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架空の自分

運命の人。


それは、彼女――三條更紗さんが、はっきりと私に言った言葉だった。


けれど、その意味がわからない。

“運命的な友達”ということなのか、それとも……もっと別の感情を孕んだ言葉なのか。

気になって仕方がなかったけれど、怖くて聞けなかった。


今の彼女は、他の友達と楽しそうに話している。


教室の端。私の席からも内容が聞こえる距離。

話題は、昨晩見たテレビのドラマや、人気のアイドルグループのこと。


私はいつも通り本を読みながら、それを耳の端で聞き流す。


――蚊帳の外、というほど遠くはないけれど。

皆の会話の輪の、ちょっと外。

きっと、それが私の“ちょうどいい距離”なのだと思っていた。


ふと、話題が変わる。


「うちの担任ってさ、ちょっと厳しすぎない?」


「わかる。ていうか、あの言い方、マジ無理」


誰かが苦笑まじりにそう言って、他の子たちも「そうだよね」と続く。

本のページをめくる手が止まった。

話題に乗っている更紗さんの声は、聞こえない。


彼女は――笑っていた。

いつも通りの、作られた笑顔で。


私は知っている。

あれは、苦手な話題をやり過ごすときの笑顔だ。

それは、私が“架空の友達”として彼女を描いたときに設定した、ひとつの弱さだった。


じゃあ、今の彼女は。

本当に、無理をして笑っているのだろうか。


私は目を伏せる。

他人の交友に口を挟む資格なんて、ないはずだ。

だけど、もし“架空の友達”がそんな目にあっていたとするなら、私はどうするだろう。

空想上ならきっと、助けに行く。

ならば私も。


だけど怖い。

声をかける勇気なんてない。


なら、どうするか。

そう、架空の友達を作った私なら、答えはひとつ。


今度は、自分自身を作ってしまえばいい。

「友達を助けに行ける自分」を

名前も立場もない“もう一人の自分”。


小説の登場人物のような、少し変な、でも強くて、勇気のある私。

私は静かに席を立ち、三條さんたちのもとへ向かう。


「……済まないね、お嬢さんたち」


教室が、静まる。

自分の声が、異様に響いた。


「彼女に用事があるので、少しお借りしても良いかな?」


頭おかしいのかな、私。

今のは、どう考えてもさっき読んでた古風な探偵小説の影響だ。


だが、効果はあった。

三條さんの友達たちは一瞬ぽかんとしたあと、気まずそうに笑った。


「は、はい、どうぞ……」


「私たちはいいから、その、遠慮しないで」


明らかに変な人を見る目だった。

でもそれでいい。

今はただ、彼女を助けることが目的なのだから。


私は三條さんの手を軽く取る。


「行きましょうか、姫」


(……いい加減にしろ、架空の私)


心の中でそうツッコむ。

三條さんは、ほんのり赤面しながら、素直に私の手についてきてくれた。



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