愛って何だろう
私の部屋の本棚には、ありとあらゆる本が並んでいる。
小説、哲学、専門書、図鑑――興味があるものは片っ端から集めた。
もちろん、恋愛小説もある。
国内外問わず、異世界のものまで取り揃えてある。
けれど、私は恋愛というものに、いまだ結論を出せずにいた。
たとえば――
真夜中の教室、放課後の屋上、ふたりきりの帰り道。
そういう「シチュエーション」で告白を受ける物語。
それはそれでロマンチックだと思う。
でも、それって性欲とどう違うのだろう?
死地で出会った勇者と僧侶が恋に落ちる物語もある。
それは吊り橋効果ではないのか?
そもそも恋愛は、生物が繁殖するための本能ではないのか?
だとしたら、繁殖を伴わない恋愛は錯覚では?
相手に触れたくなる衝動は、全部ただの本能の暴走じゃないのか?
考えが、ぐるぐると回り始める。
読んでいた小説は、ちょうど佳境に差しかかっていた。
熱のこもった描写。ふたりは想いを重ね、身体を重ね。
その瞬間、脳裏に浮かぶのは。
「澪ちゃん」
笑顔でそう呼ぶ、更紗さんの記憶。
彼女の手が私の頬に触れてくる。
ふわりと近づいてくる、柔らかそうな唇。
……ばかっ!!!
私は、バン! と音を立てて本を閉じた。
「な、な、な、な、何考えてるの私っ!!」
顔が熱い。頭がグルグルする。
冷静になるために、お風呂に向かった。
湯船に浸かりながら、ぼんやりと天井を見上げる。
結局のところ、私はずっと――理屈で恋を理解しようとしていた。
でも本当は、もっと単純なことなのかもしれない。
つまり――
友達としてではなく。
肌に合わせても良いと思えるくらい好きなのか。
湯船に顔を半分沈めて、ブクブクと泡を立てる。
「……わかんない」
静かな声が、お湯の中に吸い込まれていく。
「わかんないよ……」
心と身体と知識が、それぞれ違う答えを出してくる。
誰かに正解を教えてほしい。でも、それはきっと自分にしか出せない。
悩むあまり、私はひとつ年を取った気がした。
それでも夜は変わらず、静かに更けていく。