おひかえなすって!…なんちゃって…
ヒロインとしての危機!
ヒロインの明日香にか弱さを求めていたなら幻滅必至な仕上がりになっちゃった…。
頭領、
大工さんの棟梁じゃないよ。
「ええと…、なんでそんな人と知り合い何ですか?ご主人」
「まあ、ちょっとした昔の友人よ」
(ご主人…。あなたの昔に何があったんですか?)
「さて、明日香ちゃん。久しぶりじゃの」
いつ以来かの。といかにもロマンスグレーを体現した黒い着物を着た老人が笑い飛ばしながら言う。
「ごめんなさい!じっちゃんを呼んどきながらこの有り様を見せちゃって!」
「何、そこの赤毛の兄ちゃんに相手して貰っているし気にすることでも無いよ」
ぱっぱか銃を撃ちながらけらけらと笑う。
「姐さん久方ぶりっすね!」
老人の付き人らしき人物の声が聞こえた。
「あら、賀東じゃない。懐かしいわね~。奥さん元気?」
賀東と呼ばれた30代位の男性は、覚えていたんですね、と世間話をするように明日香と喋る。
「ウチのハニーは元気いっぱいですよ。姐さんはあの時から随分変わりましたね~」
「あははは-…、止めて。『あの事』は隠しておきたいの、部下の前であの話はキツいだろうし」
チラッと銃弾と戯れている雅鬼ときょとんとしながら聞いている緋牙を見ながら言う。
「あー…、確かにあの時の姐さんは悪名高い人物でしたもんね~。通り名が組長のブラックリスト入りしてましたし…」
「だからこそ知られたくないのよ…」
苦々しげに表情を歪める。
失言に気づいた賀東も話題を変えるようにする。
「さて、組長-!遊んでないで片付けしますよー!」
「おお、そうじゃな。明日香ちゃん、また今度ウチにいらっしゃい。歓迎するぞ」
銃を撃つのを止め、黒地の着物を翻しながら、まるで孫に話しかけるように笑いながら言う。
「うん、今度久しぶりにお屋敷の方に行くわ!後、ごめんなさい!ウチの部下の後始末を頼んじゃって…」
「何、コイツらは最近ここいらで悪さばかりする悪たれ共だったし、今回の件で懲りたじゃろ。今日はもう遅いし、帰りなさい」
「ありがとう、じっちゃん。さて、帰るわよ!馬鹿共!」
「あ、はい…」
「あのジジイ…、覚えてろよ…」
彼女の過去が気になる緋牙と捨て台詞を吐く雅鬼を引き連れて家に帰って行く一行と、
「まったく、組長!何もチャカ(拳銃)撃たなくて良いじゃないですか!!」
「レンコン(回転式の銃)使わなかっただけマシじゃろうに…」
「壁や地面に残った銃痕消すの大変なんですよ!!」
「おお、そうじゃ。久しぶりにガンシューでもやらんか?」
「人の話を聞いて下さい!!まあ、片付け終わったらやりますけど…」
「なら、掃除をちゃっちゃと終わらせるかの」
ちょっとした業界(?)用語らしき単語が出ながらもガンシューに興味津々なじっちゃんとそれに苦労する賀東の会話を背に受けながら帰る。
翌日の朝、会社にて、
ズーン、
「ほあああ…。栄養ドリンク…、アリナ●ンを…」
暗い雰囲気と目にクマを作りながら栄養ドリンクで乗り切ろうとする明日香と、
「大丈夫ですか?葛之葉先輩?(昨日何があったんだ?)」
それを心配する黒也の姿があった。
「……」
そして黒也を見つめながら思案する緋牙と、
「雅鬼さぁん~。すいませんけどぉ、これ運ぶの手伝ってもらえますかぁ?」
媚びる玉藻に言い寄られる雅鬼はというと、
「いや、俺じゃ無くとも手伝いたがってる奴が後ろにいるけど…(マジでうぜぇな)」
「雅鬼君が断ったし俺が行くよ!」
「あらぁ、ホントですかぁ(ちっ、引き連れてる男共が仇になったな…)」
静かな攻防戦を繰り広げていた。
お昼休み、
「すう…すう…」
屋上にあるベンチで睡眠を取る明日香さん。
微睡む彼女の見る夢は己自身が招いた過去の惨劇。
昨日、賀東に言われた事が未だに彼女を苛む。
(ブラッディ・ハーベスター(血染めの収穫者)…、もしくは屍山血河を築く者…、ね。マンガの見過ぎ読み過ぎだと思うけど、あの時の私にはお誂え向きの通り名だったかもね…)
(まあ、アレはあそこまで発展するとか思わなかったし。それに…、過去との決別はもう済ましたし…。んー…、起きるか…)
そして午後、
相変わらず男共を侍らす玉藻を無視して、業務に集中。
「はああああ、今日のお仕事終わりっと!」
業務終了時間5時13分
帰りの準備しながら早く帰って寝たいとくまを擦りながら思う。
「あ、ご…葛之葉先輩!ちょっとお話が…」
だからなんで『ご』が出んの!?
「ん、解った。今行く」
廊下に連れ出され、鏡に向かうように対面させられる。
「で、何用かな、犬持君?」
コーヒーを飲みながら眠たい目を擦る私とは違い、別段眠そうでは無い緋牙はというと頬を人差し指で掻きながら困ったように笑う。
「いやー、そのですね…。今日はちょっと寄る所がありまして…。帰るのが遅れそうなんです」
寄る所?まあ、いいや。ゆっくり寝れそうだし。
「いいよ。行ってきなさい」
「あ、ついでに雅鬼も連れてっていいですか?」
「それはあいつに聞いて。それじゃあ帰るわ。」
「はい、また明日!」
にこやかに見送るあいつの顔がどこか思わしげに私を見ているように感じたのは気のせいと思うが…。
「まあ、念の為…手は打っとくか…」
携帯を取り出し、ある人物に電話を掛ける。数秒もしないうちに電話が繋がる。
「ハロハロー!可愛い巫女さんが電話に出たぞ♪あすかちょんおひさー!そんな久しぶりなあすかちょんにちょっとした知識を披露してやるぞ!ショタコンの正式名称って正太郎コンプレックスなんだぜ!!チャハハ☆ちなみにロリータコンプレックスのロリータってウラジーミル・ナボコフの小説の題名なんだぞー!」
「…………………」
「あれ?おーい、聞いてるー?」
……頭痛い…。やっぱり人選ミスかな?
緋牙side
ご主人を騙すのは気が引けるが…、あの時、あの様子が引っ掛かるな…。とりあえず、不本意だが鴉に手伝ってもらうか。
オフィスに向かうと黒也が自分のデスクに向かって書類を片付けていた。
「おい、鴉。用がある」
一旦、黒也は溜め息を吐き、書類をデスクの上に置いて緋牙を見やる。
「駄犬がなんのようだ?」
「アホガラスに言われたくない」
「で、用件は?」
「不本意だがお前の妖力に手伝って欲しいことがある」
「内容によるが…、なんだ?」
「水鏡の術で過去視をしたい」
「誰だ」
黒也の目つきが鋭くなり、警告を促すような、試すような雰囲気に変わった。
過去視、という言葉で簡単に連想が出来るように、対象の過去を覗く事が出来るのだ。
しかもあらゆる可能性によって常に変わり続ける未来予知とは違い、既に決定された運命の道筋を見るのだから術の難易度的にはさほど難しくはない。
しかし、それ故にプライバシーを無視しているので人の人生そのものを歪める未来予知同様、禁術に当てはまる術なのだ。
例えば、未来予知で不幸を避け続けた一人の人間が居たが、彼の今生で支払うべき筈だった業を滞納し続けたのだ。哀れな事にその人間は業を溜め続け、一気にそのツケを支(死)払うことになった。
結局の所、未来予知によって変わるのは人の人生を壊したり、また人を救えたりもするが、支払うべき物を避け続ければ一気に支払うことになる。
即ち、死に直結する事になる。
また、過去視を使った一人の人間がいたが、その人間は疑り深く、友人という友人の過去を見たのだ。
それで彼女が見たのは人間の闇だった。
それ以来、彼女は人間不信になり、友人の秘密をバラしまくった。最後はかつて友人だったそれに魔女だと言われ処刑された。
彼女を哀れむ友人は既に居なかった。
代わりに自分の秘密を握る人物が死んでホッとするのが大半だった。
さて、禁術についてはここまで。会話に戻ろうか。
「ご主人に使う」
「解っているのか、禁術だぞ」
「解ってるよ。考えた末に出した答えだ。…ご主人に聞いた所ではぐらかすか喋ってくれないだろうからな…。ついでに雅鬼も連れてく。あいつは何かと便利だしな」
しばし黒也は何かを考えていたが踏ん切りが付いたのか溜め息を吐いた。
「はあ…、いいだろう。もう仕事も終わったし私の家に来い。私も彼女の過去には興味がある」
「礼は言う。ありがとう」
二人は雅鬼を見つけ出した後、会社を出た。
そして黒也宅、
結構、お高めなマンションに住んでた黒也さん。
「全く、明日香と恋仲になった時、同居用に買っておいたのだがな…」
桶に水を張りながら、ぽつりと文句を呟く黒也と、
「水面に写すは虚構の海原、水底に写す月は現実の狭間。月を仰ぎ、それを水鏡に写せ。我、望むは彼の者の歩んだ人生の軌跡」
ベランダで何かを唱えている緋牙と、
「はい、そこまで。黒也ー、準備出来たぜ!」
隣でそれをチェックをする雅鬼。
「こっちも桶をそっちに置いたら終わりだ」
黒也がベランダに月が写るように置く。
桶に張った水が夜空に輝く半月を写す。
しばらくすると、水に写った月が溶け始め、桶の水を輝く金色に染め上げた。
もちろん夜空に浮かぶ月は健在してる。
ただ桶に写った月が溶けたのだ。
やがて、何かが見えて来る。
そこに写っているのは19歳辺りの明日香だろうか。
しかし、問題なのはそこではない。
彼女の周りには、積み上げられた真っ赤な人の姿があり、彼女の立っている地面には真っ赤な血が飛び散っていた。
彼女自身も血で汚れていたが、彼女は誰かを痛め付けていた
。
確かに明日香なのだ。だが、今の彼女からは想像出来ない言葉を発する。
『アッハハハハハハ!テメェラ全員大バカ野郎なんだよ!!』
狂ったように笑い、血に塗れた手を広げる。
服にはまだらに血が付いている。
「ごしゅ…、じ、ん?」
緋牙は何が起きてるか理解出来ない。
「誰、なんだ…?」
今と昔のギャップが違いすぎる為、なんとも言えない恐怖と気持ち悪さに支配される雅鬼。
「っ…!!!」
映像な筈の彼女から感じた今までにない戦慄が身体を蝕み動けない黒也。
ああ、でも君達が望んで見たんだ。
代償はかなり大きいよ。
彼女が話さないことは彼女自身が封じたい事だったのだから。
でも、願おう。
君らがこれを見て彼女に失望しないでくれ、彼女を畏怖の目で見ないでくれ、さもなければ……、例え妖怪だろうと君達を待つのは……、救い無き死だ。
君らの命の運命の鍵を持つのは彼女だ。
その鍵を手放した瞬間、君達は九尾の狐に惨めに酷たらしく殺される。
逃げても黒い兎が追ってきて君達をなぶり殺す。
だから、彼女から光を見いださなくなる事はしないでくれ…。
誰かがそんな事を唄うように諭す。
不思議な事にそれは水鏡から聞こえたような気がした。
あ・よりによって、あれか…。
作・まあ、いずれは出さなきゃいけない事にしてたし…。
あ・分かってる。それにあいつらが決めることだしね…。
作・まあ、次回は明日香ちゃんの昔話をほんのちょろっと出すよ。後、新キャラ登場です。
あ・やたらハイテンションな和製吸血鬼みたいな巫女さん登場ー…。まあ、キーワードは妖怪名、針女ってところかな?
作・あ・それでは!!