運命とは何か
三時間は、残酷なほどあっという間だった。
どれほど祈っても、時は止まってくれなかった。
昼のチャイムが鳴った瞬間、私は観念したように席を立ち、教室を抜け出した。
足取りは重く、気持ちは沈むばかり。
校舎裏――風が通り抜けるその場所に、彼女はいた。
三條更紗は、壁に背を預けて立っていた。
制服のスカートがふわりと揺れ、栗色の髪が光を弾いている。
けれど、背中を向けたその姿は、いつもの“女神”のような彼女とは、少し違って見えた。
怖かった。
正直に言えば、泣きそうだった。
けど、このまま逃げるのは、もっと怖い。
私は震える声で呼びかけた。
「……三條さん?」
その声に、彼女は振り返る。
だが、視線は下。
私を見ようとしない。
沈黙。
声をかけようと、口を開いたその時。
「どうして知ってるの」
静かな、しかし力ある問いかけが、空気を裂いた。
私は瞬きする。
「……なにが?」と返そうとして、言葉を飲み込む。
三條さんが、こちらへ歩み寄ってきた。
「あの用紙に書かれてること。どうして、朝倉さんは、全部知ってるの?」
声が震えていた。
そして肩を掴まれた。
想像以上に、彼女は必死だった。
髪から、ほんのり甘い匂いがする。
近すぎる距離に、私は変な思考に逃げようとした。
(あれ……三條さんって、けっこう胸……大きい?)
現実逃避。
「朝倉さん!」
声に現実へ引き戻される。
目の前にあるのは、沙雪さんの真剣な顔。
私は、観念した。
「……その、えっと……」
言い訳はやめた。
取り繕うのも、もう遅い。
「私、友達とかいなかったから……だったら“架空の友達”を作っちゃえって、思ったの」
三條さんは、なにも言わず聞いてくれていた。
鼻と鼻が触れそうな距離で、まっすぐに。
「それで……三條さんをベースに“友達”を作ったの」
「普段の様子から、良いところも、悪いところも、ちょっとずつ想像して……」
「……で、それを、あの用紙に書いたの」
言葉にしてみると、余計に自分の気持ち悪さが浮き彫りになる。
自分がされたら絶対引くだろうし、怒るだろうと思った。
だから、私は三條さんが怒り出すのを、黙って待った。
けれど。
「……当たってるの、全部」
「……え?」
「私が抱いてた罪悪感も。花壇の世話をしてる理由も。辛かったことも、嬉しかったことも……」
「朝倉さんの書いた“友達”、それって、私のことなんだよね?」
そんなこと、あるわけない。
私が勝手に書いた、妄想。
けれど彼女は、それを真実のように頷いて。
そして、いきなり――私を抱きしめた。
「えっ……」
距離がゼロになった。
目の前に、彼女のうなじ。
肩越しに見える空が、やけに遠く感じた。
胸元にあたる柔らかさに、脳が真っ白になる。
良い匂いが強くなる。
いや、そんなこと今考えてる場合じゃ。
「きっと朝倉さんは、私の運命の人なんだわ!」
鼓膜が揺れた。
現実が、ぐらりと傾く。