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お前たちは二人一組の生命となれ

体育の時間。

地獄の難問が教師の口から告げられた。


「二人一組になれ」


お願い、やめて。

心の中で懇願する。

親しい人がいない生徒にとって、この命令は、死刑宣告に等しい。

時間が進むたび、ペアが組まれ、余りものになる可能性がどんどん現実味を帯びてくる。


けれど、今日は違った。


「朝倉さん! 組もう!」


誰よりも早く、三條さんが声をかけてくれた。

天使が差し伸べた救いの手だった。

それが悪目立ちしても構わなかった。

この“難問”を、無傷で突破できるのなら――全然平気だ。


そうして三條さんと2人で柔軟体操を開始する。


「い、いたたたたたッ!」


私は、体がとても硬い。

前屈で少し押されただけで悲鳴をあげてしまう。


一方で三條さんは――しなやかで、とても柔らかかった。

皮膚も、筋肉も、全体的にふわふわしていて、私とはまるで別種の生き物みたいだ。


「三條さんって、全身ぷにぷにしてるね」


何気なく呟いたら、彼女は目を丸くして、ぽっと頬を染め、俯いた。

……しまった、失礼だったかも。

でも、ちょっと可愛かった。


体育の授業が終わり、昼休みはそのまま彼女と一緒に食堂へ。

午後の授業も、眠気を抑えながらなんとか終えた。


放課後。


鞄を背負って昇降口へ向かう私の隣には、自然な顔で歩く更紗さんがいた。

まるでそれが“いつものこと”であるかのように、当然のように。


外へ出て並んで歩いていると、ふと気になって問いかける。


「そういえば……花壇の世話、いいの?」


三條さんは少し足を緩めて、悩むように視線を泳がせた。


「うん、今日はもう……いいかな」


その返事を聞いたとき、私は少し考えた。


あの“観察記録”。

私が書いた“彼女”は、花壇の世話を「罪悪感から逃れるため」にしていた。

あれは私の妄想でしかなかったけれど――不思議なことに、当たっていた。


じゃあ、今は?罪悪感が消えたの?

理由は本当にそれだけだったの?


記憶の中の三條更紗さんは、確かに花を見て笑っていた。

その笑顔は、嘘なんかじゃなかったと思う。


だから、私は言った。


「わ、私……花壇の花、見たいなぁって……思うんだけど」


不自然にならないよう、なるべくふわっと。

けど、心の中はドキドキだった。


三條さんは少し驚いたような顔をして、そして――花のように、ふわりと笑った。


「じゃあ、寄ってこうか」


その笑顔に頷いて、私たちは進路を変えた。


今日の帰り道は、もう少しだけ、遠回り。

でもそのぶん、ちょっとだけ……幸せだった。

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