり込まれるぅぅぅぅ!!)
ふと、夢から覚めた感覚がして動いてみると布団に寝かされたようだ。
目をうっすら開けてみると見慣れた自分の部屋の天井が目に映る。
「う…う…うう…ご…ごめんなさいぃ…っく…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。だから、死なないで下さいぃ…ご主人!」
最早呪詛に近い『ごめんなさい』を緋牙が泣きながらひたすら呟いている…、怖いよ。
「旦那!明日香の目が覚めたぜ!」
今まで雅鬼が看病をしていてくれてたらしい。
「本当かっ!?ご主人!!大丈夫ですか!?」
「ちょっ!?だん…ぐわっ!!」
緋牙が雅鬼を押しのけて私の顔を覗き込む。
「あ…れ?おじいちゃん…は?」
と呟けば緋牙の目からブワッと涙が溢れてくる。
「よかった…よかったあああ!!」
ギュッと抱き寄せられる。
「ご主人を抱き締めてたらいつの間にかご主人の意識が無くなってて、俺…もうどうしたらいいのかあぁ…わ…から、なくて、でも、よか…よかった…!!ふ…う…うわあああああん!!」
顔を歪めながら私を抱き締める。
ギュウウウウウッ!!
多分…、全力に近い力で…。
(ああ、また視界がホワイトアウトして…逝…く…)
「やめろ!!旦那ストップ!!また明日香を黄泉送りにするから!!」
雅鬼が抱きつく緋牙をべりっと引き剥がす。
べりっとだ。マジックテープを剥がすが如くだ。
「大丈夫か!?」
雅鬼が切羽詰まったように聞いてくる。
「ゲホゲホッ…。うえっ…今度は死神が迎えに来たような…」
多少えずくが大丈夫だ。
剥がされた緋牙はしょぼくれながら謝る。
「あ、すみません…つい、嬉しくて」
つい、で殺されそうになる私って…。
「いいのよ、別に」
出来るだけ微笑みかけるが、
心の声、
『なんだったらお前も何回かに分けて苦しんでみる?今ならあの世行き(各駅停車無しの直行便)の片道切符もつけるけどねぇ…』
それを理解した緋牙は、
「えっと…、俺一回死んでるんですけど…」
「ん?何の話?」
慈愛顔で見てるが、
心の声、
『へぇぇ、私の本音を読めるようになったんだ?まあ、ご褒美に教えて上げましょう。私がその程度の事で諦めるとでも?だから『何回かに分ける』って思ったんだけどな…』
緋牙は戦慄する。
(ご主人なら俺を殺れる…。冗談抜きでなら本当に…『死ぬ』と思う)
「…出来れば往復切符でお願いします」
「はあ、まあいいよ…。私も今日は意地悪しすぎたからね」
緋牙にHPをごっそり持っていかれ、げっそりとだるそうに言う。
「ありがとうございます。えっと、その代わり…ホワイトデーは期待してて下さいね…」
顔を赤らめながらもじもじと呟く。
「へ?」
自分でも間抜けな声が出たと思う。
「俺、ご主人への愛の想いをいっぱい込めて贈りますからね!!」
顔は赤いままではにかみながらホワイトデーの予定(時限爆弾)を約束(設置)した(純粋な好意イコール悪意0%な)あいつを誰が怒れるだろうか?
で、ホワイトデー当日に至る。
ついに時限爆弾の爆破刻限の秒読みカウントダウンが始まった訳だ。
さて…読者の皆様はここでこう思うだろう『なぜそんなに怯えるの?』と…。
確かにプレゼントで怯えるなど悲しい人生を送った人か人為的に歪められた人位だと思う。
だが相手は緋牙なのだ…。
自分の思いの丈をぶつけ、私に天国を見せ、
また心配して思いの丈をぶつければあわや死神に黄泉の国への観光旅行(死神というガイドさん付き)の旅行案を一緒に相談しながら組み(格安ツアーで六文銭以下だそうだ)、
挙げ句、恥ずかしそうにしながら私にホワイトデーを期待して欲しいと…。
正直な話、命懸けな日になると予想しています。
全力で私に突撃を実行する奴が容易く想像出来る。
しかも恐ろしい事に悪意がゼロなのだ。
つまり、無邪気。
子供の無邪気は時に恐ろしいと聞く。
悪意の無い、にこやかな笑顔で私をうっかりで殺すんじゃないかと思う訳ですよ。
死神さん…、(旅行案を相談してたら意気投合して友人関係になった模様)お迎えよろしくお願いします。
そんで、今朝。
「ふんふん♪ふふんふ~ん♪」
笑顔で鼻歌歌いながら朝食を食う緋牙。
「……冥福を祈る…」
私に視線をチラリと合わせ不吉な事を言う雅鬼。
「…やめてよ…まだ決定したわけではないし…」
だが内心、諦めと後悔が渦巻いているけどね…。
意地悪するんじゃなかった…、クッキーあげなきゃよかった…。
「ご馳走様でした!」
食べ終わり行儀良く手を合わせてご馳走様する緋牙は笑顔である。
「あ、ご主人」
何かに気が付いたように私に呼び掛ける。
ビクッ!
「な、何かしら?」
怯えるがしょうがないじゃないか。
この会話が命を左右するかも知れないじゃない!
「買い物に行ってきます!バレンタインのお返しを買ってきますので楽しみにしてて下さいね!!」
恥ずかしそうに照れ笑いしながら心底幸せそうに私を見ながら言う。
…こういう純粋な好意に弱いんだよな…、私って…。
「うん、行ってらっしゃい!楽しみにしてるね!」
内心、号泣してるけどね。
「はい!行って来ます!!」
笑顔で出かける奴は不思議な事に、キラキラと輝いてるように見えた。
そして緋牙が家を出て行き、家には雅鬼と明日香が居るわけだが、
「…せめてあの世で苦しまないよう、知り合いの鬼に頼んでやろうか…?」
心配してくれてるのだろうが言ってることは死後についてじゃないか…。
「…気遣いだけ貰っとく…。とりあえず、死なないようにするわ…」
次話に続く。
小ネタ劇場【緋牙、甘えてみる】
ペラッ、
ソファーに座りながら雑誌を読む明日香さん
トサッ、ころん。もぞもぞ…、ぐりぐり。
あ・??なにしてるの?
緋牙がソファーに寝転び、明日香の膝に頭を乗せ、頭でお腹をぐりぐりと擦り付ける。
ひ・ご主人…、頭を撫でて貰えませんか?
上目遣いで明日香を見る緋牙。
あ・別にいいけど…
ひ・やったあ!じゃあ膝枕で撫でて下さい!
あ・わかったから頭擦り付けるのやめなさい…
ひ・はーい!
笑顔な緋牙。
ナデナデ、ナデナデ、
明日香の手が緋牙の頭を撫でる。
ひ・もっと撫でて下さいぃ~!
ぐりぐり、
今度は手に頭を擦り付ける。
あ・はあ、わかったわよ…。めんどくさいなあ。
ひ・えへへ~♪幸せです♪
あ・あーそう、良かったね。
棒読みで返事する明日香だが内心、
『ぐりぐりするのって可愛いな…』
とか思ってる。
ある休日の昼下がりの出来事でした。