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三題噺もどき5

忘れ物

作者: 狐彪

三題噺もどき―はっぴゃくご。

 




 終了のチャイムが鳴り、教師が授業を〆る。

 チャイムが鳴り響く中で、今日の簡単なまとめと次までの宿題を告げている。

 ……それ、やる意味あるか。とまぁ、内心そうは思うが、やらなければ色々と響くものがあるので、適当にしてしまおう。忘れないように、メモだけとっておく。

『起立、礼、ありがとうございました』

 いつまでやるのかも分からないこの終了の挨拶と共に、教室中が騒がしくなる。

 机の上を片付けながら、元気がいいなぁと感心する。

 ……次は特に移動の予定もなし、短い休み時間なので私は大人しく机に座っている。ホントは、あの子の教室に行きたいけれど、あちらは移動かもしれないし。

「……」

 少々小腹が空いたので、横にかけている鞄の中から飴玉をひとつ取り出す。

 物珍しくて買った、チーズケーキ味という飴玉。

 まぁ、正直失敗したとは思うが、飴を食べる人が我が家には私くらいしかいない。その上、この何とも言えない味は、目覚ましには丁度いい。

「……」

 かり―と、小さく噛む。あまりしたくないが、この休み時間中に食べきらなくてはならない。

 微妙な酸味のようなよくわからない風味が口の中に広がる。

 前はグミを食べていたのだけど、飽きたのだ。それに最近、すっぱいグミしか売ってなくて……それもいいのだけど、あまり酸味が強いものは好きではない。

「……」

 噛みつつ適当に飴を転がしながら、引き出しの中を探る。小学生の事は引き出しにぴったりのケースがあったのだけど、高校になるとそんなものはない。ただ机に用意された穴の中に、必要なものを突っ込んでいるだけだ。

「……」

 その、冷たい引き出しの中。すぐ手に届く位置に、図書室で借りた本を置いている。

 ―と、その前に机の上に次の授業の教材だけ出しておこう。次は英語だ。……あの先生苦手なんだよなぁ。そもそも英語が苦手なのに。

「……」

 教科書と、ノート。その他のテキスト。こんなに要らないだろうといつも思う。

 筆箱はすでに出ているので、そのまま。

 辞書―はいるのだろうか。最近使っていないからな、あぁでも必要になったら困るから置いておくか。

「……」

 辞書類は後のロッカーに置かれているので、取りに行かなければならない。

 面倒だと思いながらも、立ち上がる。

 こういう時席が後ろ側なのは得だ。移動距離が短くて済む。

「あ、――!」

「 は、」

 息が止まるかと思った。

 勢いあまって、口の中にあった飴玉を飲み込んでしまった。嚙んででよかった。

 まぁ、誰だって、いきなり声をかけられれば驚くだろうから、当たり前かもしれないが。

 いつもだったら、この時間には、会えない声も聞けない、はずの人が。

 ―あの子が、教室の入り口から声を掛けてきた。

「―どうしたの」

 心臓は驚きと、嬉しさと、よくわからない感情に巻き込まれドクドクと言っている。

 それをおくびにも出さないように、なんとか平静を保ちながら、辞書の事なんか忘れて、入り口に立つ、あの子の元へ行く。

「ジャージもってない?」

 はにかみながら、そう問うてくる。

 よく見れば、半そで短パン。いわゆる体育服を着ている状態だった。動きやすいように髪もまとめている。ポニーテールだ。

 教室は暖房がはいっているので比較的暖かいが、廊下は冷え切っているだろう。この入り口に近づいただけでもかなり冷えた。廊下でこれなら外はこれ以上だろう。

 相当寒いのか、手のひらをずっとこすっているし、あからさまに寒そうな表情をしている。

「あるある、貸そうか」

「ありがとぉ」

 かなり寒かったのか、教室に取りに戻った私についてきた。

 珍しいこともある。

 忘れものなんてめったにしないのに。

「洗濯してかえすね」

 とりあえず、上着をいそいそと着ながらそう告げる。

「ぁ、私五限体育だから、」

「あ、そうなの?えーじゃぁ」

「昼休みに返してくれたらいいよ」

「いいの?ありがとぉ」

 しっかりと、下から上までチャックを閉じて、先程までの表情が嘘のように和らぐ。

 ついでに飴でも持たそうかと思った。あ、でもあのまずい飴はだめだな。

「じゃぁ、またあとでね」

「うん、急がないともう鳴るよ」

 廊下には、彼女と同じクラスの、いつもの昼休みのメンバーのうちの一人が立っていた。

 ―いいなぁ、なんてことは思ってない。

 だって、クラスが一緒だったら、こんな貸し借りなんて出来ないもの。

「ぁ、」

 忘れていた辞書をロッカーから取り出し、予鈴ギリギリで席に戻る。

 苦手な英語の授業が、ほんの少しだけ楽しく思えた。












 お題:チーズケーキ・洗濯・飴玉


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