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超絶!?人VS鬼!!…まじですか…

結構グロくなっちゃいました。

【???side】


「やってくれたな。…あの犬…」

軽く目をこすりながら黒いスーツを着た青年が呟く。

「へぇ~。旦那でも失敗することがあるんすね~…」

青年の近くの木の上にパーカーを着た少年が聞こえるように独り言を漏らす。

「見てたらあいつを追えよ」

「いや~、俺じゃ犬神の旦那にゃ追いつけませんよ。後、さも自分の物のように言うの止めてくれません?その刀、兄貴の形見なんですから…」

ボリボリと頭を掻いた後、枝にぶら下がる。

「そうだったね。でも、取り押さえる位は出来たと思うんだけど?」

「いやいや、だから無理ですって。力、速さ、体力、俺が相手になるのは精々力と体力位が関の山ですね。それにあの犬神レベルの亡者相手じゃ憑かれたら俺の方がヤバイし」

さらに追及する言葉に呆れたように返すと、枝にぶら下げた身体をゆらゆらと揺らす。


「使えない…」

「ヒデェ…。それに旦那だったら幻惑の術の類いで迷わせること位は出来たでしょうに」

「無理だよ。あいつは鼻が利くから簡単に突破される」

「あー、なんせ犬ですもんね~」

パーカーの少年が片手を枝から離し、もう片方でぶら下がりながら空いた手で頬を掻く。

「猿みたいで目障りだからそれ止めてくれる?ついでに命令。追え。そして殺せ」

「うわーお、シンプルかつ慈悲のかけらもない冷酷な命令ですこと。はいはい、りょーかいしました…よっと!」


パーカーの少年が逆上がりの要領でくるりと回って枝の上に立ち、足場を蹴ると少年は大空を跳んでいた。それとは対象的に蹴られた枝はメキリと大きな音をたてながら折れた。


パーカーを着た少年。彼は鬼。その22時間後、彼は一人の独女、明日香と激闘を繰り広げる事になる。

【???side】終わり










所変わり明日香side、「いや~、フルーツジュースが安く買えた~!」


会社の昼休み、会社の屋上にあるベンチに座りながら私はスーパーの品を商品を見ていた。

スーパーと言う名の戦場から奪い合いを制したそれは正に戦利品。


ちなみに買ったのは、桃率100%桃絞りジュース、スルメイカ、無味無色無臭の炭酸水、お昼の弁当。


子犬は餌と水、風呂場にトイレを置いて、家でお留守番だ。今の季節(秋)なら気温に気を使わないで住むので大変楽。



同僚に食事に誘われたが断った。なぜならあの子に会うためだ。


「おーい、いるかー?」

ちょっと大きめな声を出す。 すると、

アー、アー、と鳴き声が返って来て、一羽のカラスが翼をはためかせて近寄って来た。


「おお、元気にしてたか~?カア坊」


昨日の話題で出てきたカラスがこの子だ。(ペッさん曰く、利発で甘いマスクしてる。らしい?そうなのか?)名前は簡単だがまあいいかな?程度で名付けた。カア坊との出会いは3ヶ月前、屋上で昼ご飯を食べようと思い、ドアを開けると地面でカラスが暴れていた。いや、片翼が血に濡れていたから猫にでもやられたのだろうかと普通思うんだけどね?。でも首に紐みたいなのが巻いてあってし締まって苦しげに鳴いてたのでその事を考えると人にやられたと思うんだけど…まあ、事情なんぞ詮索しても分かりゃしないので私の勝手な推測はここら辺にして、その後なんやかんやありながらそれを助けたのが今に至る。

で、自然に帰した後も何度か屋上に遊びに来ており、私はそれにちょっかいかけつつ遊んでいる。カア坊は聞き上手で、私の話を聞いてくれる。

「私、彼氏と別れちゃったんだ」

アー。

「これからどうしようかな?」

アー?

「いやね?カア坊よ、私、彼氏を盗られたんだけどね?私って、そんなに魅力ないの?」

アー、アー!

翼を開く、それは否定だ。三ヶ月間とりあえず養うにあたって意志疎通を試みて発見したのだ。カラスって頭良いんだと実感した。

「カア坊、あんたが人だったらあんたを恋人にしたいよ…」

思わず弱音を吐露してしまった。私ったら動物相手に何言ってんだろ…。と即座に思うが、

「なら、遠慮なく嫁に貰うぞ?」


割りとはっきりした声が聞こえ、びくりと身体を揺らす。

(えっ!?後ろに誰かいたっけ!?やっベー…、鳥相手に話しかけてるイタイ奴だと思われたらどうしよう~…)

そろりと後ろを向くが誰もいない…。 次に周りを見渡すもやはり誰もいない。

「カア坊…、私、なんか男の人の声が聞こえたんだけど病院行った方がいいのかな?耳鼻科辺りでいいかな?もしかしたら精神の方かな?まさか幽霊とか?」

アー?

つぶらな瞳で私を見て、首を傾げている。やべー、前から思ってたけど、カラスって頭良いって聞くけど人の言ってることもニュアンスとかで分かるみたいです。すごいね。


「きっと気のせいだよね?あは、いやねぇ、しおらしいなんて私らしくないよね?いつも聞いてくれてありがとね。はい、お礼のおにぎり。その辺にご飯粒散らかさないでよ?」

ちらりと腕時計を見るともうすぐでお昼が終わりそうだった。

「やっば!もう昼休み終わるから私行くね?じゃあ、また明日ね!カア坊」

急ぎ足でドアに向かい、別れの挨拶をした。ドアをくぐって閉めるときに、

「ああ、また明日、な」

とか聞こえたけど時間が無いので気にしない。

でもさっきのと今の声、どう考えてもカア坊の方向から聞こえていたような…。


所変わり、オフィスにて、

(さあて、書類を全部片すか…)

うん、と椅子にもたれながら背伸びをする。いつもはアリナ●ンでチャージするが、今日は子犬の事があるので早く終わらせるためにもとっておきのユ●ケルの箱入りの奴でチャージする。

(気持ちの切り替えにもなって大変よい。し、頑張らないと買ったお金が無駄になる)


私の目の前にある書類の山、スケジュールの調整依頼書の山、デスクの上に広がる嫌な山脈を衝動的に払い落としたい気持ちに駆られつつも仕事を開始する。


作業開始から三十分、

どんどんと書類の山を捌いている内に貯まった書類は減って行くが、ふと聞きたくない奴らの声がした。

「課長ぅ、これぇどうやるんですかぁ?」


仕事モードに入っていたのに一気にテンションがた落ちになる。


「えーと、どれかな?」

元恋人とぶりっこ後輩がいちゃついておりますよ。

あまあまですね。砂吐けそう。元カノの前でよくやってくれますこと。


イライラ。


「えっとぉ~、ここなんですけどぉ~」


イライライライラ。


「しょうがないな」


イライライライライライライライライライライライハイライラ。


見ないぞ。私は見ないぞ。ただでさえ今日残業確定でイラついてんのに今見たら間違いなく、ぶちのめしそうだ。主に元カレの方。後輩は年下で新人でピッチピチに若いからと・く・べ・つにおとがめなしにしとくよ?うふふ♪若いってイイヨネー…いや私も十分に若いですが、20代後半って人生の分岐点だと思うんですよ。私の場合、仕事を選んで肉食系キャリアウーマンなるとか、女としての幸せを選んで寿退社~…みたいな。

(まあ、振られたばっかの処女には夢物語的な妄想ですが…)


イラつくけど無視無視、イライラ、モヤモヤは仕事にぶつけた方が能率が上がる筈だ。

というか、仕事に没頭してる間だけ我を忘れられるんだけどね…。

うん、そうしよう。

(明日香、お仕事、だーい好き(笑)なんつって…。あー、帰ったら存分に子犬をイジって遊ぼう。そんで虚しさを癒してもらうんだ)


結果、業務終了時間、午後7時28分。普段なら五時半に帰れると言うのに大変時間オーバーである。

部長が珍しく素直に感謝していたけど、気持ち悪かった。だってあの人とは普段、基本的に犬猿の如く嫌いあってるし。いわゆる、同族嫌悪ってやつです。

とりあえず。スーパーの袋を持って帰路を歩く。途中、ペットショップに寄ってグッズを買う。

しかし、子犬用のグッズって割りと揃えるのめんどうだな…。

(えっとー、あの大きさで生後何ヵ月位だろ?3ヶ月、位かな?離乳食とかかな?それとも普通にドックフード?後、飼育本でしょ?うわ、ゲージ、おっき~…。場所取りそうだなー。そもそもあの犬どれくらい大きくなるんだろ?大は小を兼ねるって言うしな…。ペットシートは買っとくべきかなー?でも新聞紙の方が安くつきそうだし…)

試行錯誤した後、とりあえず、オモチャのぬいぐるみ(くまのでお腹を押すとぷきゅぷきゅ鳴る)と離乳食用の缶詰めを4つ買った。残りは休みの時に買うことにした。



電車に乗って降りたときには8時24分だった。


駅前から商店街を歩いていると、ふと違和感を感じる。

ああそうか、いつもこの時間まで開いてるお店がちらほらシャッターを降ろしていたり、店内の電気を消していたりしてるんだ。それに残業して帰る時間が遅くなったからか、と一人合点する。

それにしてもなんか変である。すれ違う人も時間が時間なだけにか、まばらなのだが、こんなに少なかったっけ?

そのままなんかおかしいな、という違和感を感じつつ家の近くまで歩いていくと横断歩道前に出るが、車道に車の一台も通らない。


あれ?もしかしてもう深夜?と思って腕時計をちらりと見てみると8時半を指している。遂に壊れたか、と思って携帯を見てみるもやっぱり8時半と表示されている。

…やっぱりおかしい。だっていつもならこの時間帯だったら人がそれなりにいるはずが、気づけば誰ともすれ違わないし、車も見かけない。


(今、秋だけどどっかでお祭りやってるのかな?で、みんなそっちに行ってて、車道もお祭りで規制されてるとか?でも、商店街は閉め始めてたし…。考えすぎかな…?)

百歩譲ってお祭りだとしても、人の気配もしないし、喧騒の一つも聞こえやしないのだ。

気味が悪くなって急いで横断歩道を渡り、家を目指す。


カンッ!


歩きながらも思考に耽っていた私の耳に甲高い金属音がとても近い所から鳴ってつい、足が止まる。


カラカラ~…。

風が吹いてそれが転がる音が響いて音の正体が缶であると分かって肩の力が抜けるが、遠くからでも転がる音が聞こえるくらい周りが静かなのだ。


なんだ、とホッとして止めた歩みを再開すると同時に缶の転がる音が止んだと思ったら、ガンっ!と缶を蹴る音がした。

次の瞬間には私の顔面にむかって缶が飛んできた。


「うわっ!?」

それをびっくりして避ける。

「へぇ、避けれるんだ。おねーさん?」

笑みを含んだような声が缶が飛んできた方から聞こえてきた。

「あっぶないわね!警察呼ぶわよ!?」

一気に冷や汗が出てきた。つかマジで腹立つ!

警察をちらつかせて、声の主を脅すが効果がなかったのか逆に興味を持たせてしまったのか、目の前にパーカーを着た15位の男の子が出てきた。

出てきた、というよりは飛び出たの方がしっくり来る。フードを被っているから顔が解らない。


「おっと失礼、お嬢さん」

「年下にお嬢さんなんて呼ばれる事なんて無いと思ってたわ。つかイタズラにしては度を越してると思うんだけど。もっかい言うけど警察呼ぶわよ?」


そう返すと男の子は笑いを殺すように、

「くくっ、怒らないんだね?」


(このガキャあ…、人が怒ってんのに女だからってなめとんのかいな?…ぶん殴るぞ? )


「…怒ってるわよ。で、何のようかな?お姉さんは早く家に帰りたいんだけど?」

誰か褒めてー。振られたばっかの傷心を抉るような悪ガキに大人な対応してる私を褒めてくださーい。


「いや、この辺で甚平を着た男の人知らない?」

「知るかよ」

「じゃあ、犬とか見なかった?」

(しつけぇなっ!!!)

というかなんでこんな事聞くんだろうか?何、もしかしてこのガキ、ヤのつくその道の方なの?


「昨日、子犬は拾ったけど関係ないと思うから」

「そう…。多分その子犬は俺ん所のだから返してくれない?」

「はあ?多分て何?お断りよ。後、こんなところで油売ってないでさっさと帰りなさい。補導されるわよ?」

するとガキはガシガシと頭を掻いた。

「んー、ま、言ってもいいでしょ。…どうせ消すし…。俺は鬼なんだよ」



「………」


…私め、今理解しました。不良かなんかだと思っておりましたがこの少年、(現実と妄想の境目が無くなった重度の)中二病というやつですね。


「生暖かい目で見るんじゃねーよ。マジなんだよ」

「うんうん。解ってる。大丈夫だよ。いつかきっと良い思い出だって笑い飛ばせる日が来るよ」

「おい聞けよ。ちっ、別にいいよ…。大体口先で信じてくるやつなんて今時居ねえし。まあ、いいか。だったら身を持って証明してやるよ…!」


(それにしても鬼?なんでまた鬼な訳ですか?どうせだったら別世界の神とか暗黒なんちゃら勇者~とかのが人気なんじゃないの?よりによって二本角で虎のぱんつの金棒持ってるあれ?)


そんな事考えていると男の子の拳が飛んでくる。

「ぎゃっ!!」

ゴバンッ!!!

危なげに避けるが、避けて正解だった。避けて数秒後、男の子の拳は私の後ろにあったコンクリートの壁に当たり、ぶつかったときに出た重い音とは逆に少年の片手は軽々とコンクリートを貫通していた。


「……なに、それ…」

(馬鹿力って言う次元じゃない!)

貫通したコンクリートの壁はバラバラと音ながらぽっかり穴が開いている。


「お解り頂けた?俺は正真正銘モノホンの鬼なわけ。だから、子犬の場所教えてくれない?」

私の横でコンクリをぶち抜いた腕を引き抜きながらにこりと笑う少年が怖い。

「……ちなみに断ったら?」

ほんの興味本意でおそるおそる聞くと、

「あ、目撃者は殺せって言われてるから」

目の前が心なしか暗くなった。


(現実だよね…。夢じゃないの…?ああ、でも心臓がうるさい。なにこれ?わけわからないや。でも理不尽に殺されるくらいなら子犬渡した方が…)


昨日の拾った時に見た、痩せて今にも死にそうだった子犬が脳裏に浮かんだ。ーー誰かに助けられたのにまた裏切られる、か。私なら嫌だな…。よし、決めた。獣畜生に命を掛けるなんてバッカだなー。よいこの皆は真似しないでね?とりあえず、決めてんのよ。動物を飼うなら最期まで面倒見るってさ。捨て犬に情けをかけるなら中途半端はいけないよね。


さて、普通なら屈している。が、「はぁ、だから、お断りって言ってんでしょうがっ!!」


ブレイクダンスの要領で地面に手をついて、回し蹴りを二発くらわせる。

「なっ!?ぐっ!!!?」


相手がよろめくその内に地べたに着地して体制を立て直して足払いをかける。案の定少年は転倒する。

「…いっつう…。いや、やってくれるねぇ…。人の分際で随分と舐めた真似してくれるじゃねえか!!」


スッ転んだ少年は私を睨みながら立ち上がる。性格が豹変し、今までの対応とは違って明らかな怒りが出ている。

(よし、怒ったならこっちのもんだ)

いやね?冷静さを欠くと思考能力も低下するんだよ。

だから、さらに挑発する。

「鬼さんこっちだ!手の鳴る方へ~♪」

本当に手を叩きながら少年が完全に立ち上がる前にアパートに向かって走り出す。

「クソがぁ!!!!粋がってんじゃねぇよ!!!!」


少年も私の後を追いながら喚くが怒号が凄い。耳がキンキンする。後、頭に被ってるパーカーのフードの中から二つのなにかが押し上げていた。多分、あれが角なんだろうな。


なめて掛かったのだろうが残念。実は喧嘩慣れしてる玄人(くろうと)なんですよ?私?後、振られたばっかの女の行動力舐めんじゃねぇ。

舐められっぱなしは性に合わないんだよ。

アパートの入り口まで来つつ、相手の弱点を考える。というか考えないと確実に死ぬ。対策考えないで蹴飛ばしたもんでかなり後悔してる。

なんかないかな?とバックを漁る。 今あるのは、ケータイ、会社の資料、お弁当に付いてた食塩、桃ジュース、スルメ、炭酸水、缶詰め4つ、くまのぬいぐるみ、あと、もしもの時用の催涙スプレー。

催涙スプレーしかないな…ん、待てよ? 桃、鬼、餓鬼、日本神話、黄泉平坂よもつひらさか、もしかしたら打開策あるかも…?


アパートの階段を使って2階まで登る。よし、鬼も使ってる。逃げ道は来た道位だ。


だから、これを使う。


プシュウウゥ~。


「目眩ましのつもりかあ?おちょくんのも…がっ!?あっ!、ゲホ、ゲホゲホ!!」

催涙スプレーを撒き、僅かでも時間を稼ぐ。


3階まで登り、そこで一旦廊下に出て、305号室を目指して走る。確か玄関前に小学生の和希君の木製バットがあった筈。ちゃんと玄関前にはバットが置いてあり、それを拾い上げ…、もとい拝借して、次に目指すのは5階の507号室の玄関前に置いてある酒井さんの日曜大工用品箱。


そこに目指している間バッドをバックに入れて、ビニール袋から炭酸水を取り出して塩を入れて思いっきり振る。弁当に付いてた塩捨てなくて正解だわ。

(赤飯弁当だったので付いてた)


鬼のいる階段とは反対側の階段を使う。


5階に着き、急いで廊下を走り、507号室の大工用品箱を難なく拝借出来た…出来たのだが、


大工用品箱を持ったはずの腕を不意にガシっ!と捕まれて工具箱を落としてしまう。

「つーかまえた♪」

「…あ…」


拝借して逃げようとした所で追い付かれて片腕を鬼に捕まれた。

「なにをしようとしたのかは知らねえけど、随分手こずらせたなぁ…?いたぶりまくって殺してやるよ」

ギリィ…。

「っ!?痛っ!!痛い!」

潰さんばかりに私の腕を握り、激痛が走り、遂にはミシリと腕から嫌な音が鳴る。


「ひっ!…それは、…い、いや!…止めて…」

痛くて涙がボロボロ出てくる。

「助かりたかったら子犬の場所を吐け」

そんな私を気にも止めずに聞いてくる。

「…6階の602号室よ…」

「そうか、じゃあお前は用済みだな。…死ねよ」

「…やっぱりね」

「なんだと?」

なーにが、なんだと?だっつーの。捕まったついでに生かしてくれるかな~?と打算で無抵抗だったけど、どのみち殺されるならなおのこと足掻かせて貰いますわ。つか、痛い目に遭っただけで損した。


「これでも飲んでろ!!」

器用に片手で、そして一気に炭酸水の蓋を緩める。


ブシッ!と勢い良く鬼の顔に炭酸水が当たる。

「ブハッ!」


急の事に驚いたか捕らえた私の手を離し、噴き出す水流を手で遮っている。

まだ中身の残っているペットボトルを投げつけ、落とした工具箱を拾って逃げる。


そして逃げて目指す場所は広い屋上。


「はっ…はぁはぁ」


階段を一気に登った為、息が上がってしんどい。

ちらりと後ろを見ると鬼が走って来る。

バックから先ほど使ったあれを取り出す。

「まだ残ってて良かった!」

もう一度催涙スプレーを撒く。

プシューウウゥ。


「来るってわかってたら、んなもんきくかよ!」


怯まずに登って来るのは予想どおりだったので空になったスプレーを鬼に投げつけて一気に登る。

距離になんとか余裕が出来た所で最後の時間稼ぎを行う。

大工用品に入っていた潤滑油を撒きながら階段を登る。。

バシャバシャと通った後の階段が油まみれになってかなり滑りやすくなった。

「うおっ!がっ!」


案の定催涙スプレーの煙りと涙で視界を遮られた鬼は油に気付かず、足を取られて滑って落ちたようだ。


そんなこんなで息が上がりつつも屋上に着いた。


早く仕込まないと勝ち目がない。




数分後、屋上にて、


「ぜってーぶち殺すあのアマ!!!」

バンっ!!

鬼が鉄製のドアをひしゃげさせるほどの脚力で蹴破る。

「すー…、はー、かかってきなさい!!」

深呼吸をして、目の前の敵を見据える。怖くて知らず知らずバックの紐を握りしめてしまった。


「いい度胸してんじゃねえか…じっくりいたぶってやるよ!!」


鬼が一気に詰め寄り、殴ろうとするが私はそれをよける。確かに鬼の拳は早い。だが、音ゲーで鍛えた動体視力とダンレボで鍛えた体でよけるのは簡単だ。具体的には次の二手先の行動まで読める。

殴ろうとする、よける、殴ろうとする、よける、殴ろうとする、よける、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。それをよける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける、よける。


「畜生!なんで当たんねえんだよ!!」


段々、鬼の動きが遅くなる。無理もない。私をひたすら殴ろうとするがよけられて、体力を無駄に削られるだけなのだ。

一方私は、ダンレボで続けてプレイする為、最低限の動きで体力の消費で抑えている。が、正直バカみたいなスタミナで殴り続けて来るので向こうが体力切れ起こさなかったらもう少しで一発位貰ってたと思う。

動きが鈍ったのを見てすかさず、バッグから桃ジュースを取り出して鬼に引っ掛ける。

「ぎっ!?ぎゃあああアアアアア!!!!」

「やっぱり…」

昔、テレビで見た硫酸を掛けられたように鬼の体が焼ける。蒸発している。

焼けただれた所から血が流れ出ている。


鬼はあまりの痛さにその場にうずくまった。


古来、日本神話でイザナギのみことは黄泉の世界でイザナミの命により餓鬼に追われていた。

餓鬼に様々なものを食わせ、逃げるが、餓鬼は恐ろしい速さで食い尽くしてイザナギの命を追った。その餓鬼が食べるのを嫌がり、逃げたのが黄泉平坂に成っていた桃だったという。

そして、その筋で聞いた話では餓鬼に憑かれている人は桃をたべると炎症が出るとかなんとか。

私が実行するに至ったもう一つの理由が桃太郎の話だ。それで、鬼イコール桃嫌いと言う結論に至った。

かなりの暴論で博打もいいところであったのだが、当たっていたようだ。

「…テメェ、知ってたのかよ俺らの弱点を…」

焼け爛れた目で私を睨む。

「あてずっぽだけどね。さて、今度はこっちが攻める番ね」

バックに手を伸ばすと鬼がこちらに目を向けながら可笑しそうに言う。

「生憎…、俺らは傷の回復が早くて、ね。大体の傷ならほんの少しの時間で完治するんだけどバックに入ってるバットで殴っても無駄骨だぜ?」

「へぇ~、そうなの?じゃあこんなぶっそうなのつけてても痛くも痒くも無い?」

「なっ!!!?」

私が持っているのは釘バットだ。

「知ってる?釘バットってよくマンガで見るけど、本当にやると肉に食い込んでトンカチで打つ部分が釣り針の返しみたいになって抜けないらしいの」

釘バットを振り上げると驚愕に満ちた表情をした鬼の目にひどく怯えた表情になっていた私の顔が映った。

「っ!!やめっ!!」

「…だから、貴方にはちょうどいいでしょ!!」

容赦なく、釘バットを降り下ろし(てしまっ)た。

そこからは、あまりに凄惨な、一方的ないたぶりだった。

抵抗出来ない相手に殴る。血が、肉が見えていた。痛みに悶え苦しんでいる相手をただ一方的に殴りつける。罪悪感が凄かった。年端もいかない子供相手にする事だろうか?と怖かった。そして何より酷い、可哀想と思いながら鬼を必死に殴っている私が、一番恐ろしかった。返り血が服に染み着き、頬にも自分のものではない生暖かい血が飛んできた。ふと、鬼より怖いのは人ではないのか?と感じてしまうほどに、私が壊れてるんじゃないかと思ってしまう程に彼の血は暖かかった。こんな事を考えているのにまだ腕は降り下ろし、振り上げ、降り下ろしを繰り返している。止めて、正当防衛が通用するにはとうに時間が過ぎている。でももし、この手を止めれば殺されるんじゃないかと恐怖心が湧いてくる。ーーーなぜか、涙が出た。

一瞬かもしれない。でも私に取って永遠に感じた時間だった。

一見、桃太郎は正しいのかもしれない。


だけど、自分たちと違うと言うだけで迫害されて。自分たちと違う未知のものが悪だと決め付けられて。

そんなひねくれた見方も出来る。

やがて、鬼は抵抗を止めた。

「…もう、いっそ殺せよ。なんでお前が泣いてんだよ…」


虚ろな目で私を見て言う。

私は糸が切れたように降り下ろすのを止めてバットを力無く捨てた。

そして、血だらけになった少年を抱きしめてしまった。何故そんなことをしたのか、自分でも分からない。でもそうするほうが良かったのだと思った。

「ごめん、なさい…。ごめんなさい…。許さなくて良い…。むしろ、許さな、いで…。だから、そんなこと言わないで…、止め、てっ…、生きて、くださいお願いし、ます…!だからっ!諦めないでください!自分を殺せなんてっ、言わないでください…」

涙しながら、強く抱きしめながら少年に言った。


「ハッ。なんだよ、それ…。どうせ俺は人間じゃねえんだ…遠慮なんかすんなよ。…だから、殺せ。じゃねぇと殺すぞ、女」

血みどろの顔が嘲笑いを浮かべ、ぐちゃぐちゃになった手が私の胸ぐらを掴んだが、少年の目は最早、ただただ死を待っていた。

その目が一番私の心をえぐった。飛び出た骨よりも、ズタズタに裂けた肌よりも、少年を染め上げている血よりも、なによりも私の罪悪感をえぐって狂いたくなった。

耐えきれなくなって目をつぶって首を左右に振る。今にも息絶えそうな少年を更に強く抱き寄せて。


「…ッ!…なんでだよッ!俺はお前を殺そうとしたんだぞ!?なんでっ!!なんでなんだよぉ…」

少年も泣いていた。

私が学んだのは、戦いの無情さ。

儚さ。不毛な命の奪い合いをした。私は中途半端で自分のやった情けないことに、少年は何かを思い出したようにポロポロとせぐりあげていた。

少年は私の胸でむせび泣いた。


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