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番外編・チョコを狙う獣と独身処女(27)の攻防戦ぱーとオニ

やっと終わった…。


糖分多めを目指したから色々ツッコミ所あふるる出来になりました。



お待たせしましたー!!どうぞお楽しみ下さい!!

さて、緋牙が籠城してる間、明日香と雅鬼はというと。


「痛っ」


台所にて包丁でチョコを刻んでいたら指を切ってしまった。


じわりと血が出てくるがそんなに深く切っていない。チョコにも混ざってないのでセーフ。そういえば地元の友達が学生時代の時にバレンタインにチョコをあげようとしていたのでチョコの作製を手伝ったのだが、湯煎で溶かしたチョコにおもむろに自分の人差し指をちょっぴり切って血を混ぜようとしていたなあ。もちろん止めましたよ。本人曰く恋のおまじないとのこと。魔法の呪文はブラッディバレンタインですか。お前が狙ってるのは(ハート)じゃねえ、心臓だ。呪いはまじないとものろいとも読むがそれは確実にのろいの類いだからやめろ、と諭したな~。結局完成したチョコは渡せずじまいだったのだが。ほろ苦い思い出だ。まあ、その友達は最近地元で結婚しましたよ。ーーーその相手と。チョコ事件より前から好きでそっからずっっっっと執念で追い続け、やっと結婚までこぎ着けたとは結婚式で聞いた本人談。割りと本気で引いた。

そんな事を考えているうちに血がどんどんにじみ出てくる。


(あー、ティッシュティッシュ!)


スンスン…。



「なー、明日香ー。もしかして血が出たか?」


最早リビングで雅鬼の定位置となりつつあるソファーから世間話をするように訪ねてくる。家主は私なんだけど。まあ家事も手伝ってくるから別にいいが。というか何故かバレた。おかしいな?慌てた素振りなんてしてないからバレないはずなんだけど…、そんなに分かりやすかったかな?


「え、なんで分かったの?」


指の血を口で吸いながら問う。


「いや、単純に血の匂いがしたから」


ケロリと答えるこいつがすごいと見えた私は悪くないと思う。見た目人だけどやっぱり違うんだね。素足でスチール缶ペチャンコに潰したり、片手でスチール缶やペットボトルを丸め潰したり、使用済みのガス缶を自分の爪刺してガス抜いたり、うっかりで割ったガラスコップを私にばれないようにするために破片を握り潰して砂状にしたのに手は無傷だったりと、うん、こいつ怖えよ。力の権化だよ。よく生き残れたな私。しかも体格良し、顔も良し、おまけに鼻まで良いとかなんなのこの無駄なハイスペック。

「え…あんた、…どこぞの警察犬みたいね…」

まあ、普通に引くよね。

「んな引くなよ。鬼っていうのは血肉の匂いとかに敏感なんだよ。…それに警察犬は旦那だろうよ」


苦笑いで返され、ああ、確かに警察犬はあいつだな、と合点する。前に試しに最近買った香水の匂いをテスター紙につけて嗅がしてみたところほぼ説明書に書いてある通りの原料を言い当てたり、その香水を付けて何時間位経ってる時間を当てたり、晩御飯の隠し味をさらっと言い当てたりとこっちもこっちで怖い。

調子にのって『ご主人が今着ている下着の色も分かりますよ!』と言ったときには思わずゴミを見るような目を向けてしまったが。


「ま、その能力買われて俺が旦那を仕留める筈が、人間…しかも女にタコ殴りにされたんだけどな…。割りと弱点突いてくる相手って今まで生きてきて居なかったからあん時は死を覚悟したぜ?」


何処か遠くを見つめるような顔をするがその憂い顔が様になる…が、私そこまでタコ殴りにしたか?…したな。血まみれだったな…。


「今じゃいい思い出話じゃない…。アハハ…、ハ…」

笑い流そうとしたらジト目で睨まれた。


「はあ…、笑い話で済むと思ってんなら、随分とちゃらんぽらんだよなあ?明日香…」

コイツつり目だから睨まれたら結構怖い。


「あ、あんただって私を殺そうとしたじゃない!殺すか殺されるかの瀬戸際だったんだからしょうがないでしょうに」

どうよ!普遍的なこの事実!


「まあ、あの時と比べたら随分俺も変わったけどな!そういや俺行きたい所あるんだ。一緒に行かないか?」


いい笑顔だ…。


不思議とキラキラして見えるよ。だが、コイツ話をすり替えやがった!まあいいだろうよ。話がお流れになったなら何でも良いんだ。


「別にいいけど…、どこよ?」


ばんそうこうを指に貼りながら聞いてみるとソファーに座りながら一冊の雑誌を見せてくる。



「雑誌で見つけたんだけど近場でバレンタインフェアやってる店が載ってたんだよ。ケーキ屋なんだけど、雑誌のチケットを持ってカップルで行くと特別サービスでケーキバー食べ放題なんだよ!」



雑誌を受け取って読んでみるとそこまで値段も高くないし場所も近い。しかもおしゃれな感じのお店だった。内心、(うわあ、こいつの彼女役かよー。)とか思ってませんよ?ええ。


「うん。ここならいいでしょう。じゃあ、出掛ける準備するね」


その30分後。


で、準備完了。


私は灰色の飾り気の無いロングスカート、黒色の長袖セーターです。



軽い上着を羽織り玄関に行くと雅鬼が待っていた。



赤のチェック柄の上着に白の長袖シャツ、紺色のジーンズを着ていた。


こいつ赤が似合うなー。


まあいい。気にしてたら女として負けを見る気がする。


「待った?」


一応聞いてみる。



「そんなに待ってねぇよ。大丈夫だ」


平然と答える辺り本当に待っていないのだろう。


なんだろう…。


デートとかでありがちな待ち合わせみたいな会話だな。


「そっか。じゃあ行こうか」


私が玄関のドアを開けると雅鬼が聞いてきた。


「あ、いや…、旦那はどうするんだ?」


「ああどうせ、拗ねてんだしほっといて大丈夫だと思うから」



冷たい女と思わないで欲しい。ただあいつがうっとうしいのだ。


「そっか…。ならいい、行こうか!」



雅鬼もすっかり行く気分だ。




後に2人は緋牙からものすごい恨み言と嫉妬を嫌になる程浴びる事になるのだが…。



家を出て30分歩いた所にお店はあった。


歩いてる道中、女性の視線は雅鬼に釘付けだったのは言うまでもない。知り合いと思われたくなくて結構早めに歩いたのにいつの間にか隣を歩いてるからあきらめた。



だって、涼しい顔で歩いてるんだもん。

男と女だし…、もっと言えば人間と妖怪だし体力に差はあるだろうから。そんなこんなでケーキ屋に到着しました。パッと見、長蛇の列とは言えないがすいてるわけではない。店の前に大体6人くらい並んでいる。


「並んでるけどどうする?我慢できるなら並ぶけど」


私はぶっちゃけ並ぶのは好きじゃない。時間がもったいないじゃない。


雅鬼は列を見て、



「んじゃあ、並ぼうぜ。こんくらいなら待てるって」


サラッと並ぶ事を決断した。

まあ、私も待てるしいいか。



列に並んで3分後、



ティロン♪


カシャ。


等々の携帯カメラのシャッター音がしてくる。




通りすがりの女性や列に並んでいる女性や店内の女性、更には男性に撮られている雅鬼。列は2人程進んでいるが雅鬼が目に見えてイラついている。イケメンも苦労すんだね。と、自分でもアホらしい事を考えている。そういえばこいつは顔面含めてかなりのハイスペックなんですが、その気になりゃ女の子をとっかえひっかえ粉掛けまくれるのにそういう行動を見たことがない。同性愛者なのか?と冗談混じりに言ったことがあったが、その時は凄まじく怖い顔をして、「ちげえよ?」とひどく冷めた声で言われて凍り付いた事があるので絶対に違うんだろうが、だとしたらこの見た目で枯れてるとか世の男女は悲しむでしょうね。本人300歳超えてるって言ってるから枯れててもおかしくはないとは思うけども。


私はというと頭の中で音ゲーを再生している。

音ゲー中毒者ならではの技。まあ今は、シャッター音で邪魔されるから止めてるけどね。


しっかし、写真撮るとかシャッター音くらい配慮して欲しいもんだねぇ。


携帯カメラ向けられる方も気持ち良いものでもないし。


注目されて気持ちいいとか感じる人は別にいいと思うが、それは注目されたいから努力したのであって別にそんなことを考えてない人にとって状況や人によってはただ不快なだけだと思う。



、そんなこと考えてたら前の列が進み、私達が最前列になった。




さて問題です。


後ろの列にいる女の子は何を喋っているでしょうか?


そして私の隣にいる人の機嫌は良いでしょうか?悪いでしょうか?



正解、



後ろの女の子は、


「前の男の人、チョー格好良くない?」


「マジそうだよね。声掛けてみよっか?」


「え!!マジ、隣の彼女さんに悪くない?」


「彼女の方は絶対普通だって!むしろ私達の方が可愛いし?てか彼女の方の髪型だっさ~い」


「あー、マジ言えてるー。彼女さんの顔見えない辺り程度知れてそーだもんね!」



あー、そうですか。


私の顔は雅鬼のイケメンフェイスに劣り、隣にいる女すら目に入りませんか。これでも金掛けてスキンケアしてんですけどねー。

ちなみに髪型は髪用ゴムで一つにまとめただけです。


いわゆるおさげ。



そんでもって隣に居る方ですが…、



イライライライライラ。

明らかにイラつき度が上がってます。



ああ、出掛けた時はにわかに浮き足立って期待して、心なしか楽しみで早く行きたいと身体がアピールしてたのに今はイライラしていて早く帰りたいと発しているオーラが私を刺す。


確かバックにミント味のボトルガムが入ってたはず…。


ガサゴソとバックの中をあさっていたらボトルガムが有った。




「ミント味のガムがあるけど噛む?」


「……貰う…」


ムスッとしながら返事する。


バックの中からボトルガムを出して雅鬼に渡す。



「…サンキュ…」


一応お礼の返事はするようだ。



ボトルガムの蓋を開け、粒状のガムを3つ取り出して口に放り込む。


バリバリとガムを噛む音が鳴り、徐々に音が小さくなる。



音が完全にしなくなったくらいに店員さんに呼ばれた。



「次の方、席が空きましたのでご案内いたします」


メイド服っぽいがメイド服と言うよりはフリルの沢山付いてる可愛いエプロンと言ったところだろうか。


ウエイトレスさんに案内され、テーブル席に座る。


「あ、えっとバレンタインフェアのチケットを持ってきたんですけど…」


「ああ、はいよ」


雅鬼が気づいたように雑誌から切り取った券を出す。


ガムは先程紙製のナフキンに包んでいる。


ガムを噛んで大分落ち着いている。

チケットをウエイトレスさんが見て数取器 (カチカチ押して数を計るのに使うカウンターのこと)を取り出すと、クワッと目を見開き、心なしか動揺している。


「おめでとうございます!記念すべき100組目のお客様でございます!只今オーダーをするのでその間ケーキバーで時間を潰してて下さい。オーダー!コード、VDF・CS入りましたー!!」

VDF・CSバレンタインデーフェア・カップルサービスの略称だと思われます。


そんなことを知らない明日香さんは、

「え?え?何!?ミッションかなんか!?」

「あぁ~…。マジかよ…。嘘だろ?」

「え?あんた知ってるの?なんなのこれ?」


「ありがとうございます!衣装も直ちに用意しますから…。それにお二人ともお綺麗なのできっと写真も栄えますよ!それでは私は店長に報告しますので失礼します!」


ダッとスタッフルームに駆け込む。


気のせいだろうか?

厨房が忙しそうに合図を送ったり、


スタッフルームの中がざわついている。



私は呆然と雅鬼は頭を抱えながらテーブル席に座っている。


「……ねぇ、雑誌とチケット、…もう一回見せてくれない?」


ウエイトレスに多少ビクつきながらも状況を確認しようと詳しく書かれているだろう雑誌とチケットを見せるよう頼む。



「…ん?ああ、ほらよ…」


ずーん、という表現がよく似合うほど落ち込んでいる雅鬼はテーブルに置いたチケットを渡す。



チケットには 【バレンタインデーフェア開催。カップルで来た方には特別サービスとしてケーキバー半額!】


うん、別段変わった所はないが、よく見ると、


なお、このチケットをお使いの方に朗報です。なんと100組目のカップルさんには特別サービスとしてウエディングドレスとタキシードを着て貰い特性チョコケーキの入刀をやって貰います♪


思わず破り捨てたくなった衝動を我慢した私は偉いと思う。



だって、


「んな100組も来ると思わねえじゃん!普通はよ!しかも100組目になるなんてどんな確率なんだよ!」

心の代弁をありがとうございます。雅鬼君。


ああ、出掛ける前にもう一度見とけば良かった。

いや、見ても普通は狙わない限り大丈夫だろうと私と思うだろうよ。


「まあ今更何を言っても遅いと思うよ…」

「そうだな…」


二人して来た事を後悔しています。



「こうなったらケーキバーをたらふく食おうか…」

「やけか…、そうだな…そうするか…」



哀愁漂う2人。


「カップル用なんでしょ?…楽しめないよ…。ウエディングドレスって恥ずかしいしさ…。カップル用じゃなくてバカップル用だと思う」


ハッと一笑に付すがどことなく自嘲気味で悲しげな明日香さん。


「…こんなこと旦那にバレたら殺されるよな~…。笑いながらあっさりと『死ね。嫌なら殺してやろうか?大丈夫だ、じっくりと痛めつけてから殺してやる』とか言われそうだな…」


この世の終わりを悲しげに悟ったような顔をしている。


「あー、今頃どうしてるかな?部屋から出てそうだけど…。さて、お喋りはここまでにしてケーキ取りに行くか…」


一応心配はする明日香さん。


「そうだな…、確かドリンクサービスもついてたから飲み食いし放題だな…」



私はアールグレイの紅茶とフルーツタルトを選び、雅鬼はソーダと皿一杯のケーキをテーブルに目一杯置いている。



カロリーを気にして食べる私に比べてカロリーを気にしないでバクバクと美味しそうに食べる雅鬼。



気にする人と気にならない人の差ってやつか…。


クリーム系は太るから私には手が出せないけどね。



羨ましいと心で思った私は駄目な子ね…。




だが一番驚いたのはホールケーキ(ガトーショコラ)を丸ごと持ってきて完食してなおミルフィーユとソーダを取ってくる雅鬼だ。


ホールケーキがケーキバーに置いてある事自体に驚くがまだ食えるコイツの胃袋がすげぇよ。



ミルフィーユ、チーズケーキ、ブルーベリーパイ、アップルパイ、ショートケーキ、ムース系、クリーム系、ゼリー、タルト、マカロン、ティラミス、チョコケーキ、ロールケーキ、etc.などなどを凄い勢いで食べていく。



何でだろう…、見てるだけでお腹いっぱいなのは…。どうしてだろう…、悔しくても私には越えられないカロリーを無視できるのが憎いのは…。


美味しそうに食す雅鬼を憎いと思う私は本当にダメな子ね…。



涙が出ちゃう…。だって女の子だもん。


と有名バレー漫画の歌詞を頭に浮かべる。



「ん?なんだ明日香。あんま食べてねーじゃねえか。もっと食えよ!ほら、俺のやるからさ!」


ご機嫌な雅鬼君は私があまり食べていない事に気づき、フォークにショートケーキを刺しながら私の口に持ってくる。

「へ?あ~…、ありがとう」

最早、甘味の誘惑を前に精神がボロボロな私は大して考える事なくフォークに刺してあるショートケーキを食べた。



「ん~♪美味しい!!」

「だろ!!美味いよな!?」


ケーキを咀嚼そしゃくすれば生クリームの上品な甘味とイチゴの甘い酸味が凄くマッチしている。


ケーキを飲み込んだ辺りで補充された糖分が私の頭に雷を落とした。


今、私…、何を…した?


雅鬼がさっきまで食べてたフォークでショートケーキをあーんと口を開けて食べ…。


カアッ!!


一気に顔が赤くなるのが解る。


「ん?どうした?リンゴみたいに顔が赤くなってるぞ?」



キョトンとしながら聞いてくる。


わざとじゃないのが更に恥ずかしい。



「や!あのさ!あんたが気づいてないならいいのよ!うん!気にしないで!」


かなり焦ってます。



そんな私を見て雅鬼は怪しむが気が付いたのか顔が徐々に赤くなっていく。


「いや!俺は気にしてないぞ!間接キ…ス…くらいで!うん!俺は気にしてない!!」

なに恥ずかしいことほじくりかえしくれてんだよこいつ。


「そうよねぇ!?」


「そうだなぁ!?」


「…………………」



「…………………」


…沈黙が痛い…。



「あのー…」


ウエイトレスさんが呼ぶ。


「「はいっ!!」」


ハモった。


しょうがないじゃない!助け舟が出たなら乗りたい気分なのよ!?


「準備が出来たので着替えをして貰いたいんですけど…、よろしいでしょうか?」


助け舟と思って乗ったら泥舟でした。


「ハイ、ヨロコンデ!」


明らかに棒読みなのは許して下さい。


「ワア、タノシミダヨナー?」


コイツも同じようだ。


「ではこちらに…」



ウエイトレスさんに連れられて二人ともスタッフルームに入っていく。



女性用の着替え室に私、男性用の着替え室に雅鬼が入っていく。


1時間後、



雅鬼side、




「カッチリした服装ってなんか苦手なんだよな…」


黒のタキシードに身を包み、蝶ネクタイは止めてくれと頼んで黒のネクタイを締め、白色シャツを着て、ヘアピンを使いオールバックにしている。





「では、彼女さんを迎えに行って下さい」


着替えを手伝ってくれたウェイターに連れられスタッフルームを出る。



スタッフルームを出ると待っていたのは花嫁姿の明日香だった。



ローズピンクのヴェールを頭を掛け、肩は肌を出してはいるがヴェールが隠している。


髪はおさげを止め、結い上げられているが、いつもの直毛ではなく緩いウェーブがかかっている。


手は紅白の薔薇の花束を持ち、ひじまである白いシルクの手袋をしている。


化粧もいつもは軽めにしているらしいが、頬は薄いピンクのおしろいをして、マスカラもしている。口紅はみずみずしいピンクを塗っている。



白いドレス(Aラインという奴だろうか?)の裾はレースには鳥と花があしらわれており、全体的に儚い感じがする。そして、香水も掛けられたのだろう。百合のような香りがする。

「…どうしたのよ?やっぱ、合わないと思うんだけど…。うわ…、あんた体格良いからそういう正装とか似合ってるじゃない!あ、でもヘアピンは似合わないと思うから外すね?ちょっとしゃがんでくれない?」


「あ、ああ…。いいぞ…」


カツカツと音を立てながら歩いてくる辺りヒールを履いているのだろう。


しゃがんでやると優しくヘアピンを取ってくれる。


髪が垂れてくるが指で梳いてくれる。


『やれ、坊の髪は奇麗やの。私の髪より指が通りやすくて撫でやすいわ』


雛罌粟ひなげし姐さん止めてくれよ!俺はもう子どもじゃないんだ!!』


ころころと笑いながらあわや男娼になりかけた俺を裏方の仕事を回して助けてくれた花魁の雛罌粟姐さん。彼女が俺の初恋の…、人間。



『坊…、好きに生きなんし…、行く宛がないなら橘の旦那を頼ると良い。さて、地獄に落ちるだろうが、いいさ。やっと年期が開けてあそこから出れたんだからさ…』


『あ…、あ…ああ…アアアアアッ!!』


着物を赤く染め、腹から大量の血を流しながら俺を許し、眠るように死んだ姐さん。


俺が…、俺が姐さんを『殺した』…。



「うん、もういいよ」


明日香の声でハッと気が付く。


「しっかし、あんたの髪を梳いてるとなんか懐かしくなるわ」


この言葉を聞いて俺も懐かしくなった。…なあ、雛罌粟?俺は、あの頃から変われたかな?なあ、橘?俺は、あの頃より大人になれただろうか?なあ、母さん。父さん。あんたたちは何で俺みたいな化け物を、命が尽きるまで愛してくれたんだ?そんなもう誰も答えてはくれない疑問が何度心の中で生まれたことだろうか。ああ、もう一度だけ彼らに逢えたら良いのにな。


「大分楽になったわ。サンキュ」


「そう、似合ってるわよ」


ふわりと笑う。


「…っ!」


もういない姐さんはこの世にいない。なのに今、目の前にいる彼女の笑った顔はどこか本当に懐かしくなった。


「雛罌粟…」



「はい?」


声に出ていたようで目を丸くしている明日香。



「…えっと、雛罌粟なんて花束に入ってないんだけど?」


「あ、ああ。いや、少し昔を思い出しただけだ」


「なんか、どうかしたの?」


「何がだ?」


「いや、なんか、あんたの視線がなんかこう…、おばあちゃん見るような目なんだけど…」


「んな目でみるかよ。いや、本当に似合ってるよ。綺麗だ」


「へ!?あ、ああ…、ありが…とう?」


案外ストレートな誉め言葉に弱いのか顔を真っ赤にして普段の態度からは想像できないくらいに恥ずかしがっている。

「なあ、明日香。こっち向いてくれ」


「ん?」


くるりとこっちに向き、顔と視線を合わす明日香。


「ちょっと目を閉じてくれ」


「え、まあいいけど…」


目をつむる明日香の唇に徐々に近づける雅鬼。

チュッとリップ音が鳴り、キスをする。


目の前には目を見開き、顔が赤くなっている明日香と、キャーキャー騒ぐ周りの人達。


そして意地悪そうに笑いながら満足げに明日香の唇に自身の唇を重ねる雅鬼。


「良いもん見せてもらったお礼」

ああ、なんでだろう。昔を思い出す度、後悔ばかりして寂しくなって辛かったのに、なんで今はすごく懐かしいのに、すごく幸福で目眩がするくらい満たされているんだろうか?


雅鬼side終わり




明日香side



「~~~~!!?」


声にならない悲鳴を上げる明日香さん。


(公然の面前でキスしちゃった…。殴……れない。人前で殴れないぃ!!)


「キスまでしてくれるなんて…、ありがとうございます!!」


ウエイトレスさんが感動したように褒めてくれるが、


(別にお礼なんて言わなくていいから!)

とりあえず花束を片手で持って太ももつねってやる。


「いつ…」


痛そうに顔を歪めながらやっと離れた。理由を問うか。小声で。


「いきなりなにすんのよ!」


「髪を整えてくれたお礼だよ。ついでに見てる人にサービスと思ってやっただけだよ。キスくらいでピーキャーわめく年でもねえだろうが」


しれっと平然と答えるコイツを心底殴り倒したくなった私は悪くない。疑問系じゃない、断定だ。だけど、くっそ、否定できない。確かにこういうキスでわめくじゃありませんよ!でもいきなりは無いでしょうよ!?

「ずいぶんとありがた迷惑はお礼ですこと」

「いやいや目の前に物凄く綺麗な別嬪さんが居るんだ。キスしたくなるのは男の性ってヤツだよ」

「口が上手いことで…」

「リップサービスでならもうちょい上手いこと言えるぞ?正直な感想だよ」

悪態をつけばさらっとほめそやしてくるので黙ることにした。

普段なら、「はいはいそうでしょうとも。私、キレーでしょうとも」と流せるはずなのにさっきからこいつの言葉を受け流せずにいる。



「それではケーキの入刀をお願い出来ますか?」

「ああ、いつでもいいぜ」

「ちょっと!!」


あっという間にチョコケーキのホールを用意され、入刀用の包丁を2人で握らされている。




「それではお願いします!!」


ははは、来なきゃ良かった…。


ちくしょーめ!いいだろう。腹ぁ括ってやんよぉ!!

入刀は予想通り、スッと入って切れた。

「ありがとうございます!!」



ウエイトレスさん、そんなに言わなくていいから…。



「うわぁ!お姫様と王子様だあ!」


年端もいかない小さな女の子がキラキラと目を輝かせながらこちらを見ている。

やめて、お嬢ちゃん。私らはあなたが思ってる程そんなに良いもんじゃないのよ!!?


つか花束が邪…魔…。

女の子と花束を交互に見る。


そして女の子の元に行く。



「ねえ?お姉さんの花束貰ってくれない?」


そういうと女の子は目に見えて喜んだ。



「え!?いいの!!」



「うん!はいどーぞ」


興奮気味に女の子は私が持っていた花束を受け取る。



服やケーキは貰えないけど、花束は自由にしていいと言われたのでこうしても構わないだろう。


「うわぁ!ありがとう!!」


純粋な笑みを向けてくれる。


ああ、救いや…、天使や…。


隣のサービスとか言ってキスするどこかの誰かさんとは大違いだ。



「ありがとうございました!どうぞスタッフルームに退場してくれて構いませんよ」


ウエイトレスさんが耳打ちしてくれる。


「あ、それでは失礼します」


「そうだな」


急いでスタッフルームに行き衣装を脱ぎ、化粧をいつものに戻してセーターを着る。



10分で終わらせました。人間やれば出来るもんだね。だって恥ずかしいんだもの。一秒でも早く脱ぎたかったんだもの。


雅鬼もすでに終わったようで待っていた。


緋牙用のお土産にケーキを買い、そそくさと店を出よう(だって恥ずかしいし…)とすると、



「お姉ちゃん!ありがとー!!バイバーイ!」


花束を持ちながら手を振る女の子が無邪気に笑いながらこちらを見ていた。



「うん!ばいばい!」


可愛いな~。癒されるよ。でも傷口に塩塗ってるよー。



そして店を出る。



夕焼け空の帰り道を歩きながら、雅鬼に恨み言を漏らす。



「あの女の子可愛かったね」

「そうだな」

「ほんっっっっとに誰かさんとは大違いだなぁぁ!?」



「なんだよ…キスしたことは謝るよ。俺だって今思えば恥ずかしいんだよ…」


ばつが悪そうに呻く。



「なあ、明日香…」


急に私の前に出て通せんぼする。


夕日を背に私の方を向く。


「いきなり何よ」


「今日は、ありがとうな?今日、すっげー楽しかった」

頬を人差し指でかき、照れたように笑ってそう言った。

「…別に良いわよ。私も…、楽しんでた所あるしね」

なんというか、こいつたらしだわ。ムカつきが一気に抜けたというか、憎めないわ。


「そうか?なら良かったよ。てか、すなおじゃねえなあ」

「うっさいなー。あー、恥ずかしい。というかあんただって格好良かったよ」

「え?マジ!?サンキュー!!ああいうかしこまった服とかあんま着たこと無くてさー。様になってるか心配だったんだよ」

言われっぱなしもシャクだったので褒め返せば、こっちが恥ずかしくなるくらい喜んでくれた。

でも、悪くないと思える。ああ、じゃあ言わないと。でないとずるいと思う。

「うん。本当に格好良かった!私こそ、今日はありがとう。楽しかったよ」

そう、本心を精一杯の笑顔共に答えた。


まあ、ここらで番外編は終わりにしましょうか。バレンタイン編終わり。


例え、その時、緋牙が部屋で泣きつかれて寝ていたとしても。例え、このあと茜色の空にUFOっぽいのが出現して辺りが騒然となったことも。例え、このあと明日香の友人である獣医ペティと遭遇して雅鬼とペティが妙な近親感を覚えて仲良くなったとしても。


「色々な突っ込み所を無視して強制的に終わらせたわね!」


作・ごめんなさい…。


あ・日にちギリギリに投稿する莫迦がなに言ってんのよ…。


作・返す言葉も御座いません…


あ・まだホワイトデーネタ書き上がってないんでしょ?


作・締め切りギリギリの漫画家の気持ちが少しだけ分かった気がする…。


あ・あんたのは夏休みの宿題を最終日に全部やるような感じ…。漫画家さんなんてもっと大変だと思うけど…


作・アハハハハ、うう…。その通りでございます…。

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