全部してあげるよ?
お弁当の時間も終わりに近づいていた頃。
ぽつりと、更紗さんが聞いてきた。
「澪ちゃんは、私をベースに“架空の友達”を作ったんだよね?」
改めて言われると辛い。
更紗さんは続ける。
「じゃあ、その子とは――どんなことを、したかったの?」
言葉に詰まった。
どんなことを……したかった?
私は、あの“理想の友達”に、どんな関係を求めていたのだろう?
友達になりたかった。
一緒に笑って、話して、孤独じゃなくなりたかった。
でもそれだけ?
本当にそれだけだったのか?
考え込みそうになる私の心の中で、例の声が響く。
『ふーん』
お前は今、黙ってて。
悩む私を見て、更紗さんが急にそわそわしはじめた。
「……あ、あのね」
「わ、私なら……澪ちゃんの“望むこと”……全部してあげるよ?」
……なんでちょっとエッチっぽい言い方なの!?
声に出す勇気はなかったけど、内心では思いっきりツッコんでいた。
でも更紗さんは、少し恥ずかしそうに、それでも目を逸らさずに続けた。
「澪ちゃんの“架空の友達”を、私が超えられたら――」
「きっと、もっと仲良くなれるよね!」
その笑顔は、まっすぐで、まぶしかった。
……さっきまで「なんかエッチっぽい」とか思ってごめんなさい。
私は、改めて思った。
この子は、本気だ。
私の描いた“理想”より、ずっとずっと、本物で。
まっすぐで、優しくて。だけど少し不器用で。だからこそ、愛おしい。
でも。
私は、それにどう応えるべきなのか、まだわからない。
手を伸ばすには、まだ少しだけ怖い。
でも、この気持ちはきっと。
架空の私には演じられない“本物の私”の答えなのだ。
そして私は、そっと言った。
「……もう少しだけ、考えてもいい?」
更紗さんは、笑って頷いた。
「もちろん!」
まぶしい午後の日差しの中、
ベンチに座る私たちの影が、そっと寄り添っていた。