番外編・チョコを狙う獣と独身処女(27)の攻防戦ぱーとワン
バレンタイン過ぎちゃいましたけどどうぞ~。糖分甘めをめざしました!
ふんふんふ~ん。
27なって鼻歌とはぞっとしない物があるが今は気分がいいので気にしない。
只今、バレンタインデーに向けたチョコ(義理)を作っております。
会社の部署の皆に贈るのだ。…遥人は別れたし作ってやる義理ないか。
部長にはもう個別のを作っていて奥さんと子供がいるので白のホワイトチョコと黒のミルクチョコで作ったチェス盤とチェスの駒を贈る事にした。
(ふふふ…、この完璧な正方形を敷き詰めたチェス盤と簡単ながらも本格的に遊べる駒…。我ながらいい出来よのぉ)
ある意味本命だが奥さんや子供さん達には安心出来る物を贈りたいのだ。 だって当日にはウェイトリスト(鉄製のダンベルとか仕込みたかったけどチョコが壊れたりプレゼント箱が破ける可能性があるので断念)とかドライアイスとか仕込んで総重量二十キロ越えの梱包して持って帰らせるつもりなんです。部長は最近お腹周りがたるみ始めたのを気にして自転車通勤しているのを私は知っているんだよ。うけけけけ。眼に浮かぶわ!あやつがかさばる上に大きくて重いチョコ入りプレゼント箱をヘトヘトになりながら家へ持って帰る姿が!!
後日、その日に限って(いや、あの狸親父のことだ。絶対計算済みに決まってる)車で出勤してきて楽々と私の力作を家に持ち帰った事と私が崩れ落ちたのを述べておく。わあい、私の努力(という名の嫌がらせ)が水の泡だ…。
部署の皆には繊細さを極めようと思い女神像を作っていた。羽にはアラザンを散りばめ細部まで表現しようと専門の彫刻刀を取り寄せてそれを使い細部の羽を削り出す。
着色はエアースプレーに食紅を入れ、既に出来上がっている顔の頬の部分に肌色を吹き付け塗る。
唇には筆を使い、食紅の赤を塗る。
さあ、指と衣装を削り出さないと。
よくもまあ義理でここまで作るもんだと自分でも思うが作り始めると凝りはじめちゃったもんでね。衣装はやはりギリシャ神話風にしよう。
職人並みのテクニックで作る明日香さん。
後にこの力作である女神像は皆で食べるため包丁でえげつなく切り分けられたり、手でもがれたりしてひどい姿になり、誰かが『人間によって汚されてる女神』とか言ったとか。
すんすん。
(さっきから甘い匂いがしてるけどあの泥細工って食べられるのだろうか?)
じーー…。
リビングでくつろぎながらもキッチンに居る明日香を見てる緋牙。
「なあ、雅鬼」
「なんですか?旦那」
ソファーに寝転び、雑誌を読みながらジュースを飲んでいる雅鬼が返事をする。
「ご主人が作っているのは何なんだ?」
「ああ、あれですか?どれどれどこまで出来て…ってスゲェ!!えっ?チョコってあそこまで作れんの!?」
雑誌から目を離してキッチンを見れば完成済みのチェス盤と駒、それに作業中とはいえクオリティの高い女神像に驚く。
「ちょこ?なんだそれ?」
「お菓子ですよ。洋菓子。たぶんあれはバレンタインデーの贈り物だと思いますよ」
「ばれんたいんでー?」
「あ、そっか、旦那はバレンタインも知らないんでしたね」
雅鬼がテレビを点けるとちょうどバレンタインのCMが流れている。
『バレンタインに大切な貴方に私の精一杯の気持ちを伝えたい…』
「大切な人に…」
釘付けでテレビを見ている緋牙がポツリと呟く。
「まあ、あれです。女が好きな男にチョコを渡して告白する日なんです」
「へぇ~…」
物欲しげに明日香が作っているチョコを見る。
「ご主人の…チョコ…誰にあげるんだろう…。俺…なのかな?」
「さあ?旦那も欲しいと言ったらどうですか?」
「そうだな!」
「ごっ主人~♪」
「何?」
出来上がった女神像を箱に入れて一息つこうかなと思っていたら、やたら機嫌良さげでずっとニコニコと笑顔の緋牙に呼ばれた。
「ご主人~。そのチョコ俺にくれるんですか?」
「違うけど?」
「あ、俺のは別に作るんですか?」
「いや、雅鬼にはあげる予定だけどあんたにはあげないよ?」
ピシッ!
あ、なんか固まった音がした。
「な、何でですか?」
「いや、犬にチョコレートあげちゃ駄目だって犬の飼育本に書いてたから」
うる…、
緋牙の目にうっすら光る物が見える。
「大丈夫ですよ!!人化してる間は人と同じ身体の作りですし!」
「えっと…でも、雅鬼の分のチョコの在庫は有るけどあんたの分のチョコは買ってないし…」
うるる…、
あ、ヤバい…泣かす。
「…なんで…。なんで俺には無いんですか…ご…ご主人のばかぁ…。ふっ…ううっ…」
下を向いて涙を堪えている。
「雅鬼やめて、そんな人でなしを見るような目で見ないで!」
「いや、だってなぁー…」
涙を流すのを我慢している緋牙をチラリと見る。
「ふっ…ふぅぅ…ひっく…ごっ、ご主人のばっ、馬鹿ぁ!うわあぁぁぁん!わあぁぁ!!!わーああ!ああぁぁ!!」
ついに堪えきれなくなったのか大粒の涙をボロボロ流す。
ダッ、
タタタッ、
ガラ!ピシャ!
あ、逃げられた。
「はあ、こういうのって普通逆よね?私が泣いて緋牙が追うって感じでさあ」
「あー…、まあ気にすんなよ。とりあえず旦那を慰めてやれよ」
「うーん、腑に落ちないなー」
頭を掻きながら逃げた緋牙の後を歩いて追う。
で、来たわけだが…、
「ここ私の部屋じゃない…」
「あー…、まあ気にすんなよ?」
「いやなんで疑問系なの…?というか気にするでしょ…」
ふすまはしっかり閉められている。
開けようとすると中から押さえつけているようで開かない。
「こら、開けなさい!」
ふすま越しに返事が来る。
「やだ!ご主人の馬鹿!分からず屋!ご主人なんかだいっきらいだ!!」
「馬鹿なこと言ってるとしまいに怒るわよ!」
「旦那ー!籠城戦は旦那には向かないから止めて出て来た方がいいですよ!」
「雅鬼はいいよなぁ!ご主人からチョコ貰えてなぁ!!」
「ありゃ、…こりゃあ完全に拗ねてますね…」
「…最後通告よ。開けなさい」
「嫌です!絶対に開けません!ご主人がチョコくれない限り開けませんから!!」
「はあ、わかった…」
「……作ってくれるんですか?」
おずおずとしながらも期待しているようだが、
「作らない」
「えっ…?」
冷たく言うと期待していた言葉と違うのに困惑しているようだ。
「そこでずっと拗ねてろ。チョコあげない限り出ないんだっけ?だったら絶対に開けるなよ?」
「うぅ~…。分かりました…。ご主人が泣いて頼んでも開けませんからね!」
売り言葉に買い言葉だが、このやりとりはまるで、母と子供のようである。恋愛モノの筈なのに恋愛のレの字も入っちゃいねぇ。
「雅鬼、行こ。あそうだ!ちょっとチョコの味見してくんない?」
「お、俺ホワイトチョコの方が好きなんでそこん所頼むわ。後旦那、粘るだけ無駄ですよー」
「………」
ふすまの奥から返事が来ないがそれに構わずキッチンに行く。
さて、根を上げるのはいつだろうか?
緋牙side
ご主人のバカ、バカバカバカ!!
なんで俺だけチョコ貰えないんだよ!
ふと、テレビのCMが頭をよぎる。
『大切な貴方に…』
ツキリ…、
痛い…。胸が痛い…。心が苦しい…。
「大切な…人……。俺は…、その大切なのに入って無いんですか?ご主人…」
寂しい…。怖い…。捨てないで欲しい…。
時間が過ぎると共に不安が心の中に積もっていく。
一人の時はこんな事考えた事が無かった。
ふと気づくと視界の隅に何かが落ちている。
(なんだろう?)
拾いに行くとそれはご主人の服であり俺を拾ってくれた時に着ていた服だった。
上を見るとハンガーが掛けてありそこからずり落ちたのだろう。
ぎゅうぅ、
ご主人の服を抱き締めたのは無意識だった。けど気付いたら安心していた。
「うっく…ひっく…。ふうぅ…い、やだ…こ、わいよ…ご主人に嫌われたく、ない゛…」
どうやら俺は思っていたよりずっとご主人を好きだったようだ。
今はただ、唯一の心の寄りどころであるそれにすがるしか無かった。
「う…う…うっ…ふーっ……」
気付けば服は涙でかなり濡れていた。
それでも離す事なんて出来なかった。
窓から見える風景も暗くなり、俺の意識も眠りに落ちた。
緋牙side終わり
明日香side
「やたら静かだと思ったら随分泣いたのねぇ」
赤くなった目元と頬を撫で、続いて頭を撫でる。
「流石に意地悪し過ぎたかしら…。まあチョコは本当に用意してなかったしいいわよね。しかしまるっきり母親代わりじゃない。大切なぬいぐるみみたいに私の服をしっかり握っちゃってさ」
カサッ…、
「タイミング見計らって渡そうかなと思ってたし今がその時かな?」
とりあえず緋牙の為に作ったクッキーが入った袋を手に握らす。
さて、起きた時どんな反応するだろうか?
限り無くめんどくさい事になりそうだが…
「まあ、とりあえずハッピーバレンタインを」
ちなみに雰囲気ぶち壊すけどさ…。
言っておくがこいつにあげたのは…、義理なんだよね~。
さて、待たせちゃ悪いし雅鬼のも作るか!
作・明日香ちゃんのドエス~。
あ・いつもの仕返しも兼ねてね♪
作・例えば?
あ・緋牙が下着を盗んでた所や子犬に戻って一緒に風呂入ろうとしてきたりしたからね。
作・明日香ちゃんもご苦労様。
あ・はあー…。まあ、あいつのは親愛か恋愛かは知らないけどね。
作・まあ、大人発言ね。
あ・どこが!?
作・まあいいじゃない。 あ、作者も明日香ちゃんにバレンタインチョコあげるよ。
あ・チ○ルチョコね。10個…。
作・アハハハハー…。




