学園祭準備
翌朝。
朝礼の時間。
担任の加納先生が黒板の前に立ち、いつもより少しだけ明るい声で言った。
「そろそろ学園祭があるから、今日は時間を割いてこのクラスの出し物を決めようと思う」
教室がざわつく中、私は――それどころじゃなかった。
恋って何?
愛って本当に存在するの?
人類が恋に落ちるのは生物学的な再生産戦略ではないの?
そもそも宇宙が誕生した理由とは??
脳内は完全に哲学モードに突入していた。
そんな私の耳に、軽やかな声が届く。
「澪ちゃん、いいかな?」
「な、はいっ!?」
びくっとなって返事をしてしまう。
見ると、前方の黒板の前には更紗さんが立っていた。
そういえば。
更紗さんって学園祭の実行委員だった気がする。
今日は司会進行役なのだろう。
板書する姿も、発表する姿も、相変わらず様になっている。
流石すぎる。
私は、黒板に書かれた案を眺める。
「街の成り立ちについての展示」
「休憩所」
「クラスで描いた絵を飾る」
うん、絶妙にやる気が感じられないラインナップ。
そんな中に、ひときわ浮いている文字があった。
「演劇」
思わずため息をつく。
(誰よ、こんな面倒くさい案出したの……)
舞台装置、脚本、練習、衣装。
準備にかかる労力が段違いだ。そんなもの誰が本気で選ぶだろうか。
クラスのテンションをちゃんと読んでほしい。
「それじゃあ、クラスの出し物は――」
更紗さんの声が響く。
「演劇で決定します!」
「「「ワァーーーイ!!」」」
教室は歓声に包まれ、拍手や「楽しそう!」という声まで上がっている。
テンションを読めてなかったのは、私のほうだったらしい。