その言葉を人は告白と呼ぶ
体育館裏。
ひんやりした空気に、少しだけホッとする。
喧騒の教室から三條さんを連れ出して、ようやく人目から離れられた。
「それで、用事って……?」
少し不安そうに、三條さんが問いかけてくる。
落ち着いた私は、深呼吸して応えた。
「……だって、嫌だったでしょ」
「え?」
「……ああいうの。誰かの悪口とか聞くの」
三條さんは目を瞬かせて、そして。
「……助けてくれた、の?」
真剣な眼差しに、私は少し照れて頷いた。
次の瞬間。
「ありがとうっ!」
ぎゅっ、と抱きしめられた。
柔らかい感触。
甘い香り。
脳が、溶けそうになる。
「やっぱり、あなたは私の運命の人よ!」
またその言葉だ。
私は思わず一歩飛び退いた。
照れ隠しのつもりで、変な質問をしてしまう。
「そ、その……運命の人って、どんな意味で言ってるの?」
三條さんは一瞬目を見開いて、頬を赤らめた。
視線を伏せ、けれど勇気を振り絞るようにこちらを見る。
「……わ、わかんない、かな?」
心臓がドキドキする。
私は動揺を抑えながらこくりと、小さく頷く。
三條さんは緊張したように髪を整え、制服の乱れを直すと、少し震えた声で言った。
「……こ、恋人になる“運命の人”、って思ってるの」
頭が真っ白になる。
恋人?
いま、恋人って言った?
友達じゃなくて?
口が開かない。
何も考えられない。
鼓動だけが、うるさいほどに響いている。
「ご、ごめんねっ!」
三條さんは慌てたように手を振った。
「まだ、澪さんの気持ちとか、ちゃんと聞いてないのに……!」
それでも、目は真剣だった。
恐れるように、でも決して逸らさず、聞いてくる。
「澪さんは、どう思ってるのかなって……」
恋人に?私が……?
それはきっと、現実が空想を超えた一瞬だった。